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消えない傷痕
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「絶対幸せにする!」
誰もが憧れる夢の国のお城の前で、大勢の人に見守られながら湊介は俺に片膝をついて、パカッとベルベットの小さな小箱を開いた。
キラキラと輝く見るからに豪華そうな指輪を俺に見せながら、
「莉斗……結婚しよう!」
と満面の笑みでプロポーズしてくれたんだ。
嬉しい!
俺はずっと湊介が好きだったから……。
でも……それは本当に湊介の本心なのか?
湊介の笑顔を見ていると、俺のおでこがズキリと痛む。
もう傷は治っているはずなのに……。
この傷が湊介を縛ってるんだ。
でも、湊介の言葉がただの責任から来ているものであったとしても俺はこの手を取らずにはいられない。
それでいいんだ。
湊介のそばにいられるなら……。
今から2週間前――
「ああ。こっち、こっち~!」
待ち合わせのカフェに足を踏み入れ、どこにいるかなと店内を見回そうかと思った瞬間、少し離れた奥の席から聞き慣れた声が聞こえた。
声をかけられた瞬間、カフェ中の視線が俺に突き刺さる。
それはそうだろう。
待ち合わせをしていた彼は、四ノ宮湊介。
俺の高校時代からの友達だ。
身長は185以上はあるだろう、長身で100人中100人がイケメンだと答える綺麗な顔立ち。
大学を卒業してすぐに起業した湊介の会社はかなりの業績を上げていて、お金に不自由もない。
顔よし、金よし、そして性格までよしとくれば、モテないわけがないのだが、俺が知る限り高校時代から特定の彼女はいない。
休日が合えば、いつでも俺とこうやってつるんでくれる湊介は俺の1番の親友だ。
対して、俺、青葉莉斗は身長は170cmをギリギリ超えたところ。
日本人男性の平均に少し足りないくらいだけど、チビだとまではいかないだろうと自分では思っている。
正直、湊介と一緒にいるとかなり小さくみられるのは身長だけじゃなく、筋肉のつきにくいこの華奢な身体のせいだろう。
俺の目下の悩みは格好によっては女性に間違えられてしまうことなんだけど、湊介はいつもそんな俺を可愛くていいじゃんと笑ってくれるんだ。
「待たせてごめん」
慌てて席へ駆け寄ると、
「俺もさっき来たところだから気にするな」
とまるでデートのお約束のような会話で返してくれる。
そんな時間が心地よかった。
お目当ての昼食を食べにいこうと席を立ったとき、急に目の前にある女性が立ちはだかった。
空いている席がないのかなと思ったけれど、周りを見渡してもまだまだ空席が目立つ。
一体なんの目的だ?
そう思っていると、彼女は急にキッと俺を睨んで、
「湊介さん、私よりこんな人がいいんですか? 私の方が美人なのに! 私をどうして選んでくれないんですか?!」
と突然叫び始めた。
ど、どういうこと?
すると、湊介は『はぁーーーっ』と大きなため息を吐いて、
「すみませんがはっきりとお断りしたはずです。あなたとはお付き合いできません」
そうはっきりと拒絶の言葉を言い放った。
その言葉に彼女がくっと唇を噛み締めながら、拳をぎゅっと握り締める。
「莉斗、気にしないでいいから行こう」
湊介に手を引かれ、その場から立ち去ろうとすると、
「ちょっとっ、待ちなさいよっ!!! 私の湊介さん、盗らないでよ!!!
湊介さんは私のものなの! あんたなんかに盗られるくらいなら、こうしてやるんだから!!!」
大声で捲し立てたかと思うと、俺たちのテーブルにあったグラスを手に取り、湊介に向かって思いっきり投げつけた。
「湊介っ! 危ないっ!!」
湊介に当たる!
そう思った時には身体が勝手に動いていた。
ガンッ!!
と大きな衝撃を感じたと同時に俺の目の前は真っ暗になって、その場に倒れてしまったんだ。
「莉斗っ! 莉斗ーーっ!!」
薄れゆく意識の中で切羽詰まったような湊介の声だけが耳に残っていた。
んっ? ここ、どこだ?
