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直純くんのおにぎり
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次の講義も終えて、今日はこれで終わり。
直純くんはどうしているだろう?
昇くんがついていてくれているから不安はないけれど、お昼も食べずにいるからお腹を空かせているかもしれない。
まだ部屋から出てきてなかったら、声をかけてみようかと思いながら、部屋を出てリビングに向かうと
「絢斗さん、お疲れさまです」
と笑顔を浮かべた直純くんに迎えられた。
「直純くん、よかった」
「ごめんなさい、心配かけてしまって……」
「ううん。気にしないでいいんだよ。大丈夫?」
「はい。まだちょっといろいろ考えてしまうんですけど、でも……絢斗さんがどちらかを選ぶわけじゃないって言ってくれたので、ちょっと気持ちは楽になりました」
「うん、そうか。よかった」
きっと私の言葉だけじゃなくて、昇くんが落ち着かせてくれたんだろう。
それは直純くんの表情を見ればわかる。
本当に昇くんがいてくれてよかった。
「そういえば、二人とも何か食べた? お腹空いてない?」
こういう時に何かをパパッと作ってあげられたらいんだけど、残念ながら私にはその才能は微塵もない。
せいぜい食パンを焼くくらいしかできないのがもどかしい。
「絢斗さん、大丈夫。伯父さんがご飯を炊いていてくれたからそれでおにぎり作って食べたよ」
「ああ、そうなんだ。よかった」
「あの、それで……」
「んっ? どうしたの?」
直純くんは少し躊躇いながら、キッチンに向かうとラップがかけられたお皿を持って戻ってきた。
「僕……絢斗さんと磯山先生のために、おにぎり……作ったので、食べてほしいなって……。あの、美味しいかどうかわからないんですけど……」
「大丈夫だよ、直純くん。俺が食べて美味しいって言っただろう?」
思いもかけない直純くんからの贈り物に驚くと共に、不安げな直純くんをすぐにフォローする昇くんの姿に嬉しくなって、つい反応が遅れてしまった。
「ありがとう!!! 直純くん、嬉しいよ!! 早速食べさせてもらうね」
急いで直純くんにお礼の言葉を告げると、さっきの不安げな表情がパーっと明るくなる。
その隣で愛おしそうな表情で見つめる昇くんを見て、嬉しさが止まらない。
直純くんからお皿を受け取って、直純くんと一緒にソファーに腰を下ろすとサッと昇くんが温かいお茶を出してくれた。
「ありがとう」
こういうところが卓さんにそっくりなんだよね。
ふふっ。いつも毅さんが二葉さんにしているのを見ているんだろうな。
ラップを外すとまだほんのり温かい。
海苔で包んだおにぎりの上部に鮭が乗せられていて、すぐにこれが鮭だとわかる。
「いただきます!」
卓さんが作ってくれるおにぎりよりずいぶん小さい。
でも心が込められているのがよくわかる。
パクッと一口食べると程よい塩気と口の中でいい感じにほろほろと崩れてものすごく美味しい。
「んんっ! おいひぃっ!!」
行儀悪いと分かっていながらも、ついつい口の中に入れたまま感想が漏れてしまう。
それくらい美味しいおにぎりだった。
「よかったです……」
心の底から安堵したような声に、昇くんは
「だから直純くんのおにぎりは美味しいって言っただろう?」
と甘く優しい声をかけている。
もうすでに付き合っているかのような雰囲気を醸し出しているけれど、昇くんにはまだ一線を引いているような感じが見受けられるから、思いを伝え合ったわけではなさそう。
直純くんがまだ14歳だから、深い恋人になるにはまだまだ時間がかかりそうだけど、プラトニックな恋人ならもうすぐかも。
直純くんはずっと辛い思いをしてきたから、昇くんのような存在ができて本当に良かった。
昇くんには頑張ってもらって、大学に合格してもらわないとね!
