異世界でイケメン騎士団長さんに優しく見守られながらケーキ屋さんやってます

波木真帆

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毎日が幸せ

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書類上のこととはいえ、王女となった僕とランハートの結婚式は盛大なものになる。
当初ランハートのお屋敷で予定していた結婚披露パーティーは王城の大広間で開催されることになった。


そして、あっという間に結婚式前日。
王女として嫁ぐのだからと僕は王城に用意された自室に泊まることとなった。

最後までランハートはそれに反対していたけれど、いくら従兄弟とはいえ、王命だと言われたら守らざるを得なかったようで僕とランハートは久しぶりに別々の夜を過ごした。

と言っても、夕食まではランハートも一緒に王城で過ごし、夜ギリギリまで僕の部屋で一緒に過ごした。
翌朝も準備があるからと早朝に迎えに来る予定らしい。

だから、本当に寝るだけの時間が離れているだけだ。

たったそれだけの時間でもあれほど嫌がって渋々公爵家へと帰っていったランハートを見て、僕は可愛いと思ってしまった。


そろそろ寝る支度をしようと準備をしていると、部屋の扉がトントントンと叩かれた。

こんな時間に誰だろうと思いながら扉を開けるとそこにはお父さまとお母さまの姿があった。

「お父さま、お母さま。どうなさったのですか?」

「ヒジリ、少し入ってもいいかな?」

「はい。もちろんです。どうぞ中にお入りください」

僕は慌てて2人を中に入れ、ソファーに座ってもらった。

「こんな時間に悪かったね。だが、ランハートがずっと一緒だったものだからなかなか邪魔もできなくて……」

「いいえ。お父さまとお母さまとお話しできて嬉しいです」

「そう言ってくれると我々も嬉しいよ」

「何かお茶でも淹れましょうか」

「いや、いい。ここにいてくれ」

キッチンへ行こうとしたのを止められ、僕も一緒にソファーに腰を下ろした。

「其方から話を聞いてもう半年か。この間、我々とそして息子たちと何度か一緒の時間を過ごしたが、其方に会うたびに我々が実の親子だったのだとの思いが増してきてな。親子の情を感じている。其方も同じ思いだと嬉しいのだが……」

「はい。僕も同じ気持ちです。お母さまに初めて抱きしめていただいた時にはなんとなく落ち着く匂いを感じましたし、お父さまやお兄さまたちとお話しするのはとても心地良いです」

「そうか、そう思ってくれるか」

「はい。ただお父さま方がお忙しいのであまり長くお会いできないのが寂しいなと思っていたのです」

「お忙しい?」

「はい。ランハートがいつもそういうので、僕のために時間を作ってもらうのは申し訳ないと思って……」

「そうだったか……くっ、ランハートめっ……」

お父さまが小声で何やら呟いているけれど、何を言っているのか全く聞こえない。
どうしたんだろう?

「お父さま? どうかなさったのですか?」

「いや、なんでもない。其方に会う時間は我々にとっても癒しの時間のなのだ。
心ゆくまで会いにきてくれたらいい。明日、結婚の日を迎えたとしても其方は永遠に私たちの娘だ。
いつでもここに遊びにきてくれ。なぁ、ノエル」

「はい。ヒジリ、私にとってあなたは最初で最後の娘。あなたとはいつでも一緒に過ごしたいと思っているのですよ」

「お父さま……お母さま……。ありがとうございます」

「それに、ヒジリ。あなたの作るケーキもとても美味しくて、今度一緒に作りたいわ」

「本当ですか、お母さま! はい、ぜひ一緒に!!」

お母さまが僕と一緒に作りたいと言ってくれるなんて!!
僕、お母さんと一緒に作るの夢だったんだ。
一度も叶うことはなかったけれど、この世界で叶うなんて、本当に夢みたいだ。

この世界ではなんでも僕の夢が叶うみたい。
ふふっ。なんていい世界なんだろう。

「ヒジリ、これは我々からの結婚祝いだ」

そう言ってお父さまが差し出したのは、キラキラと輝くネックレス。
もしかしてこの真ん中の大きい石はダイヤモンド?

