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番外編
両親への挨拶 <前編>
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<side透>
『トールの自宅まではもうすぐか?』
『うん。あと5分も走れば着くよ』
『そうか、少し緊張してきたな』
『ふふっ。ジェリーさんでも緊張するんだ? わっ!』
広くて大きな黒のリムジンの後部座席で隣同士に座っているジェリーさんの手を握ると、そのまま抱っこされて膝の上に乗せられる。
『緊張をほぐしてほしい』
『んんっ……』
甘く囁かれてそのまま唇を奪われる。
けれどいつもと違って、何度か唇を喰むだけの優しいキス。
そのまま唇はゆっくり離れていった。
なんで?
と一瞬思ったのが表情に現れたのかもしれない。
『ふふっ。あんまり色香漂う姿をご両親に見せるわけにはいかないからな』
『そんなこと……っ』
そう言いながらも、さっきのキスだけですでに火照っているのは自分でも良くわかってる。
今までそんな色恋沙汰を経験していない分、ジェリーさんに触れられたり、キスするだけですぐに興奮してしまうんだ。
『でも、トールとのキスは私の心を落ち着かせてくれるよ。これでご両親にあっても、緊張はしなさそうだ』
『ふふっ。僕が役に立ったのならよかった』
車の中でギュッと抱き合いながら、もうすぐ我が家に近づく景色を不思議な気分で眺めていた。
『ここが、トールの家か?』
『うん。ジェリーさんから見たら小さくてびっくりしたでしょう?』
『いや、そんなことはない。庭の手入れもよくされていて緑が溢れている。玄関には塵一つ落ちていないし、何より温かみのある家だよ』
感慨深そうに僕の家を眺め、
『ここでトールが育ったのだと思うと、愛おしさまで感じるよ』
と嬉しそうに笑っていた。
『ご両親は英語はわかるのだろう?』
『うん、父さんは商社勤めだし、家族で海外で生活していたこともあるからね』
『それなら安心だ。私の思いを私の言葉で伝えることができるな』
『ジェリーさん……』
ジェリーさんの優しさに触れながら、玄関のチャイムを鳴らすとすぐに扉がガチャリと開いた。
時間ぴったりだったから、僕たちが来たとすぐにわかったんだろう。
物怖じしない性格の母さんにも少し緊張の色が見える。
それでも僕の知っているにこやかな笑顔を向けながら、
『透、おかえり。ジェリーさんもお待ちしてましたわ』
と声をかけてくれた。
母さんの第一声にホッとしたのか、ジェリーさんも笑顔で母さんに微笑みかけた。
『さぁ、狭いところですが、どうぞ中にお入りになって』
『はい。失礼します』
あ、そういえば靴を脱ぐことを教えていなかったかもしれないと思って慌ててジェリーさんに視線を向けると、ジェリーさんは綺麗な所作で靴を脱ぎ、しかも揃えて端に置いていた。
『日本式の礼儀は頭に叩き込んでおいたのだが、これで合ってるか?』
『ジェリーさん……』
一国の王子さまが僕の家族への挨拶のためにわざわざ……。
それだけで胸がキュンとしてしまう。
『さぁ、こちらにどうぞ』
母さんが案内したのは、お客さんを通す床の間のある和室。
そこにはすでに父さんも座っていた。
『母さん、用意してくれたところ悪いんだけど、和室はジェリーさんには……』
『トール、いいんだ。私も一度日本の畳間に座ってみたかったんだ』
『でも……』
ジェリーさんが無理しているのは分かってる。
だってロサランには床に座る文化なんてないのだから。
それでも僕のためにこうして慣れない畳に座ろうとしてくれている。
どれくらい僕を大切に思ってくれているかが伝わってくる。
僕はジェリーさんが座ったすぐ隣に腰を下ろし、目の前に座る父さんと母さんに声をかけた。
『今日は時間を作ってくれてありがとう。あの、紹介します。こちら、ロサラン王国のジェラルド王太子殿下だよ』
僕の言葉に一気に緊張が走った。
きっと王太子殿下だという言葉に今更実感が湧いてしまったのだろう。
『あっ……』
戸惑いの表情を見せる父さんと母さんに、ジェリーさんは優しい笑顔を向けながら口を開いた。
「ハ、じめ、マシテ。わタシハ、じぇらるど、デス。あえテ、うれしいデス」
「えっ?」
「はっ?」
『あっ……ジェリー、さん……それ……』
『いや、挨拶くらいはトールの母国語で挨拶したかったんだ。だが、日本語というのは難しいな。トールがロサラン語まで覚えてくれて本当に嬉しいよ』
僕たちが出会ってまだ数日。
しかも挨拶だって急に決まったのに。
こんな短時間に必死に覚えてくれただけでどれだけ嬉しいか……。
『ふふっ。透、安心したわ』
『母さん……っ』
『ジェラルドさんが本当に透のことを思ってくれているんだって分かったから。ねぇ、元さん』
母さんのその言葉に父さんは静かに頷いた。
『トールの自宅まではもうすぐか?』
『うん。あと5分も走れば着くよ』
『そうか、少し緊張してきたな』
『ふふっ。ジェリーさんでも緊張するんだ? わっ!』
広くて大きな黒のリムジンの後部座席で隣同士に座っているジェリーさんの手を握ると、そのまま抱っこされて膝の上に乗せられる。
『緊張をほぐしてほしい』
『んんっ……』
甘く囁かれてそのまま唇を奪われる。
けれどいつもと違って、何度か唇を喰むだけの優しいキス。
そのまま唇はゆっくり離れていった。
なんで?
