上 下
58 / 275

村山の勘

しおりを挟む
「この子たちに合う洋服も買いたいんですけど……」

「はい。衣装はこちらにございます」

ぬいぐるみたちをレジで預かってもらい、洋服を見せてもらうとそこには人間顔負けの洋服たちが山のように並んでいた。

「普通に洋服屋みたいだな」

「ぬいぐるみたち専用ではございませんので、お揃いでお召しいただけるのですよ」

「そうなんですか? それはすごいですね」

「磯山、どんなのにするんだ?」

「そうだな……あっ、これうちの制服に似てないか?」

「ああ、確かに似てるな」

「これをお揃いで着せるのはどうだろう?」

「いいんじゃないか」

村山が賛同してくれたことが後押しになり、俺はそれに決めた。

「ぬいぐるみに着せますか?」

「うーん、そうだな……。いや、自分で着せた方が喜ぶか?」

悩みまくったけれど、結局洋服はプレゼントとして包んでもらうことにした。
そのほうが直くんも楽しめると思ったんだ。

「それではお包みいたしますので、しばらくお待ちください」

プレゼントが無事に買えたことにホッとして、店内を見回すと村山の姿が見えない。

「あれ? 村山? どこ行ったんだ?」

「ごめん、ごめん。こっちだよ」

少し離れた棚の間からひょっこりと顔をだす。

「何してるんだ?」

「いや、せっかく来たから俺もぬいぐるみ買おうかなって思ってさ」

「えっ? 直くんに?」

「違うよ、今度カールが来るだろ。慣れない日本だしこういうのがあると安心するかなって。ほら、『Glücksbriお守りnger』だろ?」

「なるほど。でもカールに会ったこともないのに、選べるのか?」

「それは俺の勘だよ。こういうのは外れたことがないんだ」

にやっと笑う村山を見ながら、思わず笑ってしまう。

「大した自信だな。でも、きっとカールも喜ぶよ」

「ありがとう」

村山は嬉しそうに笑いながら、いろんな動物たちを見て回っていたけれど犬ゾーンで足を止め、悩みに悩んで垂れ下がった耳が可愛いクリーム色のラブラドールを選んで

「これにするよ!」

と自信たっぷりに言っていた。

カールがラブラドールか……。
確かに人懐っこい性格だから合っているかもしれないな。

そう思っていると後ろから

「お待たせいたしました」

と声が聞こえた。
急いでレジに向かうと、レジ台には可愛いリボンでラッピングされた袋が紙袋に入って置かれていた。

「こちらがお洋服でございます。こちらのぬいぐるみは二体ともそのままお手渡しでよろしいですか?」

「はい。大丈夫です」

料金を支払い、受け取ったクマは一つが100cm、もう一つが80cmで二つ抱きかかえるとかなりのものだったが持てないほどではない。

紙袋を持ったまま、その二体を抱きかかえていると村山もレジにやってきた。

「お前は洋服は買わなくていいのか?」

「このぬいぐるみを気に入ってくれたら一緒に買いにくるよ」

「ああ、なるほど。それはいいな」

「ふふっ。それにしてもすごい格好だな」

「お前も抱っこして帰れよ。そうしたら俺だけ目立たないだろ」

「二人の方が余計目立つと思うけど、まぁいいよ。付き合ってやる」

そう言って支払いを済ませた村山と一緒にぬいぐるみを抱きかかえたまま店を出た。
そのタイミングでポケットに入れていたスマホが震えるのを感じた。

「ちょっと待ってくれ、村山。電話が来てる」

声をかけてロビーに置かれたソファーに荷物を置き、スマホを取り出すと画面表示には母さんの名前。

ーはい。もしもし。

ーあっ、昇。買い物は終わった?

ーうん。今、ちょうど終わってこれから伯父さん家に行こうと思ってるけど。

ーそれならちょうどいいわ。私たちもケーキを受け取っていくところだから、昇を拾ってあげるわよ。今、どこなの?

