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今頃気づくなんて……
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トレイの上の小さなタルトが載ったお皿とカップをランハートさんの前に置き、自分の前にはマグカップを置いた。
「さぁ、どうぞ召し上がってください」
「ああ、ありがとう」
彼はナイフでタルトを一口サイズに切り分けベリーとカスタードを載せ、パクリと口に運んだ。
ベリーを味見したら少し甘かったからカスタードは甘みを減らしておいたけれど、どうかな?
ドキドキしながらランハートさんの反応を見ていると、彼はゴクリと飲み込んで
『これは美味しいな』と目を輝かせながら言ってくれた。
「わぁ、本当ですか?」
「ああ。このカスタードかな? それが甘すぎず、木の実の自然な甘さを引き出している。
このタルトもサクサクとして食感が楽しいな。これも人気になるだろうな」
「わぁっ、良かったです」
「この木の実はどうしたんだ?」
「昨日、あっちの山にグレイグさんとミントの葉を採りに行った時に木になってるの見かけたんです。
甘い匂いが漂っていて、鳥さんたちがつついていたからちょっとだけ分けてもらっちゃいました」
「ああ、あの山か……。入り口辺りならいいが、奥の方には獣がいるからグレイグと一緒でも絶対に入ってはいけないよ。
もし、奥まで行くときは必ず私を呼ぶんだ。いいね」
「ふふっ。はーい。わかってます。もう何十回と言われてますから」
過保護でお父さんみたい。
本当、優しいんだよね。
ランハートさんは『それならいいが……』と納得しつつ、あっという間にタルトを食べ終えて
『本当に美味しかった』と言ってくれた。
見ると、唇の端にカスタードクリームが付いている。
ふふっ。ランハートさんにこういう可愛らしいところがあるのを部下さんたちは知っているんだろうか?
「んっ? どうかしたか?」
僕が思わず笑ってしまったのに気づいたらしく、『ここにクリームが』と指で指し示しながら声をかけると少し慌てた様子で指で拭い始めた。
けれど、指はなかなかクリームに当たらないみたい。
「ふふっ。ほら、ここですよ」
さっと僕の指で拭い取って指についたクリームを舐めとると、口の中に滑らかで濃厚なクリームの甘みが広がった。
「おいしっ」
うん! このカスタード、よくできてるっ!
自画自賛していると、急に僕の前に影ができた。
えっ?
驚く間も無く突然ランハートさんの顔が近づいてきて、気づいたときには僕の唇に彼の柔らかで肉厚な唇が重なり合っていた。
えっ? どういうこと?
僕、どうしてキスされてるの??
「あっ、ヒジリ……悪い。つい……」
「えっ……、つい?」
つい?
もしかして誰かと間違えたりしてる?
キスしたくなって目の前に僕がいたからキスしちゃったとか?
この世界ではキスなんて大したことないのかもしれないけど、おでこへのキスと唇はやっぱり違うよね?
それに、僕にとってはファーストキスで……。
もうなんて言っていいのかわからなくて、僕はその場から逃げ出した。
「ヒジリっ! 待ってくれっ!」
僕はランハートさんの言葉を無視して急いで奥の部屋に戻り二階に上がって寝室の鍵を閉めた。
扉をドンドンと叩きながら、『ヒジリここを開けてくれ!! ちゃんと話をさせてくれ!!』というランハートさんの声が聞こえていたけれど、僕は布団を頭からかぶってそのままほったらかしにしているうちに眠ってしまっていた。
ふと目を覚ますと、まだ外は暗く夜中だった。
しんと静まり返った家の中には僕以外の気配がなく、きっとランハートさんは帰ったんだろうと思った。
なんでランハートさんは僕にキスなんか……。
頭を冷やしたくて、鍵を開けバルコニーに出た。
真夜中の冷たい空気を感じて、身体がブルっと震える。
そういえばオープンの前日もこうやってバルコニーで想いにふけってたことを思い出す。
空を見上げれば真っ赤な月が見えた。
やっぱりここは異世界なんだよなと思いながら、僕はランハートさんとのキスを思い返していた。
ランハートさんの唇柔らかかったな。
あったかくて安心した。
そう、全然嫌じゃなかったんだ。
驚いたけど、でも嬉しかったんだ。
だから、キスをした後で、『つい……』って言われて、僕はショックを受けたんだと思う。
ランハートさんにとってはキスなんて大したことじゃないんだろうな……。
『はぁーーっ』
こんなに大きなため息を吐くのはショックだったからだ。
キスされたことじゃない。
誰かと間違えてキスされたのが嫌だったんだ。
ランハートさんが僕のことを好きでキスしてくれたんだったらどんなに嬉しかったことか……。
そうか……。
僕、ランハートさんが好きなんだ。
だから誰かの代わりにされたのが嫌だったんだ。
今頃気づくなんて本当に馬鹿だ……。
ランハートさんに最初からそんな大切な人がいるなんて知ってたら、僕は……いや、それでも好きになってただろうな。
だって、ランハートさんはいつだって優しかったもん。
でもランハートさんに他に大切な人がいるってわかった以上はもう諦めないとね。
「こんなところで俺のこと誘ってんの?」
「うわぁっ!! だ、誰?」
突然聞こえた声に僕は驚いて腰を抜かしてしまった。
だって、ここは2階。
誰も来るはずがないのに。
僕は腰が抜けた状態で後ろへと逃げようとするとドサッと誰かがバルコニーに飛び込んできた。
「さぁ、どうぞ召し上がってください」
「ああ、ありがとう」
彼はナイフでタルトを一口サイズに切り分けベリーとカスタードを載せ、パクリと口に運んだ。
ベリーを味見したら少し甘かったからカスタードは甘みを減らしておいたけれど、どうかな?
ドキドキしながらランハートさんの反応を見ていると、彼はゴクリと飲み込んで
『これは美味しいな』と目を輝かせながら言ってくれた。
「わぁ、本当ですか?」
「ああ。このカスタードかな? それが甘すぎず、木の実の自然な甘さを引き出している。
このタルトもサクサクとして食感が楽しいな。これも人気になるだろうな」
「わぁっ、良かったです」
「この木の実はどうしたんだ?」
「昨日、あっちの山にグレイグさんとミントの葉を採りに行った時に木になってるの見かけたんです。
甘い匂いが漂っていて、鳥さんたちがつついていたからちょっとだけ分けてもらっちゃいました」
「ああ、あの山か……。入り口辺りならいいが、奥の方には獣がいるからグレイグと一緒でも絶対に入ってはいけないよ。
もし、奥まで行くときは必ず私を呼ぶんだ。いいね」
「ふふっ。はーい。わかってます。もう何十回と言われてますから」
過保護でお父さんみたい。
本当、優しいんだよね。
ランハートさんは『それならいいが……』と納得しつつ、あっという間にタルトを食べ終えて
『本当に美味しかった』と言ってくれた。
見ると、唇の端にカスタードクリームが付いている。
ふふっ。ランハートさんにこういう可愛らしいところがあるのを部下さんたちは知っているんだろうか?
「んっ? どうかしたか?」
僕が思わず笑ってしまったのに気づいたらしく、『ここにクリームが』と指で指し示しながら声をかけると少し慌てた様子で指で拭い始めた。
けれど、指はなかなかクリームに当たらないみたい。
「ふふっ。ほら、ここですよ」
さっと僕の指で拭い取って指についたクリームを舐めとると、口の中に滑らかで濃厚なクリームの甘みが広がった。
「おいしっ」
うん! このカスタード、よくできてるっ!
自画自賛していると、急に僕の前に影ができた。
えっ?
驚く間も無く突然ランハートさんの顔が近づいてきて、気づいたときには僕の唇に彼の柔らかで肉厚な唇が重なり合っていた。
えっ? どういうこと?
僕、どうしてキスされてるの??
「あっ、ヒジリ……悪い。つい……」
「えっ……、つい?」
つい?
もしかして誰かと間違えたりしてる?
キスしたくなって目の前に僕がいたからキスしちゃったとか?
この世界ではキスなんて大したことないのかもしれないけど、おでこへのキスと唇はやっぱり違うよね?
それに、僕にとってはファーストキスで……。
もうなんて言っていいのかわからなくて、僕はその場から逃げ出した。
「ヒジリっ! 待ってくれっ!」
僕はランハートさんの言葉を無視して急いで奥の部屋に戻り二階に上がって寝室の鍵を閉めた。
扉をドンドンと叩きながら、『ヒジリここを開けてくれ!! ちゃんと話をさせてくれ!!』というランハートさんの声が聞こえていたけれど、僕は布団を頭からかぶってそのままほったらかしにしているうちに眠ってしまっていた。
ふと目を覚ますと、まだ外は暗く夜中だった。
しんと静まり返った家の中には僕以外の気配がなく、きっとランハートさんは帰ったんだろうと思った。
なんでランハートさんは僕にキスなんか……。
頭を冷やしたくて、鍵を開けバルコニーに出た。
真夜中の冷たい空気を感じて、身体がブルっと震える。
そういえばオープンの前日もこうやってバルコニーで想いにふけってたことを思い出す。
空を見上げれば真っ赤な月が見えた。
やっぱりここは異世界なんだよなと思いながら、僕はランハートさんとのキスを思い返していた。
ランハートさんの唇柔らかかったな。
あったかくて安心した。
そう、全然嫌じゃなかったんだ。
驚いたけど、でも嬉しかったんだ。
だから、キスをした後で、『つい……』って言われて、僕はショックを受けたんだと思う。
ランハートさんにとってはキスなんて大したことじゃないんだろうな……。
『はぁーーっ』
こんなに大きなため息を吐くのはショックだったからだ。
キスされたことじゃない。
誰かと間違えてキスされたのが嫌だったんだ。
ランハートさんが僕のことを好きでキスしてくれたんだったらどんなに嬉しかったことか……。
そうか……。
僕、ランハートさんが好きなんだ。
だから誰かの代わりにされたのが嫌だったんだ。
今頃気づくなんて本当に馬鹿だ……。
ランハートさんに最初からそんな大切な人がいるなんて知ってたら、僕は……いや、それでも好きになってただろうな。
だって、ランハートさんはいつだって優しかったもん。
でもランハートさんに他に大切な人がいるってわかった以上はもう諦めないとね。
「こんなところで俺のこと誘ってんの?」
「うわぁっ!! だ、誰?」
突然聞こえた声に僕は驚いて腰を抜かしてしまった。
だって、ここは2階。
誰も来るはずがないのに。
僕は腰が抜けた状態で後ろへと逃げようとするとドサッと誰かがバルコニーに飛び込んできた。
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