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二人の視線
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<side昇>
直くんを見た瞬間、村山の表情が一変した。
こんな可愛いのを見せたらそれも当然だ。
慌てて俺の身体で隠したけれど、あいつは覗き込むように直くんに挨拶をした。
素直な直くんは恥ずかしがりながらも一生懸命挨拶をしてくれた。
しかも磯山直純だと自分から名乗ったんだ。
その勇気も褒めたかった。
頬を赤く染めて緊張に目を潤ませながらの可愛い挨拶に俺はもちろん、村山も悶えていた。
やっぱりこいつを家に連れてきたのは失敗だったかと思ったが、もうどうしようもない。
とはいえ、村山は周りにはいないタイプの直くんに可愛さを感じただけで、恋愛感情などを感じたのではないことはわかっていた。
もし、直くんに気があるのなら俺を押し除けてでも近づくに決まっている。
だって、もし直くんが村山のところにいて、同じように出会ったのなら俺は村山に嫌われてでも近づこうとするはずだ。
それが本当に特別な相手だと感じたのなら。
その点、村山は可愛いと悶えてはいるが俺がピッタリと直くんに寄り添っても引き離そうともしない。
だから部屋に入れたんだ。
それでも少し直くんと二人で話がしておきたくて、カールには悪いと思ったけれどビデオチャットの準備をして直くんと二人で部屋を出た。
「ごめんね、直くん。驚いただろう?」
「いえ。大丈夫です。僕もついいつもの習慣で出迎えてしまって……」
「いや、俺は出迎えてくれて嬉しかったよ」
「本当ですか?」
「ああ、それに磯山って挨拶してくれたのも嬉しかった。本当に直くんが家族になったんだなって実感したよ」
「ふふっ。実は、あやちゃんと昼間ずっと練習してたんです。今日昇さんのお友達が来るからちゃんと挨拶できるようになっておこうって。だから頑張ったので昇さんに褒めてもらえて嬉しかったです!」
「直くん……」
ああ、もうっほんと可愛いすぎる!
「あっ、そうだ! あやちゃんが冷蔵庫にシュークリームがあるからみんなで食べてって言ってました」
「そうか、じゃあ飲み物と一緒に持っていこうか」
「はい!」
トレイにブラックのアイスコーヒーを二つと、直くん用のリンゴジュース。
そして、絢斗さんが用意しておいてくれた少し大きめのシュークリームを三つ持って、直くんと部屋に向かうともうすでにカールがビデオチャットに入ってきていたようだった。
ーカール、磯山と直純くんがきたよ。
んっ?
ちょうど今自己紹介をしたばかりだと言っていた村山だが、画面の向こうにいるカールに対しての言葉がなんというか聞いたことがないくらい甘さを含んでいた気がした。
俺の勘違いか?
そう思いながら、直くんを連れて村山のいるソファーに向かった。
ーカール、ごめん。待たせたね。
ーいや、リューヤと話していたから大丈夫だったよ。
えっ? 今、なんて言った?
ーあっ、ナオズミ!
ーカールさん! こんにちは。
俺の驚きをよそに、画面を通して手を振り合っている直くんとカールを微笑ましく思いながらも、俺は村山のことが気になって仕方がなかった。
だって、初対面の相手に村山が名前を呼ばせていたんだから。
いや、カールが外国人だからというのはあるだろう。
今までだって村山の家にホームスティしていた子たちは苗字では呼んでいなかった。
きっと村山というのが外国人には発音しにくいんだろう。
けれど、それでも村山は全員に<リュー>と愛称で呼ばせるようにしていたんだ。
今まで誰にも本名は呼ばせたことはなかったのに……。
なんでカールにだけ?
まさか、な……。
そんなことがある?
たまたまかもしれない。
けれど、さっきの甘さの含んだ声といい、名前といいどうにも気になって仕方がない。
そっと村山に視線を向けると、直くんと楽しそうに会話をしているカールを優しい眼差しで見つめているのが見える。
ああ、これは間違いないかもしれないな。
自分だとわからなくても、第三者が見ればすぐにわかる。
俺が直くんに惹かれた時もすぐに伯父さんと絢斗さんは気づいていた。
だからきっと村山もそうに違いない。
ふふっ。まさか親友のそんな場面に遭遇するとは思わなかったな。
ーカール、それでどうだ? 村山の印象は。
ーちょ――っ、磯山。そう急がせなくても!
突然俺がカールに尋ねたから焦っている。
そんな姿を見るのも楽しい。
ー僕は、リューヤは優しいと思う。ノボルたちがいなくても、優しく話しかけてくれたし、リューヤがいるところなら安心して泊まりに行けそう。あの、リューヤはどうかな? 僕は合格かな?
ーえっ……あっ、カールがそう言ってくれるなら俺の方は喜んできてくれたら嬉しいよ。
ーわぁ! 本当に? やったぁー!!
ーははっ。じゃあ決まりだな。いいだろ、村山。
ーああ、もちろん。
無邪気に喜ぶ画面の向こうのカールを見て、村山も嬉しそうだ。
ーよかった、これでカールに日本を案内できるよ。
ーわぁ! じゃあ、カールさんと会えるんですね。嬉しい!
ー僕もみんなと会えるのが楽しみだよ。あの、リューヤ。出発までいろいろ話したいこともあるから、たまにビデオチャットとか電話とかできるかな?
ーえっ、ああ。もちろん!
