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本当に僕でいいの?
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約束の時間、玄関に家族全員が並び、ヴァルフレードさまの到着を待った。ジーノの顔を見た瞬間、幻滅されるのではないかと不安でいっぱいだったが、玄関でジーノの顔を見てヴァルフレードさまはすぐにジーノを抱きしめて、笑顔を見せてくれた。
「ジーノ! また会えて嬉しいよ!」
(ああ……なんて優しい笑顔なんだろう……)
初めて会ったあの時は野犬に襲われた恐怖が大きすぎて正直言ってほとんど覚えていなかった。けれど、今日初めて間近で笑顔の彼を見て、ジーノは一瞬で恋に落ちてしまった。優しい瞳に凛々しい眉、それに細く高い鼻梁。手足も長く身長はジーノより二十センチ以上は優に高いだろう。けれど、ジーノに目線を合わせて話しかけてくれる優しい人。そんな人に笑顔を向けられたら落ちないわけがなかった。
一目惚れ……いや、実際には二目惚れなのかもしれない。でも、何度会ったって、絶対に彼を好きになる。ジーノにはそんな自信めいたものがあった。
「早速だが、ジーノと二人でゆっくりと話がしたい。ジーノの部屋に案内してくれないか?」
てっきり父の応接間で話をするのだと思っていた。そっと父に視線を向けると、父が頷くのが見えた。父が許してくれるのなら断る理由もない。
「は、はい。ご案内します」
玄関からジーノの部屋までは階段を上がってすぐ。けれど今日は部屋までの道のりがやけに長く感じる。あまりの緊張に足が止まってしまいそうなのを必死に動かしながら部屋に案内した。
「ここが、ジーノの部屋か。実に可愛らしいな」
キョロキョロと辺りを見回しながら仕立ての良い靴で部屋の中に進んでいく。彼がいるだけで見慣れた小さな部屋がまるで豪華な王宮のように見えてしまうのだから不思議だ。
「こ、こちらにどうぞ」
「ありがとう」
この部屋の中で一番気に入っている、肌触りのいい青いベルベットの背当てのついた猫足の木製の椅子に案内すると、彼はゆっくりと腰を下ろし、足を組んで座った。
(僕が座るのとでは大違いだ。これは彼に座ってもらうために存在しているみたいだ)
せっかくの彼の温もりを失いたくないとまで思ってしまうほど、この椅子は彼によく似合っていた。
「あの時は怪我はしていなかった?」
「は、はい。お、おかげさまで……あ、あの、あの時は、本当に、あ、ありがとうございます」
うっとりと彼の姿を見ていたから急に声をかけられて上擦ってしまったが、なんとかあの時のお礼は言えた。けれど、彼のジーノの評価は下がってしまったかもしれない。
(やっぱり今日で彼と過ごす時間も終わりか……)
心の中でがっかりと肩を落としていると、
「……ノ、ジーノ。聞いているか?」
という声が聞こえて視線を上げた。すると、いつの間に椅子から離れていたのだろう。目の前に彼がいた。
「ひゃあっ! ご、ごめんなさい。ヴァルフレードさまに見惚れてしまって……」
「そうか、なら謝ることはない。もっと、しっかりと近くで見てくれていいのだぞ」
ふわりと身体が浮かび上がったかと思ったら、あの日のように彼の逞しい腕に抱えられ、ジーノは彼に似合うあの椅子に座るヴァルフレードさまの膝の上に座っていた。
「ち、近すぎますっ」
「あの日はもっと近かっただろう?」
「で、でも……」
「そんなに怯えないでくれ。私が怖いか?」
「怖いだなんてそんなことっ! ただ、緊張が止まらなくて……」
「ジーノ……私に緊張などしないでくれ。あの日、私はジーノに恋をしたのだ。野犬に襲われ恐怖に震えるジーノに悪いと思いつつも、私の腕の中にすっぽりとおさまったジーノを抱き一生こうして守ってやりたいという感情を覚えた。ジーノが誰かのものになる前に、私のものにしたかった。だから、急だとは思ったが父に頼み早急に縁談話を勧めてもらったのだ」
「ヴァルフレードさま……」
(ヴァルフレードさまの手が震えている。僕と同じように緊張している?)
