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三つの約束事
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「驚きましたか?」
「そ、それはそうだろう。まさかそんなにずっと思ってくれていたなんてそうそう信じられるものじゃない」
「でも、私が一朝一夕で団長に愛が欲しいと言っているわけじゃないとわかっていただけたでしょう?」
「まぁ、確かにそこまで言われたら……だが、そもそもの話、どうしてそんなに思ってくれていたのならもっと早く来なかったんだ? マクシミリアンの実力なら私よりも早い年齢で入団テストに合格しただろう?」
ふと思った素朴な疑問を投げかけてみるとマクシミリアンはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「理由を聞きたいですか? 聞いたらもう手を離しませんよ」
「どういう意味だ? そんな深い事情でもあるのか?」
マクシミリアンの笑顔の意味が理解できないまま、質問を返してみるとマクシミリアンは料理の手を止めて、私の隣にそっと腰を下ろした。
流れるような仕草でそのまま左手を握られて、その感触にどきっとしてしまう。
手を離さないってこういうことか?
「な、なんだ?」
マクシミリアンの意図がわからずに上擦った声で尋ねると、マクシミリアンはそっと顔を私の耳元に近づけた。
「ふふっ。18にならないと、団長を私のものにできませんからあの日まで待ってたんですよ」
「――っ!!! それって……っ」
「美しい団長のおそばにいながら18まで待ち続けるなんてそんな拷問のようなことできませんからね。こうやって団長の甘い匂いも、肌の感触も知ってしまったら、我慢するなんて到底無理でしょう?」
「ひゃぁっ!」
握られた手を意味ありげに撫でられて身体がビクッと震えてしまう。
「ほら、団長も私に反応してますよ。そんな状態で、何年も待ち続けるなんてできないですよね? だから私は団長のためにもずっと必死に我慢していたんですよ」
そこまで堂々と言われて恥ずかしくなる。
「団長はご存知じゃなかったでしょうが、あの入団テストの日が私の18の誕生日だったんです。あの日、団長と訓練場で再会できるってわかってましたから、実は緊張してたんですよ。興奮しすぎてやらかさないか心配でしたけど無事に入団できた時はホッとしました」
「えっ……ちょっと待て。あの日入団テストで私が試験監督をするのは外部には知られていなかったはずだ。オスカー前団長が辞めたこともまだ発表になっていなかっただろう? それなのにどうして……?」
「ふふっ。簡単なことですよ。オスカー前団長と祖父は旧知の仲ですから。団長が私の運命の相手と分かった時点で、祖父がオスカー前団長に、騎士たちに手出しされないように団長を見守っていて欲しいと頼んでくれたんです。騎士団を辞めるのも私が入団テストを受ける日まで延長してくれたんですよ。本当にオスカー前団長には感謝しています」
「――っ!!!」
まさかそんな裏事情があったとは夢にも思っていなかった。
じゃあ、本当に私はずっとマクシミリアンの運命の相手として、少なくともオスカー前団長には周知されていたということか?
「ふふっ。顔が赤いですよ。団長」
「――っ、赤くもなるだろう。自分が知らない間に周りには知られていたなんて……」
「大丈夫ですよ。知っているのはオスカー前団長と私の家族、それに陛下だけです」
「陛下まで? どうして?」
「団長を陛下の専属護衛に任命されないようにするためです。団長が陛下と四六時中一緒なんて流石に耐えられませんから」
ああ、そういうことか。
狼族と熊族は力的にはほぼ同格だからな。
私に狼族の匂いがつくのが嫌ということか……。
専属護衛の話が一度も来なかったのは不思議に思っていた。
最初はただ単純に私の力量不足だと思っていたが、私より実力が随分と下の者が選ばれてなぜだろうと思っていたんだ。
普通なら、自分の道を勝手に閉ざされて怒るところなのだろうが、そこまで執着してくれていたのだと思うとなぜか嬉しくなってしまう。
ああ、もうこんなにも思ってくれる相手にここまで周りを固められていたら、たとえ手を離してもすぐに捕まってしまいそうだ。
「マクシミリアン……本当に、私でいいのか?」
「あなたじゃなきゃだめなんです。だから、私のパートナーになってください!」
ギュッと手を掴まれているのに、痛くない。
ここまで私のことを優先してくれるのか。
ここまでされたら嫌だなんて言えないな。
「分かったよ。パートナーになろう」
「――っ!! 団長!」
「その代わり、守って欲しい約束が三つある」
「約束事、ですか? 私たちが別れたり、離れたり以外のことなら守りますよ」
「よし、言ったな?」
私はニヤリと笑って、マクシミリアンに約束事を突きつけた。
「一つ目は私の怪我が治るまで我慢すること。二つ目は私たちがパートナーになったことは騎士団内では内緒にしておくこと。そして、三つ目は……二人でいる時はヴェルナーと名前で呼ぶこと」
「ーーっ! ヴェルナーっ!!」
いいか? と尋ねる前に、マクシミリアンは私の名前を呼んで私を抱きしめた。
もちろん、傷に触れないようにそっと。
そんな時にも私のことを思ってくれる気持ちが嬉しかったんだ。
「そ、それはそうだろう。まさかそんなにずっと思ってくれていたなんてそうそう信じられるものじゃない」
「でも、私が一朝一夕で団長に愛が欲しいと言っているわけじゃないとわかっていただけたでしょう?」
「まぁ、確かにそこまで言われたら……だが、そもそもの話、どうしてそんなに思ってくれていたのならもっと早く来なかったんだ? マクシミリアンの実力なら私よりも早い年齢で入団テストに合格しただろう?」
ふと思った素朴な疑問を投げかけてみるとマクシミリアンはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「理由を聞きたいですか? 聞いたらもう手を離しませんよ」
「どういう意味だ? そんな深い事情でもあるのか?」
マクシミリアンの笑顔の意味が理解できないまま、質問を返してみるとマクシミリアンは料理の手を止めて、私の隣にそっと腰を下ろした。
流れるような仕草でそのまま左手を握られて、その感触にどきっとしてしまう。
手を離さないってこういうことか?
