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ロサラン王国
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「わぁーっ、すごく綺麗っ!!」
「おおっ、ほんとだな。さすが外国って感じ」
「思いっきり観光しないともったいないなぁ!」
「言っとくけど俺はコンサートが目的だからな。明日は自由行動な」
「わかってるって」
僕は小芝透。
今、大学の卒業旅行でずっと来てみたかったヨーロッパの小さな国ロサラン王国に到着したところだ。
ヨーロッパにはもっともっと有名な国があるというのに、どうしてこんな小さな国にわざわざ卒業旅行で? と思うかもしれないけれど、ゼミの先生がこの国の大ファンで定年退職後はここに移住するつもりなのだとずっと聞かされていたせいか、僕も一生に一度くらいはその国をこの目でみたくなったんだ。
でも流石に一人で海外旅行に行くのは心配で、先生に一緒に行きませんか? と誘ったけれど、あいにく娘さんの海外挙式の日程と被っているからと断られてしまい、旅行計画断念か……と思っていたところに、同じゼミの仲間である友人の吾妻洋輔が偶然にもその国に旅行に行く計画を立てていると知った。
洋輔の目的はその国で行われる海外アーティストのコンサート。
僕たちが生まれる前から活躍しているアーティストだけど、洋輔はそのアーティストの熱狂的ファンだったおじいちゃんの影響でどハマりしてしまったらしい。
そのアーティストの20年ぶりの本格的なコンサートがこのロサラン王国で行われることが決定してどうしても参加したくて、血眼になってようやくチケットをゲットしたらしい。
つい先日亡くなってしまったおじいさんのためにも絶対に楽しんでくるんだと息巻いていた。
飛行機の中でも洋輔の興奮はすごくて、ずっと昔のコンサート動画を見たり、曲を聞いたりして過ごしていたせいか、空港に到着するなり眠いを連発している。
今、寝ると時差ぼけで大事なコンサートに影響を及ぼすからと必死に起きているけれど、かなり厳しそう。
それでも必死に夕食を終えるまでは起きていたから洋輔も頑張ったなと思う。
翌朝、洋輔はすっきりとした顔で張り切っていた。
「よし、俺はもうコンサート会場に向かうぞ」
「えっ? 流石に早すぎない? コンサートは17時からだよね?」
「いいんだ。早めに行って同志を見つけて話をするのも楽しみだし。早く雰囲気を味わいたいんだ」
「ふふっ。そっか。じゃあ、楽しんでおいでよ。僕は一日この国を観光して楽しんでるから。何かあったら連絡して」
「ああ、わかった。明日は俺も一緒に観光するから。じゃあ、お前くれぐれもきをつけろよ!」
注意する言葉をかけながらも洋輔は浮き足だった様子でホテルを出て行った。
この国の公用語はロサラン語だけど、英語ももちろん通じる。
僕も洋輔も英語は余裕だし、コミュニケーションに困ることはないだろう。
だからこそ、観光も楽しめるんだ。
僕は昨夜ホテルの近くで買っておいたパンで朝食を済ませ、早速観光に出かけることにした。
このロサラン王国で一番有名なものは宝石。
そう、ここは小さい国ながら世界屈指の宝石産出国として知られていて、その宝石マネーのおかげでこの国はかなり裕福らしい。
この国で採れた希少な宝石が展示してあるという国宝の館は、この国でも一番人気の観光スポット。
ここに行かない選択肢などあり得ない。
僕は意気揚々とその展示館へと向かった。
「わぁ、結構並んでるな」
この時期は比較的観光客は少ないらしいけど、あのコンサートが行われるからか、かなりの人で混雑している。
まぁせっかくきたんだし、ついでに観光もっていう人は多いだろうしね。
洋輔くらいだよ、こんなに早く観光もしないでコンサート会場で陣取ってるのは。
浮かれまくってる洋輔のことを想像しながらふっと笑っていると、トンっと誰かに肩がぶつかってしまった。
『Oops!』
「あっ! ごめんなさいっ! sorry!!」
見れば、彼の持っていたジェラートが服に着いてしまっている。
『ごめんなさい! 僕が前を見ていなかったから』
『いや、私がジェラートに夢中になっていたせいだ。気にしないでいい』
『あっ、それ限定のジェラートですよね! ああっ、どうしよう!! 僕、すぐに弁償します!! ちょっと待っててください!!』
僕は慌ててそのジェラート店に行くと、もうすでに彼の持っていた限定ジェラートは完売してしまっていた。
ああ……僕、なんてことをしてしまったんだろう。
がっくりして項垂れていると、
『無駄に走らせてしまったな。実はこれが最後の一つだったんだ。だから、もうないとわかっていたから気にしないでいいよ』
と彼が近づいてきてそう言ってくれた。
ああ……これを食べるのに相当並んだんだろうに……。
『あの、僕に何か別のものでお詫びをさせてください』
『気にしないでいいと言ったろう?』
『でも、それでは僕の気が済まないです。服も汚してしまったし、大事なジェラートも食べられなくしてしまったのに……』
『なら、私に付き合ってくれないか? 行ってみたい店があったんだが、1人だとどうも目立ってね』
『行ってみたい店、ですか?』
『ああ、美味しいスイーツを出す店なんだが、私1人ではどうも入りづらくて……君が一緒ならまだ入れそうな気がするんだ』
ジェラートといい、スイーツといい、きっと甘いものが好きなんだな。
確かに彼の端正で逞しい見た目は甘いものとは縁がなさそうに見える。
せっかく食べられるチャンスなら、その役に立ちたい。
『じゃあ、僕にご馳走させてください』
