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自分に戸惑う
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「何かございましたか?」
焦ったように駆け寄ってきてくれるヴァルの表情は心からのものだ。いつもジーノに見せてくれていたものと同じだからよくわかる。本気で心配してくれていることがわかってジーノは嬉しかった。
「ヴァルフレードさまの、お姿が見えなかったので、てっきり僕に呆れてお帰りになったのかと……」
「私の姿が見えなかったから泣いていらしたのですか?」
子どもみたいで恥ずかしい。寝起きで混乱していたとはいえ、恥ずかしいことをしてしまったと反省しながら頷いた。
「ユーリさま……怖がらせてしまいましたね。申し訳ありません」
「いえ、僕の方こそ勝手に勘違いして泣いてしまって……」
「あの東屋でお眠りになったのでお風邪を召されてはいけないと思い、お部屋にお連れしたのです」
「そうだったんですね。ごめんなさい、迷惑をかけてしまって……」
「いえ。それは構わないのですが、一つだけお伺いしたいことがあるのです」
ジーノのベッドに腰を下ろしたヴァルに真剣な表情を向けられて、ジーノは戸惑いつつもヴァルの話を聞かずにはいられなかった。
<sideヴァル>
久しぶりに味わう感触に心を乱されながらも、離す気にはなれなかった。
もう少しだけ抱きしめていよう。もう少しだけ……。
そう思っているうちに、腕にかかる力が重くなった気がした。
そっと顔を覗き込んでみると、ユーリさまからスウスウと穏やかな寝息が聞こえてくる。
私の腕の中を怖がることもなく、眠ってしまわれるなんて……想像もしていなかった。
もう少しこの状態でいたら目をお覚ましになるだろうか?
それならここにいたほうがいいかもしれない。
ユーリさまの小さくて華奢な身体を抱きしめていると、あの日のジーノを思い出す。
あの時も恐怖に震えていたジーノが私の腕の中で眠ってしまって、パーティーが終わるまでここに二人でいたのだったな。
本当にあの日を再現しているかのような状況に懐かしさが込み上げる。
こんな気持ちでユーリさまとの結婚を進めていいのか、自分でも答えはわからない。
だが、自分で決断したことだ。決してその場の雰囲気に流されたわけではない。
そう自分に言い聞かせていると、腕の中にユーリさまがモゾモゾと身動ぎながら私の胸元に擦り寄ってきた。
こんなところもジーノによく似ている。
ジーノもいつだって私の匂いが好きだからと私の胸で眠るときには擦り寄ってきてくれた。
そんな姿を見ていると、私の中に愛おしいと思う感情が湧き上がってきた。
これがジーノを思い出しての感情なのか、それともユーリさまに対してのものなのか、自分でもわからない。
ただ一つだけ言えるのは、この腕に感じる温もりを大切にしたい。それだけだ。
私がジーノ以外にこんな感情を覚えるとは思わなかったが、それは紛れもない事実だ。
「ユーリさま……」
無意識に溢れた言葉に自分でも驚いてしまう。私は何を言おうとしたのだろう。
これほどまでに自分で自分がわからなくなるとはな。
ユーリさまといると、自分が自分でなくなってしまうようだ。
このままいたら理由はわかるだろうか……。
そう思っていると、腕の中のユーリさまが身体を震わせた。
気づけば、少し陰ってきたようで風も吹いてきている。
ユーリさまはあの薬で元気になられたとはいえ、まだまだお身体は弱い。
しかも寝ていると余計に体温を奪われる。このままではお風邪を召されるかもしれない。
私がついていながらそんなことはさせられない。
私は急いでユーリさまを抱きかかえたまま立ち上がり、起こさないようにその場を離れた。
執事にユーリさまのお部屋に案内してもらい、中に入れてもらったが、勝手に入ってしまって申し訳なさが募る。
だが、執事にユーリさまを渡す気にはなれなかった。
私の手でユーリさまをベッドに横たわらせると、ユーリさまの口から
「ヴァル……っ」
と私の名を呼ぶ声が聞こえた。
えっ? 今、私をヴァルと呼んだか?
