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緊張に震える
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<sideジーノ(ユーリ)>
「ユーリ、今日の午後にアゴスティーノ公爵がヴァルフレードを連れてきてくれるぞ」
「わぁ、本当ですか。お父さま。嬉しいです!」
「ユーリ……お前は本当に元気になったのだな。頬にも赤みが差して見ているだけで幸せになる」
「お父さま……」
ジーノを抱きしめながら、国王さまは涙を潤ませた。きっと長く辛い闘病の日々だったのだろう。ジーノが病に苦しんだのは二ヶ月。その間、ジーノの両親も兄もジーノの顔を見るたびに辛そうだった。ヴァルだけはいつもジーノに笑顔を見せてくれたけれど、きっとジーノが見ていない場所ではずっと辛かったに違いない。
ジーノを失って一人であの思い出の椅子に座っていたヴァルの表情を思い出すと胸が痛くなる。
国王さまも日に日に弱っていくユーリさまを見てお辛かったに違いない。中身はジーノに変わってしまったけれど、元気になったユーリさまのお姿を国王さまの目に焼き付けてほしいと思う。
「お父さま。今日はどんな服を着たらいいですか?」
「お前は病み上がりだから、正装はしなくとも良いぞ」
「それではお父さまが選んでください」
「――っ、おお、そうか。ならば私がユーリの服を選ぶとしよう」
嬉しそうな国王さまの表情にジーノは心が温かくなって行くのを感じていた。きっとずっとこういう親子の触れ合いをなさりたかったのかもしれない。ご機嫌で洋服を選んでくださる姿に、ジーノは自然と笑みが溢れていた。
国王さまが選んでくださった衣装に袖を通し、満足そうな国王さまの隣でヴァルの到着を待つ。この時間がとてつもなく長く感じられた。
それからしばらくして、
「アゴスティーノ公爵、並びに嫡男ヴァルフレードさまがお越しになりました」
と案内が来た。
「それは行こうか」
「は、はい」
久しぶりのヴァルとの再会に胸が高鳴るだけでなく、緊張に身体が震える。
「ユーリ、体調がすぐれないなら今度にするか?」
国王さまがそんな優しいお声がけをしてくださるけれどこんなところで止めるわけにはいかない。
「いえ、大丈夫です。僕の身体を治してくれた恩人と会えると思ったら嬉しくて……」
「ああ、そうか。そうだな。それでは行くとしよう」
国王さまに手と引かれ、ヴァルがいる拝謁の間に向かう。豪奢で重厚な扉が開き、ジーノの目がヴァルを捉えた瞬間、あまりの感激に足が止まってしまった。まだ頭を下げているから顔は見えないけれど、その姿だけでときめいてしまう。
(ああ、本物だ。本物のヴァルがいる。ずっと触れたくても触れられなかったヴァルが……僕の目の前にいるんだ)
いつも近くで嗅いでいたヴァルの優しくて甘い匂いも感じられる。魂だった時は匂いも温もりも何も感じられなかったから、ヴァルの匂いを感じられるだけで自分が生きていることを実感する。
(僕は本当にヴァルの元に戻ってきたんだ)
すぐにでも抱きつきに行きたい衝動を必死に抑えて、国王さまと一緒に席に座る。
ヴァルを正面から見える席だけど、いつも膝の上に座っていたジーノにはもどかしく思えるほど距離がある。
この距離をなんとかしたい。でも、出会ったばかりではさすがに難しい。
早くあの腕に抱きしめられたいのに……。ヴァルへの思いが込み上げてどうしようもない中、
「アゴスティーノ公爵。並びに嫡男・ヴァルフレード。顔を上げてくれ」
と国王さまが声をかけた。
ヴァルとヴァルのお父さんはゆっくりと顔をあげ、ジーノを見て驚きの表情を見せる。
きっと、ユーリさまのお顔を初めて見て驚いたのだろう。ユーリさまはジーノが見ても息を呑むほど美しかったから。
「二人ともよく来てくれた」
「は、はい。陛下におかれましては……」
「ああ、今日はこちらが呼びつけたのだ。堅苦しい挨拶はいらぬ」
「は、はい。失礼いたしました」
「それよりも、アゴスティーノ公爵。私の大事なユーリに薬を献上してくれたこと、改めて礼を言う。そのおかげで、この通りユーリはすっかり回復した。そのお礼をユーリが伝えたいと言うので、其方たちに来てもらったのだ。なぁ、ユーリ」
「はい。お父さま」
笑顔で国王さまに答えると、国王さまは嬉しそうな笑顔を浮かべる。その姿に、ヴァルのお父さんはものすごく驚いているように見えた。確かに国王さまがこんなにも笑顔を見せることはないだろう。それほどユーリさまを溺愛なさっている証だ。
「僕からも、直接お礼を伝えても構いませんか?」
「ああ、かまわぬ」
国王さまからの許可をもらったところで、ジーノはそっと席から立ち上がり、ヴァルの元に向かった。
「えっ? ユーリ?」
「――っ!!」
国王さまとヴァルのお父さんが驚きの表情を向ける中、ジーノは静かにヴァルの前に立ち、
