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決意表明
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<side磯山卓>
昇と素直に部屋に向かった直純くんの様子を見て、おそらく大丈夫だろうと思えた。
こういう時に二人っきりになれる相手は、本能が求めている相手だろうからな。
昇に直純くんを任せて事務所に行き、すぐにやってきた依頼人との話を終え、私が連絡を入れたのはもちろん櫻葉さん。
直純くんの父・保さんが送ってきた手紙の内容について話をするためだ。
もちろん、ゆくゆくは私の籍に入れたいという話もするつもりで、直純くんに関して話がしたい旨をメールで送った。
明日には話せたらいいが……と思っていたが、すぐに電話がかかってきた。
その速さに、保さんが送ってきた手紙の内容を知っているのではないかと想像できた。
ーはい。磯山です。
ー今メールを見たんだが、電話は大丈夫か?
ーはい。問題ありません。
ーそれで、迫田保から手紙が届いたということだが。
ーはい。櫻葉さんはご存知なのでしょう? 保さんが直純くんに決別の意思を伝えたことを。
ーああ。実は彼につけている私の秘書から報告が来ていた。磯山くんに先に報告しようかどうか迷っていたが、直純くんと磯山くんとの関係がどうなっているかも知りたくて、報告せずにいたんだ。
ー私と、直純くんの関係ですか?
ーああ、君が直純くんを引き取ってから、毎日直純くんに関する報告を受けていたが、今回の内容はかなりプライベートな問題だろう? そこまで話せる間柄になっているのかどうかを知りたかったんだよ。
ーそうでしたか。手紙が到着して一人で部屋で読ませていたんですが、直純くんが初めての父親からの手紙に泣いているかもしれないと絢斗が言うので部屋に行ったら泣いていました。そして、手紙を直接読ませてくれたんです。
ーそうか……。この短期間にそこまでの関係を築けていたんだな。さすが磯山くんだな。
ーいえ、直純くんが本当にいい子なんですよ。それに絢斗がいてくれたからそれも大きいと思います。
ーやはり君たちに預かってもらって正解だったな。あの時、磯山くんが彼を預かると申し出てくれて本当に助かったよ。
ーいえ、あれは私の意思ですから。それで、保さんの方ですが……あれは本当に保さんの意思なのですか?
ーああ。そうだと聞いている。彼も息子と離れ、いろいろと思うところがあったのだろう。それに、遠い中東にいても、ネットを繋げば、彼の妻が犯した犯罪について嫌でも目にしてしまう。その日本から自分は逃げておきながら、息子をその場に居させて外にも出かけられない状況に追い込んでいることに罪悪感を感じたようだ。自分たちが親でなくなれば、直純くんが今よりは自由になれるのではないかという思いを抱いてしまったんだろうと報告書には書いてあったよ。
ーそうでしたか。直純くんは、自分が自由になることよりも父親からも別れを告げられたことにショックを受けていましたよ。ただでさえ、あの時母親から二度も捨てられてしまったんですからね。
ーそうだな。もう少し落ち着けば気持ちも変わると思うが、彼自身も余裕がないようだからな。必ず迎えに来るなんて言葉で縛り付けてしまったことを一番後悔しているようだと私の秘書は話していたよ。
ー確かに、あの言葉が直純くんの心の支えでもあり、呪縛であったかもしれませんね。
ーああ。お互いにな。
ー櫻葉さん、今回の件がなくても考えていたことがあるのですが、私は直純くんを養子に迎え入れようと思っています。
ーえっ? それは本気なのか?
ーはい。
ー君のパートナーはなんて言っているんだ?
ーもちろん賛成してくれています。絢斗自身、私の籍に入っていますので、直純くんを養子に迎えれば、戸籍上は絢斗と直純くんは兄弟になります。
ーそうか……。二人が決めたことで、直純くんが望むなら私は何も言わない。彼も自分が父であることを放棄したのだから反対はしないだろう。だが、本当にいいのか? これからかなり大きな責任を背負うことになるが。
ー考え抜いた結果です。直純くんには本当の愛情を知って欲しいんです。
ー本当の愛情?
ーはい。直純くんは母親に精神的にも肉体的にもずっと虐待を受けていたんです。
ーな――っ、それは本当なのか?
