35 / 351
家族になれたら……
しおりを挟む
<side絢斗>
大粒の涙を流しつつも、必死に声を我慢しようとする直純くんに心が痛んだ。
初めての父親からの手紙にきっと期待もしていたのだろう。
私は手紙を読んではいない。
だけど卓さんが、直純くんに私たちの子どもにならないかと言った時点で、父親が直純くんのことを放棄したのだということはわかった。
いや、放棄というのは言い過ぎかもしれない。
けれど、直純くんの涙を見れば、きっともう迎えには来ないということなのだろう。
14歳の子どもにはその現実は辛すぎる。
母親に捨てられ、父親に見放されたと思っても不思議はない。
こんなにも辛い涙を流している直純くんに、私はなんと声をかけたらいいだろう。
隣の部屋では卓さんが、帰宅してきた昇くんと話をしている。
昇くんならきっと直純くんを優しく包んであげるだろう。
私も家族になるのだから、直純くんの辛い気持ちをほんの少しでも楽にしてあげたい。
私の肩にもたれかかって涙を流している直純くん両手で抱きしめながら、ゆっくりと口を開いた。
「私はね、卓さんが好きになって家族になってずっと一緒に過ごしたいって思ったんだ。だけど、直純くんも知っているだろうけど、今の日本では男同士では結婚できないんだよね。だから、大好きで一緒に暮らしていても本当の家族には思われない。もし、卓さんに何かあっても、私はただの他人。でもね。昇くんは、卓さんの弟の子どもだから、卓さんとは本当の家族なんだよ。おかしいよね、大好きでずっと一緒に暮らしていても家族とは思われなくて、離れて過ごしていても家族だったり……。家族ってなんなんだろうって思っちゃう」
話をしていると、直純くんの涙が止まって話を聞いてくれているのがわかる。
私はそれには何も言わずただ黙って話を続けた。
「もし、直純くんのお父さんが家族であることをやめたい、離れたいと思っていても、直純くんもそう思わなくちゃいけないってことはないと思うよ。だって、直純くんがお父さんの家族であることに変わりはないんだから。たとえ、私たちの子どもになることを選んだとしても、それは変わらないよ。選んだからといってどっちかが消えてなくなってしまうわけじゃなくて、家族が増えるって思うのはどうかな?」
「か、ぞく、が、ふえ、る……?」
「ふふっ。そう。今まで直純くんにとっては家族はお父さんとお母さんだけだったでしょう? でも、私たちの家族になったら、私たちと昇くん、それに昇くんのお父さんとお母さん。それにね、おじいちゃんもいるんだよ。私と卓さんの方と二人も」
「お、じい、ちゃん……」
「そう。直純くんみたいな可愛い孫を欲しがっていたから、喜んでくれると思うな」
ふふっ。
本当に大喜びしそう。
私の父さんは、私が卓さんと一緒になった時点で孫は諦めてたし。
「家族が増えることは悲しいことじゃないよ。お父さんのことは、直純くんは忘れなくていい。むしろ、今の生活が楽しいってお父さんに手紙を書いて帰ってくるのを待ってるって言ってあげたらいい。きっと今はお父さんも直純くんと離れて、気持ちが辛くなっちゃったんだと思うから。直純くんが幸せになってるってわかったら、気持ちも変わるかもしれないよ」
「あ、やと、さん……」
「私はね、直純くんがこの家に来てくれて、本当に嬉しいんだ。家族になれたら嬉しいよ」
ギュッと抱きしめながらそういうと、直純くんは目に溜まった涙をぽろっと溢した。
「あやと、さん……っ!!」
その涙に塗れた直純くんの声は、私は一生忘れないだろう。
<side昇>
伯父さんとの話を終え、直純くんの部屋に戻ると直純くんの涙は止まっていて、少し落ち着きを取り戻したように見えた。
きっと絢斗さんが直純くんを落ち着かせてくれたんだろう。
「直純くん。よかったら俺の部屋に行こうか」
直純くんが座っている前にしゃがんでできるだけ優しい声をかけると、絢斗さんの身体に巻き付いていた直純くんの手が離れ、俺の方に伸ばしてくれた。
その小さな手をとって、優しく立ち上がらせる。
泣きすぎたからか、少しふらつきを見せる直純くんを支えながら、俺は自分の部屋に連れて行った。
「少し休んだほうがいい」
俺のベッドに寝かせると、直純くんの手が俺の服を掴む。
