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初めてのお客さん
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ドキドキしながら、オープン札を出す。
騎士団の詰所の隣だけあって、道行く人は多い。
一体何の店だと外から覗いているような視線も感じる。
けれどそれから1時間経っても誰一人お客さんは入ってくることはなかった。
だんだんと心が折れそうになる。
ああ、やっぱり新参者には厳しいのかもしれない。
どんな味かもわからないのに最初から無理だよね。
しばらくはこんな状態を我慢しなくちゃいけないのかな。
ああ、ランハートさんに申し訳ない。
仕事を抜けてきてくれているのにぼーっと立たせたままだなんて。
「あ、あの……ランハートさん。騎士団のお仕事の方に行かれていいですよ。
こっちは暇そうですし。わざわざお手伝いに来ていただいたのにすみません……」
そういうと、ランハートさんは少し考え込んだ様子で僕を見つめた。
「ヒジリさま、遅くなりまして申し訳ございません」
とそのタイミングで厨房の方からグレイグさんの声が聞こえた。
お店がオープンしているから裏口から入ってきてくれたみたい。
僕たちがいる方にやってきたグレイグさんはお店をぐるっと見回して、お客さんがまだ誰もいないことに気づいたようだ。
せっかくお手伝いに来てもらったのに申し訳ないなと居た堪れない気分になっていると、ランハートさんはつかつかとグレイグさんに近づくと何やら話を始めた。
数分2人で話をした後、ランハートさんは
「ヒジリ、私は少し抜けるがすぐに戻ってくるから」
と言って、店を出て行った。
やっぱり忙しいのに申し訳なかったな。
グレイグさんもお屋敷のお仕事で忙しいはずだし、今日は僕1人でなんとかしよう。
「あの、グレイグさん。こっちは僕一人でも大丈夫なのでお屋敷のお仕事に戻られて大丈夫ですよ」
「いいえ、私のことはお気遣いいただきませんように。私はヒジリさまのお手伝いをさせていただきますよ」
にこやかに笑うグレイグさんに申し訳ないと思いつつも、一人にならずにすんだことに少なからずホッとしていた。
ランハートさんが出て行ってしばらく経つと、突然数人のお客さんが店に入ってきた。
わぁっ! 初めてのお客さんだ!!
「いらっしゃいませ~」
初めてのお客さんが嬉しくて笑顔で接客すると、目の前にいたお客さんたちが『――っ!』と息を呑みピシッとその場に固まってしまった。
あれ? 僕の接客おかしかったかな?
心配で隣にいたグレイグさんに助けを求めるように見つめると、
「ヒジリさま。私にお任せください。ヒジリさまは焼き菓子の方をお願いいたします」
と笑顔で言ってくれた。
ホッとして、『は、はい。お願いします』と言ってちょうど焼き上がったクッキーをオーブンから出しに厨房へと戻った。
厨房から様子を見ていると、何やらお客さんたちと話し込んでいる様子。
やっぱりいろんな接客があるんだろうな……。
僕もこの世界の接客を学ばなくちゃな。
僕は焼き上がったばかりのクッキーをせっせとお皿に並べ、店頭へと戻った。
ちょうど注文を聞いてくれていたグレイグさんから注文をきき、テイクアウト用にケーキを並べて箱に入れていく。
箱詰めが終わり、僕が手渡そうと思ったらグレイグさんに『これは私が』と持って行かれた。
そうか、注文を聞いて手渡すまでが接客だもんな。うん。
「あの、これ……お菓子代だよ」
「はい。ありがとうございます。代金お預かりいたしますね」
たくさん買ってくれたことに感謝しながら僕はお客さんから料金を受け取った。
お釣りを手渡しながら、『買ってくださってありがとうございます』というと、真っ赤な顔をしたお客さんから
「あ、あの君……名前なんていうの?」
と尋ねられた。
突然の質問に驚いたけれど、
「はい。ヒジリと申します。どうぞよろしくお願いします」
と笑顔で答えた。
「ヒジリちゃんか~、じゃあまた来るからね!」
「あ、はい。ありがとうございます」
そう笑顔を向けると、その人は手を振りながら嬉しそうに一緒に来た人たちと店を出ていった。
ふふっ。そんなにケーキが気に入ってくれたのかな?
