ひとりぼっちになった僕は新しい家族に愛と幸せを教えてもらいました

波木真帆

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サプライズ

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<side毅>

大きなクマを抱えた昇を連れて兄さんの家に出かけた私たち。
初めて会う直純くんに正直言って、この上なく緊張していた。

なんせ、昇の思い人で兄さんが養子にすると決めた子だ。

家庭環境や兄さんの家に預けられた経緯は聞いていたが、一体どんな子だろう。

緊張でいっぱいの私たちの前に現れたのは、14歳というには小さく華奢な子だった。

二葉は彼をひと目見た途端気に入ったようで心からの笑顔を見せていた。

確かに顔は可愛らしい。
だが内面の美しさが二葉と私の心を掴んだのだろう。

可愛い息子が欲しいと言っていた二葉にとってはまさに理想通りの子といえよう。
いや、決して昇を可愛がっていないと言うわけではないが、昇は可愛いというよりは男らしい、逞しいという言葉が似合う子だから、仕方がない。

兄さんに部屋の中に案内され、二葉と絢斗さんに挟まれて座る直純くんは少し緊張しているようにも見えたが、昇が向かいに座るとホッと気が緩んだ。
それだけ昇に安心感を持っているのだろう。

絢斗さんが直純くんに『あやちゃん』と呼ばれているのを知って、二葉が『ふーちゃん』と呼んで欲しいというと、少し照れながらも可愛い声で『ふーちゃん』と呼んであげていた。

それがあまりにも可愛くて、年甲斐もなく私も羨ましいと思ってしまった。

兄さんが直純くんに何と呼ばれているのだろうか。
気になって尋ねてみれば何と、『パパ』と呼ばれているようだ。
その経緯が気になって仕方ないが、これなら私もパパと呼んでもらえるかもしれない。

そう思ってダメもとで頼んでみると、絢斗さんたちの援護もあり『毅パパ』と呼んでくれた。
その時の私の喜びは到底言葉にすることもできない。
それほど嬉しかったのだ。

この子は兄さんと絢斗さんの子どもというだけでなく、我が息子の思い人。
言うなれば私たちの義息子になるのだから、今から家族ぐるみで仲良くなるのも悪くない。
そう思えるくらいに直くんに心を掴まれてしまった。

パーティーの準備をしながらも、二葉と絢斗さんと楽しそうにおしゃべりをしている直くんをそっと盗み見る。
こうしてみれば、洗脳や虐待を受けていたなんて想像もつかない。
あんなに可愛い子を、しかも実の母親が虐待だなんて……鬼の所業だな。

親が子を躾けるのに、どうしても叱ってしまうことはある。
命に関わるような危険な行為があれば、手を出さなければいけないこともある。

それは私も昇を育ててきて実際に経験してきた。
けれどその根幹には昇への愛情があった。
だからこそ、昇も私たちを信頼してくれている。

しかし、直くんへのあの母親の行為は、愛情など微塵も感じられない。
直くんの人間的な生活を支配し、自分の思い通りに動かせる奴隷を作りたかったのではないかとしか考えられない。

過去の犯罪行為により、直くんと母親を引き離すことができたが、本当にあの事件が発覚してよかった。
被害者の子には悪いが、そのおかげで直くんを悪魔の手から救い出すことができたのだ。

パーティーの準備が整い、綺麗に料理が並べられたテーブルを見て感嘆の声を上げる直くん。

ちらし寿司すらも見たことがないという言葉には私も二葉も言葉が出なかった。
そっと兄さんに視線を向けると、黙って小さく頷いていた。
その表情が全てを物語っていた。

パーティーが始まり、昇が取り分けたちらし寿司を美味しそうに頬張る直くんを見て、思わず涙が出そうになったが必死に堪えた。

それからもどの料理を食べても

「美味しい、美味しい」

と笑顔を見せる直くんを見て、胸が締め付けられる思いがした。

直くんがおかわりをしようかどうか悩んでいるように見えて、声をかけようとした瞬間、

「直くん。まだ大事なものが残っているから、料理はその辺にしておいた方がいいよ」

と昇が声をかけていた。

「大事な、もの?」

「ああ、きっと直くんが喜ぶはずだよ」

「なんだろう。楽しみです」

そういうと、直くんは素直に箸をおいた。

食べたいものを食べたいだけ食べさせてあげたいと思っていたが、昇は直くんの限界を知っているということなのだろう。
ならば、早く直くんを喜ばせてあげたい。
そんな思いが湧き上がった。

「兄さん、そろそろ……」

言葉にはせずに視線を送ると、さすが兄弟。
私の意図が伝わったようで、さりげなく机の上の片付けをはじめ、真ん中にスペースを作ってくれた。

「昇」

「ああ、わかった」

名前を呼んだだけで理解してくれるのもさすが息子だと思える。

「直くん。サプライズがあるから、目を覆うよ」

「えっ? はい」

驚く直くんの目を昇の大きな手で覆い隠す。

「見えてない?」

「はい。見えないです」

その間に、兄さんが冷蔵庫からケーキを取り出し、箱から出してテーブルに置いた。

昇の手が直くんの目からそっと離れると、直くんの目が目の前のケーキをとらえた。

「えっ――あっ、これ……」

私の席からは、まるで信じられないものを見たような直くんの驚きの表情から、一気に目に涙が溜まっていき、同時に口元を隠す、重ねられた両手がフルフルと震えているのがはっきりと見えた。
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