こんなすごいのもらっていいの?

「これ……」

「これは王家所有の宝石で作らせたヒジリのためのネックレスだ。
受け取ってほしい」

「こんなすごい宝石を僕がいただくなんて……いいんですか?」

「ああ。ヒジリのために作らせたんだ。ヒジリが受け取ってくれなければ、誰にも使われることなく保管されてしまうよ」

こんな綺麗な石が誰にも見られることなく保管されるなんてそんなことはだめだ。

「はい。では喜んで頂戴します」

「ふふっ。よかった。では私がつけてやろう」

そう言ってお父さまは僕の首にネックレスをかけてくれた。

「これはヒジリの大切なお守りだから決して外してはいけないよ」

「わかりました。ありがとうございます」

それから少し話してから、明日のためにもうおやすみと言って2人は部屋を出て行った。

僕は胸に輝く石を手にしながら、ベッドに入った。





「――リ、ヒジリ」

ランハートの声が聞こえて目を覚ますと、隣になぜかランハートが横たわっていた。

「あれ? ランハート、いつの間に?」

「ふふっ。少し早く着きすぎてな、ヒジリの寝顔を見ていたのだ」

「そうなんだ、お迎えに来てくれてありがとう」

「ヒジリに会うためなら何も問題ないよ。んっ? ヒジリ、それ……どうしたんだ?
私が昨日帰るまではそんなものつけていなかっただろう?」

「ああ、これ? 昨日、ランハートがお屋敷に帰った後にお父さまとお母さまがお部屋に来てくれて少し話をしたんだよ。その時にこのネックレスをいただいたの」

「ヴァージルが? そうか、それなら仕方ないな」

『私があげた宝石以外はつけてほしくないのだが、その石はその昔、神からこの王家に授けられたと言われている神の石。それを持つに相応しいとされる人に渡されると言われていて、ヒジリはそれに選ばれたようだ。おそらくヴァージルに神託があったのだろうな』と教えてくれた。

この石にそんな意味があったとは知らなかった。

ランハートは少し悔しそうにしながらも、『綺麗だ、よく似合ってるよ』と言ってくれた。


僕はそのネックレスを胸にランハートのこだわりがたくさん詰まったドレスを着て、その日盛大な結婚式が開催された。
国内外の貴族が全て集まり僕とランハートの門出を祝ってくれた。

ドレスを着ている僕を誰も男だとは気づいていないみたいだ。

よかったとホッとしつつも、なんとなく複雑な気持ちもある。

厳粛かつ盛大な結婚式はあっという間に幕を閉じた。

その日、ランハートは『もう遅いから王城に泊まれ!』というお父さまの意見を
『結婚式を挙げたのだからもういいだろう』と跳ね除け僕を公爵家へと連れ帰った。

そして、昨日離れていた分を取り戻すかのようにランハートは僕を愛し、またもや三日三晩愛し続けた。

グレイグさんはもう呆れ果てていたけれど、愛し合っていないと子が授からないというランハートの言葉に、もう注意することも無くなった。
それどころか僕たちが愛しあうのを喜ばしく思っているようだ。
でもまだ子どもがきてくれるまでに15年もあるんだけど……と思いつつ、僕は今日もランハートに愛され続ける。

そうそう、僕のお店『コンフィズール』
今はほとんど平日の少しの時間しか営業できなくなったお店だけれど、それが希少性があるとかえって人気になり、今でも僕のケーキは売れ続けている。

僕のケーキを食べてくれる人がいる限り、このお店は続けるつもりだ。


いつも閉店時間にはランハートがやってきて残りのケーキを一緒に食べるのがルーティーン。
今日もまたそろそろランハートがやってくる時間だ。

美味しいケーキとコーヒーを用意しておこう。

旦那さまと楽しい時間を過ごすために……。






今まで読んでいただきありがとうございます。
こちらで一旦本編完結です。
いくつか番外編を書いて完結予定です。

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