ー今、銀座のイリゼホテル。

ーああ、やっぱり。そこの店に行ったと思ったわ。

ーえっ、なんで?

ーだって、瑠璃るりさんがぬいぐるみをよく買いに行っているもの。龍弥りゅうやくんなら、絶対にその店を昇に教えるって思ってたわ。

俺が村山に教えてもらうとわかってて近くで待機してくれてたってことか……。
やっぱり母さんには構わないな。

ーあと五分くらいで着けるから、入り口で待ってて。

ーわかった。ありがとう。

そう言って電話を切ってから、村山にそれを教えた。

「へぇー、さすがだな。磯山の母さん」

「まぁな。伯父さん家にいく前にお前の家に寄るから乗っていけよ」

「ああ、ありがとう。助かるよ」

これで銀座をぬいぐるみを抱っこして歩き回るのは避けられたな。
まぁ、直くんと一緒なら余裕でやってたけど。

それからしばらくして迎えに来てくれた母さんと父さんに笑われたのはいうまでもない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

孤独なまま異世界転生したら過保護な兄ができた話

かし子
BL
養子として迎えられた家に弟が生まれた事により孤独になった僕。18歳を迎える誕生日の夜、絶望のまま外へ飛び出し、トラックに轢かれて死んだ...はずが、目が覚めると赤ん坊になっていた? 転生先には優しい母と優しい父。そして... おや?何やらこちらを見つめる赤目の少年が、 え!?兄様!?あれ僕の兄様ですか!? 優しい!綺麗!仲良くなりたいです!!!! ▼▼▼▼ 『アステル、おはよう。今日も可愛いな。』 ん? 仲良くなるはずが、それ以上な気が...。 ...まあ兄様が嬉しそうだからいいか! またBLとは名ばかりのほのぼの兄弟イチャラブ物語です。

春を拒む【完結】

璃々丸
BL
 日本有数の財閥三男でΩの北條院環(ほうじょういん たまき)の目の前には見るからに可憐で儚げなΩの女子大生、桜雛子(さくら ひなこ)が座っていた。 「ケイト君を解放してあげてください!」  大きなおめめをうるうるさせながらそう訴えかけてきた。  ケイト君────諏訪恵都(すわ けいと)は環の婚約者であるαだった。  環とはひとまわり歳の差がある。この女はそんな環の負い目を突いてきたつもりだろうが、『こちとらお前等より人生経験それなりに積んどんねん────!』  そう簡単に譲って堪るか、と大人げない反撃を開始するのであった。  オメガバな設定ですが設定は緩めで独自設定があります、ご注意。 不定期更新になります。   

浮気な彼氏

月夜の晩に
BL
同棲する年下彼氏が別の女に気持ちが行ってるみたい…。それでも健気に奮闘する受け。なのに攻めが裏切って…?

出戻り聖女はもう泣かない

たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。 男だけど元聖女。 一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。 「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」 出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。 ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。 表紙絵:CK2さま

僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした

なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。 「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」 高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。 そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに… その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。 ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。 かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで… ハッピーエンドです。 R18の場面には※をつけます。

瞳の代償 〜片目を失ったらイケメンたちと同居生活が始まりました〜

Kei
BL
昨年の春から上京して都内の大学に通い一人暮らしを始めた大学2年生の黒崎水樹(男です)。無事試験が終わり夏休みに突入したばかりの頃、水樹は同じ大学に通う親友の斎藤大貴にバンドの地下ライブに誘われる。熱狂的なライブは無事に終了したかに思えたが、…… 「え!?そんな物までファンサで投げるの!?」 この物語は何処にでもいる(いや、アイドル並みの可愛さの)男子大学生が流れに流されいつのまにかイケメンの男性たちと同居生活を送る話です。 流血表現がありますが苦手な人はご遠慮ください。また、男性同士の恋愛シーンも含まれます。こちらも苦手な方は今すぐにホームボタンを押して逃げてください。 もし、もしかしたらR18が入る、可能性がないこともないかもしれません。 誤字脱字の指摘ありがとうございます

処理中です...