ひとりぼっちになった僕は新しい家族に愛と幸せを教えてもらいました

波木真帆

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偶然の出会い

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「いらっしゃいませ。あら、昨日のお客さま」

「覚えててくださってありがとうございます。昨日のぬいぐるみ、とても喜んでもらえました」

「そうですか。それは私どももとても嬉しく思います」

「それで、昨日ぬいぐるみに買った服なんですが、お揃いで着られるサイズがあるって……」

「はい。こちらでございます」

そう言って案内された先には、制服だけでなく他にも可愛い衣装が揃っていた。

「わぁ、これはすごいな」

「お買い上げいただきましたお洋服と同じものはこちらにございます。サイズもいくつか取り揃えておりますので、そちらになければお声がけくださいませ」

「ありがとうございます」

直くんのサイズは……この辺だろうな……。ズボンは長ければ俺が裾上げすればいいし。
本当に父さんに裁縫を習っておいて正解だったな。

無事に制服をゲットできたのはいいけど、せっかく着たからもう一枚くらい直くんに服を買って行ってもいいか。
制服は日常的に着るわけじゃないし、家で俺の選んだ服を着てくれたら嬉しいもんな。

うーん、どれにしようか……。

あっ! そうだ!! 
前に俺がクマの着ぐるみパジャマを着ていたらすっごく喜んでたから、直くんにも着ぐるみパジャマを買ってやったら喜ぶかも!!

早速パジャマが並んでいるところを見にいくと、さすがぬいぐるみショップに併設されているだけあって、着ぐるみパジャマがたくさん並んでいる。

クマでもいいけど……直くんなら……。

悩んでやっぱりウサギかな……と手を伸ばそうとした瞬間、後ろから同じものに手が伸びてきて思わず振り返った。

「ああ、ごめんね。どうぞ、譲るよ」

「いえ、サイズを見たかっただけなので」

「ああ、なるほど。これはワンサイズ大きめを買った方がいいよ。大きいのに包まれている方がより可愛さが際立つ」

「そう、なんですか?」

「俺はもうこのシリーズを何着も買ってるからね。ベテランだよ」

「あなたが、着るんですか……?」

ガッチリとした体型にはあまり似合わなさそうだと思いつつ、失礼を承知で尋ねてみると、

「ははっ。まさか。俺の可愛い恋人だよ」

と返ってきてやっぱりそうかと納得してしまった。

その時、ポケットに入れていたスマホが震えるのを感じて取り出してみると、画面表示には<磯山卓>と書かれていてメッセージが届いていた。

あっ、もしかしてもう村山がついたのかと思って慌ててメッセージを開くと

<村山くんは事務所でお前を待っているそうだから、帰ってきたら事務所に寄ってくれ>

と書かれていた。

そうか、流石に絢斗さんと直くんだけの家には入らないよな。

<わかった。買い物終わったらすぐにいく!>

急いでメッセージを送ると、

「ごめん、今ちょっと画面が見えてしまったんだけど、もしかして磯山先生の身内の方かな?」

と声をかけられた。

「えっ、あっ、はい。磯山は伯父さんですが、もしかしてあなたも弁護士ですか?」

どちらかと言うと警察官とかそっち系だと思ったけれど、まぁガタイのいい弁護士もいるか。

「いや、私の恋人の父親と磯山先生が友人なんだよ。ああ、じゃあ君が昇くん、かな?」

「えっ、どうして俺の名前を?」

「少し前から磯山先生から相談を受けていたんだ。俺は周防将臣。警察庁に勤めているよ」

「――っ!! じゃあ、伯父さんが話していた、あの、ものすごい人??」

「ははっ。ものすごい人って、そんな認識か。連絡をしようと思っていたんだけど、磯山先生からちょっとゴタゴタしてるって聞いていたから落ち着くのを待っていたんだ。ここで会えたのも何かの縁だね。とりあえず連絡先を交換して、今日は早く帰った方がいいよ。約束があるんだろう?」

「あ、はい! ぜひ今度ゆっくりお話しさせてください!」

「ああ。連絡待ってるよ」

急いでメッセージアプリのIDと電話番号を交換した。

「このウサギ、きっと君の可愛い子にも似合うと思うよ」

「ありがとうございます!」

こんなところで出会えて、とても話しやすそうな人だったし本当に良かった。

俺は急いで制服とウサギの着ぐるみパジャマの支払いを済ませた。

「良かったら磯山先生のご自宅まで送るよ」

「え、でも……」

「ほら、待たせない方がいいだろう。車内でも少し話せるし」

「でも周防さんの買い物が……」

「ああ、大丈夫。今度秀吾と一緒に来るから」

そういうと、笑顔で俺を駐車場に連れて行った。
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