異世界でイケメン騎士団長さんに優しく見守られながらケーキ屋さんやってます

波木真帆

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僕たちの未来

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なにっ? ここ、どこ?

ああ、もしかして夢の中か。

<いいえ、夢ではありませんよ>

さっきから僕の頭の中に聞こえてくるこの声ってなに?
一体誰の声なの?

<私は、あなたがいた世界も、そして、今あなたがいる世界も、ありとあらゆる全ての世界を司る神といったところでしょうか>

えっ? 神さま?
ありとあらゆる世界の……って、そんなすごい人がなんで僕に話なんか?

<そもそもヒジリ……あなたが今いる世界に転移してしまったのは間違いだったのです>

えっ? 間違い?
じゃあ、僕は誰かと間違えて……とか?

<いいえ、そうではありません。間違いと言ったのは少し語弊がありましたね。
あなたは転移ではなく、転生して今の世界に生を受けるはずだったのです>

転生?
それって、生まれ変わるっていうことですか?

<そうです。あの日、あなたは駅で大勢の乗客に押されて階段から落ちそうになった老人を助けようとして逆に階段から落ち命を落とす未来になっていたのです。ところが、あなたは電車に乗る選択を急遽変え、踵を返したところ事故にあった。即死の状態だったあなたの魂を転生させるのはいかに神とはいえ難しく、私はやむなくそのままの姿で転移させたのです>

あの、僕が助けるはずだったその人はどうなったのですか?
もしかして……

<大丈夫です。あの老人は無事ですよ。そもそも元々死ぬ運命にはない方ですから>

そうなんだ、良かった。
あ、じゃあ僕を撥ねてしまった人はどうなったのですか?

<あなたは自分のことよりも他人の行方が気になるのですね。ふふっ。あなたらしい。
大丈夫ですよ。あなたをこちらに転移させたことで事故自体がないものとなりました。
ですから、あなたはあちらの世界には元々存在しない人間となったのです>

えっ? ああ、そっか。
僕の存在が消えてしまったんだ……。
でも、僕はこの世界に来て幸せなので、転移だろうが転生だろうが変わりません。

<そうですか。ですが、あなたがそちらの世界に転移したことで一つ困ったことが起きたのです。
それはあなたも感じているはずでしょう>

それって……後継ぎの?

<はい。本来ならばあなたはそちらの世界の王、ヴァージルとその妃、ノエルの娘として生を受けることになっていたのです>

ヴァージル、さんってランハートの従兄弟さん?
でも、そうしたら僕とランハート、すごく歳が離れることになりませんか?

<ふふっ。それは問題ありません。ランハートは生まれてすぐのあなたを見て運命を感じ取り、自分のありとあらゆる全ての力を使ってあなたを育て上げることに生きがいを感じる者ですから>

生きがいって……そうなんだ。
そこまで言われるとちょっとびっくりしちゃうかも。

<ですから、私はあなたがこの世界に来てからの数ヶ月、あなたとランハートの動向を見守っていたのです。
数々の困難を乗り越え、あなた方が心から愛し合うようになるのかどうかを。
あちらの世界での全ての記憶を持ったままこちらに来てしまったあなたが、同じ性を持つランハートに心惹かれるか心配していたのですが、あなた方は違う姿で出会ってもお互いに惹かれ合い、愛を育んだ。これなら心配ないと判断したのです>

でも……そうしたら、後継ぎはどうなるんですか?

<あなたが転生して、ランハートと無事に結婚し、生まれるはずだった子をあなた方の元へと送りましょう>

僕たちの子ども?
わぁっ!! 本当ですか!!! 嬉しいっ!!!

<喜ぶのはまだ早いですよ。あなた方の元へ授けるのはあの子が生まれるはずの時代、今から15年先の未来です。
それまであなた方が今のまま愛を育んでいたらその時に授けましょう>

神さま、ありがとうございます!!