頭を動かそうとしてズキッと痛みを感じてこめかみに手をやった瞬間、包帯が巻かれている感触がした。
あっ、そうか。
俺、湊介の代わりに……。
湊介は大丈夫だったのかな?
そっと視線を動かすと、俺のベッドのすぐ近くで頭を抱え込んで椅子に座っている湊介が見えた。
無事だったんだと思いながら、
「……そぅ、すけ……」
と声をかけると、バッとその声に反応して俺をみた。
髪もボサボサでいつものかっこよく決めた湊介とはまるで違う憔悴しきったぐしゃぐしゃな顔で
「……り、と……?」
と小さく呟いた。
「お、れ……」
「ごめんっ! 莉斗っ! 俺のせいでこんなことに――!!」
「そぅ、すけ……」
「えっ?」
「そぅ、すけ……は、だい、じょうぶ、だった……?」
「――っ!! くっ! ああっもうっ、莉斗はなんでこんな……」
俺はその時初めて湊介の涙を見たんだ。
俺に縋り付いて泣く湊介の姿を……。
それからすぐに湊介は俺の意識が戻ったとナースコールで連絡を入れ、やってきたお医者さんの診察を受けた。
とりあえず脳波には異常もなく、ここで念のために一晩休んだら帰ってもいいと言われてホッとした。
お医者さんたちが部屋を出て、湊介がだいぶ落ち着いてからあの時のことを教えてくれた。
「それで、あの女性は一体なんだったんだ?」
「あの子はうちの取引先相手のお嬢さんで、この前接待の時に父親である部長さんに一度会うだけでいいからと頼み込まれたんだ。俺のことを雑誌で見かけて会いたがってるからどうしてもと言われて……何度も断ったけれど一度会えば納得するからと言われて渋々会うことにしたんだ。もちろん、2人っきりじゃなくその部長さんも一緒にだ。だが……彼女は会ったことでますます俺への想いが膨らんだとか言い出して、どうしても付き合ってほしいと言い出してきた。
だから、俺は『大切な人がいます。ゆくゆくはその人と結婚するつもりでいるのであなたとは付き合えません』ってキッパリと断ったんだ」
「えっ……」
俺はその女性の話より、湊介に大切な相手がいる。
しかもその人と結婚しようと思っているという話の方が気になってどうしようもなかった。
湊介にそんな人がいたなんて……ずっと一緒にいたのに俺は何も知らなかった。
俺はずっと湊介が好きだったのに。
湊介は誰か違う人と結婚しようと思うくらい好きなんだな。
まぁ最初から俺なんか友達としてならともかく、釣り合いとれなさすぎて結婚なんてできるとは思ってなかったけど、ずっとずっと一緒にはいられると思ってた。
でも、湊介がその人と結婚したらもうこうやって会ったりはできないんだろうな……。
途端に寂しさが押し寄せてきて、俺は湊介の話を聞くこともできなくなった。
「莉斗? 大丈夫か? 話は後にして休んだほうがいいんじゃないか?」
「い、いや、大丈夫。ごめん、ちょっとぼーっとしちゃっただけ。大丈夫、ちゃんと話聞いてるから」
「そうか? 具合悪かったらすぐ言えよ」
「うん、ありがとう。それで、どうなったんだ?」
「あ、ああ。キッパリ断ったんだけど、会社終わりに待ち伏せされて、ストーカーまがいのことされてて、困って部長さんに話をしたら注意しておいてくれるって言ってくれて、ここ最近は何もなかったから諦めてくれたと思って、今日莉斗と会うことにしたんだけど、まさかこんなことになるなんて……」
そうか、俺が一緒にいたから湊介の大切な相手が俺だと勘違いしたんだ。
湊介が結婚したいほど好きな相手が俺なんかのわけないのに。
「あの彼女は、どうなったんだ?」
「ああ、すぐに店の人が警察を呼んでくれて連れて行かれたよ。後のことは弁護士に任せたから莉斗は気にしないでいいよ」
「そっか……」
「それよりも……」
ずっと憔悴しきって青白かった湊介がさらに青褪めた顔を見せながら、俺の顔をじっと見つめてきた。
「湊介……どうしたんだ?」
「莉斗の、その傷……痕が残るって」
「えっ?」
「ぶつかった衝撃で割れたグラスが皮膚を抉ってしまったらしくて、綺麗に縫合してもらったけどどうしても痕は残るだろうって先生が……」
痕が残ると聞いて俺は正直、ああ、そうなんだ……って思うくらいだったけれど、湊介はこの世の終わりとでも言いそうなほどの負のオーラ満載で、痛々しそうな表情をしながら包帯に覆われた俺の傷口にそっと指先を触れさせた。
「――っ!」
ピリッとした痛みに眉を顰めると、
「ごめんっ! 痛かった?」
と涙に潤んだ瞳で尋ねられる。
湊介ってこんなに泣き虫だったか?
