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特別な相手と思わぬ情報
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少し加筆修正しています。
* * *
「おっ、やけに小さいおにぎりだな。いつもはその倍くらいじゃないか? そんなんで足りるのか?」
二時間目が終わった休憩時間に、直くんから渡された弁当箱を開けていると村山が覗き込んできた。
「勝手に見るなよ。減る!」
「見ただけで減るわけないだろ」
「これは直くんが俺のために作ってくれたおにぎりなんだよ。朝から小さな手で作ってくれてさ、学校で食べて下さいって渡してくれたんだよ。もう、朝から最高だよ!」
「えっ? お前、手作り苦手じゃなかったか? この前も後輩の女子が食べて欲しいって持ってきた弁当とか、お菓子とか断ってただろ」
「手作りが苦手なんじゃなくてそんな何が入ってるかわからないやつ、食えないって言ってんだよ。そんなのと直くんのを一緒にするなよ!」
小学生でバレンタインを意識しだす頃から手作りのものを渡されることは増えたけれど、父さんから自分が特別だと思う相手以外の素人の手作りのものは絶対に口に入れるな! もらうな! と口酸っぱく言われていたから決して受け取ることはなかった。
その教えは、伯父さんはもちろん、宗一郎さんや伊織さんからも言われていて、伊織さんからは渡されたものに毛髪や危ない薬が混入されていたこともあったと実体験を聞かされたこともあって、これから先も絶対に受け取らないと決めていた。
ところが、高校になってなぜか俺が手作りを受け取った相手と付き合うなんて噂がどこからか出てきて、毎日のように手作りを渡されそうになったり、受け取らないとわかると勝手に机の中に入れられたりしていた。
その量の多さに学校側もそれを配慮してくれて、アレルギー等の問題防止のため、手作りの菓子・弁当・その他の食べ物の授受禁止と言ってくれたけれど、先生たちの目をくぐり抜けるようにいまだに俺に手作りを持ってくる奴らがいる。
本当に面倒で仕方がない。
「なるほど。付き合うことになった相手は特別ってわけか」
「は? なんで付き合う?」
「えっ? だって、そうなんだろ? 直くん呼びになってるし、お前がその子のおにぎりを食べてるんじゃ間違い無いだろ。距離が縮まったって言ってたじゃん」
「ああー、そういうことか。違うよ、まだ付き合うまでにはなってない。でも家族になったんだ」
「どういうことだ?」
「直くん、伯父さんの息子になったんだよ。だから俺の従兄弟。名前も同じ磯山になるんだぞ。距離、縮まっただろ?」
俺の言葉に村山は目をぱちくりさせて驚いていた。
「なんだ、その怒涛の急展開は。そんな話になってたか?」
「まぁいろいろあったんだよ。俺は直くんが幸せならそれでいいんだ。直くんの笑顔だけ見ていたいからな」
「お前……今、自分がどんな顔してるかわかってるか?」
「??? なんだよ」
村山の意味深な表情が気になって尋ねると、
「お前が本気で直くんを好きだって表情に出てるぞ」
と笑われてしまった。
「――っ、そうか。まぁ、仕方ないかもな。だって、毎日毎日好きな気持ちが更新してくんだぞ」
「一緒に住んでんのにそれはすごいな。普通は一緒に住んだら嫌なところも見えて幻滅するもんじゃないか?」
「幻滅なんてするわけないだろ! 本当に可愛いんだよ、もったいないから教えないけど」
「なんだよ、ケチだな。まぁいいや。明日その直くんに会えるんだろ。カールも楽しみだけどそっちも楽しみだな」
「言っとくけど、直くんには触らせないからな」
「はいはい。わかったって」
少し呆れている様子の村山を見ながら、俺は直くんの作ってくれたおにぎりを堪能した。
今まで学校で食べてきたおにぎりとは比べ物にならないほどの美味しさに元気をもらった俺は、次の授業で張り切りすぎて数学の先生から、問題解くのが早すぎるから少し落ち着けと言われてしまった。
帰りのHRを終えてすぐに
「明日の話もしたいから、ちょっとハンバーガーでも食べに行かないか?」
と村山から誘われた。
「ごめん。今日は予定があるから」
「なんだ、また直くんがらみか?」
「まぁな、今からクマを買いに行くんだ」
「クマ、ってぬいぐるみか?」
「ああ、できるだけデカいのを探したいからいろいろ当たってみようと思って……」
「それならいい場所知ってるぜ」
「本当か?」
「ああ、連れてってやるから来いよ。行こうぜ!」
そう言ってさっさと教室を出ていく村山を追いかけながら、
「どこいくんだ?」
と尋ねた。
「母さんがさ、今までホームスティで知り合った子たちにクリスマスプレゼントとか贈ってるんだけど、日本の衣装を着たぬいぐるみとか喜ばれるらしくて、よく注文する店があるんだ。そこは普通に既製品も売ってるからクマならすぐに買えるはずだよ」
「本当か!? すぐに行こう!」
