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番外編
サプライズ <後編>
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「な――っ、えっ? なぜノエルさまがここに?」
混乱する私を前にヒジリは残念そうな表情を見せ、
「あのね、明日がお父さまのお誕生日だって聞いたから、お父さまへのケーキをお母さまと作ろうと思って、今2人で作っていたところだったんだ。お父さまに内緒にしようと思ってたからランハートにも黙っていたんだよ。バレちゃったけど……」
と教えてくれた。
そう、だったのか……それを私は勘違いして……。
ああ、なんということだ。
だが、それだけであんなにもヒジリが上の空でいたとは……。
私といる間もずっとヴァージルのことが頭にあったということか?
「ヒジリの様子がおかしかったのはそれが原因か?」
「えっ? そっか。気づいてたんだ。なんだ、必死で隠してたのにな」
「ヒジリ……どういうことだ?」
そう尋ねるとヒジリは厨房にある大きな冷蔵庫から綺麗な箱を取り出した。
それをパカっと開いて
「お父さまへのケーキはお母さまが作るから、僕はランハートのために作ったんだよ」
と今まで店で見たことのないケーキを見せてくれた。
「こ、これを私のために?」
「うん、ランハートに喜んで欲しくて、なににしようかずっと考えてたからぼーっとしちゃってごめんね」
「そうか、そうだったのか……ヒジリ、すまない」
「んっ? どうしたの?」
ヒジリがこんなにも私を思ってくれているのに、私は疑ったりして……ああ、なん私は馬鹿なんだ!
「いや、本当に美味しそうだ。ありがとう、ヒジリ」
「お父さまと一緒に驚かせようかと思ったんだけど、まぁいいか。後で一緒に食べようね。
お母さまのケーキ、もうすぐ出来上がるからちょっと待っててね」
「ああ、わかった」
私は厨房の隅に椅子を置いてヒジリとノエルさまが楽しそうにケーキを作る姿を見つめる。
「お母さま、すごい! 上手です!」
「ふふっ。良かった、ねぇ、ここは?」
「ああ、ここにも生クリームつけましょう!」
「ヴァージル、喜ぶかしら?」
「大丈夫です。お父さま、お母さまの手作り、美味しく召し上がると思いますよ」
ああ、本当に仲の良い親子だな。
「さぁ、できた!! 綺麗に箱詰めもできたし、お母さま。これにお父さまへのメッセージを書いてください」
「ええ? なんだか恥ずかしいわ」
「お父さま、喜びますよ」
ヒジリのその言葉にノエルさまはヴァージルへとお祝いの言葉を書いた。
なにを書いたかまではわからなかったが、ヴァージルが羨ましく思った。
私もこのような愚かなことをしなければ、ヒジリからのメッセージが貰えたかもしれないのに……。
ああ、私は本当に大馬鹿者だな。
「ランハート、一緒にお城に行きましょう」
ノエルさまのお誘いに私は荷物を持ちながら、お城へと向かった。
「おお、ランハートだけだと思ったらノエルも、ヒジリも一緒とは。嬉しいな」
「ふふっ。お父さま、お誕生日おめでとうございます」
「ああ、ありがとう。ヒジリ」
「ヴァージル、お誕生日おめでとう。これ、ヒジリと一緒に作ったケーキよ」
「ええっ? ノエルがヒジリと? 私のために?」
ヴァージルの喜びが私にも伝わってくる。
そうれは、そうだ。
愛しい妻と娘からの贈り物だ。
嬉しいに決まっている。
ノエルさまが『あ~ん』とヴァージルにケーキを食べさせる。
ヴァージルの喜びようと言ったらすごいな。
「ヴァージル、美味しい?」
「ああ、こんなに美味しいものは初めて食べたな。ありがとう、ノエル」
「ふふっ。ヒジリが教えてくれたの」
「そうか、ヒジリありがとう」
「お父さまが喜んでくださって嬉しいです」
ヴァージルの喜びに満ちた顔を少し羨ましく思いながら、私はヒジリと共に城を出た。
「ヒジリ、今日は悪かったな。せっかくのヒジリの計画を台無しにしてしまって……」
「ううん、ケーキを見せられて驚かせられたしいいんだ。ねぇ、ケーキ食べてくれる?」
「ああ、もちろんだとも」
私はヒジリと共に店へと戻った。
ヒジリの用意してくれたコーヒーとケーキを前に私はもう一度『ありがとう』とお礼を言った。
初めて見るケーキはほんのりと紅茶の香りがした。
「ヒジリ、このケーキは?」
「紅茶を混ぜてふわふわに焼いたシフォンケーキっていうケーキだよ。
生クリームをつけて食べると美味しいんだ」
「シフォンケーキ……おお、本当にふわふわだな」
あまりの大きさに驚いたが、柔らかい食感にびっくりするほどたくさん食べることができた。
私が美味しそうに食べるのを嬉しそうに見つめているヒジリを見ながら、私は幸せな時間を満喫した。
ケーキを食べ終わり、そろそろ屋敷に戻ろうかと声をかけた私に、ヒジリが
「あの……今日はここに泊まりたい、んだけど……だめ?」
と上目遣いに頼んでくる。
可愛い仕草にドキッとしながら、
「別にいいが、何かあるのか?」
と尋ねると、
「たまには小さなベッドでランハートとくっつきながら寝たいなって……」
と顔を赤らめてそんなことを言ってくる。
ああ、私のヒジリはなぜこんなに可愛いのだろう。
それならお望み通りピッタリと隙間なくくっついて眠るとしよう。
ヒジリの最奥に口付けを与えながらな……。
混乱する私を前にヒジリは残念そうな表情を見せ、
「あのね、明日がお父さまのお誕生日だって聞いたから、お父さまへのケーキをお母さまと作ろうと思って、今2人で作っていたところだったんだ。お父さまに内緒にしようと思ってたからランハートにも黙っていたんだよ。バレちゃったけど……」
と教えてくれた。
そう、だったのか……それを私は勘違いして……。
ああ、なんということだ。
だが、それだけであんなにもヒジリが上の空でいたとは……。
私といる間もずっとヴァージルのことが頭にあったということか?
