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番外編
両親への挨拶 <後編>
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『ふふっ。元さんったら、ずっと心配していたのよ。透が騙されてるんじゃないかって。だって、突然電話が来て、王太子殿下と結婚してロサランに住むなんて言われておいそれと信じられるわけがないでしょう?』
『うん……そう、だよね。ごめん、驚かせてしまって……』
『トールが謝ることはない。全ては私の責任だ。私がロサランを離れることができないせいで、トールにもご両親にも不安な思いをさせてしまった。申し訳ないと思っている』
母さんの言葉に僕が謝ると、ジェリーさんは深々と頭を下げ謝罪の言葉を述べた。
そして、父さんと母さんに向き合い、正座して姿勢を正した。
その真剣な表情に思わず息を呑んでしまう。
ピンと緊張感が張り詰める中、ジェリーさんはゆっくりと口を開いた。
『トールがご両親からどれだけの愛情を注がれてこれまで育ってきたか……そのかけがえのない宝物を、突然私のような者に奪われるのですから信じられないと思われるのも無理はありません。しかも、これから遠いロサランで離れ離れに暮らすことになると思えば、不安になるなと言われても難しいことでしょう』
父さんも母さんも驚きつつも、小さく頷く。
賛成はしてくれていたみたいだったけど、やっぱり不安にさせてしまっていたんだろうな。
『ですが、安心してください。ロサランの神の名において誠心誠意、心からトールを大切にし、一生トールだけを愛し続けると誓います』
『ジェリーさん……』
両親はジェリーさんの真剣な表情と言葉に一瞬圧倒されていたようだったけれど、母さんはふっと笑顔を浮かべた。
『ふふっ。こんなにしっかりと誓ってくれるのだったらもう心配することはないわ。ねぇ、元さん』
『ああ、そうだな。透から話を聞いて、私たちもロサランのことについて勉強したんだ』
『えっ? 父さんたちが勉強?』
『ああ、ロサランにおいて神への誓いに背くことは決して許されないことなのだろう? だから、神への誓いはおいそれとできるものではない。それをわかっていて、ジェラルドさんが透のことを神に誓ったのなら、透への想いは本気だということだ。それがわかったから、私たちはもう何も言うことはない。ジェラルドさん、透のことをよろしくお願いします』
『――っ!!! はい。必ず、幸せにします!!』
父さんの言葉にジェリーさんは今まで見た中でも一番嬉しそうな表情を見せながら、何度も何度もお礼を言っていた。
『父さん。母さん、ありがとう。僕、ロサランで幸せになるから』
『ええ。私たちも透とジェラルドさんに会いに行くわ!』
『えっ? 嬉しいけど、あんな遠くにまで来てくれるの?』
『ええ。実は、元さん……海外赴任の打診があってね、受けようかどうしようか悩んでいたみたいだけど、そこがロサランに近いのよ。あそこからなら、いつでも会いに行けるわ』
『わぁーっ!!! それはすごいね!!!』
思いがけないことだったけど、父さんたちが近くにいるなら心強い。
『ご両親が来られるときはいつでも私の飛行機を使ってくださって構いませんよ』
『えっ? ジェラルドさんの、飛行機? それって、プライベートジェットとかいう、あれ?』
『うん。実は日本に来る時もそれで来たんだ。飛行機の中だけどおっきなベッドもお風呂もあってホテルみたいだったよ』
『ベッドに……お風呂……』
あまりにも想像を超えた話に目を丸くしているけれど、多分実際に乗った方が驚くだろうな。
僕も洋輔もびっくりしまくりだったもんね。
『と、とりあえず、話もまとまったことだし、お茶でもしましょう。お茶の支度してくるわね』
『あっ、母さん。手伝うよ。ジェリーさん、ちょっと待っててね』
『トール、私も手伝おう』
『ううん、大丈夫。ジェリーさんは父さんとおしゃべりしてて』
『わかった』
父さんとジェリーさんを残すのは心配だったけど、でもジェリーさんなら大丈夫かな。
