上 下
45 / 277

愛しい人のために

しおりを挟む
<side昇>

絢斗さんと伯父さんの挨拶も終わり、再び画面には俺と直くんだけが映った。

ーじゃあ、俺の友達とのビデオチャットはいつにする? カールの都合がいい日に合わせるよ。

ーそうだな……じゃあ、明後日はどう? 時間は今くらいの時間ならありがたいけど。

ー大丈夫だよ。俺もそっちの方がいい。

ーじゃあ、明後日。その時はナオズミも一緒?

ーなんだ? 一緒がいいのか? 

ーノボルの友人に会うんだ。せっかくならナオズミも一緒がいいだろう。

直くんだけ一人ぼっちになるのではないかとカールなりに気を遣ってくれているのかもしれない。

「直くん、いい?」

「はい。嬉しいです」

一応直くんに了承を取ると笑顔を見せてくれる。
その表情に困った様子が見えないことを確認して、俺はカールにOKを告げた。

ーじゃあ、明後日な。

ーうん。わかったよ。じゃあ、ナオズミ……またね。

嬉しそうに手を振り続けるカールに直くんも手を振りかえしているのをみながら、ビデオチャットは終了した。

「元気なやつだから、疲れてない?」

「はい。大丈夫です。すごく楽しかったですよ」

「それならよかった。じゃあ、俺村山に今のこと連絡するから」

そう言って、スマホを取り出し電話をかけようかと思ったけれど、もしかしたら夕飯時かもしれないと思ってメッセージにしておいた。

<今、カールと話したんだけど明後日今くらいの時間でビデオチャットすることになったから、学校帰りにそのまま伯父さん家に行くってことでいいかな? 詳細はまた明日話すよ>


よし、これでいい。
と思った途端、すぐに既読がついて驚いてしまう。
ちょうどスマホを手にしていたのかもしれない。

すぐに返信が来て、

<さっき親にも話したんだけど、部屋も空いてるし、昇からの話だからホームスティOKだって。あとはそのカールくんが俺を気にいるかどうかだな。とりあえず日本に来てくれるなら、最大限サポートはするよ。任せておいてくれ。また明日話を聞かせてくれ>

と書かれていた。

「どうした?」

あまりにもスムーズな返信に思わず笑っていると、伯父さんから声をかけられた。

「いや、村山の両親も受け入れオッケーって言ってくれたみたいで、カールさえ良ければ来てもらっていいって。というか、もう受け入れる気満々だから、嬉しくなっちゃって……」

「そうか、ありがたいな。じゃあ、ご飯にしようか」

そういうと、伯父さんはそのままキッチンに向かった。

「あっ、俺も手伝います。パソコンを部屋に戻したらすぐに来ますね」

「ああ、手伝ってくれるのは嬉しいが、勉強は大丈夫か?」

「夜に集中して進めた方が効率いいんで大丈夫ですよ」

「それならいい。今日はメンチカツにするつもりだから頼むよ」

「はい。すぐに来ますね」

伯父さんとそんなやりとりをして、俺がテーブルの上を片付けていると、

「僕がお部屋に戻してきますよ」

と直くんが声をかけてくれた。

重いものは持たせたくないが、せっかく直くんが声をかけてくれたしな。
パソコンなら大丈夫だろう。

「ありがとう、頼むよ」

「はい!」

俺の返事に直くんは嬉しそうな笑顔を見せた。

直くんに部屋に入られても困るようなものは一切置いていないから問題ない。
もう今の俺は、直くん以外では興奮もしないからな。

ああ、もう本当に可愛すぎる。

トコトコと部屋に俺の部屋に入っていく直くんを見送りながら、俺はキッチンに行き、伯父さんの手伝いを始めた。

「揚げ物って伯父さんにしては珍しい気がしますね」

「ああ、確かにそうかもしれないな。だが、お前も直くんもまだまだ育ち盛りだから油物も必要だろう。特に直くんは揚げ物は食べたことがないようだから、急に脂っこいものを与えるのは胃がびっくりしそうだから控えていたんだ。だが、いろんな食事を与えてきたからそろそろ揚げ物もいいだろうと思ったんだよ」

「そうなんですね。揚げ物も食べてないだなんて……」

あの細い身体を見れば、どれだけひどい食生活をさせられてきたかがわかる。
しかも絢斗さんや伯父さんがいうには最初はもっと酷かったというのだから、あれでも健康になってきたんだろうな。