「ヒジリの様子がおかしかったのはそれが原因か?」
「えっ? そっか。気づいてたんだ。なんだ、必死で隠してたのにな」
「ヒジリ……どういうことだ?」
そう尋ねるとヒジリは厨房にある大きな冷蔵庫から綺麗な箱を取り出した。
それをパカっと開いて
「お父さまへのケーキはお母さまが作るから、僕はランハートのために作ったんだよ」
と今まで店で見たことのないケーキを見せてくれた。
「こ、これを私のために?」
「うん、ランハートに喜んで欲しくて、なににしようかずっと考えてたからぼーっとしちゃってごめんね」
「そうか、そうだったのか……ヒジリ、すまない」
「んっ? どうしたの?」
ヒジリがこんなにも私を思ってくれているのに、私は疑ったりして……ああ、なん私は馬鹿なんだ!
「いや、本当に美味しそうだ。ありがとう、ヒジリ」
「お父さまと一緒に驚かせようかと思ったんだけど、まぁいいか。後で一緒に食べようね。
お母さまのケーキ、もうすぐ出来上がるからちょっと待っててね」
「ああ、わかった」
私は厨房の隅に椅子を置いてヒジリとノエルさまが楽しそうにケーキを作る姿を見つめる。
「お母さま、すごい! 上手です!」
「ふふっ。良かった、ねぇ、ここは?」
「ああ、ここにも生クリームつけましょう!」
「ヴァージル、喜ぶかしら?」
「大丈夫です。お父さま、お母さまの手作り、美味しく召し上がると思いますよ」
ああ、本当に仲の良い親子だな。
「さぁ、できた!! 綺麗に箱詰めもできたし、お母さま。これにお父さまへのメッセージを書いてください」
「ええ? なんだか恥ずかしいわ」
「お父さま、喜びますよ」
ヒジリのその言葉にノエルさまはヴァージルへとお祝いの言葉を書いた。
なにを書いたかまではわからなかったが、ヴァージルが羨ましく思った。
私もこのような愚かなことをしなければ、ヒジリからのメッセージが貰えたかもしれないのに……。
ああ、私は本当に大馬鹿者だな。
「ランハート、一緒にお城に行きましょう」
ノエルさまのお誘いに私は荷物を持ちながら、お城へと向かった。
「おお、ランハートだけだと思ったらノエルも、ヒジリも一緒とは。嬉しいな」
「ふふっ。お父さま、お誕生日おめでとうございます」
「ああ、ありがとう。ヒジリ」
「ヴァージル、お誕生日おめでとう。これ、ヒジリと一緒に作ったケーキよ」
「ええっ? ノエルがヒジリと? 私のために?」
ヴァージルの喜びが私にも伝わってくる。
そうれは、そうだ。
愛しい妻と娘からの贈り物だ。
嬉しいに決まっている。
ノエルさまが『あ~ん』とヴァージルにケーキを食べさせる。
ヴァージルの喜びようと言ったらすごいな。
「ヴァージル、美味しい?」
「ああ、こんなに美味しいものは初めて食べたな。ありがとう、ノエル」
「ふふっ。ヒジリが教えてくれたの」
「そうか、ヒジリありがとう」
「お父さまが喜んでくださって嬉しいです」
ヴァージルの喜びに満ちた顔を少し羨ましく思いながら、私はヒジリと共に城を出た。
「ヒジリ、今日は悪かったな。せっかくのヒジリの計画を台無しにしてしまって……」
「ううん、ケーキを見せられて驚かせられたしいいんだ。ねぇ、ケーキ食べてくれる?」
「ああ、もちろんだとも」
私はヒジリと共に店へと戻った。
ヒジリの用意してくれたコーヒーとケーキを前に私はもう一度『ありがとう』とお礼を言った。
初めて見るケーキはほんのりと紅茶の香りがした。
「ヒジリ、このケーキは?」
「紅茶を混ぜてふわふわに焼いたシフォンケーキっていうケーキだよ。
生クリームをつけて食べると美味しいんだ」
「シフォンケーキ……おお、本当にふわふわだな」
あまりの大きさに驚いたが、柔らかい食感にびっくりするほどたくさん食べることができた。
私が美味しそうに食べるのを嬉しそうに見つめているヒジリを見ながら、私は幸せな時間を満喫した。
ケーキを食べ終わり、そろそろ屋敷に戻ろうかと声をかけた私に、ヒジリが
「あの……今日はここに泊まりたい、んだけど……だめ?」
と上目遣いに頼んでくる。
可愛い仕草にドキッとしながら、
「別にいいが、何かあるのか?」
と尋ねると、
「たまには小さなベッドでランハートとくっつきながら寝たいなって……」
と顔を赤らめてそんなことを言ってくる。
ああ、私のヒジリはなぜこんなに可愛いのだろう。
それならお望み通りピッタリと隙間なくくっついて眠るとしよう。
ヒジリの最奥に口付けを与えながらな……。
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