僕は母さんと一緒にキッチンに向かった。
「ジェラルドさん、すごく格好良くて素敵な方ね」
「うん。中身もすっごくかっこいい人だよ」
「あらあら、透が惚気るなんて」
「母さんが聞いてきたんだろ」
「ふふっ。でも、本当にホッとしているのよ。あなた、今まで誰にもそんな様子見せたことなかったから」
「うん。僕もびっくりしてる。でも……ジェリーさんは最初から気になったんだ」
「そう。じゃあ、やっぱり運命の相手だったってことなのね」
「そう、なるのかな……」
改めてそう言われると恥ずかしい気もするけど、でも……ジェリーさんに初めて会った時から、今までに感じたことない気持ちが溢れていた気がする。
「でも、僕のせいで今から海外赴任なんて……大変じゃない?」
「大丈夫よ。元々海外暮らしは好きだったし、夫婦二人で新天地で過ごすのも悪くないわ」
「ありがとう」
「いいのよ、あなたが幸せなら私たちも幸せだから」
母さんの優しい言葉がたまらなく嬉しい。
僕、両親に恵まれたな……。
「さぁ、元さんが困ってるかもしれないわ。行きましょう」
母さんがケーキの載ったトレイを、僕がコーヒーが載ったトレイを持ちさっきの部屋に向かうと、
『はははっ、それはすごいな』
『ええ。驚きますよ。今度ぜひ!』
『ああ、楽しみにしているよ』
となぜだかものすごく話が盛り上がっているようだ。
『ジェリーさん……』
『ああ、トールっ!』
僕の声に気づいたジェリーさんが駆け寄ってきて僕の持っていたトレイを持ってくれる。
『こんな重いものを持つときは私に声をかけてくれてくれ』
『あ、うん。ありがとう』
さっとコーヒートレイを持って、並べてくれるのをぽかんと見つめてしまう。
なんだか急に仲良くなっててびっくりしちゃったな。
『あら、何かしら? 突然意気投合しちゃって』
『ロサランの話を聞いたらとても楽しそうでね。いやぁ、透がロサランに嵌まるのもわかる気がするよ。遊びに行ったら案内してくれるって言うから頼んでいたんだ』
確かにロサランはいいところだけど……。
こんなにもすぐに仲良くなれるってすごいな。
どんな話したんだろう。
まぁ、でも両親と仲良くなれたならよかった。
僕は幸せだな。
『うん……そう、だよね。ごめん、驚かせてしまって……』
『トールが謝ることはない。全ては私の責任だ。私がロサランを離れることができないせいで、トールにもご両親にも不安な思いをさせてしまった。申し訳ないと思っている』
母さんの言葉に僕が謝ると、ジェリーさんは深々と頭を下げ謝罪の言葉を述べた。
そして、父さんと母さんに向き合い、正座して姿勢を正した。
その真剣な表情に思わず息を呑んでしまう。
ピンと緊張感が張り詰める中、ジェリーさんはゆっくりと口を開いた。
『トールがご両親からどれだけの愛情を注がれてこれまで育ってきたか……そのかけがえのない宝物を、突然私のような者に奪われるのですから信じられないと思われるのも無理はありません。しかも、これから遠いロサランで離れ離れに暮らすことになると思えば、不安になるなと言われても難しいことでしょう』
父さんも母さんも驚きつつも、小さく頷く。
賛成はしてくれていたみたいだったけど、やっぱり不安にさせてしまっていたんだろうな。
『ですが、安心してください。ロサランの神の名において誠心誠意、心からトールを大切にし、一生トールだけを愛し続けると誓います』
『ジェリーさん……』
両親はジェリーさんの真剣な表情と言葉に一瞬圧倒されていたようだったけれど、母さんはふっと笑顔を浮かべた。
『ふふっ。こんなにしっかりと誓ってくれるのだったらもう心配することはないわ。ねぇ、元さん』
『ああ、そうだな。透から話を聞いて、私たちもロサランのことについて勉強したんだ』
『えっ? 父さんたちが勉強?』
『ああ、ロサランにおいて神への誓いに背くことは決して許されないことなのだろう? だから、神への誓いはおいそれとできるものではない。それをわかっていて、ジェラルドさんが透のことを神に誓ったのなら、透への想いは本気だということだ。それがわかったから、私たちはもう何も言うことはない。ジェラルドさん、透のことをよろしくお願いします』
