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番外編

『コンフィズール』のケーキのお味は?  <子爵令息アイザックside>

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リクエストをいただき書いてみました。
うまく書けているかどうかわかりませんが楽しんでいただけると嬉しいです♡







「ねぇ、お兄さま。私を王都に連れて行って~!」

「何言ってるんだ、足に怪我をしていて連れていけるわけないだろう。大人しく家で静養していろ!」

「だってぇー、今、王都で話題のケーキを食べていないのは私だけよ! 
リリアもアンナもレイラも食べているのに! このままじゃ話についていけないわ!」

「流行り物の菓子なんてすぐにみんな飽きるだろう。それに王都で流行っているからといってなんでも美味しいとは限らないのだからな」

「それでもいいの! 食べることに意義があるんだから! 連れていくのがダメなら、お兄さまだけでも行って買ってきてちょうだいよ」

「なんで私が片道1時間もかけて王都まで!」

「そんなこと言っていいの? レイラにお兄さまが家で××してたことバラしちゃおうかな」

「くっ――! わかったよ、買って来ればいいんだろう!」

「わぁっ! お兄さま、さすがっ! 行ってらっしゃ~い!」

「何言ってるんだ、まだこんなに朝早く開いてるわけがないだろう」

「あのね、そのケーキのお店は平日の3時間しか開いていないお店なの! 開店と同時にすぐに完売しちゃうこともあるんだから! 今から行って並んでおかないと!」

妹のマルティナにそうせがまれて、いや、脅されて私は馬車で王都へと向かった。
ケーキとやらの菓子を買うためにわざわざこの距離を走らせるとかどうかしてる。

流行りなんてすぐに廃れてしまうのに、本当に女ってやつは……。

そう思いつつも妹に従わざるを得ない私は長い王都への道のりをただひたすらに景色を見ながら過ごした。

王都の馬車止めで降り、早速その『コンフィズール』という店を探そうとしたのだが、一軒の家の前に何やら長い行列が見える。
もしかしてこれがマルティナの言っていた店か?

本当に流行っていることに驚きつつ、その列の最後尾に並ぼうとすると突然騎士たちに囲まれた。
ただの騎士ではない、国王さまの警護にもあたられる王国騎士団の紋章をつけた騎士たちだ。

「あ、あの……な、なんでしょうか?」

「ケーキを買いに来るものは身分証明が必要だ。お前の身分を証明するものを持っているか?」

「えっ? 身分証明? どうして菓子を買うだけでそんな……」

「お前、この店の主人がどなた様か知らないのか?」

「わ、わかりません……」

「はぁーーっ。こちらの主人は、国王さまと王妃さまの姫君で、シェーベリー公爵さまの奥方さまになられた方のお店だぞ」

「はっ……ええーーっ?? ひ、姫君……? 公爵家の奥方……」

「そうだ、だからしっかりと身元確認の取れた者しか中に入ることはできぬのだ。
わかったら、身分を証明できるものを出せ。それから武器を持っているなら、ここで出してもらおう」

「あの、剣は持っていますが……もしかして没収されるのでしょうか?」

「心配せずとも帰る時に返してやる」

私はよかったと胸を撫で下ろしながら、腰に刺していた子爵家の家紋が入った短剣を抜き取った。

「私はベイリー子爵家の嫡男アイザックと申します。この短剣に入っている家紋が身分証明になるかと存じます」

騎士たちは念入りにそれを調べて『まぁいいだろう』と行列に並ぶのを許可された。

前に並んでいる人たちに目を向けると名だたる貴族たちだ。
おそらく使用人では身分証明ができないから認めていないのだろうな。

並ぶのが嫌いな貴族たちをも並ばせるこのケーキとやら。
そんなにも美味しいのか?
さっきまでただ買って帰ればいいと思っていたが、少し興味が湧いてきたな。

それからどれくらい待ち続けただろう。

ようやく店が開き少しずつ列が進み始めた。

店内が覗けるくらいまで近づいてみると、どうやら食事をするスペースもあるようだ。
ここまで来たんだ。
食べて帰ってもいいだろう。

ようやく私の順番が巡ってきた。

しかし、目の前のケースには一つのケーキしか残っていない。

「あ、あのこれだけですか?」

「はい。申し訳ございません。もう他のケーキは全て完売いたしました」

本当ならマルティナのケーキを買えればそれでいいんだ。
だが、初めてみるこのケーキに心惹かれる。
どうしても食べたい!! 
そんな衝動に駆られた。
何度も何度も頭の中で葛藤を繰り返していると、

「あの、お客さま? どうかされましたか?」

と目の前の店員に声をかけられた。
一つのケーキを前にずっと悩んでいればそう思うのも無理はない。

「いや、実は妹が食べたいというので買いに来たんですが、恥ずかしながら並んでいるうちに私も食べたくなってしまって……どうしようかと悩んでいたんです」

「そうですか、一つだけしか残っていないので悩ませてしまって申し訳ありません」

「いえ、いいんです。妹の分だけ買って帰ります。これ、包んでもらえますか?」

「はい。畏まりました」

店員はそういうと、ケースの中のケーキを取り出し、それを持って奥の厨房へと入っていった。

それからしばらく経って戻ってきた彼女の隣には黒髪の美しい人が立っていた。
その姿を見て思わずドキッとしてしまう。
店内にいた客たちも突然現れた美しい人に目を奪われ、騒然となった。

