ジーノの秘密の恋 〜もう一度愛してると聞かせて……

波木真帆

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お礼が言いたい

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まさか、こんなにも早くアゴスティーノ家の名前を国王さまから聞くことができるなんてジーノは思いもしなかった。

「ア、アゴスティーノ家、ですか?」

必死に冷静を装いながら聞き返してみると、国王さまはジーノに優しい笑顔を向けながら教えてくださった。

「ああ。昨夜、アゴスティーノ家から薬の献上品が届いたのだよ。それがユーリに今朝飲ませた、どんな病でもたちどころに治してしまうというジーアレス王国の秘薬だ。本来はアゴスティーノ家の嫡男が、病気を患った婚約者のために手に入れた秘薬だったが、この薬が届く前に残念ながら天に召されてしまったそうでな……そのまま誰も飲まずに秘薬を無駄にしてしまうよりは、ユーリに役立ててほしいとアゴスティーノ公爵からユーリに届けられたのだよ。おかげでユーリが元気になった。本当に素晴らしい薬を届けてくれたものだ。なぁ、ユーリ」

「は、はい……」

(ヴァルが僕のために探してくれたんだ。ずっと僕を助け出せる医師を探すと言ってくれていたもんね。あのジーアレス王国の秘薬まで手に入れるなんて……どれほど僕に尽力してくれていたかわかる。ヴァル……その気持ちだけで僕は嬉しいよ)

もし、ジーノがその秘薬を飲むことができていたら事態は変わっていたのだろうか? いや、このユーリさまの身体が元気なのは、ジーノと入れ替わる代わりに神さまが健康体に戻してくださったおかげだ。きっとその秘薬の力じゃない。でも、このつながりがあるのなら、もしかしたらヴァルと早々に出会えるかもしれない。ジーノの心の中にそんな期待が膨らんでいた。

「あの、僕……薬を探してくださったヴァ……アゴスティーノ家の嫡男さんに、直接お礼が言いたいです」

思わずヴァルといいかけて慌てて言い直したけれど、国王さまはそのことよりも直接お礼が言いたいと言った言葉の方に驚いたようだった。

「えっ? ユーリが? アゴスティーノ侯爵ではなく、ヴァルフレードに? 直接?」

目を丸くする国王さまの様子を見て、もしかしたらユーリさまはそんなタイプではなかったのかもしれないと思ったが、なんせジーノには時間がない。ヴァルの体調も考えれば、少しでも早くヴァルと繋がりを持たなければいけない。

「はい。その方が見つけてくださった薬のおかげでこんなにも元気になれたんですから、お礼が言いたいです」

「だが、お前が直接ヴァルフレードに会うというのは……」

「だめ、ですか……?」

「くっ――!!」

ユーリさまの綺麗で可愛らしい顔で国王さまを見つめてみる。これはジーノが父やヴァルに何かお願いしたい時にする癖のようなものだ。こうすると何故か父もヴァルも苦しげにしながらも了承してくれる。それをユーリさまの姿でもやってみただけなのだが、国王さまも父やヴァルと同様に苦しげな表情を見せながらも、

「わ、わかった……。では、アゴスティーノ家に連絡をしてヴァルフレードに来るように伝えるとしよう」

とジーノの願いを聞き入れてくださった。どうやらこのお願いの癖はユーリさまでも有効なようだ。

「わぁっ! 嬉しいっ! 国王さま! ありがとうございます!」

ヴァルに会える。その喜びが溢れてしまい、ジーノは自分がユーリさまになったことも忘れて、目の前の国王さまにお礼を言いながら抱きついてしまった。

「ユ、ユーリ! ど、どうしたんだ? 私のことはいつもお父さまと呼んでくれていただろう?」

「えっ? あっ! えっと……体調がよくなったのが嬉しくて、その……お父さまが国王さまでよかったなって……そう! だから、お父さまのおかげです。お父さま、大好き!」

「――っ、そ、そうか。ユーリに好きと言ってもらえるのは私も嬉しいよ。本当に元気になってよかった」

国王さまはまだ少し困惑している様子ではあったが、ジーノを大きな身体で優しく抱きしめてくれた。

「本当によかった……」

ジーノの頬に温かいものが落ちる。見れば、国王さまの目から涙が溢れている。ユーリさまにお父さまと呼ばせるほど愛情を込めてお育てになっていたのだろう。病気に苦しんでいたユーリさまのお顔は拝見したことはないが、一目見て顔色がいいことに気づくくらいだ。いつもユーリさまの体調を気遣っていたのだろう。

「お父さま……」

国王さまの、ユーリさまへの想いが伝わってきて、ジーノは思わず国王さまの頬を流れる涙を指で拭った。

「僕は、もう大丈夫ですよ……」

「ユーリっ!! お前は、本当に優しい子だ」

そのまましばらく国王さまに抱きしめられていたが、薄着だったからかコンコンと乾いた咳をしてしまった。するとすぐに国王さまがパッとジーノから離れ、不安げに表情を見つめる。

「ユーリ、ベッドに戻ろう。せっかく頬に赤みが差していたというのに、少し顔色が悪くなってきた。身体を冷やしてしまっては熱を出してしまう」

「は、はい」

国王さまをこれ以上心配させたくなくて急いでベッドに戻ろうとしたけれど、ジーノが歩くよりも早くふわりと身体が浮いた。

「えっ? あ、お、父さま……」

「私がベッドまで連れて行こう。薬が効いたとはいえ、ずっと寝たきりだったのだ。急に動き出すのは危ない」

「は、はい」

国王さまがジーノを抱きかかえているなんてこれまでの人生なら絶対にあり得ない出来事にジーノは驚きつつも、そっと国王さまの首に腕を回した。

――首に手を回してくれた方が安定するんだ。だからジーノはいつでも私に抱きついてくれ。

ヴァルがそう言ってくれたことを思い出したからだ。国王さまはジーノが首に手を回した瞬間、穏やかな笑顔を浮かべて、

「ああ、それでいい」

と嬉しそうに仰った。
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