<ふふっ。それは15年後に聞くことにしましょうか。それまで2人で仲良く暮らすのですよ>

はい、ありがとうございます!!!

<さぁ、ヒジリ。あなたの居場所におかえりなさい。あなたの帰りを心配して待っている者がいますから――>



「――リ、ヒジリ!」

「う、うーん。神さま……」

「ヒジリ?」

さっきまでの声と違い、聴き慣れた声が僕の耳に入ってきて僕は目を覚ました。

そこはさっきまで見ていた何もない空間ではなく、ここ数日で見慣れたランハートの寝室だった。

「らん、はぁと……」

「ヒジリっ!」

ランハートはまだ寝ぼけている僕をグッと抱き上げ、ぎゅっと抱きしめる。

「ああ、ヒジリっ! ずっと目覚めないから心配したぞ!」

「えっ? ずっとって、どれくらい?」

「丸二日も眠ったままで、このまま戻ってこなかったらどうしようかと思っていた」

目にいっぱい涙を潤ませて、僕を絶対に手放さないと言わんばかりにぎゅっと抱きしめるランハートに驚きながら、僕はさっきまでのことを思い出していた。

きっと神さまのところと僕たちが今いる世界とは時の流れが違うんだろうな。
ランハートを心配させてしまって申し訳ない。

でも、きっとランハートもこの話を聞けば安心してくれるはずだ。

「心配かけてごめんね。でもね、僕……神さまのところに行ってたんだ」

「神……のところに?」

「うん。僕が聞いてきた話を伝えるからランハートも聞いてくれる?」

「ああ、もちろんだよ。何でも教えてくれ」

「実はね――――」

僕は神さまから聞いた話を全てランハートに伝えた。

ランハートはその話に目を丸くして驚き信じられないと言った表情で聞き入っていたけれど、将来僕たちの子どもがやってくるという話には

「――っ!!! それは本当なのか、ヒジリ!!! 私たちの子どもが???
ああ、なんと幸せなことだろう!!!!  ヒジリに似た子だろうな。ああ、楽しみだな。
ヒジリ、もう1人だけの身体ではないのだから無理をしてはいけないよ」

とかなり興奮した様子で何故か僕のお腹をさすっていた。

「ちょ――っ! 落ち着いて、ランハート! まだ僕、妊娠しているわけでもないし、どうやって僕たちの元にやってくるのかもわからないし、そもそも僕が産むかどうかも――」

「そんなことはどうでもいい。わかっているのは私たちの愛が永遠に続くことと、その愛の結晶が我々の元に授かるということだ。ヒジリが元気でいなければ、子はやってこないのだから、無理してはいけないというのは正しいことだろう?」

「えっ? そ、そうなのかな?」

「ああ、そういうことだ。だから、これからもヒジリはいつでも私に甘えてくれればいいのだ。
そうしたら私たちの子が……。ああ、本当になんと幸せなのだろうな。私は」

よくわからないけど、とにかく後継者問題は解決ってことでいいのかな?
今のランハートの姿を見ている限り、15年先も愛が枯渇することはなさそうだし。
これでホッと一安心、なのかな……。

「それにしても、ヒジリがヴァージルの娘として生まれるはずだったとは、それはそれで驚きだな。
いや、だからか……ヒジリを紹介した時にあれほどまでに心惹かれた様子だったのは……。
本来ならば父と娘との対面だったのだからな」

「ふふっ。そうか、本当ならヴァージルさんをお父さんと呼んでたんだ……。わぁーっ、そう考えたら不思議だね」

「赤子のヒジリをこの手で私好みに育て上げる……それはそれで心惹かれるものがあるな」

「んっ? ランハート、なにか言った?」

ボソボソと何かを呟くランハートに声をかけたけれど、

「い、いや……なんでもない。なんでもないぞ。それより、ヒジリ食事にしよう」

と話題を変えられてしまった。

一体何をぶつぶつ言ってたんだろう?? 気になるなぁ。
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