上 下
64 / 314

サプライズ

しおりを挟む
<side毅>

大きなクマを抱えた昇を連れて兄さんの家に出かけた私たち。
初めて会う直純くんに正直言って、この上なく緊張していた。

なんせ、昇の思い人で兄さんが養子にすると決めた子だ。

家庭環境や兄さんの家に預けられた経緯は聞いていたが、一体どんな子だろう。

緊張でいっぱいの私たちの前に現れたのは、14歳というには小さく華奢な子だった。

二葉は彼をひと目見た途端気に入ったようで心からの笑顔を見せていた。

確かに顔は可愛らしい。
だが内面の美しさが二葉と私の心を掴んだのだろう。

可愛い息子が欲しいと言っていた二葉にとってはまさに理想通りの子といえよう。
いや、決して昇を可愛がっていないと言うわけではないが、昇は可愛いというよりは男らしい、逞しいという言葉が似合う子だから、仕方がない。

兄さんに部屋の中に案内され、二葉と絢斗さんに挟まれて座る直純くんは少し緊張しているようにも見えたが、昇が向かいに座るとホッと気が緩んだ。
それだけ昇に安心感を持っているのだろう。

絢斗さんが直純くんに『あやちゃん』と呼ばれているのを知って、二葉が『ふーちゃん』と呼んで欲しいというと、少し照れながらも可愛い声で『ふーちゃん』と呼んであげていた。

それがあまりにも可愛くて、年甲斐もなく私も羨ましいと思ってしまった。

兄さんが直純くんに何と呼ばれているのだろうか。
気になって尋ねてみれば何と、『パパ』と呼ばれているようだ。
その経緯が気になって仕方ないが、これなら私もパパと呼んでもらえるかもしれない。

そう思ってダメもとで頼んでみると、絢斗さんたちの援護もあり『毅パパ』と呼んでくれた。
その時の私の喜びは到底言葉にすることもできない。
それほど嬉しかったのだ。

この子は兄さんと絢斗さんの子どもというだけでなく、我が息子の思い人。
言うなれば私たちの義息子になるのだから、今から家族ぐるみで仲良くなるのも悪くない。
そう思えるくらいに直くんに心を掴まれてしまった。

パーティーの準備をしながらも、二葉と絢斗さんと楽しそうにおしゃべりをしている直くんをそっと盗み見る。
こうしてみれば、洗脳や虐待を受けていたなんて想像もつかない。
あんなに可愛い子を、しかも実の母親が虐待だなんて……鬼の所業だな。

親が子を躾けるのに、どうしても叱ってしまうことはある。
命に関わるような危険な行為があれば、手を出さなければいけないこともある。

それは私も昇を育ててきて実際に経験してきた。
けれどその根幹には昇への愛情があった。
だからこそ、昇も私たちを信頼してくれている。

しかし、直くんへのあの母親の行為は、愛情など微塵も感じられない。
直くんの人間的な生活を支配し、自分の思い通りに動かせる奴隷を作りたかったのではないかとしか考えられない。

過去の犯罪行為により、直くんと母親を引き離すことができたが、本当にあの事件が発覚してよかった。
被害者の子には悪いが、そのおかげで直くんを悪魔の手から救い出すことができたのだ。

パーティーの準備が整い、綺麗に料理が並べられたテーブルを見て感嘆の声を上げる直くん。

ちらし寿司すらも見たことがないという言葉には私も二葉も言葉が出なかった。
そっと兄さんに視線を向けると、黙って小さく頷いていた。
その表情が全てを物語っていた。

パーティーが始まり、昇が取り分けたちらし寿司を美味しそうに頬張る直くんを見て、思わず涙が出そうになったが必死に堪えた。

それからもどの料理を食べても

「美味しい、美味しい」

と笑顔を見せる直くんを見て、胸が締め付けられる思いがした。

直くんがおかわりをしようかどうか悩んでいるように見えて、声をかけようとした瞬間、

「直くん。まだ大事なものが残っているから、料理はその辺にしておいた方がいいよ」

と昇が声をかけていた。

「大事な、もの?」

「ああ、きっと直くんが喜ぶはずだよ」

「なんだろう。楽しみです」

そういうと、直くんは素直に箸をおいた。

食べたいものを食べたいだけ食べさせてあげたいと思っていたが、昇は直くんの限界を知っているということなのだろう。
ならば、早く直くんを喜ばせてあげたい。
そんな思いが湧き上がった。

「兄さん、そろそろ……」

言葉にはせずに視線を送ると、さすが兄弟。
私の意図が伝わったようで、さりげなく机の上の片付けをはじめ、真ん中にスペースを作ってくれた。

「昇」

「ああ、わかった」

名前を呼んだだけで理解してくれるのもさすが息子だと思える。

「直くん。サプライズがあるから、目を覆うよ」

「えっ? はい」

驚く直くんの目を昇の大きな手で覆い隠す。

「見えてない?」

「はい。見えないです」

その間に、兄さんが冷蔵庫からケーキを取り出し、箱から出してテーブルに置いた。

昇の手が直くんの目からそっと離れると、直くんの目が目の前のケーキをとらえた。

「えっ――あっ、これ……」

私の席からは、まるで信じられないものを見たような直くんの驚きの表情から、一気に目に涙が溜まっていき、同時に口元を隠す、重ねられた両手がフルフルと震えているのがはっきりと見えた。
しおりを挟む
感想 435

あなたにおすすめの小説

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談? 本気? 二人の結末は? 美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。

【書籍化進行中】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ  前世の記憶がうっすら残る私が転生したのは、貧乏伯爵家の長女。父親に頼まれ、公爵家の圧力と財力に負けた我が家は私を売った。  悲壮感漂う状況のようだが、契約婚は悪くない。実家の借金を返し、可愛い継子を愛でながら、旦那様は元気で留守が最高! と日常を謳歌する。旦那様に放置された妻ですが、息子や使用人と快適ライフを追求する。  逞しく生きる私に、旦那様が距離を詰めてきて? 本気の恋愛や溺愛はお断りです!!  ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2024/09/07……カクヨム、恋愛週間 4位 2024/09/02……小説家になろう、総合連載 2位 2024/09/02……小説家になろう、週間恋愛 2位 2024/08/28……小説家になろう、日間恋愛連載 1位 2024/08/24……アルファポリス 女性向けHOT 8位 2024/08/16……エブリスタ 恋愛ファンタジー 1位 2024/08/14……連載開始

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...