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お風呂から上がったら……
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<side直純>
これから昇さんがここで一緒に暮らす?
そう考えるだけで胸が高鳴った。
もちろん、磯山先生と絢斗さんとの生活も楽しいけれど、僕は一人っ子だったから、お兄ちゃんという存在に憧れていた。
昇さんに童話を読んでもらったのもすごく嬉しかったし、本当のお兄ちゃんみたいで頼もしかった。
そんな昇さんとこれから一緒に暮らせるなんて夢みたいだ!
楽しく夕食を終えると、絢斗さんからお風呂に入っておいでと声をかけられた。
僕が先に入っていいのかなと思ったけれど、昇さんは磯山先生と食器の片付けをしてくれるらしい。
すぐに交代できるように早く入ってこよう。
脱衣所で服を脱ぎ、浴室に入ると今日もいい匂いのする入浴剤が入れてある。
うーん、今日は甘い匂いがする。
真っ白だし、ミルクかも。
早くお風呂に入りたいけれど、綺麗に髪と身体を時間かけて洗ってからだよと絢斗さんに言われたので、念入りに洗う。
髪だけでも五分くらい洗ってるから、前だったら怒られてるな。
今は怒る人もいないからものすごく気が楽だ。
考えてみたらこの家にきて怒られたことがない。
前はいつ怒鳴られるのかとビクビクしていたけれど、ここにきてからその心配がないからいつも穏やかでいられるんだ。
ふと鏡に映る自分の顔が見えて、それが嬉しそうに笑っていることに驚く。
僕って、こんなふうに笑えるようになったんだな……。
髪と身体を洗い流し、アヒルのスイッチを入れる。
水の上をばちゃばちゃと動き回る姿を見ているだけで可愛い。
何度も何度もスイッチを入れて水の上を走らせて、身体もポカポカになった僕はお風呂を出た。
着心地のいいパジャマに着替えて、リビングに戻るとさっと昇さんが駆け寄って来てくれる。
「パジャマ、よく似合ってるね」
「あ、ありがとうございます。僕もこれお気に入りなんです」
「そっか。あっ、これ飲んで」
そう言ってレモン水を渡される。
昇さんがここに住んだらこんなこともしてもらえるんだ……嬉しい。
コクコクと一気に飲み干すと、
「俺もすぐに入ってくるから、出てきたら部屋で一緒にゲームしよう」
と誘われた。
ゲーム……やったことないんだけど、大丈夫かな?
そう答える暇もなく、昇さんはお風呂場に入って行った。
「直純くん、こっちにおいで」
ソファーに座っていた絢斗さんに声をかけられて、隣に座ると
「どうかした?」
と尋ねられた。
「あの、昇さんにお風呂から出てきたらゲームしようって誘われたんですけど……」
「ああ、昇くん。ゲーム好きだからね」
「でも僕……ゲームやったことなくて……」
「ああ、大丈夫。大丈夫。昇くん、教えるのも上手だよ。私もゲームやったことなくてわからなかったけど、教えてもらったら楽しめるようになったし……」
「絢斗さんも……」
「そう。意外とゲームしたことないって人、多いよ。大学生になって一人暮らし始めてからやり始めたなんて生徒もいたし
」
そうなんだ……。
学校ではみんなゲームの話題で持ち上がっていたから、ゲームを持っていないのはうちくらいだと思ってた。
じゃあ、昇さんに聞いてもおかしな子って思われないかな。
そう思えたら、昇さんがお風呂から出てくるのが楽しみになった。
それからしばらく絢斗さんとおしゃべりしていると、昇さんがお風呂から出てきた。
「あっ!」
色違いだけど、お揃いだ……。
「ふふっ。気づいた? 直純くんの洋服を揃えるときに、二葉さんにいろいろ聞いたんだ。中学生の子の服を売っているところ。で、同じところでパジャマも買ったんだよ」
「そう、なんですね……なんだか、兄弟みたいで嬉しいです」
そういうと、昇さんは一瞬キョトンとした表情をしていたけれど、
「そうだね。お揃いで嬉しいよ」
と言ってくれた。
「じゃあ、部屋に行こうか。伯父さん。絢斗さん。おやすみ」
「最初からあまり長々とやらないようにね」
「はーい」
昇さんは軽やかに返事しながら、僕の手を取って部屋に連れて行ってくれた。
「さぁ、入って」
客間だけど、もうすでに昇さんの匂いがしている気がする。
「隣同士だから、いつでも入って来ていいからね」
「あ、ありがとうございます」
この部屋はトイレもお風呂も付いているらしく、ここだけで暮らせそうだ。
「ゲーム出すからその辺に座ってて」
「はい。あの……僕、ゲームやったことなくて……」
「ああ、そうなんだ。じゃあ、簡単なやつからにしておこうかな」
本当に、ゲームやったことないって言っても驚かない。
そっか……本当に多いんだ。
ソファーに座っていると、
「これ、してみようか」
とゲーム機を持って来てくれて、僕の後ろに回り込んで昇さんの大きな身体で包まれる。
わぁ、近いっ!