村山からの思わぬ情報に驚きつつも、村山の母さんがよく買うところなら安心して買えそうだとホッとしてしまった。
* * *
「おっ、やけに小さいおにぎりだな。いつもはその倍くらいじゃないか? そんなんで足りるのか?」
二時間目が終わった休憩時間に、直くんから渡された弁当箱を開けていると村山が覗き込んできた。
「勝手に見るなよ。減る!」
「見ただけで減るわけないだろ」
「これは直くんが俺のために作ってくれたおにぎりなんだよ。朝から小さな手で作ってくれてさ、学校で食べて下さいって渡してくれたんだよ。もう、朝から最高だよ!」
「えっ? お前、手作り苦手じゃなかったか? この前も後輩の女子が食べて欲しいって持ってきた弁当とか、お菓子とか断ってただろ」
「手作りが苦手なんじゃなくてそんな何が入ってるかわからないやつ、食えないって言ってんだよ。そんなのと直くんのを一緒にするなよ!」
小学生でバレンタインを意識しだす頃から手作りのものを渡されることは増えたけれど、父さんから自分が特別だと思う相手以外の素人の手作りのものは絶対に口に入れるな! もらうな! と口酸っぱく言われていたから決して受け取ることはなかった。
その教えは、伯父さんはもちろん、宗一郎さんや伊織さんからも言われていて、伊織さんからは渡されたものに毛髪や危ない薬が混入されていたこともあったと実体験を聞かされたこともあって、これから先も絶対に受け取らないと決めていた。
ところが、高校になってなぜか俺が手作りを受け取った相手と付き合うなんて噂がどこからか出てきて、毎日のように手作りを渡されそうになったり、受け取らないとわかると勝手に机の中に入れられたりしていた。
その量の多さに学校側もそれを配慮してくれて、アレルギー等の問題防止のため、手作りの菓子・弁当・その他の食べ物の授受禁止と言ってくれたけれど、先生たちの目をくぐり抜けるようにいまだに俺に手作りを持ってくる奴らがいる。
本当に面倒で仕方がない。
「なるほど。付き合うことになった相手は特別ってわけか」
「は? なんで付き合う?」
「えっ? だって、そうなんだろ? 直くん呼びになってるし、お前がその子のおにぎりを食べてるんじゃ間違い無いだろ。距離が縮まったって言ってたじゃん」
「ああー、そういうことか。違うよ、まだ付き合うまでにはなってない。でも家族になったんだ」
「どういうことだ?」
「直くん、伯父さんの息子になったんだよ。だから俺の従兄弟。名前も同じ磯山になるんだぞ。距離、縮まっただろ?」
俺の言葉に村山は目をぱちくりさせて驚いていた。
「なんだ、その怒涛の急展開は。そんな話になってたか?」
「まぁいろいろあったんだよ。俺は直くんが幸せならそれでいいんだ。直くんの笑顔だけ見ていたいからな」
「お前……今、自分がどんな顔してるかわかってるか?」
「??? なんだよ」
村山の意味深な表情が気になって尋ねると、
「お前が本気で直くんを好きだって表情に出てるぞ」
と笑われてしまった。
「――っ、そうか。まぁ、仕方ないかもな。だって、毎日毎日好きな気持ちが更新してくんだぞ」
「一緒に住んでんのにそれはすごいな。普通は一緒に住んだら嫌なところも見えて幻滅するもんじゃないか?」
「幻滅なんてするわけないだろ! 本当に可愛いんだよ、もったいないから教えないけど」
「なんだよ、ケチだな。まぁいいや。明日その直くんに会えるんだろ。カールも楽しみだけどそっちも楽しみだな」
「言っとくけど、直くんには触らせないからな」
「はいはい。わかったって」
少し呆れている様子の村山を見ながら、俺は直くんの作ってくれたおにぎりを堪能した。
今まで学校で食べてきたおにぎりとは比べ物にならないほどの美味しさに元気をもらった俺は、次の授業で張り切りすぎて数学の先生から、問題解くのが早すぎるから少し落ち着けと言われてしまった。
帰りのHRを終えてすぐに
「明日の話もしたいから、ちょっとハンバーガーでも食べに行かないか?」
と村山から誘われた。
「ごめん。今日は予定があるから」
「なんだ、また直くんがらみか?」
「まぁな、今からクマを買いに行くんだ」
「クマ、ってぬいぐるみか?」
「ああ、できるだけデカいのを探したいからいろいろ当たってみようと思って……」
「それならいい場所知ってるぜ」
「本当か?」
「ああ、連れてってやるから来いよ。行こうぜ!」
そう言ってさっさと教室を出ていく村山を追いかけながら、
「どこいくんだ?」
と尋ねた。
「母さんがさ、今までホームスティで知り合った子たちにクリスマスプレゼントとか贈ってるんだけど、日本の衣装を着たぬいぐるみとか喜ばれるらしくて、よく注文する店があるんだ。そこは普通に既製品も売ってるからクマならすぐに買えるはずだよ」
「本当か!? すぐに行こう!」
村山からの思わぬ情報に驚きつつも、村山の母さんがよく買うところなら安心して買えそうだとホッとしてしまった。
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