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少しの違和感
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<sideヴァル>
「ヴァルフレード! あの態度はなんだ? 陛下もユーリさまもお前の今の気持ちを慮ってお許しくださったからよかったものの、本来なら厳罰を与えられてもおかしくはないのだぞ。わかっているのか?」
「はい……」
帰りの馬車の中で父上に散々叱られたが、私の耳には入らなかった。
「はぁーっ。本当にお前は……。まぁいい。とにかく拝謁も無事に済ませられたし、陛下もユーリさまも喜んでおられたからな」
父上は何も反応しない私に呆れ果て、その後は何も言わなくなったが、
「それにしてもユーリさまは評判以上に美しいお方だったな。母君のイレーネさまもお美しいお方だったが、ユーリさまはそれ以上だ」
とポツリと溢した。
確かにユーリさまは美しかった。だが、私にはそれ以上に気になったことがあった。
最初に席を立って私の元に近づいてきた時、あの歩き方がジーノの姿に重なった。
容貌は全く違うのに、ふっとジーノを思い起こさせる。ユーリさまもジーノも同じような身長だし、偶然と言えばそうなのだろうがなんだろう、胸がざわつく。
それに王族であるユーリさまがあんなにも私に必死に感謝を伝えようとなさるとは……なんとも不思議なお方だ。
「ユーリさまは今まで床に臥せっておられたから、縁談話も来てはいなかっただろうが、もう成人を迎えられていることだし、あれだけ元気になられたのだからこれからお忙しくなるだろうな」
「そうですね」
「ただ、陛下がユーリさまを手放されるかどうかだがな。元気になられて一番喜んでいらっしゃるのは陛下だろうからな。あの溺愛っぷりを見ると難しいかもしれんな」
「そうですね」
「もし、お前にユーリさまとの縁談話が来たら受けるのもいいかもしれないな。ジーノとのことは辛い経験だったが、ユーリさまもご両親を亡くされているし、お互いに慰め合えるのではないか? 今回こうして顔を合わせられたのも何かの縁だろう。お前だって多少は前向きになれたのではないか?」
「そうですね」
「おお! そうか! ならば、もし話が来たら進めよう!」
「えっ? なんのことですか?」
自分の不思議な感情を頭の中で整理しながら、父上が話す言葉に適当に相槌を打っていたら、突然父上の嬉しそうな声が聞こえてきて、私には何のことだかわからなかった。
「いやいや、照れるな。あれだけお美しい方がお前のぶっきらぼうな言い方にも怒りもせず笑顔を見せてくださっていたからな。お前の頑なな気持ちにも変化が訪れても不思議はない」
「いえ、だから何のことですか?」
「だから、もし陛下よりユーリさまとの縁談話が来たらの話だ。仮の話だからな」
なんだ。仮の話か。あれだけジーノへの変わらぬ想いを言葉に込めてきたんだ。そんなことあろうはずがない。
それにあの陛下がユーリさまを手放すとも思えない。今日の訪問でもう終わったんだ。
自分でそう結論づけていたはずだったのに、数日後、王家からの正式にユーリさまとの縁談話が届き、私は愕然となったのだった。
「ヴァルフレード! 喜べ! 陛下から正式にユーリさまとの縁談が齎されたぞ。ユーリさまのたっての希望だそうだ」
「そんなこと、私は受けるつもりはありませんよ!」
「何を言っておるのだ! そんなことが罷り通るわけがないだろう! 相手は王家のお方だぞ! お前も話が来たら進めていいといっていたじゃないか!」
「それはっ……」
絶対にありえないただの戯言だと思っていた。
それに……ユーリさまだって、私を気にいるなどありえないと思っていた。
それなのにどうしてこんなことに……。
「お前の気持ちはともかく、話が出た以上こちらは受けるしかないのだ。諦めろ」
「ですが、私はジーノに約束したんです。一生ジーノだけを愛し続けると。その約束を反故になどできません」
「ヴァルフレード、ジーノはお前の幸せを願っていたのだろう? お前がいつまでもジーノに未練を持ち続けて一生一人で寂しく暮らしていくことを望むと思うのか?」
「――っ、それは……」
「お前がジーノを忘れられないのはよくわかる。あの子は素晴らしい子だった。私もあの子が我が家の嫁になることをどれだけ待ち侘びていたことか……。だが、もうジーノはいないんだ。お前も前に進め!」