「こことこれを一緒に動かして……こっちを押したら……ここで……」
耳元で優しく説明してくれる声が心地良い。
「大丈夫そう?」
「は、はいやってみます」
「ふふっ、気合十分だな」
そのまま昇さんの身体に包まれたまま、ゲームが始まる。
最初こそはドキドキして失敗ばかりだったけれど、だんだんゲームの楽しさに引き込まれていく。
「わっ!」
「大丈夫、いいよ、その調子!」
「わぁっ! やったぁー!!」
「やるじゃん!!」
昇さんのいう通りに動かすと、あっという間にクリアできた。
僕に取って初めての経験で何もかもが楽しい。
気づけば、そのまま何時間もゲームをし続けてしまっていた。
昇さんに身を預けながら、うつらうつらしてしまっていた僕は、
「もう寝よっか」
という言葉でそのままソファーに倒れ込んでしまった。
「ふふっ。直純くん、おやすみ……」
ぷかぷかと身体が浮いたような感覚を覚えながら、そんな声を遠くで聞いたような気がする。
そのまま僕は落ち着く匂いに包まれながら、深い眠りに落ちていた。
これから昇さんがここで一緒に暮らす?
そう考えるだけで胸が高鳴った。
もちろん、磯山先生と絢斗さんとの生活も楽しいけれど、僕は一人っ子だったから、お兄ちゃんという存在に憧れていた。
昇さんに童話を読んでもらったのもすごく嬉しかったし、本当のお兄ちゃんみたいで頼もしかった。
そんな昇さんとこれから一緒に暮らせるなんて夢みたいだ!
楽しく夕食を終えると、絢斗さんからお風呂に入っておいでと声をかけられた。
僕が先に入っていいのかなと思ったけれど、昇さんは磯山先生と食器の片付けをしてくれるらしい。
すぐに交代できるように早く入ってこよう。
脱衣所で服を脱ぎ、浴室に入ると今日もいい匂いのする入浴剤が入れてある。
うーん、今日は甘い匂いがする。
真っ白だし、ミルクかも。
早くお風呂に入りたいけれど、綺麗に髪と身体を時間かけて洗ってからだよと絢斗さんに言われたので、念入りに洗う。
髪だけでも五分くらい洗ってるから、前だったら怒られてるな。
今は怒る人もいないからものすごく気が楽だ。
考えてみたらこの家にきて怒られたことがない。
前はいつ怒鳴られるのかとビクビクしていたけれど、ここにきてからその心配がないからいつも穏やかでいられるんだ。
ふと鏡に映る自分の顔が見えて、それが嬉しそうに笑っていることに驚く。
僕って、こんなふうに笑えるようになったんだな……。
髪と身体を洗い流し、アヒルのスイッチを入れる。
水の上をばちゃばちゃと動き回る姿を見ているだけで可愛い。
何度も何度もスイッチを入れて水の上を走らせて、身体もポカポカになった僕はお風呂を出た。
着心地のいいパジャマに着替えて、リビングに戻るとさっと昇さんが駆け寄って来てくれる。
「パジャマ、よく似合ってるね」
「あ、ありがとうございます。僕もこれお気に入りなんです」
「そっか。あっ、これ飲んで」
そう言ってレモン水を渡される。
昇さんがここに住んだらこんなこともしてもらえるんだ……嬉しい。
コクコクと一気に飲み干すと、
「俺もすぐに入ってくるから、出てきたら部屋で一緒にゲームしよう」
と誘われた。
ゲーム……やったことないんだけど、大丈夫かな?