「いっしょに……」
消え入りそうな声に
「ああ、わかったよ」
と返事をして、制服の上着を脱ぎ捨て、一緒にベッドに横たわった。
すぐに俺の胸元の定位置に擦り寄ってくる。
それが愛おしくてギュっと抱きしめる。
「今は何も考えずに休もう」
そう言って、背中をトントンと叩いてやると、心が疲弊していたからかすぐに眠りに落ちた。
目覚めたら少しは元気になってくれていたらいい。
無力な俺は直純くんに笑顔が戻るようにそばにいるしかできないけれど……。
大粒の涙を流しつつも、必死に声を我慢しようとする直純くんに心が痛んだ。
初めての父親からの手紙にきっと期待もしていたのだろう。
私は手紙を読んではいない。
だけど卓さんが、直純くんに私たちの子どもにならないかと言った時点で、父親が直純くんのことを放棄したのだということはわかった。
いや、放棄というのは言い過ぎかもしれない。
けれど、直純くんの涙を見れば、きっともう迎えには来ないということなのだろう。
14歳の子どもにはその現実は辛すぎる。
母親に捨てられ、父親に見放されたと思っても不思議はない。
こんなにも辛い涙を流している直純くんに、私はなんと声をかけたらいいだろう。
隣の部屋では卓さんが、帰宅してきた昇くんと話をしている。
昇くんならきっと直純くんを優しく包んであげるだろう。
私も家族になるのだから、直純くんの辛い気持ちをほんの少しでも楽にしてあげたい。
私の肩にもたれかかって涙を流している直純くん両手で抱きしめながら、ゆっくりと口を開いた。
「私はね、卓さんが好きになって家族になってずっと一緒に過ごしたいって思ったんだ。だけど、直純くんも知っているだろうけど、今の日本では男同士では結婚できないんだよね。だから、大好きで一緒に暮らしていても本当の家族には思われない。もし、卓さんに何かあっても、私はただの他人。でもね。昇くんは、卓さんの弟の子どもだから、卓さんとは本当の家族なんだよ。おかしいよね、大好きでずっと一緒に暮らしていても家族とは思われなくて、離れて過ごしていても家族だったり……。家族ってなんなんだろうって思っちゃう」
話をしていると、直純くんの涙が止まって話を聞いてくれているのがわかる。
私はそれには何も言わずただ黙って話を続けた。
「もし、直純くんのお父さんが家族であることをやめたい、離れたいと思っていても、直純くんもそう思わなくちゃいけないってことはないと思うよ。だって、直純くんがお父さんの家族であることに変わりはないんだから。たとえ、私たちの子どもになることを選んだとしても、それは変わらないよ。選んだからといってどっちかが消えてなくなってしまうわけじゃなくて、家族が増えるって思うのはどうかな?」
「か、ぞく、が、ふえ、る……?」
「ふふっ。そう。今まで直純くんにとっては家族はお父さんとお母さんだけだったでしょう? でも、私たちの家族になったら、私たちと昇くん、それに昇くんのお父さんとお母さん。それにね、おじいちゃんもいるんだよ。私と卓さんの方と二人も」
「お、じい、ちゃん……」
「そう。直純くんみたいな可愛い孫を欲しがっていたから、喜んでくれると思うな」
ふふっ。
本当に大喜びしそう。
私の父さんは、私が卓さんと一緒になった時点で孫は諦めてたし。
「家族が増えることは悲しいことじゃないよ。お父さんのことは、直純くんは忘れなくていい。むしろ、今の生活が楽しいってお父さんに手紙を書いて帰ってくるのを待ってるって言ってあげたらいい。きっと今はお父さんも直純くんと離れて、気持ちが辛くなっちゃったんだと思うから。直純くんが幸せになってるってわかったら、気持ちも変わるかもしれないよ」
「あ、やと、さん……」
「私はね、直純くんがこの家に来てくれて、本当に嬉しいんだ。家族になれたら嬉しいよ」
ギュッと抱きしめながらそういうと、直純くんは目に溜まった涙をぽろっと溢した。
「あやと、さん……っ!!」
その涙に塗れた直純くんの声は、私は一生忘れないだろう。
<side昇>
伯父さんとの話を終え、直純くんの部屋に戻ると直純くんの涙は止まっていて、少し落ち着きを取り戻したように見えた。
きっと絢斗さんが直純くんを落ち着かせてくれたんだろう。
