ひとりぼっちになった僕は新しい家族に愛と幸せを教えてもらいました

波木真帆

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家族になれたら……

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<side絢斗>

大粒の涙を流しつつも、必死に声を我慢しようとする直純くんに心が痛んだ。
初めての父親からの手紙にきっと期待もしていたのだろう。

私は手紙を読んではいない。
だけど卓さんが、直純くんに私たちの子どもにならないかと言った時点で、父親が直純くんのことを放棄したのだということはわかった。

いや、放棄というのは言い過ぎかもしれない。
けれど、直純くんの涙を見れば、きっともう迎えには来ないということなのだろう。

14歳の子どもにはその現実は辛すぎる。

母親に捨てられ、父親に見放されたと思っても不思議はない。
こんなにも辛い涙を流している直純くんに、私はなんと声をかけたらいいだろう。

隣の部屋では卓さんが、帰宅してきた昇くんと話をしている。
昇くんならきっと直純くんを優しく包んであげるだろう。

私も家族になるのだから、直純くんの辛い気持ちをほんの少しでも楽にしてあげたい。

私の肩にもたれかかって涙を流している直純くん両手で抱きしめながら、ゆっくりと口を開いた。

「私はね、卓さんが好きになって家族になってずっと一緒に過ごしたいって思ったんだ。だけど、直純くんも知っているだろうけど、今の日本では男同士では結婚できないんだよね。だから、大好きで一緒に暮らしていても本当の家族には思われない。もし、卓さんに何かあっても、私はただの他人。でもね。昇くんは、卓さんの弟の子どもだから、卓さんとは本当の家族なんだよ。おかしいよね、大好きでずっと一緒に暮らしていても家族とは思われなくて、離れて過ごしていても家族だったり……。家族ってなんなんだろうって思っちゃう」

話をしていると、直純くんの涙が止まって話を聞いてくれているのがわかる。

私はそれには何も言わずただ黙って話を続けた。

「もし、直純くんのお父さんが家族であることをやめたい、離れたいと思っていても、直純くんもそう思わなくちゃいけないってことはないと思うよ。だって、直純くんがお父さんの家族であることに変わりはないんだから。たとえ、私たちの子どもになることを選んだとしても、それは変わらないよ。選んだからといってどっちかが消えてなくなってしまうわけじゃなくて、家族が増えるって思うのはどうかな?」

「か、ぞく、が、ふえ、る……?」

「ふふっ。そう。今まで直純くんにとっては家族はお父さんとお母さんだけだったでしょう? でも、私たちの家族になったら、私たちと昇くん、それに昇くんのお父さんとお母さん。それにね、おじいちゃんもいるんだよ。私と卓さんの方と二人も」

「お、じい、ちゃん……」

「そう。直純くんみたいな可愛い孫を欲しがっていたから、喜んでくれると思うな」

ふふっ。
本当に大喜びしそう。
私の父さんは、私が卓さんと一緒になった時点で孫は諦めてたし。

「家族が増えることは悲しいことじゃないよ。お父さんのことは、直純くんは忘れなくていい。むしろ、今の生活が楽しいってお父さんに手紙を書いて帰ってくるのを待ってるって言ってあげたらいい。きっと今はお父さんも直純くんと離れて、気持ちが辛くなっちゃったんだと思うから。直純くんが幸せになってるってわかったら、気持ちも変わるかもしれないよ」

「あ、やと、さん……」

「私はね、直純くんがこの家に来てくれて、本当に嬉しいんだ。家族になれたら嬉しいよ」

ギュッと抱きしめながらそういうと、直純くんは目に溜まった涙をぽろっと溢した。

「あやと、さん……っ!!」

その涙に塗れた直純くんの声は、私は一生忘れないだろう。

<side昇>

伯父さんとの話を終え、直純くんの部屋に戻ると直純くんの涙は止まっていて、少し落ち着きを取り戻したように見えた。
きっと絢斗さんが直純くんを落ち着かせてくれたんだろう。

「直純くん。よかったら俺の部屋に行こうか」

直純くんが座っている前にしゃがんでできるだけ優しい声をかけると、絢斗さんの身体に巻き付いていた直純くんの手が離れ、俺の方に伸ばしてくれた。

その小さな手をとって、優しく立ち上がらせる。
泣きすぎたからか、少しふらつきを見せる直純くんを支えながら、俺は自分の部屋に連れて行った。

「少し休んだほうがいい」

俺のベッドに寝かせると、直純くんの手が俺の服を掴む。

「いっしょに……」

消え入りそうな声に

「ああ、わかったよ」

と返事をして、制服の上着を脱ぎ捨て、一緒にベッドに横たわった。

すぐに俺の胸元の定位置に擦り寄ってくる。
それが愛おしくてギュっと抱きしめる。

「今は何も考えずに休もう」

そう言って、背中をトントンと叩いてやると、心が疲弊していたからかすぐに眠りに落ちた。
目覚めたら少しは元気になってくれていたらいい。

無力な俺は直純くんに笑顔が戻るようにそばにいるしかできないけれど……。
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