そう答える暇もなく、昇さんはお風呂場に入って行った。
「直純くん、こっちにおいで」
ソファーに座っていた絢斗さんに声をかけられて、隣に座ると
「どうかした?」
と尋ねられた。
「あの、昇さんにお風呂から出てきたらゲームしようって誘われたんですけど……」
「ああ、昇くん。ゲーム好きだからね」
「でも僕……ゲームやったことなくて……」
「ああ、大丈夫。大丈夫。昇くん、教えるのも上手だよ。私もゲームやったことなくてわからなかったけど、教えてもらったら楽しめるようになったし……」
「絢斗さんも……」
「そう。意外とゲームしたことないって人、多いよ。大学生になって一人暮らし始めてからやり始めたなんて生徒もいたし
」
そうなんだ……。
学校ではみんなゲームの話題で持ち上がっていたから、ゲームを持っていないのはうちくらいだと思ってた。
じゃあ、昇さんに聞いてもおかしな子って思われないかな。
そう思えたら、昇さんがお風呂から出てくるのが楽しみになった。
それからしばらく絢斗さんとおしゃべりしていると、昇さんがお風呂から出てきた。
「あっ!」
色違いだけど、お揃いだ……。
「ふふっ。気づいた? 直純くんの洋服を揃えるときに、二葉さんにいろいろ聞いたんだ。中学生の子の服を売っているところ。で、同じところでパジャマも買ったんだよ」
「そう、なんですね……なんだか、兄弟みたいで嬉しいです」
そういうと、昇さんは一瞬キョトンとした表情をしていたけれど、
「そうだね。お揃いで嬉しいよ」
と言ってくれた。
「じゃあ、部屋に行こうか。伯父さん。絢斗さん。おやすみ」
「最初からあまり長々とやらないようにね」
「はーい」
昇さんは軽やかに返事しながら、僕の手を取って部屋に連れて行ってくれた。
「さぁ、入って」
客間だけど、もうすでに昇さんの匂いがしている気がする。
「隣同士だから、いつでも入って来ていいからね」
「あ、ありがとうございます」
この部屋はトイレもお風呂も付いているらしく、ここだけで暮らせそうだ。
「ゲーム出すからその辺に座ってて」
「はい。あの……僕、ゲームやったことなくて……」
「ああ、そうなんだ。じゃあ、簡単なやつからにしておこうかな」
本当に、ゲームやったことないって言っても驚かない。
そっか……本当に多いんだ。
ソファーに座っていると、
「これ、してみようか」
とゲーム機を持って来てくれて、僕の後ろに回り込んで昇さんの大きな身体で包まれる。
わぁ、近いっ!
「こことこれを一緒に動かして……こっちを押したら……ここで……」
耳元で優しく説明してくれる声が心地良い。
「大丈夫そう?」
「は、はいやってみます」
「ふふっ、気合十分だな」
そのまま昇さんの身体に包まれたまま、ゲームが始まる。
最初こそはドキドキして失敗ばかりだったけれど、だんだんゲームの楽しさに引き込まれていく。
「わっ!」
「大丈夫、いいよ、その調子!」
「わぁっ! やったぁー!!」
「やるじゃん!!」
昇さんのいう通りに動かすと、あっという間にクリアできた。
僕に取って初めての経験で何もかもが楽しい。
気づけば、そのまま何時間もゲームをし続けてしまっていた。
昇さんに身を預けながら、うつらうつらしてしまっていた僕は、
「もう寝よっか」
という言葉でそのままソファーに倒れ込んでしまった。
「ふふっ。直純くん、おやすみ……」
ぷかぷかと身体が浮いたような感覚を覚えながら、そんな声を遠くで聞いたような気がする。
そのまま僕は落ち着く匂いに包まれながら、深い眠りに落ちていた。
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