『えっ、それは……』
『じゃあ、早速行きましょう!』
僕は彼の腕をとって歩き始めた。
「おおっ、ほんとだな。さすが外国って感じ」
「思いっきり観光しないともったいないなぁ!」
「言っとくけど俺はコンサートが目的だからな。明日は自由行動な」
「わかってるって」
僕は小芝透。
今、大学の卒業旅行でずっと来てみたかったヨーロッパの小さな国ロサラン王国に到着したところだ。
ヨーロッパにはもっともっと有名な国があるというのに、どうしてこんな小さな国にわざわざ卒業旅行で? と思うかもしれないけれど、ゼミの先生がこの国の大ファンで定年退職後はここに移住するつもりなのだとずっと聞かされていたせいか、僕も一生に一度くらいはその国をこの目でみたくなったんだ。
でも流石に一人で海外旅行に行くのは心配で、先生に一緒に行きませんか? と誘ったけれど、あいにく娘さんの海外挙式の日程と被っているからと断られてしまい、旅行計画断念か……と思っていたところに、同じゼミの仲間である友人の吾妻洋輔が偶然にもその国に旅行に行く計画を立てていると知った。
洋輔の目的はその国で行われる海外アーティストのコンサート。
僕たちが生まれる前から活躍しているアーティストだけど、洋輔はそのアーティストの熱狂的ファンだったおじいちゃんの影響でどハマりしてしまったらしい。
そのアーティストの20年ぶりの本格的なコンサートがこのロサラン王国で行われることが決定してどうしても参加したくて、血眼になってようやくチケットをゲットしたらしい。
つい先日亡くなってしまったおじいさんのためにも絶対に楽しんでくるんだと息巻いていた。
飛行機の中でも洋輔の興奮はすごくて、ずっと昔のコンサート動画を見たり、曲を聞いたりして過ごしていたせいか、空港に到着するなり眠いを連発している。
今、寝ると時差ぼけで大事なコンサートに影響を及ぼすからと必死に起きているけれど、かなり厳しそう。
それでも必死に夕食を終えるまでは起きていたから洋輔も頑張ったなと思う。
翌朝、洋輔はすっきりとした顔で張り切っていた。
「よし、俺はもうコンサート会場に向かうぞ」
「えっ? 流石に早すぎない? コンサートは17時からだよね?」
「いいんだ。早めに行って同志を見つけて話をするのも楽しみだし。早く雰囲気を味わいたいんだ」
「ふふっ。そっか。じゃあ、楽しんでおいでよ。僕は一日この国を観光して楽しんでるから。何かあったら連絡して」
「ああ、わかった。明日は俺も一緒に観光するから。じゃあ、お前くれぐれもきをつけろよ!」
注意する言葉をかけながらも洋輔は浮き足だった様子でホテルを出て行った。
この国の公用語はロサラン語だけど、英語ももちろん通じる。
僕も洋輔も英語は余裕だし、コミュニケーションに困ることはないだろう。
だからこそ、観光も楽しめるんだ。
僕は昨夜ホテルの近くで買っておいたパンで朝食を済ませ、早速観光に出かけることにした。
このロサラン王国で一番有名なものは宝石。
そう、ここは小さい国ながら世界屈指の宝石産出国として知られていて、その宝石マネーのおかげでこの国はかなり裕福らしい。
この国で採れた希少な宝石が展示してあるという国宝の館は、この国でも一番人気の観光スポット。
ここに行かない選択肢などあり得ない。
僕は意気揚々とその展示館へと向かった。
「わぁ、結構並んでるな」
この時期は比較的観光客は少ないらしいけど、あのコンサートが行われるからか、かなりの人で混雑している。
まぁせっかくきたんだし、ついでに観光もっていう人は多いだろうしね。
洋輔くらいだよ、こんなに早く観光もしないでコンサート会場で陣取ってるのは。
浮かれまくってる洋輔のことを想像しながらふっと笑っていると、トンっと誰かに肩がぶつかってしまった。
『Oops!』
「あっ! ごめんなさいっ! sorry!!」
見れば、彼の持っていたジェラートが服に着いてしまっている。
『ごめんなさい! 僕が前を見ていなかったから』
『いや、私がジェラートに夢中になっていたせいだ。気にしないでいい』
『あっ、それ限定のジェラートですよね! ああっ、どうしよう!! 僕、すぐに弁償します!! ちょっと待っててください!!』
僕は慌ててそのジェラート店に行くと、もうすでに彼の持っていた限定ジェラートは完売してしまっていた。
ああ……僕、なんてことをしてしまったんだろう。
がっくりして項垂れていると、
『無駄に走らせてしまったな。実はこれが最後の一つだったんだ。だから、もうないとわかっていたから気にしないでいいよ』
と彼が近づいてきてそう言ってくれた。
ああ……これを食べるのに相当並んだんだろうに……。
『あの、僕に何か別のものでお詫びをさせてください』
『気にしないでいいと言ったろう?』
『でも、それでは僕の気が済まないです。服も汚してしまったし、大事なジェラートも食べられなくしてしまったのに……』
『なら、私に付き合ってくれないか? 行ってみたい店があったんだが、1人だとどうも目立ってね』
『行ってみたい店、ですか?』
『ああ、美味しいスイーツを出す店なんだが、私1人ではどうも入りづらくて……君が一緒ならまだ入れそうな気がするんだ』
ジェラートといい、スイーツといい、きっと甘いものが好きなんだな。
確かに彼の端正で逞しい見た目は甘いものとは縁がなさそうに見える。
せっかく食べられるチャンスなら、その役に立ちたい。
『じゃあ、僕にご馳走させてください』
『えっ、それは……』
『じゃあ、早速行きましょう!』
僕は彼の腕をとって歩き始めた。
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