異世界でイケメン騎士団長さんに優しく見守られながらケーキ屋さんやってます

波木真帆

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番外編

シェーベリー団長と息子さん

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久しぶりの更新ですが、訓練場にいた新人騎士視点のお話です。
楽しんでいただけると嬉しいです♡

  *   *   *


<sideランジュルス王国騎士団 新人騎士・ハンク>

幼い頃、父親に連れられて騎士団の公開訓練を見に行ったことがきっかけで、私は騎士になることを志した。
シェーベリー団長のあの途轍もない強さに惹かれたのだ。

その日からいつか必ずシェーベリー団長に直接お教えいただくことを夢見て、私は必死に身体を鍛え、剣術は誰にも負けることのない実力をつけた。

けれど、私が騎士になる前にシェーベリー団長は騎士団を辞められ、シェーベリー公爵家の当主としての仕事に集中されることとなった。シェーベリー団長ありきで騎士を志していた私にとって、この事実はかなり辛い出来事であったが、シェーベリー団長が完全に騎士団を辞められたわけではなく、遠征訓練には参加なさるという情報だけが私の心の支えとなっていた。

そして、ようやく私はランジュルス王国騎士団の一員となった。
シェーベリー団長がいない騎士団を率いているのはフィン団長。フィン団長も素晴らしい実力者ではあるが、やはりシェーベリー団長に会いたいという私の気持ちは変わらなかった。
もしかしたら入団の日にはお会いできるかもしれないと一縷の望みをかけていたが、結局その機会はなかった。それでも遠征訓練の予定は決まっている。きっとその時には……と思っていたのだが、今日いつものように訓練をしていたところ、突然

「フィン!」

と団長を呼ぶ声が聞こえた。

その声に一気に胸が高鳴る。なんせずっと近くで会いたいと望んでいた人の声だ。間違えるわけがない。私は先輩騎士たちの陰からその姿を拝見した。

騎士団長の座を降りられても圧倒的な存在感。内に秘めている力もビリビリと感じられる。
ああ、やっと近くで拝見できた。その喜びに身体が震える。

フィン団長はそのシェーベリー団長と和やかに話されているが、私にはその中にいる小さな男の子の姿が気になった。

もしかしてあの子はシェーベリー団長のお子さま?

私がどれだけ望んでも手に入れられない場所にいる子だ。なんとも羨ましい。
私がこれまで生きてきた人生の中で、一番羨ましい存在かもしれない。

「少しの間でいい。テオを訓練に入れてくれないか?」

訓練そっちのけでフィン団長とシェーベリー団長の会話を盗み聞きしていると、そんな言葉が聞こえてきた。

まさか、あんな子どもを私たちの訓練に?
そんなことよりも私はシェーベリー団長に訓練をしていただきたいのに……。

流石にフィン団長も断るだろうと思っていたが、

「承知しました。ではテオさま。こちらにどうぞ」

とすぐに受け入れ、その子どもを連れて私たちの元にやってきた。

まさか本当に訓練に入れるつもりとは……驚きだな。
あんなにもお会いしたいと思っていたシェーベリー団長はすっかり親バカになってしまったのか。
私は一体何を見て目標にしていたのだろう。

自分の見る目のなさに泣きそうになる。

だが、私の思いなど知る由もないフィン団長に

「ハンク! テオさまのお相手をするんだ」

と言われてしまった。団長直々に命令された以上、それを拒否することなどできない。

「承知しました」

自分の意に背くことであっても、承知しました以外の言葉は新人騎士である私には言えるはずもない。

私は練習用の木剣を取り、シェーベリー団長の子どもである、テオさまの前に立った。
テオさまは私の顔を見ると、可愛らしくも優しい笑顔を見せ、

「テオです。よろしくお願いします!!」

と幼子とは思えないようなはっきりとした声をあげた。

その勢いに負けそうになるのを必死に堪え、

「は、はい。ハンクと申します。どうぞよろしくお願いいたします」

と頭を下げた。

まだ幼いというのに、私を前にしてもちっとも物怖じする様子がない。さすがシェーベリー団長のお子さまだ。

「構え!」

フィン団長の声にテオさまがスッと剣を構える。その瞬間、さっきまでの可愛らしくも優しい笑顔が一気に真剣な表情になり、恐ろしいほどの威圧を放つ。

「――っ!!」

その凄まじい威圧に飲み込まれないようにするのに必死で、一歩踏み出すこともできない。

「ハンク! 何をしているんだ! 動け!!」

周りの先輩騎士からヤジが飛ぶが、動きたくても動けないんだ。
私が動けない間にスッとテオさまの木剣が動く。そして私の顔スレスレで止まった。

「ひっ!!」

あまりの早技に対戦していた私だけでなく、周りの先輩騎士も声を出せない。

「それまで!!」

フィン団長の声にはっと我にかえり、私はテオさまに頭を下げたが足が動かない。
そのままその場に崩れ落ち片膝をつくと目の前にいたテオさまが駆け寄ってきて、

「ごめんね、大丈夫?」

と最初のような優しい声をかけてくださった。

「は、はい。ご心配をおかけして申し訳ございません」

「ハンク。これから僕が守ってあげるからね」

「えっ? それはどういう意味でございますか?」

「ハンクは僕のお嫁さんにしてあげる」

テオさまはそんな言葉を告げると、突然私に抱きついて私の唇に自分の小さな唇を重ねた。

えっ……これは、今、一体どうなってるんだ?

目を丸くして驚く私の目の前には天使のように可愛らしい笑顔を浮かべたテオさまがいた。


  *   *   *

続く予定ですが、間が空きそうなので一応完結表記にしておきます。
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