ひとりぼっちになった僕は新しい家族に愛と幸せを教えてもらいました

波木真帆

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俺にできること

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<side直純>

あんなにも心地よかった自分の部屋が、なんとなく寂しくて眠れなくて、どうしようもなかった時、頭に浮かんだのは昇さんの優しい言葉だった。

いつでも入ってきていいから

その優しい言葉に甘えて、僕は誰もいない客間に入った。

夜中に勝手にウロウロしたりしていけないと思っていたけれど、部屋に入った瞬間、部屋の中に微かに残る昇さんの匂いに落ち着いた。

そして吸い寄せられるようにベッドに横になったんだ。
掛け布団を羽織ると、昇さんの匂いに包まれた気がして僕はようやく眠りについた。

あんなにも寂しくてどうしようもなかったのに、とてつもなく安心するものに包まれて僕がぐっすりと眠っていた。

――これからはずっと一緒だよ。

夢の中でそんな優しい声が聞こえた気がした。

昇さんが一緒なら、

うれしい……

そんな言葉を返した気がする。

あんなに眠れなかったのに、この部屋でぐっすり眠れたことに驚きつつ目を覚ますと、もふもふの何かに包まれていることに気がついた。

あれ? これって……毛布?

この毛布が僕を温めてくれていたのかな?
そうか……このおかげで、眠れたんだ。

ふふっ。良い匂い。

あまりにも気持ちの良いその毛布にすりすりと顔を寄せる。

ああ、この毛布があれば自分の部屋でも眠れるかも……。
そう思ったら、

「しあ、わせぇ……」

つい、心の声が漏れてしまった。

すると、

「ふふっ。俺も幸せだよ」

と突然声が聞こえた。

「えっ?」

びっくりして顔を上げると、そこには昇さんが笑顔で僕を見下ろしていた。

「えっ、あっ、なっ、んで――」

「ふふっ。落ち着いて。夜中に帰ってきたんだ」

優しく背中をさすられて、その温もりに少し気持ちが落ち着いてくる。

「夜中に…‥どう、して?」

「直純くんに会いたかったから、かな」

「僕に?」

笑顔で頷いてくれる昇さんを見て、胸がどきっとする。

「部屋で寝ようと思ったら、直純くんがいたから一緒に眠らせてもらったんだ」

「あっ、ごめんなさい……僕」

「なんで? いいよ、いつでも来てって言ったろう? それよりも俺、直純くんに謝らないといけないんだ」

「えっ? 昇さんが、僕に謝る?」

「ああ、クマのぬいぐるみ持ってくるって約束したのに忘れてごめん……」

「そんなこと――」

昇さんが帰ってきてくれるだけで十分……そう言おうと思ったら、

「これで……許してくれない、かな?」

そう言って、昇さんがフードを被ると頭に可愛いクマ耳が現れた。

「――っ、可愛いっ!!」

「えっ? そう? 本当に?」

「はい、すっごく可愛いです。ああ、このもふもふ……昇さんだったんだ。ふふっ。すっごくあったかい毛布だと思ってました」

「気持ちよかった?」

「はい。すっごく気持ちよくって、ずっと触っていたいです」

「――っ!!」

「昇さん? どうかしたんですか?」

「い、いや。なんでもない。直純くんが喜んでくれたなら嬉しいよ。近いうちに必ずクマのぬいぐるみ持ってくるから」

そう言ってくれたけれど、僕は昇さんが帰ってきてくれたことが何よりも嬉しい。

「僕は、このクマさんが良いです」

あのもふもふの気持ちよさが忘れられなくて、ぎゅっと抱きつくと昇さんも背中に手を回してぎゅっと抱きしめてくれた。

「ふふっ。あったかいです」

「――っ、それならいつでもこうしてあげるよ」

「嬉しいです。昇さんって、すっごく優しくて、お兄さんみたいですね」

そういうと、昇さんの身体がピクッと震えた気がしたけれど、

「ああ、だからずっと一緒にいるよ」

と優しい声で言ってくれた。

ああ、僕にまた優しい家族が増えた。
幸せだな。

<side昇>

腕の中の直純くんが寝ぼけているのか、顔をさらにすり寄せてきた。
しかも、

「しあ、わせぇ……」

という可愛い声と共に。

それがもう愛おしくてたまらない。

あまりにも可愛い直純くんの姿に俺のズボンの下ではとんでもないことになっているけれど、大きなサイズのおかげでゆとりがあり触れない限り気づかれはしないだろう。
それだけが救いだ。

直純くんがものすごく幸せそうに呟くから、つい俺も幸せだという声が漏れてしまった。

その声で完全に目を覚ました直純くんは慌てて声のした方向に顔をあげ、俺を見つけてしまった。

その瞬間、さっきまでの幸せそうな表情から一転、何が起こっているのかわからないという表情に変わってしまったけれど、それも愛おしいと思えるくらい直純くんの全てが可愛いんだ。

背中を摩り落ち着かせて、昨夜の話をすると、勝手に自分がこの部屋に入ってきたことを謝っていたが、そんなこと謝る必要などない。
そのおかげで俺はここに戻ってくることができたのだから。

俺はドキドキしながら、ぬいぐるみを持ってくるという約束を守れなかったこと、その代わりにと言って、クマ耳のついたフードを被ると、

「――っ、可愛いっ!!」

と絢斗さんと同じような感想を聞かせてくれた。

ああ、やっぱり絢斗さんを信じてよかった。

この着ぐるみを毛布だと思っていたという直純くんに、気持ちよかったかと尋ねてみた。
ちょっとした言葉のいたずらだったんだ。
もし、直純くんが返してくれたら……なんて、いたずら心で尋ねたら、

――すっごく気持ちよくって、ずっと触っていたいです

なんて言葉が返ってきた。

その言葉がダイレクトに欲望にヒットする。
こんなことを考えていてはいけないのに!

自分のいたずら心を呪いながらも必死に冷静を装って、近いうちに必ずクマのぬいぐるみ持ってくるからと言ったけれど、

「僕は、このクマさんが良いです」

と言って抱きついてくれる。

必死に腰を引いて、アレが当たらないように気をつけながら、俺も抱きしめる。

直純くんが望むならいつだってずっとこうしてやる。
己の欲望を必死に抑えて。

けれど、

――昇さんって、すっごく優しくて、お兄さんみたいですね

と、そんな言葉をかけられてしまう。

わかっていたはずだ。
まだ中学生の直純くんはまだ恋愛などを理解していないって。

だから、俺は必死に兄としてのポジションを維持するだけだ。
兄としてずっとそばにいよう。

今はそれが俺にできることなのだから。
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