と一瞬思ったのが表情に現れたのかもしれない。
『ふふっ。あんまり色香漂う姿をご両親に見せるわけにはいかないからな』
『そんなこと……っ』
そう言いながらも、さっきのキスだけですでに火照っているのは自分でも良くわかってる。
今までそんな色恋沙汰を経験していない分、ジェリーさんに触れられたり、キスするだけですぐに興奮してしまうんだ。
『でも、トールとのキスは私の心を落ち着かせてくれるよ。これでご両親にあっても、緊張はしなさそうだ』
『ふふっ。僕が役に立ったのならよかった』
車の中でギュッと抱き合いながら、もうすぐ我が家に近づく景色を不思議な気分で眺めていた。
『ここが、トールの家か?』
『うん。ジェリーさんから見たら小さくてびっくりしたでしょう?』
『いや、そんなことはない。庭の手入れもよくされていて緑が溢れている。玄関には塵一つ落ちていないし、何より温かみのある家だよ』
感慨深そうに僕の家を眺め、
『ここでトールが育ったのだと思うと、愛おしさまで感じるよ』
と嬉しそうに笑っていた。
『ご両親は英語はわかるのだろう?』
『うん、父さんは商社勤めだし、家族で海外で生活していたこともあるからね』
『それなら安心だ。私の思いを私の言葉で伝えることができるな』
『ジェリーさん……』
ジェリーさんの優しさに触れながら、玄関のチャイムを鳴らすとすぐに扉がガチャリと開いた。
時間ぴったりだったから、僕たちが来たとすぐにわかったんだろう。
物怖じしない性格の母さんにも少し緊張の色が見える。
それでも僕の知っているにこやかな笑顔を向けながら、
『透、おかえり。ジェリーさんもお待ちしてましたわ』
と声をかけてくれた。
母さんの第一声にホッとしたのか、ジェリーさんも笑顔で母さんに微笑みかけた。
『さぁ、狭いところですが、どうぞ中にお入りになって』
『はい。失礼します』
あ、そういえば靴を脱ぐことを教えていなかったかもしれないと思って慌ててジェリーさんに視線を向けると、ジェリーさんは綺麗な所作で靴を脱ぎ、しかも揃えて端に置いていた。
『日本式の礼儀は頭に叩き込んでおいたのだが、これで合ってるか?』
『ジェリーさん……』
一国の王子さまが僕の家族への挨拶のためにわざわざ……。
それだけで胸がキュンとしてしまう。
『さぁ、こちらにどうぞ』
母さんが案内したのは、お客さんを通す床の間のある和室。
そこにはすでに父さんも座っていた。
『母さん、用意してくれたところ悪いんだけど、和室はジェリーさんには……』
『トール、いいんだ。私も一度日本の畳間に座ってみたかったんだ』
『でも……』
ジェリーさんが無理しているのは分かってる。
だってロサランには床に座る文化なんてないのだから。
それでも僕のためにこうして慣れない畳に座ろうとしてくれている。
どれくらい僕を大切に思ってくれているかが伝わってくる。
僕はジェリーさんが座ったすぐ隣に腰を下ろし、目の前に座る父さんと母さんに声をかけた。
『今日は時間を作ってくれてありがとう。あの、紹介します。こちら、ロサラン王国のジェラルド王太子殿下だよ』
僕の言葉に一気に緊張が走った。
きっと王太子殿下だという言葉に今更実感が湧いてしまったのだろう。
『あっ……』
戸惑いの表情を見せる父さんと母さんに、ジェリーさんは優しい笑顔を向けながら口を開いた。
「ハ、じめ、マシテ。わタシハ、じぇらるど、デス。あえテ、うれしいデス」
「えっ?」
「はっ?」
『あっ……ジェリー、さん……それ……』
『いや、挨拶くらいはトールの母国語で挨拶したかったんだ。だが、日本語というのは難しいな。トールがロサラン語まで覚えてくれて本当に嬉しいよ』
僕たちが出会ってまだ数日。
しかも挨拶だって急に決まったのに。
こんな短時間に必死に覚えてくれただけでどれだけ嬉しいか……。
『ふふっ。透、安心したわ』
『母さん……っ』
『ジェラルドさんが本当に透のことを思ってくれているんだって分かったから。ねぇ、元さん』
母さんのその言葉に父さんは静かに頷いた。
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