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番外編

サプライズ  <前編>

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可愛いリクエストをいただいたので、ちょっと書いてみました。
楽しんでいただけると嬉しいです♡




「えっ? 明後日お父さまのお誕生日なんですか?」

「ええ。そうなの。だから、国中の貴族がヴァージルに挨拶にやってくるの。
ひっきりなしにやってくるから、ゆっくり休む暇もないわ。ランハートはそれがわかっているから前日にゆっくりと挨拶に来てくれるのだけど」

「そうなんですね。それでお母さまはお父さまにどんなプレゼントを贈るのですか?」

「えっ? プレゼント? あげたことないわ」

「ええっ? そうなんですか?」

「ええ。お誕生日はお祝いの言葉を贈るだけよ」

「そんな……そんなのって寂しくないですか?」

「じゃあ、ヒジリは何をするの?」

「僕がいたところは相手の欲しいものをあげて、ご馳走やケーキを……そうだっ!!」

僕はいいことを思いついたとばかりに大声を出すと、お母さまはびっくりしてこっちをみていた。

「ヒジリ、突然大きな声を出してどうしたの?」

「お母さま! お父さまのために一緒にケーキを作りませんか?」

「ええっ? ケーキを? でも、私に作れるかしら?」

「ふふっ。大丈夫ですよ、僕がお手伝いしますから」

「そう? ヒジリのケーキはとても美味しいものね。ヴァージルもきっと喜んでくれるわ。
ええ、そうね。作りましょう!」

お母さまが乗り気になってくれて、僕とお母さまはお父さまのために誕生日ケーキを作ることにした。

「お母さま、お父さまを驚かせたいので絶対に秘密ですよ」

「ええ、わかったわ」

「じゃあ、お父さまのお誕生日の前日にこっそりとお店に来てください。大丈夫ですか?」

「ええ、グレイグを寄越してくれたらいけると思うわ」

「わかりました、じゃあグレイグさんにだけは計画を話しておきますね」

こうして僕とお母さまのサプライズ大作戦が始まった。


とりあえずランハートにも知られないようにしなくちゃ!
って、そうだ! せっかくだからランハートにもケーキ作っちゃおうっかな。

お母さまの話ではランハートは前日にお父さまにお祝いの挨拶に行くと言っていたし、その時に2人にプレゼントしたら喜んでくれるかも!!

うん、それいい!

どんなケーキにしよっかな。

部屋でひとり、ふんふんと鼻歌を歌いながらああでもない、こうでもないとケーキのデザイン画を書いていると、突然カチャリと扉が開き、

「ヒジリ、ただいま」

とランハートが入ってきた。

えっ? もうランハートが帰ってくる時間だった?
僕は慌てて書いていた紙を引き出しに隠して、

「お、おかえりなさい。早かったんだね」

と迎えると、

「いや、いつもと同じ時間だが。ヒジリが玄関で迎えてくれなくて寂しかったぞ」

と悲しげな表情で僕を見つめてきた。

「あ、ああ。ごめんね。あのお母さまと話してたら時間忘れて、帰ってきた時間を覚えてなくて……それで、その……」

「そうか、今日はノエルさまのところに行ってきたのだったな。何もなかったか?」

「ええっ? な、何もなかったよ。うん、大丈夫。グレイグさんも一緒だったし」

「……そうか。なら良かった」

その日の夜はランハートと話しながらも、ランハートとお父さまにどんなケーキを焼くかで頭がいっぱいでランハートが僕を訝しみながら見ていたことには何も気づいていなかった。


  ✳︎       ✳︎       ✳︎


「ヴァージル! ヴァージル!!」

「どうしたんだ、ランハート! こんな夜中に! お前、1人なのか? ヒジリはどうしたんだ?」

「ヒジリは屋敷で寝ている、グレイグに見張らせているから問題ない。それよりも大変なのだ!
ヒジリが私に何かを隠している!!」

「なに? ヒジリが? まさかっそんなこと!」

「私とてヒジリが私を裏切るなどそんなことはなにも考えてはいないが、だが様子がおかしいんだ。
私に何か隠していて、心ここにあらずな様子なんだ」

そう、今日私が帰宅してからのヒジリの様子はいつもと違いすぎておかしかった。
私が話しかけても上の空の様子だったし。
ヒジリはどうしてしまったのだろう?
もしや私のことが?

いや、そんなことは考えたくもない。
だが、どうしても嫌な想像ばかりが頭をよぎる。

1人で自分の胸に留めておくこともできずに、ヴァージルに話をしにきたが一向に心は晴れない。
一体どうしたらいいのだろう……そう思っていても時間ばかりが過ぎてしまう。

結局私は屋敷に戻り、ヒジリの眠るベッドに滑り込んだが気持ちよさそうに眠るヒジリにはなにも尋ねることもできずに朝を迎えた。

今日は騎士団で仕事をした後にヒジリを連れヴァージルに祝いの挨拶をしに行くことになっている。

一晩経ってもまだ上の空の様子のヒジリに行ってきますと声をかけ、私は騎士団の詰所へと向かった。


「はぁーーっ」

「団長、どうなさったのですか?」

「ああ、フィンか。いや、なんでもない」

仕事をしていても考えることはヒジリのことばかり。
今日は店は定休日だからおそらく屋敷にいるのだろうが、ヒジリは今、なにをしているのだろう?

「そういえば、先ほどヒジリさまをお見かけしましたが、今日はお店はお休みではなかったのですか?」

「なに? ヒジリをどこでみたんだ?」

「えっ? あの、お店です。裏口からお店へと入られるのをみましたが、それが何か?」

「ヒジリが店に……」

私はなにも聞いていない。
しかも裏口からこっそりとは……。
いつもなら店に入る時は詰所にいる私に声をかけて行ってくれるというのに。

やはり何かがおかしい。

私はいてもたってもいられずに隣の店へと駆け出した。
正面はカーテンが閉められ、定休日の札がかかっている。
ならば、裏口からだ!

裏口へと回ると、そこにグレイグが立っていた。

「グレイグ! そこでなにをしているんだ?」

「だ、旦那さま。なぜこちらに?」

「ヒジリに会いにきたのだ。私は夫だぞ。いつ会いにきてもいいはずだ!」

「あの、今日はお帰りください」

「なんだと? ヒジリは中にいるのだろう? 中に入れろっ!」

「それだけはお許しください! どうか、今日はこのままお帰りください!」

必死に頼むグレイグの姿に怒りが爆発して、私はグレイグを押し退け裏口から中に入った。

「ヒジリっ!!」

大声を上げ、中に入った私の目に飛び込んできたものは……

「ランハート、ここでなにをしているの?」

ヒジリと同じエプロンに身を包み、頬に粉をつけているノエルさまの姿があった。

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