こっちの方が可哀想に思えてきて、
「大丈夫だよ、ちょっとびっくりしただけ」
と返すと、湊介は真剣な表情で
「莉斗を巻き込んでしまって本当に悪かった」
と何度も何度も謝罪の言葉を繰り返していた。
それから面会時間が過ぎ、後ろ髪を引かれるような表情をしながら湊介は部屋を出て行った。
ああ、そういえばここって個室なんだ。
湊介がいなくなったら途端にこの部屋の広さが感じられて、寂しくなってきた。
湊介のあんなに取り乱した顔、初めて見たな。
まぁ、目の前で友達が襲撃されたらそりゃあそうなるか。
でも、犯人は捕まったっていうし、俺も命には別状ないし、今日はショックだっただろうけど湊介もきっとすぐ元気になるよな。
俺は、こんな傷よりも湊介に好きな相手がいる方に驚いた。
あれだけ一緒にいたのに、そんな素振りも全くなかったし、何も知らなかった。
だから、俺は湊介のそばにずっといられると思って安心していたのに……。
こんなことがあったら湊介はさっさとその大切な人に告白するんだろうな。
身を固めたらああやって見合いまがいのことを頼まれずに済むだろうし。
そうなったらもう湊介と過ごせるのも終わりなのか……。
傷の痛みよりも、湊介との時間がなくなる心の痛みが強い。
はぁーっ。もうこっそり思うのも終わらせないとな。
誰もが憧れる夢の国のお城の前で、大勢の人に見守られながら湊介は俺に片膝をついて、パカッとベルベットの小さな小箱を開いた。
キラキラと輝く見るからに豪華そうな指輪を俺に見せながら、
「莉斗……結婚しよう!」
と満面の笑みでプロポーズしてくれたんだ。
嬉しい!
俺はずっと湊介が好きだったから……。
でも……それは本当に湊介の本心なのか?
湊介の笑顔を見ていると、俺のおでこがズキリと痛む。
もう傷は治っているはずなのに……。
この傷が湊介を縛ってるんだ。
でも、湊介の言葉がただの責任から来ているものであったとしても俺はこの手を取らずにはいられない。
それでいいんだ。
湊介のそばにいられるなら……。
今から2週間前――
「ああ。こっち、こっち~!」
待ち合わせのカフェに足を踏み入れ、どこにいるかなと店内を見回そうかと思った瞬間、少し離れた奥の席から聞き慣れた声が聞こえた。
声をかけられた瞬間、カフェ中の視線が俺に突き刺さる。
それはそうだろう。
待ち合わせをしていた彼は、四ノ宮湊介。
俺の高校時代からの友達だ。
身長は185以上はあるだろう、長身で100人中100人がイケメンだと答える綺麗な顔立ち。
大学を卒業してすぐに起業した湊介の会社はかなりの業績を上げていて、お金に不自由もない。
顔よし、金よし、そして性格までよしとくれば、モテないわけがないのだが、俺が知る限り高校時代から特定の彼女はいない。
休日が合えば、いつでも俺とこうやってつるんでくれる湊介は俺の1番の親友だ。
対して、俺、青葉莉斗は身長は170cmをギリギリ超えたところ。
日本人男性の平均に少し足りないくらいだけど、チビだとまではいかないだろうと自分では思っている。
正直、湊介と一緒にいるとかなり小さくみられるのは身長だけじゃなく、筋肉のつきにくいこの華奢な身体のせいだろう。
俺の目下の悩みは格好によっては女性に間違えられてしまうことなんだけど、湊介はいつもそんな俺を可愛くていいじゃんと笑ってくれるんだ。
「待たせてごめん」
慌てて席へ駆け寄ると、
「俺もさっき来たところだから気にするな」
とまるでデートのお約束のような会話で返してくれる。
そんな時間が心地よかった。
お目当ての昼食を食べにいこうと席を立ったとき、急に目の前にある女性が立ちはだかった。
空いている席がないのかなと思ったけれど、周りを見渡してもまだまだ空席が目立つ。
一体なんの目的だ?