食べてみて味も気に入ってくれたらいいんだけど。
今からみんなで僕のケーキを食べてくれると思ったら嬉しいなぁ。
そんなことを思っていると、グレイグさんが焦った様子で近づいてきた。
「ヒジリさま、今のお客さま方、大丈夫でございましたか?」
「えっ? はい。大丈夫です。また来てくださるって仰っていただけたんですよ」
僕の言葉にグレイグさんは少し考え込んだ表情をしていたけれど、僕は初めて自分の作ったケーキが売れたことが嬉しすぎて気にならなかった。
最初のお客さんたちが帰って間を開けずにどんどんお客さんが増え始めた。
聞けばみんな口々に騎士団の人から美味しいお菓子があると聞いてきたと言っていて、どうやら騎士団の人たちが宣伝してくれているらしい。
そうか、僕はオープンすることばかり考えていて、宣伝するのを忘れてしまっていた。
そりゃあお客さんが来るわけないよね。
どんな店かわからないんだもん。
ああ、僕……何やってるんだろう。
きっとさっき出て行ったランハートさんが騎士さんたちに宣伝してくれるように頼んでくれたんだ。
ランハートさん……やっぱり優しい!!
僕はランハートさんの優しさと宣伝してくれている騎士さんたちに感謝しながら、次々と入ってくるお客さんたちの注文に応えるため、ただひたすらにケーキを箱詰めしては厨房からケーキと焼き菓子を補充し続けていた。
グレイグさんはお客さんの注文から接客、レジまで全部こなしてくれて驚いてしまう。
僕1人だったらもうパニックになってしまっていただろうな。
騎士団の詰所の隣だけあって、道行く人は多い。
一体何の店だと外から覗いているような視線も感じる。
けれどそれから1時間経っても誰一人お客さんは入ってくることはなかった。
だんだんと心が折れそうになる。
ああ、やっぱり新参者には厳しいのかもしれない。
どんな味かもわからないのに最初から無理だよね。
しばらくはこんな状態を我慢しなくちゃいけないのかな。
ああ、ランハートさんに申し訳ない。
仕事を抜けてきてくれているのにぼーっと立たせたままだなんて。
「あ、あの……ランハートさん。騎士団のお仕事の方に行かれていいですよ。
こっちは暇そうですし。わざわざお手伝いに来ていただいたのにすみません……」
そういうと、ランハートさんは少し考え込んだ様子で僕を見つめた。
「ヒジリさま、遅くなりまして申し訳ございません」
とそのタイミングで厨房の方からグレイグさんの声が聞こえた。
お店がオープンしているから裏口から入ってきてくれたみたい。
僕たちがいる方にやってきたグレイグさんはお店をぐるっと見回して、お客さんがまだ誰もいないことに気づいたようだ。
せっかくお手伝いに来てもらったのに申し訳ないなと居た堪れない気分になっていると、ランハートさんはつかつかとグレイグさんに近づくと何やら話を始めた。
数分2人で話をした後、ランハートさんは
「ヒジリ、私は少し抜けるがすぐに戻ってくるから」
と言って、店を出て行った。
やっぱり忙しいのに申し訳なかったな。
グレイグさんもお屋敷のお仕事で忙しいはずだし、今日は僕1人でなんとかしよう。
「あの、グレイグさん。こっちは僕一人でも大丈夫なのでお屋敷のお仕事に戻られて大丈夫ですよ」
「いいえ、私のことはお気遣いいただきませんように。私はヒジリさまのお手伝いをさせていただきますよ」
にこやかに笑うグレイグさんに申し訳ないと思いつつも、一人にならずにすんだことに少なからずホッとしていた。
ランハートさんが出て行ってしばらく経つと、突然数人のお客さんが店に入ってきた。
わぁっ! 初めてのお客さんだ!!
