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本当にいいの?
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<side直純>
父さんからの手紙にはもう僕に会うつもりがない。
そんな決意が感じられた。
父さんにとっても辛い選択だったのかもしれない。
だって、手紙には涙の跡がいっぱいついていた。
それでも、僕は……父さんに捨てられたんだ……そんな思いでいっぱいになっていた。
僕のことを本当に思うなら、いつか必ず会いに来るって言って欲しかった。
それなのに、父さんのことを忘れてくれって……。
そんなこと、できるわけないのに。
母さんとはもう二度と会うつもりはないし、たとえ望んだとしても当分は会えないだろう。
父さんからはさよならを告げられ、僕は、一人になってしまった。
これから僕はどうなってしまうんだろう……。
この家にいられるのは、最初はしばらくの間だけだって話だった。
それでも15歳の僕が入れる施設が見つかりそうになくて、このまま父さんが帰ってくるまではここでお世話になれると思っていた。
でも……父さんが僕を迎えにこないとなれば、もうここには居られない。
だって、預かる必要がなくなるのだから。
磯山先生と絢斗さん……それに、昇さんとここで過ごすことはできないんだ……。
ついさっきまで、幸せを噛み締めていたのに……。
もしかしたら、僕は幸せになってはいけない人間なのかもしれないな。
だって、そうか……。
僕は犯罪者の息子なんだから。
一花さんがずっと苦しんでいたのに、僕なんかが幸せになる権利なんてない。
なんで気づかなかったんだろう。
もう全てが終わったんだ……。
父さんからの決別の手紙はもちろん悲しかった。
もう二度と会えないのは本当に辛かった。
でもそれよりも何よりも、ここに居られないのが悲しかったんだ。
どうしようもない悲しみを誰にも伝えられず、ただ一人で泣き続けていると部屋に磯山先生と絢斗さんが入ってきた。
床に座って泣いている僕をみて、絢斗さんが抱きしめてくれる。
悲しい時にこうして優しく抱きしめられた覚えは、あの家では一度もなかった。
この家に来てから知ることもいっぱいあった。
もうそれも終わってしまうんだ。
泣きすぎて何も話せない僕をソファーに座らせてくれて、絢斗さんに身を預けて何も聞かずに泣かせてくれる。
その優しさが嬉しい。
けれど、磯山先生から手紙を読ませてほしいと言われてしまった。
磯山先生がこれを読んでしまったら本当にもう終わりだ。
それでもいつも優しくそばにいてくれた磯山先生に隠し事なんてできなかった。
もうこれでお別れだと覚悟して、父さんからの手紙を見せた。
涙の跡に滲んだ皺だらけの手紙を渡すと、磯山先生はそれを広げてじっくりと読み始めた。
「直純くん、大丈夫だよ」
絢斗さんの優しい声が聞こえる。
ありがとうございます。
その言葉が今までどれだけ僕の支えになったか……。
何も知らない僕のそばについていてくれて、いつも優しい笑顔で見守ってくれた。
その絢斗さんとももうお別れなんだ。
手紙を捲る音が止まってしばらく経つ。
きっと言われるはずだ。
――直純くん、もうここでは預かれない。どこか君のいく場所を探そう。
って。
ここにいた日々がすごく楽しかったから、きっと最初は辛いけれど、この思い出を支えにきっと生きていける。
そう思っていたのに、突然僕の耳に飛び込んできたのは、
「直純くん、私たちの子どもにならないか」
という思ってもみない言葉だった。
一瞬聞き間違えだと思った。
だって、そんなことあるわけない。
けれど、
「卓さん、それ本気?」
と絢斗さんの声が聞こえる。
「ああ。もちろん本気だよ。私はずっと考えていたんだ。直純くんが新しい人生を歩むためにも、私たちの息子・磯山直純として人生を歩むのもいいんじゃないかとね。だが、直純くんには母親はともかく、父親がいる。だから、父親が迎えにくるまでは、彼から預かった子だと思って愛情を注ぐだけにしようと思っていた。そして、父親が現れた時に、直純くんに判断を委ねようと考えたんだ。だが、父親が直純くんにもう会わないと決めたのなら、私は直純くんを息子として育てたいと思っている。もちろん、今すぐに結論を出してほしいなんて思っていない。ただ、そういう選択もあるということをわかっていてほしいんだ」
「い、そやま…せん、せい……」
「直純くんがもし、私たちの子どもになることを選ばなかったとしても、この家にずっといてくれていいんだよ。そのこととこの家に住むことは別問題だからね。ちゃんと君が成人して生活できるようになるまではここにいてくれて構わない。いや、いてほしい」
「うん、私も直純くんにいてほしい。直純くんが息子になってくれたらすごく嬉しいし、もし息子になることを選ばなくてもここにいてくれるだけで嬉しいよ」
「あ、やとさん……」
もうここには居られないって、僕は何を考えていたんだろう。
磯山先生も絢斗さんも、いつだって優しかったのに。
僕は嬉しすぎてまた涙が止まらなくなってしまった。
必死に止めようとしてもなかなか抑えられなくて、しばらく泣き続けていると、突然
