ジーノの秘密の恋 〜もう一度愛してると聞かせて……

波木真帆

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言葉はなくても……

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<sideジーノ(ユーリ)>

今日はヴァルがお城にやってくる日。
お父さまが約束通りアゴスティーノ家に縁談を持ちかけてくれて、ヴァルがジーノに会いに来てくれる事になったのだ。
きっとヴァルは仕方なく来るのだろう。でも王族から来た縁談だから断れないことをわかっているのだ。
それがわかっていてお願いするのはジーノは心苦しいかった。けれどこれからの人生をヴァルと共に歩むにはこのチャンスを逃すわけにはいかない。

(ヴァル……無理に話を進めたりしてごめんなさい)

ジーノは心の中でヴァルに申し訳ないと謝りながらも、もう一度ヴァルに会えることの喜びを噛み締めていた。

「ユーリ。そろそろヴァルフレードが来るぞ。私が先に話をするがそのあとはユーリの部屋に通すか?」

「いえ。最初はお庭で少しお話がしたいです」

ジーノの言葉に国王さまは安堵の表情を浮かべた。きっと部屋に二人は心配だったのだろう。庭なら周りに護衛もたくさんついているのだ。ジーノとしても最初から二人きりは流石に緊張してしまう気がして庭で会うことに決めていたのだった。

「そうか、それがいい。あまり無理をするでないぞ」

「はい。大丈夫です」

最初こそ毎朝顔を見るたびに心配していた国王さまだったけれど、すっかり元気になり頬に赤みが差すユーリさまの顔を見てようやく安心してくれるようになった。それがジーノには嬉しいことだった。

(ユーリさまは本当に国王さまから愛されていたんだな。もしかしたら、早く命を終えたいと思っていたのは、自分がどんどん弱っていく姿を見せることで優しい国王さまの悲しむ顔を見たくなかったからかもしれない。きっとそうだ。僕もそうだった。前日にできたことが翌日にはできなくなるほど日に日に弱っていくのを自分で理解していて、その上、顔を合わせるたびに一瞬辛い表情を向けられる。ヴァルだけはいつだって笑顔を見せてくれていたけれど、両親も兄も僕を見て辛そうに表情を歪めるのが僕も辛かった。自分のせいでこんな顔をさせてしまっていることが許せなかったんだ。だから、そんな表情を見る前に、さっとこの世からいなくなってしまいたいと思ったのかもしれない。苦しかったけどヴァルのためになんとかして長く生きたいと思った僕と、お父さまに辛い思いをさせないように早く逝きたいと思ったユーリさま。どちらが正しいなんてないけど、どっちも大切な人を思う気持ちに嘘はない。僕はユーリさまの分まで長く生きられるように頑張らないとな。せっかく神さまが最後に与えてくれたチャンスなんだから……)

優しい国王さまを見ていると、ジーノにはそんな思いが湧き上がっていた。


ヴァルが国王さまと話をしている。そんな報告が来て、ジーノは途端に緊張し始めた。
何をすることもなく広い部屋の中をうろうろと動き回り、落ち着いていられない。

(そういえば、以前もこんなことがあった。あの時はヴァルが僕の家に初めて来てくれることになった日だ。もしかしたら最初で最後の日になるかもしれないと思っていた。まさか、ヴァルがあんなにも優しい笑顔を向けてくれるなんて思ってもなかったんだ)

今日はどうなるだろう……。不安が拭えないまま、ジーノはヴァルと会う時を待った。

それからしばらくして部屋の扉が叩く音が聞こえて、庭へと案内される。

もうすでにヴァルは庭にいるらしい。

緊張に震えながら、庭に足を踏み入れると懐かしい東屋の中にヴァルが座っていた。

「ここでいい」

ついてくる護衛騎士に声をかけ、ジーノは一人で東屋へ歩き始めた。
ジーノの姿を見つけたヴァルはスッと立ち上がり、こちらへ向かってきた。

迎えてくれる表情は全く違うけれど、ヴァルが近づいてくる。それだけがジーノにとっては喜びだった。

「ユーリさま。お手をどうぞ」

「は、はい。ありがとうございます」

ヴァルがエスコートをしてくれるのは当然のことだとわかってはいても、ヴァルの手の温もりに感動しかない。
ずっと触れたくても触れられなかったのだから。

思わず涙がこぼれそうになるのを必死に抑え、東屋まで二人で歩き続けた。二人の間には全く会話はなかったけれど、その時間がジーノには何よりも貴重に思えた。

<sideヴァル>

断ることもできないのだから仕方がない。そんな気持ちでいたけれど、登城する日が近づけば近づくほど少し楽しみになっている私がいた。なぜだろう……こんなこと、ジーノを失って初めてのことだ。

城に向かうとまず陛下の元に迎え入れられた。

「ヴァルフレード。其方がこの縁談に乗り気でないのはわかっておる。愛しい者を亡くしたばかりだ。気が乗らないのも当然だ。だが、ユーリのたっての希望なのだ。許せ。ユーリは其方の婚約者の代わりに自分が生き長らえたことを申し訳ないと思っているのかもしれぬ。それだけに、愛しい者を失った其方の支えになりたいと申しておった。其方の婚約者……ジーノと言ったか、ジーノは心優しく誰からも愛される子だったそうだな」

「はい。それはもう……」

ジーノの眩しい笑顔が脳裏に浮かんで涙が込み上げるのを必死に抑えた。

「だからこそ、其方が塞ぎ込む姿を見たら悲しむのではないか? ユーリも最愛の両親を失っておる。悲しみの違いはあれど、其方の辛い気持ちは理解できるだろう。一応この話は縁談だが、無理やり押し進めるつもりはない。とりあえずはゆっくり話をしてお互いのことを知ることから初めてほしい」

「承知しました」

陛下の言葉にホッとしながら、私はユーリさまがお好きだという庭に足を踏み入れた。
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