ロイヤルウエディング 〜スイーツな恋に落ちました

波木真帆

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番外編

元さんの説得

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きっと元パパへの説得は大変だったろうな……というだけのお話ですが、楽しんでいただけると嬉しいです♡


  *   *   *


<side透の母(綾菜)>


「お帰りなさい、あなた!」

「な、なんだ? 今日はやけにご機嫌だな。それに、すごいな。このご馳走」

「ふふっ」

満面の笑みで見つめると、はじめさんは私の顔とダイニングテーブルに置かれた料理を何度も見返してあからさまに狼狽始めた。

「えっと……今日は、結婚記念日、じゃないよな? 誕生日でもないし……何か特別な日だったっけ? ごめん、どうしても思い出せないっ!!」

必死な表情で頭を下げる元さんが可愛くて、思わず笑ってしまった。

「ふふっ。なんの日でもないわよ。あっ、でもある意味結婚記念日みたいなものかしら?」

「みたいなもの? どういうことだ?」

「ふふっ。詳しく話すから、とりあえず着替えてきて」

「あ、ああ」

どうもわからないとでもいうような表情を浮かべながらも着替えに自室に向かった元さんを見送り、私は元さんの大好物のビーフシチューを温めた。


「さぁ、どうぞ」

「ワインまで……一体どうしたんだ?」

「いいから。乾杯しましょう」

「何に乾杯するんだ?」

「透の未来に」

「えっ? 透から連絡が来たのか?」

ロサランに旅立ってから毎日のように連絡が来ないと言い続けてきたからか、元さんは

「元気そうだったか?」

と尋ねてくれた。

「ええ。とっても元気だったわ」

「そうか、それならよかった。だから、このご馳走なのか」

そう言って納得したようにグラスを傾けホッとした様子でワインを口にした。
もう大学生なんだから心配しなくても大丈夫だよと言っていたけれど、実のところは心配していたんだろう。

「うん、最高だな。やっぱり綾菜あやなの作るビーフシチューは美味しいよ。透も大好きだから帰ってきたらまた作ってあげるといい」

「ええ。そうね。たっぷり四人分作らないとね」

「えっ? なんで四人分なんだ?」

「透ね、結婚相手を連れて挨拶に来るって話してたわ」

「ぶっ!! ごほっ!! ごほっ!! な――っ、えっ?」

驚くのも無理はないわよね。
今まで恋愛のれの字も見せてなかったんだもの。

「結婚相手ってどういうことだ?」

「ロサランで運命の人に出会ったんですって。その人と結婚してロサランに住むつもりだからって連絡してくれたのよ。だから相手の人を連れて挨拶に来るんですって」

「透が……結婚? しかも、ロサランで暮らす? そんなこと、許したのか?」

「ええ。私も驚いたけれど、私たちが反対しても絶対に諦めないし、私たちと絶縁してでもその人と一生一緒にいるって決めたって言われたら許すしかないじゃない」

「でもなんでロサランなんだ? 別に日本で一緒に暮らせばいいじゃないか。それなら俺だってまだ許せるのに!!」

「ダメなのよ」

「なんでダメなんだ! そんな自分の考えばかり通す女は碌な女じゃないだろう!!」

「違うのよ、どうしてもロサランじゃなきゃダメなの。だって……透の相手はロサラン王国の王太子なんだもの。ロサランから離れるなんてできないわ!」

「はぁっ? 王太子? どういうことだ? 透は男なんだぞ!」

「落ち着いて、元さん」

「これが落ち着いていられるか!!」

ふぅ……。
ちょっと伝え方を間違ってしまったかもしれないわ。

ヒートアップしてしまった元さんをどうにかして落ち着けないとね。

「透……今までずっと私たちに迷惑も心配もかけない良い子に育ったわ。でも、それだけ周りに気を張っていたんんじゃないかと思うの」

「透が無理をしていたというのか?」

「いいえ。そうじゃないわ。それが透の性格なのよ。でもロサランに行くことだけは私たちがどれだけ心配だと話しても必死に説得してきた。あんな姿、初めてだったでしょう?」

「それは……確かに……」

「そのロサランで運命の相手と出会ったのは、きっと透に何か特別な力が働いたと思うの」

「だからって、男との結婚を認めろっていうのか?」

「認めるんじゃない。もう決まっているのよ。透が前に言ってたでしょう? ロサランの男性は生涯でたった一人しか愛さないって。その王太子が透をその一生の相手に決めたのなら、そして、透がそれを受け入れたのなら、私たちに反対することはできないわ」

「綾菜……君はそれで良いのか? 自分の息子が男と結婚するなんて!」

私だって、驚かなかったと言えば嘘になる。
でも、あの透の幸せそうな声を聞いたら、反対なんてできなかった。

「正直驚いたけれど、私はこれからもずっと透と縁を繋いでいたい。今、反対したらもう二度と透には会えないわ。元さんはそれでもいいの?」

「くっ――!! それは……」

「透が相手の方、ジェリーさんを連れてきてくれるから、お互いに腹を割って話しましょう。それで少しでも透が不幸に見えるなら、その時改めて考えましょう」

「そ、そうだな……相手がわからないのにここで話していても意味はないか」

元さんはようやく納得して、残っていたワインをぐいっと一気に飲み干した。

その時の元さんはまだほのかに王太子と別れて日本に帰ってくることを期待していたのかもしれない。

けれど我が家に到着して早々、透とジェリーさんの仲睦まじい姿に完全敗北を喫したのだった。
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