「メンチカツ、作り方教えてください」

「ああ、肉だけでもいいんだが、キャベツを入れたレシピの方を教えよう。直くんのように揚げ物に慣れていない子にはこちらの方が食べやすいと思う」

「へぇー、そうなんですね」

肉にキャベツのみじん切りを混ぜるのは知らなかった。
あとはハンバーグを作る要領でタネを作り、バッター液とパン粉につければあとは揚げるだけでメンチカツの完成だ。

覚えてしまえば結構簡単かもしれない。

付け合わせのキャベツとトマトを皿に盛り付けて揚げたてのメンチカツを並べるとちょうどいいタイミングでご飯が炊き上がった。

俺がメンチカツを作っている間に伯父さんが作ってくれていた味噌汁を装い、あっという間に夕食が完成した。

ああ、メンチカツのいい匂いが食欲をそそる。

直くんは初めてのメンチカツ、喜んでくれるだろうか。

「ふふっ。愛しい人に料理を作る幸せを昇もわかったようだな」

「はい。これほど嬉しいことはないですね」

「ああ、そうだろう。だから、私も絢斗の食事を作るのが幸せなんだ」

照れもせずそう言い放つ伯父さんの笑顔に、絢斗さんへの想いが伝わってきた。
俺もいつか直くんとこんな夫夫になれたらいい。
そう願わずにはいられなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。 全17話、約6万文字。

春を拒む【完結】

璃々丸
BL
 日本有数の財閥三男でΩの北條院環(ほうじょういん たまき)の目の前には見るからに可憐で儚げなΩの女子大生、桜雛子(さくら ひなこ)が座っていた。 「ケイト君を解放してあげてください!」  大きなおめめをうるうるさせながらそう訴えかけてきた。  ケイト君────諏訪恵都(すわ けいと)は環の婚約者であるαだった。  環とはひとまわり歳の差がある。この女はそんな環の負い目を突いてきたつもりだろうが、『こちとらお前等より人生経験それなりに積んどんねん────!』  そう簡単に譲って堪るか、と大人げない反撃を開始するのであった。  オメガバな設定ですが設定は緩めで独自設定があります、ご注意。 不定期更新になります。   

孤独なまま異世界転生したら過保護な兄ができた話

かし子
BL
養子として迎えられた家に弟が生まれた事により孤独になった僕。18歳を迎える誕生日の夜、絶望のまま外へ飛び出し、トラックに轢かれて死んだ...はずが、目が覚めると赤ん坊になっていた? 転生先には優しい母と優しい父。そして... おや?何やらこちらを見つめる赤目の少年が、 え!?兄様!?あれ僕の兄様ですか!? 優しい!綺麗!仲良くなりたいです!!!! ▼▼▼▼ 『アステル、おはよう。今日も可愛いな。』 ん? 仲良くなるはずが、それ以上な気が...。 ...まあ兄様が嬉しそうだからいいか! またBLとは名ばかりのほのぼの兄弟イチャラブ物語です。

僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした

なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。 「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」 高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。 そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに… その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。 ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。 かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで… ハッピーエンドです。 R18の場面には※をつけます。

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

瞳の代償 〜片目を失ったらイケメンたちと同居生活が始まりました〜

Kei
BL
昨年の春から上京して都内の大学に通い一人暮らしを始めた大学2年生の黒崎水樹(男です)。無事試験が終わり夏休みに突入したばかりの頃、水樹は同じ大学に通う親友の斎藤大貴にバンドの地下ライブに誘われる。熱狂的なライブは無事に終了したかに思えたが、…… 「え!?そんな物までファンサで投げるの!?」 この物語は何処にでもいる(いや、アイドル並みの可愛さの)男子大学生が流れに流されいつのまにかイケメンの男性たちと同居生活を送る話です。 流血表現がありますが苦手な人はご遠慮ください。また、男性同士の恋愛シーンも含まれます。こちらも苦手な方は今すぐにホームボタンを押して逃げてください。 もし、もしかしたらR18が入る、可能性がないこともないかもしれません。 誤字脱字の指摘ありがとうございます

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

【完結】薄幸文官志望は嘘をつく

七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。 忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。 学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。 しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー… 認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。 全17話 2/28 番外編を更新しました

処理中です...