直純くんが作ってくれた小さなおにぎりの二個目の最後の一口を頬張っている最中で、
「ただいまー」
と卓さんが帰ってきた声が聞こえた。
「んっ!」
慌てて、お茶を飲んで飲み込もうとしていると、リビングに入ってきた卓さんが
「ああ、悪い。タイミングが悪かったんだな」
とすぐに理解をしてくれた。
「ごめんなさい、卓さん。お帰りなさい」
「気にしないでいいよ、それよりも美味しそうなものを食べているな」
「ふふっ。これ、直純くんの手作りなんだよ」
「それはいいな」
「あの……磯山先生の分も、あるんですけど……」
「そうか、それは嬉しいな。着替えたら、すぐに食べさせてもらおう」
直純くんの手作りだと聞いて、目を細めて喜んでいる卓さんを見て、すっかりパパみたいだなと微笑ましく思う一方で少し嫉妬心のようなものもある。
これは自分が卓さんに手料理を作ってあげられない妬みだ。
「絢斗、おいで」
「うん。ちょっと行ってくるね」
隣にいる直純くんに声をかけて、卓さんの元に駆けていく。
そして、一緒に部屋に戻った。
「卓さん、おかえりなさい」
「ああ、ただいま」
ギュッと抱きしめられて、唇を重ねる。
「ふふっ。鮭おにぎりの味がするな。直純くんは絢斗の好みを知ってくれていたようだな」
「うん。すっごくおいしかったよ」
「そうか、楽しみだな」
「ねぇ、卓さん……私の手料理、食べたい?」
「ふふっ。どうした?」
「さっき、おにぎりがあるってすごく嬉しそうに見えたから……」
「そうだな。直純くんは私たちの子どもになるかもしれないんだ、子どもが何かしてくれるのは、料理でなくても嬉しいことだろう?」
「うん、そうだね……私もすごく嬉しかった……でも、何もできない自分がちょっと恥ずかしくなっちゃった……」
「絢斗……私は絢斗に手料理を作って欲しくて一緒にいるんじゃない。今のままの絢斗を愛してるんだぞ。わかるだろう?」
卓さんのその言葉にさっきまでの妬みがふっと消えていく気がする。
「卓さん、大好き!」
「ああ、私も絢斗が大好きだよ」
卓さんは私だけに向ける笑顔でギュッと私を抱きしめてくれた。
直純くんはどうしているだろう?
昇くんがついていてくれているから不安はないけれど、お昼も食べずにいるからお腹を空かせているかもしれない。
まだ部屋から出てきてなかったら、声をかけてみようかと思いながら、部屋を出てリビングに向かうと
「絢斗さん、お疲れさまです」
と笑顔を浮かべた直純くんに迎えられた。
「直純くん、よかった」
「ごめんなさい、心配かけてしまって……」
「ううん。気にしないでいいんだよ。大丈夫?」
「はい。まだちょっといろいろ考えてしまうんですけど、でも……絢斗さんがどちらかを選ぶわけじゃないって言ってくれたので、ちょっと気持ちは楽になりました」
「うん、そうか。よかった」
きっと私の言葉だけじゃなくて、昇くんが落ち着かせてくれたんだろう。
それは直純くんの表情を見ればわかる。
本当に昇くんがいてくれてよかった。
「そういえば、二人とも何か食べた? お腹空いてない?」
こういう時に何かをパパッと作ってあげられたらいんだけど、残念ながら私にはその才能は微塵もない。
せいぜい食パンを焼くくらいしかできないのがもどかしい。
「絢斗さん、大丈夫。伯父さんがご飯を炊いていてくれたからそれでおにぎり作って食べたよ」
「ああ、そうなんだ。よかった」
「あの、それで……」
「んっ? どうしたの?」
直純くんは少し躊躇いながら、キッチンに向かうとラップがかけられたお皿を持って戻ってきた。
「僕……絢斗さんと磯山先生のために、おにぎり……作ったので、食べてほしいなって……。あの、美味しいかどうかわからないんですけど……」
「大丈夫だよ、直純くん。俺が食べて美味しいって言っただろう?」
思いもかけない直純くんからの贈り物に驚くと共に、不安げな直純くんをすぐにフォローする昇くんの姿に嬉しくなって、つい反応が遅れてしまった。