ーええ。今ようやくその愛に気づき始めてくれているところで父親に別れを告げられたんです。だから、私たちはこれまで以上に彼を支えて愛したいと思っています。
ーそうか……父親が考え抜いて出した結論が最悪のタイミングだったんだな。
ーいえ、そうでもないですよ。かえって私たちの結びつきを強めたと思っているんです。
ー磯山くんがそう言ってくれるなら心強いな。わかった。これからも直純くんを頼むよ。父親の動向はこれまで通り君に報告しよう。
ーはい。よろしくお願いします。
電話を切り、私はふうと安堵のため息を吐いた。
櫻葉さんに話したのは私の決意表明でもある。
絢斗と、そして今の直純くんの支えでもある昇と共に、彼の笑顔を守り抜く。
そう心に誓った。
昇と素直に部屋に向かった直純くんの様子を見て、おそらく大丈夫だろうと思えた。
こういう時に二人っきりになれる相手は、本能が求めている相手だろうからな。
昇に直純くんを任せて事務所に行き、すぐにやってきた依頼人との話を終え、私が連絡を入れたのはもちろん櫻葉さん。
直純くんの父・保さんが送ってきた手紙の内容について話をするためだ。
もちろん、ゆくゆくは私の籍に入れたいという話もするつもりで、直純くんに関して話がしたい旨をメールで送った。
明日には話せたらいいが……と思っていたが、すぐに電話がかかってきた。
その速さに、保さんが送ってきた手紙の内容を知っているのではないかと想像できた。
ーはい。磯山です。
ー今メールを見たんだが、電話は大丈夫か?
ーはい。問題ありません。
ーそれで、迫田保から手紙が届いたということだが。
ーはい。櫻葉さんはご存知なのでしょう? 保さんが直純くんに決別の意思を伝えたことを。
ーああ。実は彼につけている私の秘書から報告が来ていた。磯山くんに先に報告しようかどうか迷っていたが、直純くんと磯山くんとの関係がどうなっているかも知りたくて、報告せずにいたんだ。
ー私と、直純くんの関係ですか?
ーああ、君が直純くんを引き取ってから、毎日直純くんに関する報告を受けていたが、今回の内容はかなりプライベートな問題だろう? そこまで話せる間柄になっているのかどうかを知りたかったんだよ。
ーそうでしたか。手紙が到着して一人で部屋で読ませていたんですが、直純くんが初めての父親からの手紙に泣いているかもしれないと絢斗が言うので部屋に行ったら泣いていました。そして、手紙を直接読ませてくれたんです。
ーそうか……。この短期間にそこまでの関係を築けていたんだな。さすが磯山くんだな。
ーいえ、直純くんが本当にいい子なんですよ。それに絢斗がいてくれたからそれも大きいと思います。
ーやはり君たちに預かってもらって正解だったな。あの時、磯山くんが彼を預かると申し出てくれて本当に助かったよ。
ーいえ、あれは私の意思ですから。それで、保さんの方ですが……あれは本当に保さんの意思なのですか?
ーああ。そうだと聞いている。彼も息子と離れ、いろいろと思うところがあったのだろう。それに、遠い中東にいても、ネットを繋げば、彼の妻が犯した犯罪について嫌でも目にしてしまう。その日本から自分は逃げておきながら、息子をその場に居させて外にも出かけられない状況に追い込んでいることに罪悪感を感じたようだ。自分たちが親でなくなれば、直純くんが今よりは自由になれるのではないかという思いを抱いてしまったんだろうと報告書には書いてあったよ。
ーそうでしたか。直純くんは、自分が自由になることよりも父親からも別れを告げられたことにショックを受けていましたよ。ただでさえ、あの時母親から二度も捨てられてしまったんですからね。
ーそうだな。もう少し落ち着けば気持ちも変わると思うが、彼自身も余裕がないようだからな。必ず迎えに来るなんて言葉で縛り付けてしまったことを一番後悔しているようだと私の秘書は話していたよ。
ー確かに、あの言葉が直純くんの心の支えでもあり、呪縛であったかもしれませんね。
ーああ。お互いにな。
ー櫻葉さん、今回の件がなくても考えていたことがあるのですが、私は直純くんを養子に迎え入れようと思っています。
ーえっ? それは本気なのか?
ーはい。
ー君のパートナーはなんて言っているんだ?
ーもちろん賛成してくれています。絢斗自身、私の籍に入っていますので、直純くんを養子に迎えれば、戸籍上は絢斗と直純くんは兄弟になります。
ーそうか……。二人が決めたことで、直純くんが望むなら私は何も言わない。彼も自分が父であることを放棄したのだから反対はしないだろう。だが、本当にいいのか? これからかなり大きな責任を背負うことになるが。
ー考え抜いた結果です。直純くんには本当の愛情を知って欲しいんです。
ー本当の愛情?
ーはい。直純くんは母親に精神的にも肉体的にもずっと虐待を受けていたんです。
ーな――っ、それは本当なのか?
ーええ。今ようやくその愛に気づき始めてくれているところで父親に別れを告げられたんです。だから、私たちはこれまで以上に彼を支えて愛したいと思っています。
ーそうか……父親が考え抜いて出した結論が最悪のタイミングだったんだな。
ーいえ、そうでもないですよ。かえって私たちの結びつきを強めたと思っているんです。
ー磯山くんがそう言ってくれるなら心強いな。わかった。これからも直純くんを頼むよ。父親の動向はこれまで通り君に報告しよう。
ーはい。よろしくお願いします。
電話を切り、私はふうと安堵のため息を吐いた。
櫻葉さんに話したのは私の決意表明でもある。
絢斗と、そして今の直純くんの支えでもある昇と共に、彼の笑顔を守り抜く。
そう心に誓った。
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