ーよかったぁ。じゃあ、僕の連絡先をノボルから聞いてね。
ーわかった。会えるのを楽しみにしてるよ。
ーはい。僕も楽しみにしてます。
画面を通して見つめ合う二人の甘い視線に俺はもう二人の気持ちには気づいていたけれど、本人たちは気づいていないんだろうな。
直くんを見た瞬間、村山の表情が一変した。
こんな可愛いのを見せたらそれも当然だ。
慌てて俺の身体で隠したけれど、あいつは覗き込むように直くんに挨拶をした。
素直な直くんは恥ずかしがりながらも一生懸命挨拶をしてくれた。
しかも磯山直純だと自分から名乗ったんだ。
その勇気も褒めたかった。
頬を赤く染めて緊張に目を潤ませながらの可愛い挨拶に俺はもちろん、村山も悶えていた。
やっぱりこいつを家に連れてきたのは失敗だったかと思ったが、もうどうしようもない。
とはいえ、村山は周りにはいないタイプの直くんに可愛さを感じただけで、恋愛感情などを感じたのではないことはわかっていた。
もし、直くんに気があるのなら俺を押し除けてでも近づくに決まっている。
だって、もし直くんが村山のところにいて、同じように出会ったのなら俺は村山に嫌われてでも近づこうとするはずだ。
それが本当に特別な相手だと感じたのなら。
その点、村山は可愛いと悶えてはいるが俺がピッタリと直くんに寄り添っても引き離そうともしない。
だから部屋に入れたんだ。
それでも少し直くんと二人で話がしておきたくて、カールには悪いと思ったけれどビデオチャットの準備をして直くんと二人で部屋を出た。
「ごめんね、直くん。驚いただろう?」
「いえ。大丈夫です。僕もついいつもの習慣で出迎えてしまって……」
「いや、俺は出迎えてくれて嬉しかったよ」
「本当ですか?」
「ああ、それに磯山って挨拶してくれたのも嬉しかった。本当に直くんが家族になったんだなって実感したよ」
「ふふっ。実は、あやちゃんと昼間ずっと練習してたんです。今日昇さんのお友達が来るからちゃんと挨拶できるようになっておこうって。だから頑張ったので昇さんに褒めてもらえて嬉しかったです!」
「直くん……」
ああ、もうっほんと可愛いすぎる!
「あっ、そうだ! あやちゃんが冷蔵庫にシュークリームがあるからみんなで食べてって言ってました」
「そうか、じゃあ飲み物と一緒に持っていこうか」
「はい!」
トレイにブラックのアイスコーヒーを二つと、直くん用のリンゴジュース。
そして、絢斗さんが用意しておいてくれた少し大きめのシュークリームを三つ持って、直くんと部屋に向かうともうすでにカールがビデオチャットに入ってきていたようだった。
ーカール、磯山と直純くんがきたよ。
んっ?
ちょうど今自己紹介をしたばかりだと言っていた村山だが、画面の向こうにいるカールに対しての言葉がなんというか聞いたことがないくらい甘さを含んでいた気がした。
俺の勘違いか?
そう思いながら、直くんを連れて村山のいるソファーに向かった。
ーカール、ごめん。待たせたね。
ーいや、リューヤと話していたから大丈夫だったよ。
えっ? 今、なんて言った?
ーあっ、ナオズミ!
ーカールさん! こんにちは。
俺の驚きをよそに、画面を通して手を振り合っている直くんとカールを微笑ましく思いながらも、俺は村山のことが気になって仕方がなかった。
だって、初対面の相手に村山が名前を呼ばせていたんだから。
いや、カールが外国人だからというのはあるだろう。
今までだって村山の家にホームスティしていた子たちは苗字では呼んでいなかった。
きっと村山というのが外国人には発音しにくいんだろう。
けれど、それでも村山は全員に<リュー>と愛称で呼ばせるようにしていたんだ。
今まで誰にも本名は呼ばせたことはなかったのに……。
なんでカールにだけ?
まさか、な……。
そんなことがある?
たまたまかもしれない。
けれど、さっきの甘さの含んだ声といい、名前といいどうにも気になって仕方がない。
そっと村山に視線を向けると、直くんと楽しそうに会話をしているカールを優しい眼差しで見つめているのが見える。
ああ、これは間違いないかもしれないな。
自分だとわからなくても、第三者が見ればすぐにわかる。
俺が直くんに惹かれた時もすぐに伯父さんと絢斗さんは気づいていた。
だからきっと村山もそうに違いない。
ふふっ。まさか親友のそんな場面に遭遇するとは思わなかったな。
ーカール、それでどうだ? 村山の印象は。
ーちょ――っ、磯山。そう急がせなくても!
突然俺がカールに尋ねたから焦っている。
そんな姿を見るのも楽しい。
ー僕は、リューヤは優しいと思う。ノボルたちがいなくても、優しく話しかけてくれたし、リューヤがいるところなら安心して泊まりに行けそう。あの、リューヤはどうかな? 僕は合格かな?
ーえっ……あっ、カールがそう言ってくれるなら俺の方は喜んできてくれたら嬉しいよ。
ーわぁ! 本当に? やったぁー!!
ーははっ。じゃあ決まりだな。いいだろ、村山。
ーああ、もちろん。
無邪気に喜ぶ画面の向こうのカールを見て、村山も嬉しそうだ。
ーよかった、これでカールに日本を案内できるよ。
ーわぁ! じゃあ、カールさんと会えるんですね。嬉しい!
ー僕もみんなと会えるのが楽しみだよ。あの、リューヤ。出発までいろいろ話したいこともあるから、たまにビデオチャットとか電話とかできるかな?
ーえっ、ああ。もちろん!
ーよかったぁ。じゃあ、僕の連絡先をノボルから聞いてね。
ーわかった。会えるのを楽しみにしてるよ。
ーはい。僕も楽しみにしてます。
画面を通して見つめ合う二人の甘い視線に俺はもう二人の気持ちには気づいていたけれど、本人たちは気づいていないんだろうな。
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