「ジーノを手放したくない。此度の話……どうか、受け入れてくれぬか?」
「ヴァルフレードさま……。本当に僕なんかでよろしいのですか?」
「ジーノでないといけないのだ。だから、頼む。成人したら私の夫になって欲しい。それまでの日々は許嫁として二人でたっぷりと愛を育もう」
(僕の人生でここまで望まれることはもう一生ないだろう。だったら、ヴァルフレードさまのお言葉を信じよう。僕だって、もうヴァルフレードさまのものになりたくて仕方がないのだから)
もうジーノには彼との縁を拒む理由などどこにもなかった。
「はい。ヴァルフレードさま……」
「もう私たちは許嫁なのだ。私のことはヴァルと呼んでくれ」
「ヴァル……」
「ああ、私のジーノ! 愛しているよ」
ヴァルからのそのプロポーズの言葉を了承して、二人は両家公認の婚約者になった。
「ジーノ! また会えて嬉しいよ!」
(ああ……なんて優しい笑顔なんだろう……)
初めて会ったあの時は野犬に襲われた恐怖が大きすぎて正直言ってほとんど覚えていなかった。けれど、今日初めて間近で笑顔の彼を見て、ジーノは一瞬で恋に落ちてしまった。優しい瞳に凛々しい眉、それに細く高い鼻梁。手足も長く身長はジーノより二十センチ以上は優に高いだろう。けれど、ジーノに目線を合わせて話しかけてくれる優しい人。そんな人に笑顔を向けられたら落ちないわけがなかった。
一目惚れ……いや、実際には二目惚れなのかもしれない。でも、何度会ったって、絶対に彼を好きになる。ジーノにはそんな自信めいたものがあった。
「早速だが、ジーノと二人でゆっくりと話がしたい。ジーノの部屋に案内してくれないか?」
てっきり父の応接間で話をするのだと思っていた。そっと父に視線を向けると、父が頷くのが見えた。父が許してくれるのなら断る理由もない。
「は、はい。ご案内します」
玄関からジーノの部屋までは階段を上がってすぐ。けれど今日は部屋までの道のりがやけに長く感じる。あまりの緊張に足が止まってしまいそうなのを必死に動かしながら部屋に案内した。
「ここが、ジーノの部屋か。実に可愛らしいな」
キョロキョロと辺りを見回しながら仕立ての良い靴で部屋の中に進んでいく。彼がいるだけで見慣れた小さな部屋がまるで豪華な王宮のように見えてしまうのだから不思議だ。
「こ、こちらにどうぞ」
「ありがとう」
この部屋の中で一番気に入っている、肌触りのいい青いベルベットの背当てのついた猫足の木製の椅子に案内すると、彼はゆっくりと腰を下ろし、足を組んで座った。
(僕が座るのとでは大違いだ。これは彼に座ってもらうために存在しているみたいだ)
せっかくの彼の温もりを失いたくないとまで思ってしまうほど、この椅子は彼によく似合っていた。
「あの時は怪我はしていなかった?」
「は、はい。お、おかげさまで……あ、あの、あの時は、本当に、あ、ありがとうございます」
うっとりと彼の姿を見ていたから急に声をかけられて上擦ってしまったが、なんとかあの時のお礼は言えた。けれど、彼のジーノの評価は下がってしまったかもしれない。
(やっぱり今日で彼と過ごす時間も終わりか……)
心の中でがっかりと肩を落としていると、
「……ノ、ジーノ。聞いているか?」
という声が聞こえて視線を上げた。すると、いつの間に椅子から離れていたのだろう。目の前に彼がいた。
「ひゃあっ! ご、ごめんなさい。ヴァルフレードさまに見惚れてしまって……」
「そうか、なら謝ることはない。もっと、しっかりと近くで見てくれていいのだぞ」
ふわりと身体が浮かび上がったかと思ったら、あの日のように彼の逞しい腕に抱えられ、ジーノは彼に似合うあの椅子に座るヴァルフレードさまの膝の上に座っていた。
「ち、近すぎますっ」
「あの日はもっと近かっただろう?」
「で、でも……」
「そんなに怯えないでくれ。私が怖いか?」
「怖いだなんてそんなことっ! ただ、緊張が止まらなくて……」
「ジーノ……私に緊張などしないでくれ。あの日、私はジーノに恋をしたのだ。野犬に襲われ恐怖に震えるジーノに悪いと思いつつも、私の腕の中にすっぽりとおさまったジーノを抱き一生こうして守ってやりたいという感情を覚えた。ジーノが誰かのものになる前に、私のものにしたかった。だから、急だとは思ったが父に頼み早急に縁談話を勧めてもらったのだ」
「ヴァルフレードさま……」
(ヴァルフレードさまの手が震えている。僕と同じように緊張している?)
「ジーノを手放したくない。此度の話……どうか、受け入れてくれぬか?」
「ヴァルフレードさま……。本当に僕なんかでよろしいのですか?」
「ジーノでないといけないのだ。だから、頼む。成人したら私の夫になって欲しい。それまでの日々は許嫁として二人でたっぷりと愛を育もう」
(僕の人生でここまで望まれることはもう一生ないだろう。だったら、ヴァルフレードさまのお言葉を信じよう。僕だって、もうヴァルフレードさまのものになりたくて仕方がないのだから)
もうジーノには彼との縁を拒む理由などどこにもなかった。
「はい。ヴァルフレードさま……」
「もう私たちは許嫁なのだ。私のことはヴァルと呼んでくれ」
「ヴァル……」
「ああ、私のジーノ! 愛しているよ」
ヴァルからのそのプロポーズの言葉を了承して、二人は両家公認の婚約者になった。
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