「いらっしゃいませ~」
初めてのお客さんが嬉しくて笑顔で接客すると、目の前にいたお客さんたちが『――っ!』と息を呑みピシッとその場に固まってしまった。
あれ? 僕の接客おかしかったかな?
心配で隣にいたグレイグさんに助けを求めるように見つめると、
「ヒジリさま。私にお任せください。ヒジリさまは焼き菓子の方をお願いいたします」
と笑顔で言ってくれた。
ホッとして、『は、はい。お願いします』と言ってちょうど焼き上がったクッキーをオーブンから出しに厨房へと戻った。
厨房から様子を見ていると、何やらお客さんたちと話し込んでいる様子。
やっぱりいろんな接客があるんだろうな……。
僕もこの世界の接客を学ばなくちゃな。
僕は焼き上がったばかりのクッキーをせっせとお皿に並べ、店頭へと戻った。
ちょうど注文を聞いてくれていたグレイグさんから注文をきき、テイクアウト用にケーキを並べて箱に入れていく。
箱詰めが終わり、僕が手渡そうと思ったらグレイグさんに『これは私が』と持って行かれた。
そうか、注文を聞いて手渡すまでが接客だもんな。うん。
「あの、これ……お菓子代だよ」
「はい。ありがとうございます。代金お預かりいたしますね」
たくさん買ってくれたことに感謝しながら僕はお客さんから料金を受け取った。
お釣りを手渡しながら、『買ってくださってありがとうございます』というと、真っ赤な顔をしたお客さんから
「あ、あの君……名前なんていうの?」
と尋ねられた。
突然の質問に驚いたけれど、
「はい。ヒジリと申します。どうぞよろしくお願いします」
と笑顔で答えた。
「ヒジリちゃんか~、じゃあまた来るからね!」
「あ、はい。ありがとうございます」
そう笑顔を向けると、その人は手を振りながら嬉しそうに一緒に来た人たちと店を出ていった。
ふふっ。そんなにケーキが気に入ってくれたのかな?
食べてみて味も気に入ってくれたらいいんだけど。
今からみんなで僕のケーキを食べてくれると思ったら嬉しいなぁ。
そんなことを思っていると、グレイグさんが焦った様子で近づいてきた。
「ヒジリさま、今のお客さま方、大丈夫でございましたか?」
「えっ? はい。大丈夫です。また来てくださるって仰っていただけたんですよ」
僕の言葉にグレイグさんは少し考え込んだ表情をしていたけれど、僕は初めて自分の作ったケーキが売れたことが嬉しすぎて気にならなかった。
最初のお客さんたちが帰って間を開けずにどんどんお客さんが増え始めた。
聞けばみんな口々に騎士団の人から美味しいお菓子があると聞いてきたと言っていて、どうやら騎士団の人たちが宣伝してくれているらしい。
そうか、僕はオープンすることばかり考えていて、宣伝するのを忘れてしまっていた。
そりゃあお客さんが来るわけないよね。
どんな店かわからないんだもん。
ああ、僕……何やってるんだろう。
きっとさっき出て行ったランハートさんが騎士さんたちに宣伝してくれるように頼んでくれたんだ。
ランハートさん……やっぱり優しい!!
僕はランハートさんの優しさと宣伝してくれている騎士さんたちに感謝しながら、次々と入ってくるお客さんたちの注文に応えるため、ただひたすらにケーキを箱詰めしては厨房からケーキと焼き菓子を補充し続けていた。
グレイグさんはお客さんの注文から接客、レジまで全部こなしてくれて驚いてしまう。
僕1人だったらもうパニックになってしまっていただろうな。
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