「直純くん? どうして泣いてるんだ?」
と焦ったような昇さんの声が聞こえてきた。
父さんからの手紙にはもう僕に会うつもりがない。
そんな決意が感じられた。
父さんにとっても辛い選択だったのかもしれない。
だって、手紙には涙の跡がいっぱいついていた。
それでも、僕は……父さんに捨てられたんだ……そんな思いでいっぱいになっていた。
僕のことを本当に思うなら、いつか必ず会いに来るって言って欲しかった。
それなのに、父さんのことを忘れてくれって……。
そんなこと、できるわけないのに。
母さんとはもう二度と会うつもりはないし、たとえ望んだとしても当分は会えないだろう。
父さんからはさよならを告げられ、僕は、一人になってしまった。
これから僕はどうなってしまうんだろう……。
この家にいられるのは、最初はしばらくの間だけだって話だった。
それでも15歳の僕が入れる施設が見つかりそうになくて、このまま父さんが帰ってくるまではここでお世話になれると思っていた。
でも……父さんが僕を迎えにこないとなれば、もうここには居られない。
だって、預かる必要がなくなるのだから。
磯山先生と絢斗さん……それに、昇さんとここで過ごすことはできないんだ……。
ついさっきまで、幸せを噛み締めていたのに……。
もしかしたら、僕は幸せになってはいけない人間なのかもしれないな。
だって、そうか……。
僕は犯罪者の息子なんだから。
一花さんがずっと苦しんでいたのに、僕なんかが幸せになる権利なんてない。
なんで気づかなかったんだろう。
もう全てが終わったんだ……。
父さんからの決別の手紙はもちろん悲しかった。
もう二度と会えないのは本当に辛かった。
でもそれよりも何よりも、ここに居られないのが悲しかったんだ。
どうしようもない悲しみを誰にも伝えられず、ただ一人で泣き続けていると部屋に磯山先生と絢斗さんが入ってきた。
床に座って泣いている僕をみて、絢斗さんが抱きしめてくれる。
悲しい時にこうして優しく抱きしめられた覚えは、あの家では一度もなかった。
この家に来てから知ることもいっぱいあった。
もうそれも終わってしまうんだ。
泣きすぎて何も話せない僕をソファーに座らせてくれて、絢斗さんに身を預けて何も聞かずに泣かせてくれる。
その優しさが嬉しい。
けれど、磯山先生から手紙を読ませてほしいと言われてしまった。
磯山先生がこれを読んでしまったら本当にもう終わりだ。
それでもいつも優しくそばにいてくれた磯山先生に隠し事なんてできなかった。
もうこれでお別れだと覚悟して、父さんからの手紙を見せた。
涙の跡に滲んだ皺だらけの手紙を渡すと、磯山先生はそれを広げてじっくりと読み始めた。
「直純くん、大丈夫だよ」
絢斗さんの優しい声が聞こえる。
ありがとうございます。
その言葉が今までどれだけ僕の支えになったか……。
何も知らない僕のそばについていてくれて、いつも優しい笑顔で見守ってくれた。
その絢斗さんとももうお別れなんだ。
手紙を捲る音が止まってしばらく経つ。
きっと言われるはずだ。
――直純くん、もうここでは預かれない。どこか君のいく場所を探そう。
って。
ここにいた日々がすごく楽しかったから、きっと最初は辛いけれど、この思い出を支えにきっと生きていける。
そう思っていたのに、突然僕の耳に飛び込んできたのは、
「直純くん、私たちの子どもにならないか」
という思ってもみない言葉だった。
一瞬聞き間違えだと思った。
だって、そんなことあるわけない。
けれど、
「卓さん、それ本気?」
と絢斗さんの声が聞こえる。
「ああ。もちろん本気だよ。私はずっと考えていたんだ。直純くんが新しい人生を歩むためにも、私たちの息子・磯山直純として人生を歩むのもいいんじゃないかとね。だが、直純くんには母親はともかく、父親がいる。だから、父親が迎えにくるまでは、彼から預かった子だと思って愛情を注ぐだけにしようと思っていた。そして、父親が現れた時に、直純くんに判断を委ねようと考えたんだ。だが、父親が直純くんにもう会わないと決めたのなら、私は直純くんを息子として育てたいと思っている。もちろん、今すぐに結論を出してほしいなんて思っていない。ただ、そういう選択もあるということをわかっていてほしいんだ」
「い、そやま…せん、せい……」
「直純くんがもし、私たちの子どもになることを選ばなかったとしても、この家にずっといてくれていいんだよ。そのこととこの家に住むことは別問題だからね。ちゃんと君が成人して生活できるようになるまではここにいてくれて構わない。いや、いてほしい」
「うん、私も直純くんにいてほしい。直純くんが息子になってくれたらすごく嬉しいし、もし息子になることを選ばなくてもここにいてくれるだけで嬉しいよ」
「あ、やとさん……」
もうここには居られないって、僕は何を考えていたんだろう。
磯山先生も絢斗さんも、いつだって優しかったのに。
僕は嬉しすぎてまた涙が止まらなくなってしまった。
必死に止めようとしてもなかなか抑えられなくて、しばらく泣き続けていると、突然
「直純くん? どうして泣いてるんだ?」
と焦ったような昇さんの声が聞こえてきた。
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