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消えてもらおうか 〜ランハートside

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「旦那さま。ご報告がございます」

王都から離れた『レラルレクの森』に演習に行った日の夜遅く、騎士団の詰所にある団長室で私の到着を待っていたグレイグから神妙な顔でそう切り出された。

ヒジリのことに間違いないが、命に関わることであればこの時間まで報告を待っていることはないだろう。
だが明朝まで待てないということは、何か早急に対処すべきことがあったということだ。

私は逸る気持ちを抑え、グレイグの報告を待った。

「――というわけでございまして、早急に対処をお願いいたします」

ディレンガー伯爵令息のネイハムがヒジリにしつこく言い寄った挙句にグレイグに暴言を吐いたとな。
あいつは一体何様のつもりなんだ?

高祖父の代に旧知の仲だったディレンガー家当主に世話になったというたった一度の恩義だけで、わがシェーベリー公爵家はその後三代に渡りディレンガー家に支援をし続けてきたわけだが、私の運命の人であるヒジリに言い寄るなどというとんでもない裏切りを受けた以上、もうディレンガー家に恩などあろうはずがない。

しかも、我が公爵家の家令に暴言を吐くなどはもってのほか。
散々わが公爵家についての噂も有る事無い事吹聴して回っているようであるし、そろそろディレンガー家との縁は終わらせたほうが良さそうだな。

元々現当主には領主として意識が足りないし、私の支援がなければ当に消えていたはずの家だ。
ディレンガー家が無くなっても、陛下にとって利益にはなっても不利益を被ることはない。
むしろ穀潰しの貴族が消えてなくなった方が有難いだろう。

「すぐに陛下に御目通りを願おう」

我がシェーベリー公爵家は王家とは縁戚に当たる。
高祖父の父の代から王家とは縁があるが、一番近いところではルーファス前国王陛下の妹が父上の運命の人で、現 国王であるヴァージル陛下と私は従兄弟にあたる。
年齢もほぼ変わらない私たちは兄弟のように育ってきたため、私生活ではなんでも話し合える相手だ。
もちろん、公の場では国王と臣下としての立場を忘れることはない。

夜遅い時間にも関わらず、陛下はすぐに私を城へと迎えてくれた。
私の様子に込み入った話だと気づいたのか、すぐに人払いをし二人だけにしてくれたヴァージル陛下は心配そうに尋ねてきた。

「ランハート、こんな時間にどうした? さっき演習から戻ったばかりだろう? 演習で何か困ったことでもあったのか?」

「いや、演習はつつがなく終了した。困りごとは私生活でのことだ」

「私生活? お前、運命の人と出会えたと喜んでいたのではなかったか? 喧嘩でもしたのか?」 

「喧嘩などするわけがないだろう。ヒジリに言い寄ってくる大馬鹿者が現れたんだ」

「ヒジリ? その子がお前の運命の相手か? で、その大馬鹿者とは?」

「ディレンガー伯爵令息 ネイハムだ。
私が演習で王都を離れている隙を狙ってヒジリにしつこく言い寄った挙句、グレイグに暴言を吐いた」

「なにっ? もうどうしようもないな、奴ら・・は。
ディレンガー伯爵家はお前の支援でなんとか生計を保っていたのではなかったか?
それを……本当に大馬鹿者だな。で、どうする?」

「爵位の剥奪と領地没収が妥当か」

元々、あの穀潰しは私の支援がなければとっくに落ちぶれていたのだ。
ここまでいい思いをしてきただけ感謝してもらおうか。

「わかった。すぐに判を押し書状を送ろう。だが、運命の相手に手出ししようとした相手を平民に落とすだけで許すとはランハート、お前も優しいところがあるじゃないか?」

「グレイグの働きのおかげでヒジリにはなんの被害もなかったからな。少しでも触れていれば容赦はしなかったが。
貴族でなくなれば、あの店にも通うことはできないだろう。ヒジリのケーキの値段は庶民には高めに設定しているからな」

そう。あの店を出すときにヒジリに料金をどうするかと相談されて、私が設定したのは平民には少しばかり高い金額だった。だが、そうすることで店に入る人間を減らす狙いがあったのだ。

「なるほど。だが、十分気をつけろよ。お前の運命の相手は風の噂ではかなりの美人だと聞いている。
周りに騎士が見張っていたとしても隙をついてよからぬことを考えるものはいる。それほどの危険を犯してでもお前の運命の相手は美しいのだろう?」

「ああ。私の運命の相手があれほど麗しい者だとは想像もしていなかった。しかも、心も美しいのだぞ。
グレイグがヒジリの周りにはいつでも輝きが舞っていると話していた」

「ほう。それはすごいな。今度私にも会わせてくれ」

「ああ。無事に恋人になったらな」

「恋人になったらって、お前まだなのか?」

「ああ。ヒジリは異世界の人間だからな。慎重に行かなくてはいけないんだ」

「異世界……そうか。それは慎重に行かなくてはな。
お前も大変だろうが十分気をつけろよ。ディレンガーの方は私に任せておけ」

「ヴァージル、ありがとう。夜遅くに悪かったな」

私はお礼を言って騎士団の詰所へと戻った。

ヒジリがいる二階の寝室はもうすでに電気が消えている。
明日も早いだろうからもう寝ているのだろう。
おやすみ、ヒジリ。

もうなんの憂いも無くなった。
ゆっくり休むといい。

私も流石に今日は疲れた。
ヒジリのことを考えながら寝ることにしよう。
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