『――っ!!! はい。必ず、幸せにします!!』
父さんの言葉にジェリーさんは今まで見た中でも一番嬉しそうな表情を見せながら、何度も何度もお礼を言っていた。
『父さん。母さん、ありがとう。僕、ロサランで幸せになるから』
『ええ。私たちも透とジェラルドさんに会いに行くわ!』
『えっ? 嬉しいけど、あんな遠くにまで来てくれるの?』
『ええ。実は、元さん……海外赴任の打診があってね、受けようかどうしようか悩んでいたみたいだけど、そこがロサランに近いのよ。あそこからなら、いつでも会いに行けるわ』
『わぁーっ!!! それはすごいね!!!』
思いがけないことだったけど、父さんたちが近くにいるなら心強い。
『ご両親が来られるときはいつでも私の飛行機を使ってくださって構いませんよ』
『えっ? ジェラルドさんの、飛行機? それって、プライベートジェットとかいう、あれ?』
『うん。実は日本に来る時もそれで来たんだ。飛行機の中だけどおっきなベッドもお風呂もあってホテルみたいだったよ』
『ベッドに……お風呂……』
あまりにも想像を超えた話に目を丸くしているけれど、多分実際に乗った方が驚くだろうな。
僕も洋輔もびっくりしまくりだったもんね。
『と、とりあえず、話もまとまったことだし、お茶でもしましょう。お茶の支度してくるわね』
『あっ、母さん。手伝うよ。ジェリーさん、ちょっと待っててね』
『トール、私も手伝おう』
『ううん、大丈夫。ジェリーさんは父さんとおしゃべりしてて』
『わかった』
父さんとジェリーさんを残すのは心配だったけど、でもジェリーさんなら大丈夫かな。
僕は母さんと一緒にキッチンに向かった。
「ジェラルドさん、すごく格好良くて素敵な方ね」
「うん。中身もすっごくかっこいい人だよ」
「あらあら、透が惚気るなんて」
「母さんが聞いてきたんだろ」
「ふふっ。でも、本当にホッとしているのよ。あなた、今まで誰にもそんな様子見せたことなかったから」
「うん。僕もびっくりしてる。でも……ジェリーさんは最初から気になったんだ」
「そう。じゃあ、やっぱり運命の相手だったってことなのね」
「そう、なるのかな……」
改めてそう言われると恥ずかしい気もするけど、でも……ジェリーさんに初めて会った時から、今までに感じたことない気持ちが溢れていた気がする。
「でも、僕のせいで今から海外赴任なんて……大変じゃない?」
「大丈夫よ。元々海外暮らしは好きだったし、夫婦二人で新天地で過ごすのも悪くないわ」
「ありがとう」
「いいのよ、あなたが幸せなら私たちも幸せだから」
母さんの優しい言葉がたまらなく嬉しい。
僕、両親に恵まれたな……。
「さぁ、元さんが困ってるかもしれないわ。行きましょう」
母さんがケーキの載ったトレイを、僕がコーヒーが載ったトレイを持ちさっきの部屋に向かうと、
『はははっ、それはすごいな』
『ええ。驚きますよ。今度ぜひ!』
『ああ、楽しみにしているよ』
となぜだかものすごく話が盛り上がっているようだ。
『ジェリーさん……』
『ああ、トールっ!』
僕の声に気づいたジェリーさんが駆け寄ってきて僕の持っていたトレイを持ってくれる。
『こんな重いものを持つときは私に声をかけてくれてくれ』
『あ、うん。ありがとう』
さっとコーヒートレイを持って、並べてくれるのをぽかんと見つめてしまう。
なんだか急に仲良くなっててびっくりしちゃったな。
『あら、何かしら? 突然意気投合しちゃって』
『ロサランの話を聞いたらとても楽しそうでね。いやぁ、透がロサランに嵌まるのもわかる気がするよ。遊びに行ったら案内してくれるって言うから頼んでいたんだ』
確かにロサランはいいところだけど……。
こんなにもすぐに仲良くなれるってすごいな。
どんな話したんだろう。
まぁ、でも両親と仲良くなれたならよかった。
僕は幸せだな。
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