ひとりぼっちになった僕は新しい家族に愛と幸せを教えてもらいました

波木真帆

文字の大きさ
上 下
11 / 365

お風呂から上がったら……

しおりを挟む
<side直純>

これから昇さんがここで一緒に暮らす?
そう考えるだけで胸が高鳴った。

もちろん、磯山先生と絢斗さんとの生活も楽しいけれど、僕は一人っ子だったから、お兄ちゃんという存在に憧れていた。

昇さんに童話を読んでもらったのもすごく嬉しかったし、本当のお兄ちゃんみたいで頼もしかった。

そんな昇さんとこれから一緒に暮らせるなんて夢みたいだ!

楽しく夕食を終えると、絢斗さんからお風呂に入っておいでと声をかけられた。

僕が先に入っていいのかなと思ったけれど、昇さんは磯山先生と食器の片付けをしてくれるらしい。

すぐに交代できるように早く入ってこよう。

脱衣所で服を脱ぎ、浴室に入ると今日もいい匂いのする入浴剤が入れてある。

うーん、今日は甘い匂いがする。
真っ白だし、ミルクかも。

早くお風呂に入りたいけれど、綺麗に髪と身体を時間かけて洗ってからだよと絢斗さんに言われたので、念入りに洗う。
髪だけでも五分くらい洗ってるから、前だったら怒られてるな。

今は怒る人もいないからものすごく気が楽だ。

考えてみたらこの家にきて怒られたことがない。
前はいつ怒鳴られるのかとビクビクしていたけれど、ここにきてからその心配がないからいつも穏やかでいられるんだ。

ふと鏡に映る自分の顔が見えて、それが嬉しそうに笑っていることに驚く。

僕って、こんなふうに笑えるようになったんだな……。

髪と身体を洗い流し、アヒルのスイッチを入れる。
水の上をばちゃばちゃと動き回る姿を見ているだけで可愛い。

何度も何度もスイッチを入れて水の上を走らせて、身体もポカポカになった僕はお風呂を出た。

着心地のいいパジャマに着替えて、リビングに戻るとさっと昇さんが駆け寄って来てくれる。

「パジャマ、よく似合ってるね」

「あ、ありがとうございます。僕もこれお気に入りなんです」

「そっか。あっ、これ飲んで」

そう言ってレモン水を渡される。

昇さんがここに住んだらこんなこともしてもらえるんだ……嬉しい。

コクコクと一気に飲み干すと、

「俺もすぐに入ってくるから、出てきたら部屋で一緒にゲームしよう」

と誘われた。

ゲーム……やったことないんだけど、大丈夫かな?
そう答える暇もなく、昇さんはお風呂場に入って行った。

「直純くん、こっちにおいで」

ソファーに座っていた絢斗さんに声をかけられて、隣に座ると

「どうかした?」

と尋ねられた。

「あの、昇さんにお風呂から出てきたらゲームしようって誘われたんですけど……」

「ああ、昇くん。ゲーム好きだからね」

「でも僕……ゲームやったことなくて……」

「ああ、大丈夫。大丈夫。昇くん、教えるのも上手だよ。私もゲームやったことなくてわからなかったけど、教えてもらったら楽しめるようになったし……」

「絢斗さんも……」

「そう。意外とゲームしたことないって人、多いよ。大学生になって一人暮らし始めてからやり始めたなんて生徒もいたし


そうなんだ……。
学校ではみんなゲームの話題で持ち上がっていたから、ゲームを持っていないのはうちくらいだと思ってた。

じゃあ、昇さんに聞いてもおかしな子って思われないかな。
そう思えたら、昇さんがお風呂から出てくるのが楽しみになった。

それからしばらく絢斗さんとおしゃべりしていると、昇さんがお風呂から出てきた。

「あっ!」

色違いだけど、お揃いだ……。

「ふふっ。気づいた? 直純くんの洋服を揃えるときに、二葉さんにいろいろ聞いたんだ。中学生の子の服を売っているところ。で、同じところでパジャマも買ったんだよ」

「そう、なんですね……なんだか、兄弟みたいで嬉しいです」

そういうと、昇さんは一瞬キョトンとした表情をしていたけれど、

「そうだね。お揃いで嬉しいよ」

と言ってくれた。

「じゃあ、部屋に行こうか。伯父さん。絢斗さん。おやすみ」

「最初からあまり長々とやらないようにね」

「はーい」

昇さんは軽やかに返事しながら、僕の手を取って部屋に連れて行ってくれた。

「さぁ、入って」

客間だけど、もうすでに昇さんの匂いがしている気がする。

「隣同士だから、いつでも入って来ていいからね」

「あ、ありがとうございます」

この部屋はトイレもお風呂も付いているらしく、ここだけで暮らせそうだ。

「ゲーム出すからその辺に座ってて」

「はい。あの……僕、ゲームやったことなくて……」

「ああ、そうなんだ。じゃあ、簡単なやつからにしておこうかな」

本当に、ゲームやったことないって言っても驚かない。
そっか……本当に多いんだ。

ソファーに座っていると、

「これ、してみようか」

とゲーム機を持って来てくれて、僕の後ろに回り込んで昇さんの大きな身体で包まれる。

わぁ、近いっ!

「こことこれを一緒に動かして……こっちを押したら……ここで……」

耳元で優しく説明してくれる声が心地良い。

「大丈夫そう?」

「は、はいやってみます」

「ふふっ、気合十分だな」

そのまま昇さんの身体に包まれたまま、ゲームが始まる。
最初こそはドキドキして失敗ばかりだったけれど、だんだんゲームの楽しさに引き込まれていく。

「わっ!」

「大丈夫、いいよ、その調子!」

「わぁっ! やったぁー!!」

「やるじゃん!!」

昇さんのいう通りに動かすと、あっという間にクリアできた。
僕に取って初めての経験で何もかもが楽しい。

気づけば、そのまま何時間もゲームをし続けてしまっていた。

昇さんに身を預けながら、うつらうつらしてしまっていた僕は、

「もう寝よっか」

という言葉でそのままソファーに倒れ込んでしまった。

「ふふっ。直純くん、おやすみ……」

ぷかぷかと身体が浮いたような感覚を覚えながら、そんな声を遠くで聞いたような気がする。
そのまま僕は落ち着く匂いに包まれながら、深い眠りに落ちていた。
しおりを挟む
感想 548

あなたにおすすめの小説

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

病弱を演じていた性悪な姉は、仮病が原因で大変なことになってしまうようです

柚木ゆず
ファンタジー
 優秀で性格の良い妹と比較されるのが嫌で、比較をされなくなる上に心配をしてもらえるようになるから。大嫌いな妹を、召し使いのように扱き使えるから。一日中ゴロゴロできて、なんでも好きな物を買ってもらえるから。  ファデアリア男爵家の長女ジュリアはそんな理由で仮病を使い、可哀想な令嬢を演じて理想的な毎日を過ごしていました。  ですが、そんな幸せな日常は――。これまで彼女が吐いてきた嘘によって、一変してしまうことになるのでした。

どうやら手懐けてしまったようだ...さて、どうしよう。

彩ノ華
BL
ある日BLゲームの中に転生した俺は義弟と主人公(ヒロイン)をくっつけようと決意する。 だが、義弟からも主人公からも…ましてや攻略対象者たちからも気に入れられる始末…。 どうやら手懐けてしまったようだ…さて、どうしよう。

αからΩになった俺が幸せを掴むまで

なの
BL
柴田海、本名大嶋海里、21歳、今はオメガ、職業……オメガの出張風俗店勤務。 10年前、父が亡くなって新しいお義父さんと義兄貴ができた。 義兄貴は俺に優しくて、俺は大好きだった。 アルファと言われていた俺だったがある日熱を出してしまった。 義兄貴に看病されるうちにヒートのような症状が… 義兄貴と一線を超えてしまって逃げ出した。そんな海里は生きていくためにオメガの出張風俗店で働くようになった。 そんな海里が本当の幸せを掴むまで…

婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します

けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」  五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。  他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。 だが、彼らは知らなかった――。 ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。 そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。 「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」 逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。 「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」 ブチギレるお兄様。 貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!? 「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!? 果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか? 「私の未来は、私が決めます!」 皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

【完結】雨降らしは、腕の中。

N2O
BL
獣人の竜騎士 × 特殊な力を持つ青年 Special thanks illustration by meadow(@into_ml79) ※素人作品、ご都合主義です。温かな目でご覧ください。

春を拒む【完結】

璃々丸
BL
 日本有数の財閥三男でΩの北條院環(ほうじょういん たまき)の目の前には見るからに可憐で儚げなΩの女子大生、桜雛子(さくら ひなこ)が座っていた。 「ケイト君を解放してあげてください!」  大きなおめめをうるうるさせながらそう訴えかけてきた。  ケイト君────諏訪恵都(すわ けいと)は環の婚約者であるαだった。  環とはひとまわり歳の差がある。この女はそんな環の負い目を突いてきたつもりだろうが、『こちとらお前等より人生経験それなりに積んどんねん────!』  そう簡単に譲って堪るか、と大人げない反撃を開始するのであった。  オメガバな設定ですが設定は緩めで独自設定があります、ご注意。 不定期更新になります。   

処理中です...