ひとりぼっちになった僕は新しい家族に愛と幸せを教えてもらいました

波木真帆

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父からの手紙

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<side直純>

「――っ」

僕が昇さんに抱きついた途端、昇さんの身体がピクッと震えた。

「あっ、ごめんなさい。つい嬉しくて」

「い、いや。寝起きだから汗臭いかなって、心配になって……」

「そんなこと……っ、昇さんはいつもいい匂いです」

「えっ、あっ、ありがとう」

僕の言葉に少し照れる昇さんを可愛いと思っていると、

「そろそろ起きて朝ごはん食べようか」

と声をかけられる。
途端に

「きゅるる」

とお腹の音が鳴る。
ご飯と聞いただけでお腹が減るなんて恥ずかしい。

「ふふっ。直純くんの身体は正直でいいね」

「うぅっ。恥ずかしいですっ」

「気にすることないよ。俺もお腹減ってるし。じゃあ、部屋で着替えておいで。俺も着替えるよ」

「はい」

枕を持って戻ろうとすると、

「ここに置いておいていいよ。今夜も一緒に寝るだろ?」

と言われて嬉しくなる。

僕はそのまま昇さんの枕の隣に綺麗に並べてベッドから出た。

枕が一緒に並んでいるだけですごく近くにいる感じがするなんて……発見だな。

今日は磯山先生が用意してくれた朝食を食べて、学校に行く昇さんを見送って、しばらくすると磯山先生も仕事に向かった。

「今日、午前中は講義がないからのんびりだよ」

「わぁ、そうなんですね」

「直純くんは何する?」

「僕、あの本の続きが読みたくて……」

「ああ、いいね! 何かわからないことがあったら声かけて」

「はい。じゃあ、リビングでやってもいいですか?」

「もちろんだよ」

そう言われたのが嬉しくて部屋から本や辞書など必要なものを持ってリビングに向かっていると、さっき仕事に行ったばかりの磯山先生が玄関から入ってくるのが見えた。

「直純くん、リビングに行くところだったのか?」

「あっ、お帰りなさい。はい。あっちで絢斗さんに教えてもらって本を読もうかと思っていて……あの、何か忘れ物ですか?」

「いや、違うんだ。直純くんにこれを届けにきたんだよ」

そう言って手渡されたのは少しシワになった茶色の封筒。
前面に<PAR AVION>と書かれた封筒には確かに僕の名前が書いてある。

「これ……」

少しクセのある字に見覚えがあって、封筒を裏に向けるとそこには父さんの名前があった。

「あっ――! これ、とう、さん……っ」

「ああ、君のお父さんからの手紙だよ。向こうから少し時間がかかったみたいだ。直純くんもお父さんのこと、気になっていただろう?」

磯山先生の言葉に僕は頷いた。

ここにきて、父さんのことはなんとなく聞いちゃだめなのかと思っていたけれど、中東に向かった父さんが気になって仕方がなかったんだ。

「ゆっくり読むといい。荷物は私が運んでおこう」

そういうと、磯山先生は僕の持っていた荷物を受け取り、リビングへと向かった。

僕はその茶色の封筒だけを持って、自分の部屋に戻った。

考えてみたら父さんから手紙をもらうなんて初めてだ。
何か書かれているのかドキドキする。
僕は震える手で鋏を握り、封を開けた。

封筒からほんのり香ってくる匂いは、異国そのものといった香りでそれだけで父さんが本当に海外にいるんだと実感させられた。

便箋五枚も入っているその手紙を開くと、<直純へ>と書かれた手紙のあちらこちらに涙の跡が見える。

「父さん……っ」

日本から遠く離れた国での慣れない生活。
辛いことも多いに違いない。

けれど、

<元気で過ごしているか? 父さんは慣れない生活ながらも、充実した日々を過ごしている。心配しないでくれ>

思ったよりも元気そうな書き出しにホッとする。

<私は、ここにきて自分のこれまでの人生と向き合っていく中で、今までずっと家族のため、子どものためと無我夢中で仕事をし、同僚の残業さえも引き受けて、少しでも給料を稼いでいたことが間違いだったと気づいた>

<人一倍頑張って金を稼ぐことが、自分に課せられた使命だと思い込んでいたんだ。だが、それと引き換えに私は大切にすべきものを見誤っていた。それが、直純のことだ。ここにきて、家族の話を尋ねられた時に、私は直純のことを年齢しかわかっていないことに愕然としたんだ>

<好きな食べ物、得意な教科、得意なスポーツ、いやそれどころか、直純のクラスも、仲良くしている友人の名前さえも知らない。それに気づいた時に、私は今まで何のために生きてきたんだろうと思ったんだ。直純が生まれた時に、一生幸せにすると誓ったはずなのに、私はあまりにも直純に無関心すぎた。自分が一番頑張って家族を養っているんだという、ただの自己満足に過ぎなかったんだとわかったんだ>

<こうして直純と離れて過ごして、ようやくそんなことに気づくなんて、父親失格だってわかったよ。それに、私は美代が躾と称して直純に厳しいことを課していた事も薄々気づいていながら放置していた。そのせいで直純が傷つけられていたことも見てみぬふりをしたんだ。その方が家族が平穏でいられると思い込んでいた。けれど、その平穏が直純の犠牲の上に成り立っていたって今更ながら理解したんだ>

<本当に申し訳ない。どれだけ謝っても許される事じゃない。決して許してもらおうとも思わない。けれど、どうしても謝らずにはいられないんだ。直純だけに辛い目に遭わせてしまったことを本当に申し訳なく思っている>

父さん……っ。

そんな言葉が綴られた手紙を握りしめ、僕は涙が止まらなくなってしまっていた。
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