「な、なんだ?」
マクシミリアンの意図がわからずに上擦った声で尋ねると、マクシミリアンはそっと顔を私の耳元に近づけた。
「ふふっ。18にならないと、団長を私のものにできませんからあの日まで待ってたんですよ」
「――っ!!! それって……っ」
「美しい団長のおそばにいながら18まで待ち続けるなんてそんな拷問のようなことできませんからね。こうやって団長の甘い匂いも、肌の感触も知ってしまったら、我慢するなんて到底無理でしょう?」
「ひゃぁっ!」
握られた手を意味ありげに撫でられて身体がビクッと震えてしまう。
「ほら、団長も私に反応してますよ。そんな状態で、何年も待ち続けるなんてできないですよね? だから私は団長のためにもずっと必死に我慢していたんですよ」
そこまで堂々と言われて恥ずかしくなる。
「団長はご存知じゃなかったでしょうが、あの入団テストの日が私の18の誕生日だったんです。あの日、団長と訓練場で再会できるってわかってましたから、実は緊張してたんですよ。興奮しすぎてやらかさないか心配でしたけど無事に入団できた時はホッとしました」
「えっ……ちょっと待て。あの日入団テストで私が試験監督をするのは外部には知られていなかったはずだ。オスカー前団長が辞めたこともまだ発表になっていなかっただろう? それなのにどうして……?」
「ふふっ。簡単なことですよ。オスカー前団長と祖父は旧知の仲ですから。団長が私の運命の相手と分かった時点で、祖父がオスカー前団長に、騎士たちに手出しされないように団長を見守っていて欲しいと頼んでくれたんです。騎士団を辞めるのも私が入団テストを受ける日まで延長してくれたんですよ。本当にオスカー前団長には感謝しています」
「――っ!!!」
まさかそんな裏事情があったとは夢にも思っていなかった。
じゃあ、本当に私はずっとマクシミリアンの運命の相手として、少なくともオスカー前団長には周知されていたということか?
「ふふっ。顔が赤いですよ。団長」
「――っ、赤くもなるだろう。自分が知らない間に周りには知られていたなんて……」
「大丈夫ですよ。知っているのはオスカー前団長と私の家族、それに陛下だけです」
「陛下まで? どうして?」
「団長を陛下の専属護衛に任命されないようにするためです。団長が陛下と四六時中一緒なんて流石に耐えられませんから」
ああ、そういうことか。
狼族と熊族は力的にはほぼ同格だからな。
私に狼族の匂いがつくのが嫌ということか……。
専属護衛の話が一度も来なかったのは不思議に思っていた。
最初はただ単純に私の力量不足だと思っていたが、私より実力が随分と下の者が選ばれてなぜだろうと思っていたんだ。
普通なら、自分の道を勝手に閉ざされて怒るところなのだろうが、そこまで執着してくれていたのだと思うとなぜか嬉しくなってしまう。
ああ、もうこんなにも思ってくれる相手にここまで周りを固められていたら、たとえ手を離してもすぐに捕まってしまいそうだ。
「マクシミリアン……本当に、私でいいのか?」
「あなたじゃなきゃだめなんです。だから、私のパートナーになってください!」
ギュッと手を掴まれているのに、痛くない。
ここまで私のことを優先してくれるのか。
ここまでされたら嫌だなんて言えないな。
「分かったよ。パートナーになろう」
「――っ!! 団長!」
「その代わり、守って欲しい約束が三つある」
「約束事、ですか? 私たちが別れたり、離れたり以外のことなら守りますよ」
「よし、言ったな?」
私はニヤリと笑って、マクシミリアンに約束事を突きつけた。
「一つ目は私の怪我が治るまで我慢すること。二つ目は私たちがパートナーになったことは騎士団内では内緒にしておくこと。そして、三つ目は……二人でいる時はヴェルナーと名前で呼ぶこと」
「ーーっ! ヴェルナーっ!!」
いいか? と尋ねる前に、マクシミリアンは私の名前を呼んで私を抱きしめた。
もちろん、傷に触れないようにそっと。
そんな時にも私のことを思ってくれる気持ちが嬉しかったんだ。
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