この国で私をヴァルと呼んでいたのはジーノだけだったのに。
いや、もしかしたらヴァルフレードと言いかけただけかもしれない。
そうだ、そうに決まってる。
だが、どうしてもそのことが頭から離れなかった。
少し頭を整理したくて、寝室から出た。そして今のことを振り返っていると、部屋の扉を叩く音が聞こえた。
ユーリさまをまだ起こしたくなくて急いで扉を開けるとそこには陛下の姿があった。
「陛下」
「ユーリを其方が抱きかかえて部屋に入ったと聞いたのでな。体調を崩したかと心配になってきてみたのだ」
「ご心配をおかけしまして申し訳ございません。ユーリさまが東屋でお休みになられたのでお風邪を召されてはいけないと思い、ベッドにお運びいたしました」
「そうか、それならよかった。ヴァルフレード、待たせるのも悪いから、帰っても構わぬぞ」
「いえ。ユーリさまがお目覚めになるまではここで待たせていただきます」
私の言葉に陛下は納得され、部屋を出て行かれた。
ホッと胸を撫で下ろしつつ部屋に戻ると、ベッドの上でユーリさまが涙を流していることに気づき、私は驚きのままに近づいた。
焦ったように駆け寄ってきてくれるヴァルの表情は心からのものだ。いつもジーノに見せてくれていたものと同じだからよくわかる。本気で心配してくれていることがわかってジーノは嬉しかった。
「ヴァルフレードさまの、お姿が見えなかったので、てっきり僕に呆れてお帰りになったのかと……」
「私の姿が見えなかったから泣いていらしたのですか?」
子どもみたいで恥ずかしい。寝起きで混乱していたとはいえ、恥ずかしいことをしてしまったと反省しながら頷いた。
「ユーリさま……怖がらせてしまいましたね。申し訳ありません」
「いえ、僕の方こそ勝手に勘違いして泣いてしまって……」
「あの東屋でお眠りになったのでお風邪を召されてはいけないと思い、お部屋にお連れしたのです」
「そうだったんですね。ごめんなさい、迷惑をかけてしまって……」
「いえ。それは構わないのですが、一つだけお伺いしたいことがあるのです」
ジーノのベッドに腰を下ろしたヴァルに真剣な表情を向けられて、ジーノは戸惑いつつもヴァルの話を聞かずにはいられなかった。
<sideヴァル>
久しぶりに味わう感触に心を乱されながらも、離す気にはなれなかった。
もう少しだけ抱きしめていよう。もう少しだけ……。
そう思っているうちに、腕にかかる力が重くなった気がした。
そっと顔を覗き込んでみると、ユーリさまからスウスウと穏やかな寝息が聞こえてくる。
私の腕の中を怖がることもなく、眠ってしまわれるなんて……想像もしていなかった。
もう少しこの状態でいたら目をお覚ましになるだろうか?
それならここにいたほうがいいかもしれない。
ユーリさまの小さくて華奢な身体を抱きしめていると、あの日のジーノを思い出す。
あの時も恐怖に震えていたジーノが私の腕の中で眠ってしまって、パーティーが終わるまでここに二人でいたのだったな。
本当にあの日を再現しているかのような状況に懐かしさが込み上げる。
こんな気持ちでユーリさまとの結婚を進めていいのか、自分でも答えはわからない。
だが、自分で決断したことだ。決してその場の雰囲気に流されたわけではない。
そう自分に言い聞かせていると、腕の中にユーリさまがモゾモゾと身動ぎながら私の胸元に擦り寄ってきた。
こんなところもジーノによく似ている。
ジーノもいつだって私の匂いが好きだからと私の胸で眠るときには擦り寄ってきてくれた。
そんな姿を見ていると、私の中に愛おしいと思う感情が湧き上がってきた。
これがジーノを思い出しての感情なのか、それともユーリさまに対してのものなのか、自分でもわからない。
ただ一つだけ言えるのは、この腕に感じる温もりを大切にしたい。それだけだ。
私がジーノ以外にこんな感情を覚えるとは思わなかったが、それは紛れもない事実だ。
「ユーリさま……」
無意識に溢れた言葉に自分でも驚いてしまう。私は何を言おうとしたのだろう。
これほどまでに自分で自分がわからなくなるとはな。
ユーリさまといると、自分が自分でなくなってしまうようだ。
このままいたら理由はわかるだろうか……。
そう思っていると、腕の中のユーリさまが身体を震わせた。
気づけば、少し陰ってきたようで風も吹いてきている。
ユーリさまはあの薬で元気になられたとはいえ、まだまだお身体は弱い。
しかも寝ていると余計に体温を奪われる。このままではお風邪を召されるかもしれない。
私がついていながらそんなことはさせられない。
私は急いでユーリさまを抱きかかえたまま立ち上がり、起こさないようにその場を離れた。
執事にユーリさまのお部屋に案内してもらい、中に入れてもらったが、勝手に入ってしまって申し訳なさが募る。
だが、執事にユーリさまを渡す気にはなれなかった。
私の手でユーリさまをベッドに横たわらせると、ユーリさまの口から
「ヴァル……っ」
と私の名を呼ぶ声が聞こえた。
えっ? 今、私をヴァルと呼んだか?
この国で私をヴァルと呼んでいたのはジーノだけだったのに。
いや、もしかしたらヴァルフレードと言いかけただけかもしれない。
そうだ、そうに決まってる。
だが、どうしてもそのことが頭から離れなかった。
少し頭を整理したくて、寝室から出た。そして今のことを振り返っていると、部屋の扉を叩く音が聞こえた。
ユーリさまをまだ起こしたくなくて急いで扉を開けるとそこには陛下の姿があった。
「陛下」
「ユーリを其方が抱きかかえて部屋に入ったと聞いたのでな。体調を崩したかと心配になってきてみたのだ」
「ご心配をおかけしまして申し訳ございません。ユーリさまが東屋でお休みになられたのでお風邪を召されてはいけないと思い、ベッドにお運びいたしました」
「そうか、それならよかった。ヴァルフレード、待たせるのも悪いから、帰っても構わぬぞ」
「いえ。ユーリさまがお目覚めになるまではここで待たせていただきます」
私の言葉に陛下は納得され、部屋を出て行かれた。
ホッと胸を撫で下ろしつつ部屋に戻ると、ベッドの上でユーリさまが涙を流していることに気づき、私は驚きのままに近づいた。
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