「ヴァルフレードさま。僕を助けてくださって本当にありがとうございます」
と心からのお礼の気持ちを伝えた。
「ユーリ、今日の午後にアゴスティーノ公爵がヴァルフレードを連れてきてくれるぞ」
「わぁ、本当ですか。お父さま。嬉しいです!」
「ユーリ……お前は本当に元気になったのだな。頬にも赤みが差して見ているだけで幸せになる」
「お父さま……」
ジーノを抱きしめながら、国王さまは涙を潤ませた。きっと長く辛い闘病の日々だったのだろう。ジーノが病に苦しんだのは二ヶ月。その間、ジーノの両親も兄もジーノの顔を見るたびに辛そうだった。ヴァルだけはいつもジーノに笑顔を見せてくれたけれど、きっとジーノが見ていない場所ではずっと辛かったに違いない。
ジーノを失って一人であの思い出の椅子に座っていたヴァルの表情を思い出すと胸が痛くなる。
国王さまも日に日に弱っていくユーリさまを見てお辛かったに違いない。中身はジーノに変わってしまったけれど、元気になったユーリさまのお姿を国王さまの目に焼き付けてほしいと思う。
「お父さま。今日はどんな服を着たらいいですか?」
「お前は病み上がりだから、正装はしなくとも良いぞ」
「それではお父さまが選んでください」
「――っ、おお、そうか。ならば私がユーリの服を選ぶとしよう」
嬉しそうな国王さまの表情にジーノは心が温かくなって行くのを感じていた。きっとずっとこういう親子の触れ合いをなさりたかったのかもしれない。ご機嫌で洋服を選んでくださる姿に、ジーノは自然と笑みが溢れていた。
国王さまが選んでくださった衣装に袖を通し、満足そうな国王さまの隣でヴァルの到着を待つ。この時間がとてつもなく長く感じられた。
それからしばらくして、
「アゴスティーノ公爵、並びに嫡男ヴァルフレードさまがお越しになりました」
と案内が来た。
「それは行こうか」
「は、はい」
久しぶりのヴァルとの再会に胸が高鳴るだけでなく、緊張に身体が震える。
「ユーリ、体調がすぐれないなら今度にするか?」
国王さまがそんな優しいお声がけをしてくださるけれどこんなところで止めるわけにはいかない。
「いえ、大丈夫です。僕の身体を治してくれた恩人と会えると思ったら嬉しくて……」
「ああ、そうか。そうだな。それでは行くとしよう」
国王さまに手と引かれ、ヴァルがいる拝謁の間に向かう。豪奢で重厚な扉が開き、ジーノの目がヴァルを捉えた瞬間、あまりの感激に足が止まってしまった。まだ頭を下げているから顔は見えないけれど、その姿だけでときめいてしまう。
(ああ、本物だ。本物のヴァルがいる。ずっと触れたくても触れられなかったヴァルが……僕の目の前にいるんだ)
いつも近くで嗅いでいたヴァルの優しくて甘い匂いも感じられる。魂だった時は匂いも温もりも何も感じられなかったから、ヴァルの匂いを感じられるだけで自分が生きていることを実感する。
(僕は本当にヴァルの元に戻ってきたんだ)
すぐにでも抱きつきに行きたい衝動を必死に抑えて、国王さまと一緒に席に座る。
ヴァルを正面から見える席だけど、いつも膝の上に座っていたジーノにはもどかしく思えるほど距離がある。
この距離をなんとかしたい。でも、出会ったばかりではさすがに難しい。
早くあの腕に抱きしめられたいのに……。ヴァルへの思いが込み上げてどうしようもない中、
「アゴスティーノ公爵。並びに嫡男・ヴァルフレード。顔を上げてくれ」
と国王さまが声をかけた。
ヴァルとヴァルのお父さんはゆっくりと顔をあげ、ジーノを見て驚きの表情を見せる。
きっと、ユーリさまのお顔を初めて見て驚いたのだろう。ユーリさまはジーノが見ても息を呑むほど美しかったから。
「二人ともよく来てくれた」
「は、はい。陛下におかれましては……」
「ああ、今日はこちらが呼びつけたのだ。堅苦しい挨拶はいらぬ」
「は、はい。失礼いたしました」
「それよりも、アゴスティーノ公爵。私の大事なユーリに薬を献上してくれたこと、改めて礼を言う。そのおかげで、この通りユーリはすっかり回復した。そのお礼をユーリが伝えたいと言うので、其方たちに来てもらったのだ。なぁ、ユーリ」
「はい。お父さま」
笑顔で国王さまに答えると、国王さまは嬉しそうな笑顔を浮かべる。その姿に、ヴァルのお父さんはものすごく驚いているように見えた。確かに国王さまがこんなにも笑顔を見せることはないだろう。それほどユーリさまを溺愛なさっている証だ。
「僕からも、直接お礼を伝えても構いませんか?」
「ああ、かまわぬ」
国王さまからの許可をもらったところで、ジーノはそっと席から立ち上がり、ヴァルの元に向かった。
「えっ? ユーリ?」
「――っ!!」
国王さまとヴァルのお父さんが驚きの表情を向ける中、ジーノは静かにヴァルの前に立ち、
「ヴァルフレードさま。僕を助けてくださって本当にありがとうございます」
と心からのお礼の気持ちを伝えた。
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