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僕だけのものだ!

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「ほら、ヒジリ。『あ~ん』して」

あれから3日。
だいぶ身体も動かせるようになったけど、ランハートは蜜月休暇だとか言ってずっと傍にいて僕のお世話をしてくれる。
食事はもちろん、お風呂もトイレも散歩に行く時もずっと一緒。

本当に嬉しそうにお世話してくれるから僕もついつい甘えてしまって、

「唇が汚れちゃった。ランハート、舐めて~」

とか、

「喉乾いた~、口移しで飲ませて~」

とか、

「抱っこして~、お散歩したい~!」

とか思いつくままに相当無理なこと言ってるけど、ランハートは僕のその要求を全部嬉しそうに叶えてくれるんだ。
きっと僕に無理させ過ぎて動けなくさせちゃったことを申し訳ないと思ってくれているのかも。

だから僕がこうやって甘えることでランハートの罪悪感が少しでも減ってくれたらいいなぁなんて思ってる。

でも、ランハートにお世話されてると元気になってからランハートがいないと何にもできなくなりそうで怖いなぁ。
それくらいランハートにお世話されるのはすごく心地良いんだ。


「ヒジリ、美味しいか?」

「うん、美味しい」

満面の笑みで見つめ合いながら食事をとる僕たちの周りには今は誰もいない。

グレイグさんが寝室に食事の準備だけをして後はランハートに任せてくれるんだ。
それというのも、ランハートが寝巻き姿の僕を他の人に見せたくないとかなんとか言ってたけど、多分ダラダラしてる僕がちょっと人に見せるのが憚られるくらいやばい顔になっているのかも。
気づかない間によだれとか目ヤニとか固まってたりして……。

ランハートがいつもあったかいタオルで顔を拭いてくれるんだけどね。
寝たり起きたりの繰り返しだからそれも間に合わないくらいの勢いなのかも。

ランハートはこんな僕の顔を間近で見ても『うわっ』とか思ったりしないのかな?
いっつも可愛いって言ってくれるから、もしかしたら運命の相手はそういうフィルターでもかかって見えてるのかもね。

ランハートは誰から見てもイケメンだから、異世界人にだけフィルターかかってたりとか?
だって寝起きだろうが、どんな時でもランハートは常にイケメンなんだから。

僕、こんなイケメンと結婚までしちゃったんだよね。
本当日本での日々を考えたら不思議だ。

日本じゃどう足掻いてもランハートとは結婚できないし。
ああ、僕この世界に来られて、こんなに愛してもらえて本当によかったな。

もちろん両親が僕を産んでくれたことは感謝してるけど、お父さんもお母さんも仕事が忙しくて僕は小さい頃からシッターさんに育てられたようなものだし、一緒に遊んでもらったなんて記憶も何もないんだよね。

シッターさんも1年おきくらいのペースで違う人に変わってたからあんまり仲良くなろうとか感情も持てなかったしな。
あ、でも小学6年の時に半年間いてくれた珍しく若かったあのシッターさん、名前はなんだったかな……そうだ、佳奈さん。

佳奈さんがお菓子作りが得意で一緒にお菓子を作ってくれたのが僕のお菓子作りの原点なんだよね。
色々教えてもらえて嬉しかったのに、急に辞めちゃってあの時だけは少し寂しかったな。

でもあれから家で1人でケーキやクッキー作ったりできるようになって、毎日楽しかったな。
そう、それで少しずつ将来の夢が定まっていって、中学生になった時にはパティシエになろうと思ったんだ。

でも、両親に反対されて調理師とは違う国立大学に進まされたけど、諦めきれなくて調べたのがあの最終面接まで残った会社。
両親も納得するくらいの大手企業で、あそこならお菓子の開発に携われるって思ったんだ。
結局最終面接には行くことなくこの世界に来ちゃったけど、お菓子屋さんになりたいって夢はここで叶えさせてもらったしな。

あの会社に行くのを目標にしてたけど、それ以上の夢を叶えてもらえてやっぱり僕は幸せだ。

でも、ランハートと恋人になるって決めた時にも頭をよぎった後継者問題。

僕にはどう頑張っても子どもは産めない。
あんなにお腹が膨れるほどランハートに注いでもらっても僕には無理なんだよね。

やっぱり子どものためには女性が必要だ。
もしかして大奥みたいな側室がランハートに現れるとか?

仕方がないこととはいえ、この温もりを誰かに渡さなきゃいけないなんてやだっ!!
ランハートは僕だけのものだし。

急に心配になって僕は隣にいるランハートの腕に縋りついた。

「ヒジリ、どうした? くっついてくれるのは嬉しいが、顔が少し悲しそうな顔をしてるな。
どこがまだ痛みがあるか?」

ランハートは僕のことを心配そうに見てくれる。

うん、やっぱりやだ。
誰にも渡したくない。

でも僕のわがままでこの公爵家が終わってしまうのは申し訳なさすぎる。
一体どうしたら良いんだろう?

「ヒジリ、どうしたんだ? 悩んでいることがあるなら、私に話してくれないか?」

優しいランハートの言葉に僕は自分の頭の中に芽生えたこの考えを洗いざらい言葉にして伝えた。

「――この公爵家のためには我慢しないといけないこともあるんだろうけど、僕はランハートを誰にも触れさせたくないんだ。こんなわがまま言う僕って可愛くないよね?」

そういうと、ランハートは

「ああっ、ヒジリ!!! お前はどうしてそんなにも喜ばせるんだ!
言っただろう? 私にはヒジリだけだと。他には何もいらない。
もし、私たちの代で公爵家が終わるのなら、それは神が定めたものだ。
ヒジリにはなんの悪いところなんてないんだよ。それはわかってくれ」

と僕をぎゅーっと抱きしめながら必死な様子でそう言ってくれた。

ランハートの言葉が全て本心から出ていることはランハートの様子でちゃんとわかってる。

「じゃあ、僕はこのままランハートを独占していてもいいの?」

「ああ、私は他の誰のものでもない。永遠にヒジリだけのものだ」

「よかった、嬉しい……」

「疲れているから嫌なことを考えるんだ。ほら、ヒジリは余計なことを考えないでゆっくりおやすみ」

ランハートはそう言って僕を抱きしめたまま、背中をトントンとたたいてくれた。

まるで子どもになったみたい。
そんなことを思いながら僕は眠りについた。


<――リ、ヒジリ……目を覚ましなさい>

<う、うーん。まだ眠っていたい>

<ほら、ヒジリ。起きるのです>

やっと眠ったところだったのに誰?

そう思いながら目を開けると、そこはさっきまでいたランハートの部屋ではなく、何にもないただの空間だった。
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