「直純くん。よかったら俺の部屋に行こうか」
直純くんが座っている前にしゃがんでできるだけ優しい声をかけると、絢斗さんの身体に巻き付いていた直純くんの手が離れ、俺の方に伸ばしてくれた。
その小さな手をとって、優しく立ち上がらせる。
泣きすぎたからか、少しふらつきを見せる直純くんを支えながら、俺は自分の部屋に連れて行った。
「少し休んだほうがいい」
俺のベッドに寝かせると、直純くんの手が俺の服を掴む。
「いっしょに……」
消え入りそうな声に
「ああ、わかったよ」
と返事をして、制服の上着を脱ぎ捨て、一緒にベッドに横たわった。
すぐに俺の胸元の定位置に擦り寄ってくる。
それが愛おしくてギュっと抱きしめる。
「今は何も考えずに休もう」
そう言って、背中をトントンと叩いてやると、心が疲弊していたからかすぐに眠りに落ちた。
目覚めたら少しは元気になってくれていたらいい。
無力な俺は直純くんに笑顔が戻るようにそばにいるしかできないけれど……。
444
お気に入りに追加
2,246
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
追放された薬師でしたが、特に気にもしていません
志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、自身が所属していた冒険者パーティを追い出された薬師のメディ。
まぁ、どうでもいいので特に気にもせずに、会うつもりもないので別の国へ向かってしまった。
だが、密かに彼女を大事にしていた人たちの逆鱗に触れてしまったようであった‥‥‥
たまにやりたくなる短編。
ちょっと連載作品
「拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~」に登場している方が登場したりしますが、どうぞ読んでみてください。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
母は姉ばかりを優先しますが肝心の姉が守ってくれて、母のコンプレックスの叔母さまが助けてくださるのですとっても幸せです。
下菊みこと
ファンタジー
産みの母に虐げられ、育ての母に愛されたお話。
親子って血の繋がりだけじゃないってお話です。
小説家になろう様でも投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
私は、忠告を致しましたよ?
柚木ゆず
ファンタジー
ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私マリエスは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢ロマーヌ様に呼び出されました。
「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」
ロマーヌ様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は常に最愛の方に護っていただいているので、貴方様には悪意があると気付けるのですよ。
ロマーヌ様。まだ間に合います。
今なら、引き返せますよ?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。
よくある聖女追放ものです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
大聖女の姉と大聖者の兄の元に生まれた良くも悪くも普通の姫君、二人の絞りカスだと影で嘲笑されていたが実は一番神に祝福された存在だと発覚する。
下菊みこと
ファンタジー
絞りカスと言われて傷付き続けた姫君、それでも姉と兄が好きらしい。
ティモールとマルタは父王に詰め寄られる。結界と祝福が弱まっていると。しかしそれは当然だった。本当に神から愛されているのは、大聖女のマルタでも大聖者のティモールでもなく、平凡な妹リリィなのだから。
小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる