50 / 80
従兄弟の運命の相手 ヴァージルside <前編>
しおりを挟む
私の名はヴァージル。
本当は長ったらしい名前があるのだが、ここは割愛しておこう。
歴史あるランジュルス王国の国王となってしばらく経つ。
我が国は100年ほど前までは周りの国とも戦争などをしていたが、我が国の軍事力があまりにも強大となり我が国に戦争を仕掛けるものはいなくなった。
おかげでそれからは平和な時を過ごしている。
我が国が平和を保つことができるのは王国騎士団の力も大きいだろう。
現在の王国騎士団は長い歴史の中で一二を争うほどの戦闘力を持っている。
それはなぜか。
それはこの騎士団を統率しているランハート騎士団団長の存在が大きい。
ランハートの母親は私の父の妹……簡単に言えば、私とランハートは従兄弟にあたるが、同じ時期に生まれた私たちは、ほとんど兄弟のように育てられた。
王子として、人に傅かれる毎日の中でランハートだけは私を対等に扱ってくれたのだ。
大きくなり、公の場では私を王子として扱いはしたが2人になればいつも通りの関係で私はランハートと過ごす時間を心地よく思っていた。
成人が近くなり、私の元へは毎日とんでもない量の縁談話が舞い込んでくる。
国内の高位貴族はもちろん、外国の姫たちの釣書と日々格闘していたのだが、
「ヴァージル、大変そうだな」
とランハートはどこ吹く風といった様子だ。
本来ならば公爵家の嫡男であるランハートには私と同量の縁談話が来てもおかしくはないのだが、ランハートにはまだ来ない。
いや、これから先10年は来ないだろう。
なぜなら公爵家当主には運命の人との出会いがあると言われているからだ。
出会った瞬間にすぐに運命だとわかり、生涯その人としか愛せない。
もし公爵家当主が運命の人以外のものと婚姻したら、公爵家は廃れると言われている。
公爵家が没落することはすなわちそれはランジュルス王国の滅亡を意味する。
それほどまでに我が王家とシェーベリー公爵家との結びつきは強い。
だからこそ、ランハートには縁談話は来ないのだ。
だが、運命の人はどこにいるかはわからない。
先先代の場合は随分と歳の離れた隣国の貧しい町の娘だった。
ランジュルスに足を踏み入れたこともなければ運命の人の存在も知らない。
だが、運命は一瞬にして動き出した。
先先代に運命の人が現れないことに痺れを切らした当時の家令が先先代の当主が成人から10年経過したのを区切りに、国内外の妙齢の女性を屋敷に招いたのだ。
その時、隣国の高位貴族の女性の付き添いとして屋敷にやってきたのがその彼女だったのだ。
先先代はたくさんいる女性の中からすぐに彼女を見つけ出し、彼女はすぐに公爵夫人として迎え入れられた。
ランハートの父の場合は、運命が私の父の妹であったこともあって、幼少期からすぐに婚約者として愛を育み、成人を迎えたと同時に婚姻した。
そんな経緯があるからこそ、ランハートの場合も成人から10年経つまでは縁談話が舞い込むことはない。
10年もあれば、おそらくその間に運命が現れるとランハートも私も思っていた。
まさか15年経っても見つからぬとは誰が思っていただろう。
先先代に見習って25を過ぎてからランハートの下には縁談話がくるようになったが数十名と一度会った瞬間、『違う』と一言告げ、帰っていく。
そんな対応に女性たちは諦めてしまったのだ。
その結果30を迎えた今、ランハートの元には縁談話も来なくなった。
ランハートにいつ運命が現れるのか……日々それだけを心配していたある日、ランハートが血相を変えて私の元へとやってきた。
騎士団長になってからは必ず約束を取り付けてから訪れていたというのに、昔のような振る舞いにいささか驚きを隠せなかった。
「ヴァージルっ!!!」
「うわぁっ、どうしたんだ一体!!」
「運命がっ、私の運命が現れたんだ!!!」
いつもの冷静沈着なランハートはどこに行ったんだ? と思うほど、興奮してはしゃいでいるランハートの姿に面食らってしまう。
「ちょ――っ、落ち着け! 詳しく話せ」
肩をぽんぽんと叩き落ち着かせてからランハートの話を聞いた。
ランハートの運命の人はどうやら異世界人らしい。
異世界人はランジュルス王国の歴史の中でも数人現れているから驚くことではないが、異世界人がランハートの運命だったとは驚きだ。
しかも大層美しいらしい。
まぁランハートのいうことだからあまり信用はならないが……。
なぜなら公爵家当主にとって運命の相手は最上級の美人であるが、こちらから見ればそこまでではないと思ってしまう。
父の妹であるランハートの母も一応美人の類ではあったが、この世のものとは思えないほどの美人と称するランハートの父の言葉には『ん?』と思ってしまうのだ。
まぁそんなことは絶対に言えないが……。
ランハートはその異世界人の運命の相手に自分を偽っているのだという。
なぜそのようなことをと思ったが、聞けば運命の相手は男性らしい。
我が国で同性同士での婚姻は珍しくはないが、なんと言っても彼は異世界人。
同性同士の婚姻に嫌悪感を示すかもしれないと恐れているのだ。
だからランハートは自分をただの騎士団長として彼のそばで彼の心が自分に向くまで見守り続けるというのだ。
なんといじらしいことだろう。
ランハートにそんな心があったことに驚くが、それが運命の相手の為せる力なのか。
この年まで運命の相手に操を立ててきたランハートのためにも、運命の彼には早くランハートの心を知ってもらいたいと思わずにはいられなかった。
本当は長ったらしい名前があるのだが、ここは割愛しておこう。
歴史あるランジュルス王国の国王となってしばらく経つ。
我が国は100年ほど前までは周りの国とも戦争などをしていたが、我が国の軍事力があまりにも強大となり我が国に戦争を仕掛けるものはいなくなった。
おかげでそれからは平和な時を過ごしている。
我が国が平和を保つことができるのは王国騎士団の力も大きいだろう。
現在の王国騎士団は長い歴史の中で一二を争うほどの戦闘力を持っている。
それはなぜか。
それはこの騎士団を統率しているランハート騎士団団長の存在が大きい。
ランハートの母親は私の父の妹……簡単に言えば、私とランハートは従兄弟にあたるが、同じ時期に生まれた私たちは、ほとんど兄弟のように育てられた。
王子として、人に傅かれる毎日の中でランハートだけは私を対等に扱ってくれたのだ。
大きくなり、公の場では私を王子として扱いはしたが2人になればいつも通りの関係で私はランハートと過ごす時間を心地よく思っていた。
成人が近くなり、私の元へは毎日とんでもない量の縁談話が舞い込んでくる。
国内の高位貴族はもちろん、外国の姫たちの釣書と日々格闘していたのだが、
「ヴァージル、大変そうだな」
とランハートはどこ吹く風といった様子だ。
本来ならば公爵家の嫡男であるランハートには私と同量の縁談話が来てもおかしくはないのだが、ランハートにはまだ来ない。
いや、これから先10年は来ないだろう。
なぜなら公爵家当主には運命の人との出会いがあると言われているからだ。
出会った瞬間にすぐに運命だとわかり、生涯その人としか愛せない。
もし公爵家当主が運命の人以外のものと婚姻したら、公爵家は廃れると言われている。
公爵家が没落することはすなわちそれはランジュルス王国の滅亡を意味する。
それほどまでに我が王家とシェーベリー公爵家との結びつきは強い。
だからこそ、ランハートには縁談話は来ないのだ。
だが、運命の人はどこにいるかはわからない。
先先代の場合は随分と歳の離れた隣国の貧しい町の娘だった。
ランジュルスに足を踏み入れたこともなければ運命の人の存在も知らない。
だが、運命は一瞬にして動き出した。
先先代に運命の人が現れないことに痺れを切らした当時の家令が先先代の当主が成人から10年経過したのを区切りに、国内外の妙齢の女性を屋敷に招いたのだ。
その時、隣国の高位貴族の女性の付き添いとして屋敷にやってきたのがその彼女だったのだ。
先先代はたくさんいる女性の中からすぐに彼女を見つけ出し、彼女はすぐに公爵夫人として迎え入れられた。
ランハートの父の場合は、運命が私の父の妹であったこともあって、幼少期からすぐに婚約者として愛を育み、成人を迎えたと同時に婚姻した。
そんな経緯があるからこそ、ランハートの場合も成人から10年経つまでは縁談話が舞い込むことはない。
10年もあれば、おそらくその間に運命が現れるとランハートも私も思っていた。
まさか15年経っても見つからぬとは誰が思っていただろう。
先先代に見習って25を過ぎてからランハートの下には縁談話がくるようになったが数十名と一度会った瞬間、『違う』と一言告げ、帰っていく。
そんな対応に女性たちは諦めてしまったのだ。
その結果30を迎えた今、ランハートの元には縁談話も来なくなった。
ランハートにいつ運命が現れるのか……日々それだけを心配していたある日、ランハートが血相を変えて私の元へとやってきた。
騎士団長になってからは必ず約束を取り付けてから訪れていたというのに、昔のような振る舞いにいささか驚きを隠せなかった。
「ヴァージルっ!!!」
「うわぁっ、どうしたんだ一体!!」
「運命がっ、私の運命が現れたんだ!!!」
いつもの冷静沈着なランハートはどこに行ったんだ? と思うほど、興奮してはしゃいでいるランハートの姿に面食らってしまう。
「ちょ――っ、落ち着け! 詳しく話せ」
肩をぽんぽんと叩き落ち着かせてからランハートの話を聞いた。
ランハートの運命の人はどうやら異世界人らしい。
異世界人はランジュルス王国の歴史の中でも数人現れているから驚くことではないが、異世界人がランハートの運命だったとは驚きだ。
しかも大層美しいらしい。
まぁランハートのいうことだからあまり信用はならないが……。
なぜなら公爵家当主にとって運命の相手は最上級の美人であるが、こちらから見ればそこまでではないと思ってしまう。
父の妹であるランハートの母も一応美人の類ではあったが、この世のものとは思えないほどの美人と称するランハートの父の言葉には『ん?』と思ってしまうのだ。
まぁそんなことは絶対に言えないが……。
ランハートはその異世界人の運命の相手に自分を偽っているのだという。
なぜそのようなことをと思ったが、聞けば運命の相手は男性らしい。
我が国で同性同士での婚姻は珍しくはないが、なんと言っても彼は異世界人。
同性同士の婚姻に嫌悪感を示すかもしれないと恐れているのだ。
だからランハートは自分をただの騎士団長として彼のそばで彼の心が自分に向くまで見守り続けるというのだ。
なんといじらしいことだろう。
ランハートにそんな心があったことに驚くが、それが運命の相手の為せる力なのか。
この年まで運命の相手に操を立ててきたランハートのためにも、運命の彼には早くランハートの心を知ってもらいたいと思わずにはいられなかった。
416
お気に入りに追加
4,396
あなたにおすすめの小説

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!
ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。
「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」
なんだか義兄の様子がおかしいのですが…?
このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ!
ファンタジーラブコメBLです。
平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。
※(3/14)ストック更新終わりました!幕間を挟みます。また本筋練り終わりましたら再開します。待っててくださいね♡
【登場人物】
攻→ヴィルヘルム
完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが…
受→レイナード
和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。
何も知らない人間兄は、竜弟の執愛に気付かない
てんつぶ
BL
連峰の最も高い山の上、竜人ばかりの住む村。
その村の長である家で長男として育てられたノアだったが、肌の色や顔立ちも、体つきまで周囲とはまるで違い、華奢で儚げだ。自分はひょっとして拾われた子なのではないかと悩んでいたが、それを口に出すことすら躊躇っていた。
弟のコネハはノアを村の長にするべく奮闘しているが、ノアは竜体にもなれないし、人を癒す力しかもっていない。ひ弱な自分はその器ではないというのに、日々プレッシャーだけが重くのしかかる。
むしろ身体も大きく力も強く、雄々しく美しい弟ならば何の問題もなく長になれる。長男である自分さえいなければ……そんな感情が膨らみながらも、村から出たことのないノアは今日も一人山の麓を眺めていた。
だがある日、両親の会話を聞き、ノアは竜人ですらなく人間だった事を知ってしまう。人間の自分が長になれる訳もなく、またなって良いはずもない。周囲の竜人に人間だとバレてしまっては、家族の立場が悪くなる――そう自分に言い訳をして、ノアは村をこっそり飛び出して、人間の国へと旅立った。探さないでください、そう書置きをした、はずなのに。
人間嫌いの弟が、まさか自分を追って人間の国へ来てしまい――

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる