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父からの許可

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<side昇>

伯父さんが出してきてくれたドイツ語の本のおかげで、直純くんの語学への関心が高まった流れで、そのままこの家に居候させてもらえる権利を手に入れた。

あの場で居候の話を出すのは少々強引かと思ったけれど、直純くんが

――昇さんがいてくれたら、嬉しいです……。

と言ってくれたのだから、問題ない。

これで、父さんにも伯父さんから話を出してくれるだろう。
最後には俺が説得しないといけないが、伯父さんという後ろ盾ができたのだから、日本に留まれる可能性も高くなったはずだ。

もちろん桜城大学に入学することは俺の昔からの夢だったし、それが叶えられるのが何よりも嬉しい。
でも今はそれ以上に直純くんの近くで生活できることが何よりも嬉しいんだ。

とはいえ、桜城大学に落ちることがあれば、きっと日本に留まって予備校通いまでは許してはもらえないだろう。
あくまでも現役で合格する必要がある。

今のままでいけば合格は間違いなしと言われているが、直純くんのことを考えすぎて勉強が疎かになることだけは気をつけないといけないな。

「昇、ちょっといいか」

「はい。直純くん、ちょっと待ってて」

「あっ、直純くん。私が他のお話を読んであげるよ」

絢斗さんが俺の抜けた場所に座り、二人で本を読み始めた。
絢斗さんも海外の大学で数年講師として働いていたこともあって、語学はかなり堪能だ。

直純くんを一人にしたくなかったから、絢斗さんの気遣いは嬉しいけれど、やっぱり直純くんの隣は俺だけがいいと思ってしまう。

きっと伯父さんもそう思っているのだろうけど。

「伯父さん」

「私の書斎に行こう。直純くんの意思も聞けたし、早いうちに毅に連絡しておいた方がいいだろう。移住の手続きもあるだろうしな。昇が明日帰ってから説明するより少しでも早い方がいいだろう」

「伯父さんっ、ありがとうございます」

二人で書斎に移動すると、早速俺のスマホから父さんに電話をかけた。
この書斎は……というか、この家の部屋は全て完全防音の設備が整っている。
だからスピーカー設定でかけるとすぐに父さんが電話をとった。

ー昇、どうした?

ーあの、今伯父さんと一緒にいるんだけど……

ー兄さんと?

ーああ、毅か。今日は昇がうちに泊まりにきているのはわかっているな?

ーああ、迷惑かけてないかな?

ー心配する必要はない。それより今回の泊まりの目的だが、お前の海外赴任中うちで昇を預かれるかどうかの確認だったんだ。

母さんにはおおまかな話はしてきたけど、父さんにはただの泊まりだとしか言わなかった。
まだ伯父さんに許可がもらえるかわからなかったからな。

ーえっ? 確認? それで、兄さんはどうするつもり?

ー今、うちに大事な子を預かっていて、その子との相性を見てからにしようと思っていたんだが、その子も昇がいてくれる方が嬉しいと言っているんだ。私も絢斗も昇を預かるのは大賛成だから、毅さえよければ昇を預からせてくれないか?

ー兄さんにそんなこと言われたら……しかも、絢斗さんまで賛成してくれているのなら、俺だけ反対するわけにもいかないな……。元々二葉からは、昇が将来のために考えてきたことを俺のわがままで無しにさせるのは可哀想だって言われていたし……。昇が兄さんのところにまで相談に行くくらい日本に残りたいのなら、これ以上反対することはできないな。年齢的には成人しているわけだし……。

父さんの口ぶりでは本当は家族揃っていきたいというのがありありと感じられるけれど、伯父さんも絢斗さんも賛成していると聞かされて、トーンダウンしているのがわかる。
母さんにも俺の気持ちはしっかり伝えてきたから、きっと母さんからも説得されていたんだろうけど。

ー父さん! ありがとう! じゃあ、俺……日本に残って、伯父さん家に住んでいいの?

ー昇! ただし、桜城大学以外は認めないからな。俺たちが日本を経ってから、受験までは兄さんの家に住むのは許すが、そこが不合格だったら、兄さんとこに住まわせてもらう話も日本に一人で留まる話も終わりだ。すぐに荷物をまとめてフランスに来てもらうぞ。

最後とばかりにかなり強めの口調で言ってきたけど、合格しなければいけないことは俺にもよくわかっている。

ーわかった! 約束するよ! 絶対合格してみせる!

俺が話をしながら、伯父さんに親指を立てて見せると、伯父さんもやったなとでもいうように親指をたて、にこやかな笑顔を向けてくれた。

ーじゃあ、とりあえず会社には夫婦二人だけで赴任すると伝えておくよ。でも、昇。約束だからな。

ーわかってるって! ありがとう。

ーじゃあ、兄さん。そういうことだから、向こうに発つ前に時間を作って、正式に挨拶しに行くよ。絢斗さんにもお願いしておきたいし。

ーああ、わかった。じゃあ、連絡待ってるよ。

その言葉で伯父さんが電話を切った。

「毅の任期の間、お前がここにいられるかはお前の頑張り次第だな。直純くんのためにもしっかり頑張れよ。ただし、あの約束は守るようにな」

――直純くんの気持ちを無視して進めてはいけないよ。自分の気持ちに忠実になるよりも、今は彼の固くなった心をゆっくりと溶かしてあげることを考えなさい。

もちろん、直純くんを傷つけるようなことはしない。
あの笑顔を守ると誓ったのだから。

「わかってます。大丈夫です」

「ああ、それから一つ、お前に頼みがあるんだが……」

「俺に頼み? なんですか?」

「今夜は、直純くんが私たちの部屋の方に近づかないように気をつけておいてくれ。夜中、絢斗が心配するからここのところ、軽くしかしていないんだ」

その言葉で伯父さんの言いたいことをすぐに察した。

「ああ、なるほど。わかりました。任せてください」

というと、伯父さんは嬉しそうに笑っていた。

伯父さんにとっても俺がここで暮らすのは、プラスになるのかもしれない。
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