『うわっ、ラッキー!』
『滅多に厨房から出て来られないのに!』
『ああ、本当にお美しい』

「あ、あの……」

「この店でケーキを作っています、ヒジリと申します。せっかくお越しいただいたのに、一つしか残っていなかったそうで申し訳ありません」

「い、いえ。め、滅相もございません。私が並ぶのが遅かっただけですから。あの、頭を上げてください」

こんな高貴なお方に頭を下げさせるなんとんでもない。
店内からも外にいる騎士たちからも鋭い視線が突き刺さってくる。

「あの、もし宜しかったら試作品のケーキがあるのでそちらを召し上がっていかれませんか?」

「えっ? 試作品、ですか?」

「はい。よろしければ感想もお聞かせいただけたら嬉しいです」

優しげな瞳で笑顔を見せてくれるこの美しい方に誰が断ることなどできるだろうか。

「は、はい。喜んで」

気づけば私はそう叫んでいた。

女店員に席に案内され、それからすぐにケーキが運ばれた。
見たこともない菓子に胸が躍る。

何層にも重ねられた薄っぺらい生地の間には白いものが挟まっている。

一体これはどういう味がするのだ?

恐る恐るフォークを刺してみるとスーッと入っていく。
それを崩さないようにゆっくりと口に運ぶと、初めての食感に口が、体が驚いているのがわかる。

菓子がこんなにも柔らかく甘いものだとは知らなかったな。

ケーキなどただの流行り物だと思っていたが、あれは間違いだった。
マルティナのおかげで私はこのようなうまいものを食することができたのだな。
帰ったらマルティナにお礼を言わねば。

「いかがでしたか?」

夢中になってあっという間に食べ終わった私の元へまたあの美しい方がやってきてくれた。
もしかしてこのかたは私に好意を持っていらっしゃるのではないか?
でなければ、ここまで高待遇などしてくださるわけがない。

こんな高貴で美しいお方からお誘いを受けた以上、断るわけには……。

「あの、私――」

そう話し始めた瞬間、カランカランと大きな音が鳴り店に誰か入ってきたと思ったら、

「ヒジリ!! なんで店内にいるんだ!!」

と大きな声が聞こえて、さっと私の前からこの美しいかたを奪い去ってしまった。

「ちょ――っ!」

流石に声をかけようと振り向くと、そこにいたのはまさかのシェーベリー公爵さま。

「えっ? あっ」

「君は確か、ベリー子爵家の……」

「は、はい。あ、アイザックと申します。シェーベリー公爵さまにはいつもお気遣いいただきまして……」

「ああ、アイザック。君の家はここからかなり離れているはずだが、君もわざわざヒジリのケーキを食べにきてくれたのか?」

「は、はい。あの、妹のマルティナに頼まれまして」

「そうか、それでここでケーキを?」

公爵さまの貫くような鋭い視線に言葉も出ない。

「ランハート、この方に試作品を食べていただいてたんだよ」

「ヒジリの試作品を? あれは私のものではなかったのか?」

「ふふっ。ランハートの分もちゃんと残しているよ。後で一緒に食べよう」

「そうか、ならいいが。先に他人が食べたとなると少し悔しいな」

「ふふっ。大丈夫だよ、ランハートのは特別仕様にしてるから」

「そうか、なら早く2人で食べよう。もうケーキも売れていたし、店も終わりだろう?」

「うん。お店にいるお客さんたちが帰ってからね」

「大丈夫だ、すぐに帰るよ。なぁ?」

公爵さまが店内を見渡すと、そこにいた人たち皆がガタガタと席を立ち始めた。

「ほら、もう帰るようだ。あとはグレイグとマリアに任せよう。
グレイグ、マリア頼むぞ」

公爵さまはそういうが早いかすぐに美しい方を抱き上げ、店の奥へと入っていった。

うわぁーっ、怖かった!!
今更になって足が震え出してきた。

恐怖に身体を動かせないでいる間に私以外の客は全て帰ってしまっていた。

「旦那さまが申し訳ございません」

そう言って私に頭を下げるのは公爵家の家令殿。

「いえ、滅相もございません。あの、とても美味しいケーキでした」

「それはよろしゅうございました。ヒジリさまにお伝えいたしますね」

家令さんに見送られながら、私はまた1時間の道のりを帰った。
今度は景色ではなく、膝に乗せられたケーキの箱をただひたすらに見つめながら……。

公爵さまの睨みは本当に恐ろしかった。
だがそれ以上にあそこで食べたケーキの味は格別だった。

私はきっと恐怖と戦いながらあの店に行くに違いない。
それくらいあのケーキの味はクセになるのだ。
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