そう思っていると、彼女は急にキッと俺を睨んで、
「湊介さん、私よりこんな人がいいんですか? 私の方が美人なのに! 私をどうして選んでくれないんですか?!」
と突然叫び始めた。
ど、どういうこと?
すると、湊介は『はぁーーーっ』と大きなため息を吐いて、
「すみませんがはっきりとお断りしたはずです。あなたとはお付き合いできません」
そうはっきりと拒絶の言葉を言い放った。
その言葉に彼女がくっと唇を噛み締めながら、拳をぎゅっと握り締める。
「莉斗、気にしないでいいから行こう」
湊介に手を引かれ、その場から立ち去ろうとすると、
「ちょっとっ、待ちなさいよっ!!! 私の湊介さん、盗らないでよ!!!
湊介さんは私のものなの! あんたなんかに盗られるくらいなら、こうしてやるんだから!!!」
大声で捲し立てたかと思うと、俺たちのテーブルにあったグラスを手に取り、湊介に向かって思いっきり投げつけた。
「湊介っ! 危ないっ!!」
湊介に当たる!
そう思った時には身体が勝手に動いていた。
ガンッ!!
と大きな衝撃を感じたと同時に俺の目の前は真っ暗になって、その場に倒れてしまったんだ。
「莉斗っ! 莉斗ーーっ!!」
薄れゆく意識の中で切羽詰まったような湊介の声だけが耳に残っていた。
んっ? ここ、どこだ?
頭を動かそうとしてズキッと痛みを感じてこめかみに手をやった瞬間、包帯が巻かれている感触がした。
あっ、そうか。
俺、湊介の代わりに……。
湊介は大丈夫だったのかな?
そっと視線を動かすと、俺のベッドのすぐ近くで頭を抱え込んで椅子に座っている湊介が見えた。
無事だったんだと思いながら、
「……そぅ、すけ……」
と声をかけると、バッとその声に反応して俺をみた。
髪もボサボサでいつものかっこよく決めた湊介とはまるで違う憔悴しきったぐしゃぐしゃな顔で
「……り、と……?」
と小さく呟いた。
「お、れ……」
「ごめんっ! 莉斗っ! 俺のせいでこんなことに――!!」
「そぅ、すけ……」
「えっ?」
「そぅ、すけ……は、だい、じょうぶ、だった……?」
「――っ!! くっ! ああっもうっ、莉斗はなんでこんな……」
俺はその時初めて湊介の涙を見たんだ。
俺に縋り付いて泣く湊介の姿を……。
それからすぐに湊介は俺の意識が戻ったとナースコールで連絡を入れ、やってきたお医者さんの診察を受けた。
とりあえず脳波には異常もなく、ここで念のために一晩休んだら帰ってもいいと言われてホッとした。
お医者さんたちが部屋を出て、湊介がだいぶ落ち着いてからあの時のことを教えてくれた。
「それで、あの女性は一体なんだったんだ?」
「あの子はうちの取引先相手のお嬢さんで、この前接待の時に父親である部長さんに一度会うだけでいいからと頼み込まれたんだ。俺のことを雑誌で見かけて会いたがってるからどうしてもと言われて……何度も断ったけれど一度会えば納得するからと言われて渋々会うことにしたんだ。もちろん、2人っきりじゃなくその部長さんも一緒にだ。だが……彼女は会ったことでますます俺への想いが膨らんだとか言い出して、どうしても付き合ってほしいと言い出してきた。
だから、俺は『大切な人がいます。ゆくゆくはその人と結婚するつもりでいるのであなたとは付き合えません』ってキッパリと断ったんだ」
「えっ……」
俺はその女性の話より、湊介に大切な相手がいる。
しかもその人と結婚しようと思っているという話の方が気になってどうしようもなかった。
湊介にそんな人がいたなんて……ずっと一緒にいたのに俺は何も知らなかった。
俺はずっと湊介が好きだったのに。