結局、ジーノに対して申し訳なさが募る中、私はユーリさまと再び顔を合わせることになったのだった。
「ヴァルフレード! あの態度はなんだ? 陛下もユーリさまもお前の今の気持ちを慮ってお許しくださったからよかったものの、本来なら厳罰を与えられてもおかしくはないのだぞ。わかっているのか?」
「はい……」
帰りの馬車の中で父上に散々叱られたが、私の耳には入らなかった。
「はぁーっ。本当にお前は……。まぁいい。とにかく拝謁も無事に済ませられたし、陛下もユーリさまも喜んでおられたからな」
父上は何も反応しない私に呆れ果て、その後は何も言わなくなったが、
「それにしてもユーリさまは評判以上に美しいお方だったな。母君のイレーネさまもお美しいお方だったが、ユーリさまはそれ以上だ」
とポツリと溢した。
確かにユーリさまは美しかった。だが、私にはそれ以上に気になったことがあった。
最初に席を立って私の元に近づいてきた時、あの歩き方がジーノの姿に重なった。
容貌は全く違うのに、ふっとジーノを思い起こさせる。ユーリさまもジーノも同じような身長だし、偶然と言えばそうなのだろうがなんだろう、胸がざわつく。
それに王族であるユーリさまがあんなにも私に必死に感謝を伝えようとなさるとは……なんとも不思議なお方だ。
「ユーリさまは今まで床に臥せっておられたから、縁談話も来てはいなかっただろうが、もう成人を迎えられていることだし、あれだけ元気になられたのだからこれからお忙しくなるだろうな」
「そうですね」
「ただ、陛下がユーリさまを手放されるかどうかだがな。元気になられて一番喜んでいらっしゃるのは陛下だろうからな。あの溺愛っぷりを見ると難しいかもしれんな」
「そうですね」
「もし、お前にユーリさまとの縁談話が来たら受けるのもいいかもしれないな。ジーノとのことは辛い経験だったが、ユーリさまもご両親を亡くされているし、お互いに慰め合えるのではないか? 今回こうして顔を合わせられたのも何かの縁だろう。お前だって多少は前向きになれたのではないか?」
「そうですね」
「おお! そうか! ならば、もし話が来たら進めよう!」
「えっ? なんのことですか?」
自分の不思議な感情を頭の中で整理しながら、父上が話す言葉に適当に相槌を打っていたら、突然父上の嬉しそうな声が聞こえてきて、私には何のことだかわからなかった。
「いやいや、照れるな。あれだけお美しい方がお前のぶっきらぼうな言い方にも怒りもせず笑顔を見せてくださっていたからな。お前の頑なな気持ちにも変化が訪れても不思議はない」
「いえ、だから何のことですか?」
「だから、もし陛下よりユーリさまとの縁談話が来たらの話だ。仮の話だからな」
なんだ。仮の話か。あれだけジーノへの変わらぬ想いを言葉に込めてきたんだ。そんなことあろうはずがない。
それにあの陛下がユーリさまを手放すとも思えない。今日の訪問でもう終わったんだ。
自分でそう結論づけていたはずだったのに、数日後、王家からの正式にユーリさまとの縁談話が届き、私は愕然となったのだった。
「ヴァルフレード! 喜べ! 陛下から正式にユーリさまとの縁談が齎されたぞ。ユーリさまのたっての希望だそうだ」
「そんなこと、私は受けるつもりはありませんよ!」
「何を言っておるのだ! そんなことが罷り通るわけがないだろう! 相手は王家のお方だぞ! お前も話が来たら進めていいといっていたじゃないか!」
「それはっ……」
絶対にありえないただの戯言だと思っていた。
それに……ユーリさまだって、私を気にいるなどありえないと思っていた。
それなのにどうしてこんなことに……。
「お前の気持ちはともかく、話が出た以上こちらは受けるしかないのだ。諦めろ」
「ですが、私はジーノに約束したんです。一生ジーノだけを愛し続けると。その約束を反故になどできません」
「ヴァルフレード、ジーノはお前の幸せを願っていたのだろう? お前がいつまでもジーノに未練を持ち続けて一生一人で寂しく暮らしていくことを望むと思うのか?」
「――っ、それは……」
「お前がジーノを忘れられないのはよくわかる。あの子は素晴らしい子だった。私もあの子が我が家の嫁になることをどれだけ待ち侘びていたことか……。だが、もうジーノはいないんだ。お前も前に進め!」
結局、ジーノに対して申し訳なさが募る中、私はユーリさまと再び顔を合わせることになったのだった。
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