「ありがとう!!! 直純くん、嬉しいよ!! 早速食べさせてもらうね」
急いで直純くんにお礼の言葉を告げると、さっきの不安げな表情がパーっと明るくなる。
その隣で愛おしそうな表情で見つめる昇くんを見て、嬉しさが止まらない。
直純くんからお皿を受け取って、直純くんと一緒にソファーに腰を下ろすとサッと昇くんが温かいお茶を出してくれた。
「ありがとう」
こういうところが卓さんにそっくりなんだよね。
ふふっ。いつも毅さんが二葉さんにしているのを見ているんだろうな。
ラップを外すとまだほんのり温かい。
海苔で包んだおにぎりの上部に鮭が乗せられていて、すぐにこれが鮭だとわかる。
「いただきます!」
卓さんが作ってくれるおにぎりよりずいぶん小さい。
でも心が込められているのがよくわかる。
パクッと一口食べると程よい塩気と口の中でいい感じにほろほろと崩れてものすごく美味しい。
「んんっ! おいひぃっ!!」
行儀悪いと分かっていながらも、ついつい口の中に入れたまま感想が漏れてしまう。
それくらい美味しいおにぎりだった。
「よかったです……」
心の底から安堵したような声に、昇くんは
「だから直純くんのおにぎりは美味しいって言っただろう?」
と甘く優しい声をかけている。
もうすでに付き合っているかのような雰囲気を醸し出しているけれど、昇くんにはまだ一線を引いているような感じが見受けられるから、思いを伝え合ったわけではなさそう。
直純くんがまだ14歳だから、深い恋人になるにはまだまだ時間がかかりそうだけど、プラトニックな恋人ならもうすぐかも。
直純くんはずっと辛い思いをしてきたから、昇くんのような存在ができて本当に良かった。
昇くんには頑張ってもらって、大学に合格してもらわないとね!
直純くんが作ってくれた小さなおにぎりの二個目の最後の一口を頬張っている最中で、
「ただいまー」
と卓さんが帰ってきた声が聞こえた。
「んっ!」
慌てて、お茶を飲んで飲み込もうとしていると、リビングに入ってきた卓さんが
「ああ、悪い。タイミングが悪かったんだな」
とすぐに理解をしてくれた。
「ごめんなさい、卓さん。お帰りなさい」
「気にしないでいいよ、それよりも美味しそうなものを食べているな」
「ふふっ。これ、直純くんの手作りなんだよ」
「それはいいな」
「あの……磯山先生の分も、あるんですけど……」
「そうか、それは嬉しいな。着替えたら、すぐに食べさせてもらおう」
直純くんの手作りだと聞いて、目を細めて喜んでいる卓さんを見て、すっかりパパみたいだなと微笑ましく思う一方で少し嫉妬心のようなものもある。
これは自分が卓さんに手料理を作ってあげられない妬みだ。
「絢斗、おいで」
「うん。ちょっと行ってくるね」
隣にいる直純くんに声をかけて、卓さんの元に駆けていく。
そして、一緒に部屋に戻った。
「卓さん、おかえりなさい」
「ああ、ただいま」
ギュッと抱きしめられて、唇を重ねる。
「ふふっ。鮭おにぎりの味がするな。直純くんは絢斗の好みを知ってくれていたようだな」
「うん。すっごくおいしかったよ」
「そうか、楽しみだな」
「ねぇ、卓さん……私の手料理、食べたい?」
「ふふっ。どうした?」
「さっき、おにぎりがあるってすごく嬉しそうに見えたから……」
「そうだな。直純くんは私たちの子どもになるかもしれないんだ、子どもが何かしてくれるのは、料理でなくても嬉しいことだろう?」
「うん、そうだね……私もすごく嬉しかった……でも、何もできない自分がちょっと恥ずかしくなっちゃった……」
「絢斗……私は絢斗に手料理を作って欲しくて一緒にいるんじゃない。今のままの絢斗を愛してるんだぞ。わかるだろう?」
卓さんのその言葉にさっきまでの妬みがふっと消えていく気がする。
「卓さん、大好き!」
「ああ、私も絢斗が大好きだよ」
卓さんは私だけに向ける笑顔でギュッと私を抱きしめてくれた。
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