湊介は誰か違う人と結婚しようと思うくらい好きなんだな。
まぁ最初から俺なんか友達としてならともかく、釣り合いとれなさすぎて結婚なんてできるとは思ってなかったけど、ずっとずっと一緒にはいられると思ってた。
でも、湊介がその人と結婚したらもうこうやって会ったりはできないんだろうな……。
途端に寂しさが押し寄せてきて、俺は湊介の話を聞くこともできなくなった。
「莉斗? 大丈夫か? 話は後にして休んだほうがいいんじゃないか?」
「い、いや、大丈夫。ごめん、ちょっとぼーっとしちゃっただけ。大丈夫、ちゃんと話聞いてるから」
「そうか? 具合悪かったらすぐ言えよ」
「うん、ありがとう。それで、どうなったんだ?」
「あ、ああ。キッパリ断ったんだけど、会社終わりに待ち伏せされて、ストーカーまがいのことされてて、困って部長さんに話をしたら注意しておいてくれるって言ってくれて、ここ最近は何もなかったから諦めてくれたと思って、今日莉斗と会うことにしたんだけど、まさかこんなことになるなんて……」
そうか、俺が一緒にいたから湊介の大切な相手が俺だと勘違いしたんだ。
湊介が結婚したいほど好きな相手が俺なんかのわけないのに。
「あの彼女は、どうなったんだ?」
「ああ、すぐに店の人が警察を呼んでくれて連れて行かれたよ。後のことは弁護士に任せたから莉斗は気にしないでいいよ」
「そっか……」
「それよりも……」
ずっと憔悴しきって青白かった湊介がさらに青褪めた顔を見せながら、俺の顔をじっと見つめてきた。
「湊介……どうしたんだ?」
「莉斗の、その傷……痕が残るって」
「えっ?」
「ぶつかった衝撃で割れたグラスが皮膚を抉ってしまったらしくて、綺麗に縫合してもらったけどどうしても痕は残るだろうって先生が……」
痕が残ると聞いて俺は正直、ああ、そうなんだ……って思うくらいだったけれど、湊介はこの世の終わりとでも言いそうなほどの負のオーラ満載で、痛々しそうな表情をしながら包帯に覆われた俺の傷口にそっと指先を触れさせた。
「――っ!」
ピリッとした痛みに眉を顰めると、
「ごめんっ! 痛かった?」
と涙に潤んだ瞳で尋ねられる。
湊介ってこんなに泣き虫だったか?
こっちの方が可哀想に思えてきて、
「大丈夫だよ、ちょっとびっくりしただけ」
と返すと、湊介は真剣な表情で
「莉斗を巻き込んでしまって本当に悪かった」
と何度も何度も謝罪の言葉を繰り返していた。
それから面会時間が過ぎ、後ろ髪を引かれるような表情をしながら湊介は部屋を出て行った。
ああ、そういえばここって個室なんだ。
湊介がいなくなったら途端にこの部屋の広さが感じられて、寂しくなってきた。
湊介のあんなに取り乱した顔、初めて見たな。
まぁ、目の前で友達が襲撃されたらそりゃあそうなるか。
でも、犯人は捕まったっていうし、俺も命には別状ないし、今日はショックだっただろうけど湊介もきっとすぐ元気になるよな。
俺は、こんな傷よりも湊介に好きな相手がいる方に驚いた。
あれだけ一緒にいたのに、そんな素振りも全くなかったし、何も知らなかった。
だから、俺は湊介のそばにずっといられると思って安心していたのに……。
こんなことがあったら湊介はさっさとその大切な人に告白するんだろうな。
身を固めたらああやって見合いまがいのことを頼まれずに済むだろうし。
そうなったらもう湊介と過ごせるのも終わりなのか……。
傷の痛みよりも、湊介との時間がなくなる心の痛みが強い。
はぁーっ。もうこっそり思うのも終わらせないとな。
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