ジーノの秘密の恋 〜もう一度愛してると聞かせて……

波木真帆

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神との約束

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「神さま、ユーリさまと代わって生きていくというのはどういう意味ですか?」

神さまの言葉を静かに聞いていたジーノだったが、想像だにしない神さまの言葉に思わず問いかけてしまった。
なんせユーリさまといえば、シェルレク王国で最も美しい侯爵令嬢と言われていたイレーネさまと国王さまの三番目の王子であるジョヴァンニさまとの間に生まれたお子さまで、シェルレク王国一の美青年だともっぱらの噂だ。

ただ、残念なことにイレーネさまはユーリさまをご出産されてすぐにご病気で亡くなられ、それから数年後にジョヴァンニさまも視察先で事故に巻き込まれ亡くなられた。ご両親を亡くされた後は陛下がたっぷりと愛情をかけてユーリさまをお育てになっていたけれど、イレーネさま同様に元々お身体があまり強くなくここ数年は病気で臥せっていらっしゃると伺っていた。だから、ジーノはユーリさまに直接お会いしたことはなかった。

神さまはジーノの問いに応えるように、ユーリさまについて話をなさった。

ーユーリは生まれながらに病弱で、ほとんど部屋から出たことがなくこの世界に全く未練がない。それどころか、現世での命を早く終え、病弱な身体から解き放たれたいといつも話している。だが、ユーリにはあと一年ほど寿命が残っている。だからジーノ、お前がユーリとなって下界で残りの人生を歩むというのならばその後の未来を交換しようということだ。お前がユーリに代わって残りの人生を歩むならば、ユーリをこちらに呼び、お前の代わりにジーアレス王国の姫として生まれ変わらせる。どうだ?

ユーリさまには下界への未練がない。死後も尚、ヴァルへの未練が断ち切れないジーノとは真逆だ。だが、今の生活が辛いのならユーリさまにとっては少しでも早く新しい人生を歩むことができるいい機会なのかもしれない。未練が残っているジーノがユーリさまとなって残りの人生を過ごし、ユーリさまがジーノの代わりに生まれ変わる。確かに理に適っている。でもそれがヴァルの幸せになるかどうか……それが問題だ。

「あの、恐れながら神さま……僕が下界に戻れることは嬉しいことですが、残された寿命があと一年という短さであれば、ユーリさまとして戻ったところでまたヴァルに辛い思いをさせてしまうのではありませんか? それにユーリさまが病弱で部屋から出られないのであれば、そもそもヴァルと出会うこともできません。それは一体どうしたら良いのですか?」

ーそこは私に任せるが良い。其方に力を貸すとしよう。

「僕に力を、ですか?」

ーああ。まず、ユーリとして生まれ変わった残りの寿命は健康体として蘇らせよう。そしてユーリの命が尽きる一年の間に、ヴァルフレードの気持ちをジーノからユーリに向けさせ、無事に夫夫となれたらその時はヴァルフレードの命が尽きるその時までお前の寿命も伸ばしてやろう。

「僕が、ヴァルの気持ちをユーリさまに向けさせる……そんなことができるでしょうか?」

いくらユーリさまがこの国で一番の美青年であったとしても、ヴァルはジーノを愛してくれていた。いや、ジーノが死んでしまった今でもずっと愛しているといってくれているのに……。

ー確かに、ヴァルフレードがお前の容貌を好いていたのなら難しいかもしれんな。

「いえ、ヴァルは見た目ではなくて、僕の中身を好きでいてくれたはずです!」

ーふっ。それならば構わぬだろう? お前が心から愛せば見た目がユーリであっても、ヴァルフレードはきっと思いに応えるだろう。

(僕が心からヴァルを愛せば……見た目がユーリさまであっても好きになってくれる? その保証はないけれど、それに賭けるしかないんだろうか……)

ー但し、ユーリの残りの寿命である一年の間に、ヴァルフレードの気持ちをユーリに向けることができなければ、ユーリの寿命が尽きたその時、ヴァルフレードの命も潰え、二人を問答無用で生まれ変わらせる。お前はユーリが生まれ変わるはずだった町娘にな。ヴァルフレードは……そうだな、野犬に生まれ変わらせるのもいいかもしれないな。さぁ、どうする? ジーノ、どちらを選ぶ?

今、ジーノが全ての未練を捨てて生まれ変われば、ヴァルはジーノを失ったショックで自ら命を絶ってしまうかもしれない。けれど、ユーリさまとなって生まれ変わっても、ヴァルの気持ちをジーノユーリさまに向けなければ、一年後には二人とも寿命を終えてしまう。

けれどもし、ジーノがヴァルの心をユーリさまとなった自分に向けることができたら、長い人生を共に歩める。ジーノとヴァルがこの五年願ってきたことが叶うのだ。

ヴァルとジーノにとって、どの選択が一番いいかを考えたらもう選ぶのはひとつしかない。

「僕……ユーリさまとして生きていきます! そして、ヴァルと絶対に幸せな未来を歩んでみせます!!」

ーそうか。わかった。但し、ジーノ。お前にはユーリとして生まれ変わったあと、ジーノとしての記憶は残しておいてやるが、自分がジーノであったことは絶対に誰にも言ってはならないし、知られてはいけない。もし、その約束を違えた時には、即座に寿命が尽きることとなる。

「えっ……でも、それじゃあ……」

ーヴァルフレードの気持ちを向けることはできないか? それなら素直に諦めて、ジーアレス王国の姫となって次の人生を歩む方を選ぶか?

「――っ!! それは……っ」

ーどうする? ジーノ。

自分だけが何もかも忘れて幸せになることなんてできない。制約はあるけれど、ジーノもヴァルも幸せになるのはもうこの道しか残されていない。

「わかりました。決して、ジーノだと告げず、気づかれないようにすると約束します」

ーよし。わかった。二人の未来がうまくいくように私も見守っていよう。頑張るのだぞ。


その声が聞こえたと思ったら、また眩い光がジーノを包み込んだ。今度は何もかもが見えないほどの強い光の中、ジーノは軽かった身体が久しぶりに重みを得たような感覚を抱いていた。
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