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私の覚悟
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どこかお身体におつらい場所でもあるのかと心配になり尋ねてみれば
「ヴァルフレードさまの、お姿が見えなかったので、てっきり僕に呆れてお帰りになったのかと……」
となんとも可愛らしい答えが返ってきた。
私の姿が見えなかったから涙を流すほど不安になったとは……。心がギュッと締め付けられるような思いがする。
陛下が来られていたから仕方がないとはいえ、寂しい思いをさせてしまった事実は変わらない。
怖がらせて申し訳なかったという気持ちを込めて謝り、この部屋に連れてきた経緯を伝えるとユーリさまはほんのりと頬を赤らめて謝ってくれた。
いや、私はユーリさまの謝罪の言葉が欲しいのではない。だが、今ならこの延長でユーリさまに真実を尋ねても許されるかもしれない。
そんな期待を胸に、私はそっとユーリさまのベッドに腰を下ろし、さっきの疑問を口にすることにした。
「なんでしょう? ヴァルフレードさまがお聞きになりたいことでしたらなんでもお話ししますよ」
なぜか覚悟を決めたような表情のユーリさまが気になりつつも、一度聞いてみたいと思った衝動を抑えきれず、私はゆっくりと口にした。
「こちらにお連れした時、ユーリさまが私を、「ヴァル」とお呼びになったのですが覚えていらっしゃいますか?」
「えっ? そんな……っ、ほ、んとうに?」
「はい。もしかしたらヴァルフレードと呼びかけたのが聞こえなかっただけかもしれませんが、少し気になってしまいまして……」
「えっと……ごめんなさい。覚えてなくて、無意識に言ってしまったのかも……」
「そうでしたか。それではお気になさらず」
愛称で呼んでほしい。そうこちらから告げる前に愛称で呼ぶことはない。たとえ、将来の結婚相手であってもそう頼む前にそのような呼び方をしないのは暗黙のルールになっている。だから、私が愛称呼びを認めたのは、この世界にジーノただ一人のはず。
ユーリさまには気にしないでいいと伝えたものの、どうしても気になってしまったのは、告げた時のユーリさまの表情だった。
しまった! とでも言うようなあの表情。まるでいつも呼んでいたのがバレてしまったとでも言いたげな表情だった。
そっとユーリさまに視線を向けると、不安げな表情をしていらっしゃる。私はそんな顔を見たかったのではない。
ただ自分の中にある違和感の正体が知りたかっただけだ。
でもこのことでユーリさまにそのようなつらい表情をさせるくらいなら、もう忘れてしまおう。そして、ユーリさまのお好きなように呼んでもらったらいい。
「ユーリさま。いい機会ですから、これからは私をヴァルとお呼びください」
「えっ? いいのですか?」
「はい。私はもうユーリさまと人生を共にすると決めたのですから」
「――っ、ヴァル……っ」
目を潤ませて私に抱きついてくるユーリさまを私は拒めなかった。
ジーノ、これで良かったのだな?
――ゔぁる……あい、してる……しあ、わせに、なって……
最後の力を振り絞って私に最後の望みをかけてくれたジーノ。ジーノ以外を愛することなど一生ないと思ったが、ジーノの願い通り、私はこのユーリさまを幸せにすると誓うよ。ジーノ、喜んでくれるだろう?
「ユーリさま……」
優しく名前を囁くと、
「ユーリと呼んでください」
と涙を潤ませたまま告げられた。
その表情がなんとも愛おしく感じられて、私は覚悟を決めた。
「ユーリ……愛しているよ」
小さく名前を呼ぶと、花が綻ぶような笑顔を向けられ、ユーリさまの美しい顔が近づいてくる。
そして、どちらともなく唇が重なった瞬間、部屋中が眩い光に包まれた。
「ヴァルフレードさまの、お姿が見えなかったので、てっきり僕に呆れてお帰りになったのかと……」
となんとも可愛らしい答えが返ってきた。
私の姿が見えなかったから涙を流すほど不安になったとは……。心がギュッと締め付けられるような思いがする。
陛下が来られていたから仕方がないとはいえ、寂しい思いをさせてしまった事実は変わらない。
怖がらせて申し訳なかったという気持ちを込めて謝り、この部屋に連れてきた経緯を伝えるとユーリさまはほんのりと頬を赤らめて謝ってくれた。
いや、私はユーリさまの謝罪の言葉が欲しいのではない。だが、今ならこの延長でユーリさまに真実を尋ねても許されるかもしれない。
そんな期待を胸に、私はそっとユーリさまのベッドに腰を下ろし、さっきの疑問を口にすることにした。
「なんでしょう? ヴァルフレードさまがお聞きになりたいことでしたらなんでもお話ししますよ」
なぜか覚悟を決めたような表情のユーリさまが気になりつつも、一度聞いてみたいと思った衝動を抑えきれず、私はゆっくりと口にした。
「こちらにお連れした時、ユーリさまが私を、「ヴァル」とお呼びになったのですが覚えていらっしゃいますか?」
「えっ? そんな……っ、ほ、んとうに?」
「はい。もしかしたらヴァルフレードと呼びかけたのが聞こえなかっただけかもしれませんが、少し気になってしまいまして……」
「えっと……ごめんなさい。覚えてなくて、無意識に言ってしまったのかも……」
「そうでしたか。それではお気になさらず」
愛称で呼んでほしい。そうこちらから告げる前に愛称で呼ぶことはない。たとえ、将来の結婚相手であってもそう頼む前にそのような呼び方をしないのは暗黙のルールになっている。だから、私が愛称呼びを認めたのは、この世界にジーノただ一人のはず。
ユーリさまには気にしないでいいと伝えたものの、どうしても気になってしまったのは、告げた時のユーリさまの表情だった。
しまった! とでも言うようなあの表情。まるでいつも呼んでいたのがバレてしまったとでも言いたげな表情だった。
そっとユーリさまに視線を向けると、不安げな表情をしていらっしゃる。私はそんな顔を見たかったのではない。
ただ自分の中にある違和感の正体が知りたかっただけだ。
でもこのことでユーリさまにそのようなつらい表情をさせるくらいなら、もう忘れてしまおう。そして、ユーリさまのお好きなように呼んでもらったらいい。
「ユーリさま。いい機会ですから、これからは私をヴァルとお呼びください」
「えっ? いいのですか?」
「はい。私はもうユーリさまと人生を共にすると決めたのですから」
「――っ、ヴァル……っ」
目を潤ませて私に抱きついてくるユーリさまを私は拒めなかった。
ジーノ、これで良かったのだな?
――ゔぁる……あい、してる……しあ、わせに、なって……
最後の力を振り絞って私に最後の望みをかけてくれたジーノ。ジーノ以外を愛することなど一生ないと思ったが、ジーノの願い通り、私はこのユーリさまを幸せにすると誓うよ。ジーノ、喜んでくれるだろう?
「ユーリさま……」
優しく名前を囁くと、
「ユーリと呼んでください」
と涙を潤ませたまま告げられた。
その表情がなんとも愛おしく感じられて、私は覚悟を決めた。
「ユーリ……愛しているよ」
小さく名前を呼ぶと、花が綻ぶような笑顔を向けられ、ユーリさまの美しい顔が近づいてくる。
そして、どちらともなく唇が重なった瞬間、部屋中が眩い光に包まれた。
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