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オープン初日
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「あの、さっきの何か僕ダメなことしちゃいましたか?」
グイレグさんはランハートさんだけにはしていいって言ってくれていたけど、あそこにいた騎士さんたちのあの反応を見ると、騎士団長さんが部下さんたちの前で食べさせ合うなんてあんなはしたないことをするのは問題だったのかもしれない。
ドキドキしながらそう尋ねると、ランハートさんは
「何言っているんだ、ヒジリ。大丈夫だ。ヒジリはしてはいけないことなど何もしていないよ。
あいつらはヒジリの美味しいケーキを食べて驚いていただけだ」
と笑顔で言ってくれた。
そう、なのかな……?
そうだったら大丈夫かも。
ランハートさんの言葉に一気に心が晴れやかになるのを感じながら、
『よかったです』と微笑むと、ランハートさんは
「あのケーキ、本当に美味しかったぞ。大丈夫、みんな受け入れてくれるはずだ」
と教えてくれた。
ランハートさんが美味しいと言ってくれるなら、きっと他の人にも食べてもらえるよね。
ランハートさんのおかげで自信がついた僕は、オープンに向けて他のケーキもいっぱい練習を繰り返しその度に騎士さんやお屋敷の人たちに試食をしてもらった。
甘いケーキを嫌がるかなと思ったけれど、みんな美味しいと言ってくれて嬉しかった。
そうそう、ケーキを作るときに必要なあのハンドミキサーは
『私がいつでも手伝うぞ』とランハートさんは言ってくれたけれど、やっぱりお仕事で来られない時もあるし、こういうものが欲しいとランハートさんにお願いして、職人さんに作ってもらうことができた。
向こうで使っていたような手持ちタイプではなく、まるで業務用みたいな大きな機械がウインウインと回っているその下にボウルを突っ込んで泡立ててもらうタイプだけど、ボウルを手で押さえておけば勝手に泡立ててくれるのでハンドミキサーより使い勝手いいなぁと正直思っている。
この機械のおかげでケーキ作りが格段に楽になった。
本当にランハートさんのおかげだ。
✳︎ ✳︎ ✳︎
そんなこんなで明日はようやくオープンの日。
お店の名前はいつか自分の店を持つときにつけたいと思っていた名前をつけた。
中学生の時にマシュマロにハマってそれを使ったスイーツを作りたいって思って考えていた名前。
<スイーツショップ コンフィズール>
糖菓職人を意味するこの言葉が気に入っていた。
今日出す予定のスイーツのラインナップには入ってはいないけど、いつかマシュマロを使ったお菓子を作ってみたいな。
オープンが近づいていると思うとなんだか興奮してうまく眠れず、僕は夜中に起き出して2階の自分の部屋についているバルコニーに出て冷たい風に当たりながらこの2ヶ月間のことを思い出していた。
「はぁーっ、自分の店をオープンできるなんて信じられないな」
ここが異世界だって知った時はどうなることかと思ったけれど、いい人に拾ってもらえてこれまでトントン拍子に進んで怖いくらい。
気になることといえば、あれだけお世話になっているシェーベリー公爵さまにはまだ会えていないことだけ。
いつかお礼代わりに僕の作ったお菓子でも食べてもらえればいいんだけどな。
公爵さまってどんな人なんだろう……。
見ず知らずの僕のためにこんなにしてくれる人だから、きっと優しい人なんだろうな。
ああ、早く会ってみたい。
「シェーベリー公爵さま、いつかお会いできますように……」
僕はキラキラと輝く星を見ながらそう願っていた。
オープン当日、僕はまだ日が昇るずっと前に起き出してオーブンに火を入れた。
ランハートさんがレニーさんにお願いして作ってくれた僕の希望通りのケーキ屋さんの制服に身を包み、小ネズミのようにバタバタと動き回って、オープン予定の30分前にショーケースの中に全てのケーキを入れ終わった。
この世界で人気の焼き菓子はあと数回に分けて焼き立てを提供するつもりだ。
今日作ったケーキはイチゴとブルーベリーによく似た少し酸味のある果物を飾った生クリームのショートケーキ、濃厚でしっとりとしたチョレートケーキ、そしてふわふわとしたチーズケーキ、カスタードクリームと生クリームを入れたシュークリーム、そしてバターをたっぷり使ったクッキーとパウンドケーキの全6種類を用意した。
ケーキは最初から美味しく焼けたけれど、シュークリームとスフレチーズケーキは温度設定がうまくいかなかったせいか膨らみが悪くて、結構試行錯誤を繰り返した。
この2ヶ月の間に死ぬほど試作品を作ったけれど、うまく膨らむようになったのは最近なんだよね。
どれくらいの人が買ってくれるのかわからないから初日の今日はとりあえず、ケーキはどれもホールで3台ずつ。
シュークリームは50個。この世界の人が好んで食べるクッキーとパウンドケーキは多めに用意した。
美味しいって食べてもらえたら嬉しいな。
よし、準備もできたしあとは開店を待つだけ。
もうすぐ開店というとき、カタンと扉が開く音がした。
「ヒジリ、遅くなってすまな――っ! ああっ、ヒジリ! その服よく似合っているな」
ランハートさんは店に入ってくるや否や、すぐに僕のところに駆け寄ってきた。
満面の笑みで僕を見つめてくれるランハートさんの反応が嬉しくて、
「ふふっ。ランハートさんのおかげです。僕が着てみたかった格好そのままで嬉しいです」
というと、
「ああ、可愛すぎてみんなに見せるのが勿体無いくらいだな。ヒジリはあまり接客しない方がいい。全てグレイグに任せておけ」
と真剣な表情で言っていた。
「もう、ランハートさんったら。冗談も上手なんですね」
「いや、冗談ではないんだが……」
「えっ?」
「いや、いいんだ。もうすぐグレイグも手伝いに来るから、慣れないことはまかせるといい」
「??? は、はい。そうします」
ランハートさんの言っていることがいまいちよくわからなかったけれど、とにかく初日の今日、ランハートさんとグレイグさんがいてくれるのは心強いな。
元々オープンからしばらくはテイクアウトのみに決めていた。
一人では対応しきれないし、まずは僕のお菓子を知ってもらうことが大事だからね。
グイレグさんはランハートさんだけにはしていいって言ってくれていたけど、あそこにいた騎士さんたちのあの反応を見ると、騎士団長さんが部下さんたちの前で食べさせ合うなんてあんなはしたないことをするのは問題だったのかもしれない。
ドキドキしながらそう尋ねると、ランハートさんは
「何言っているんだ、ヒジリ。大丈夫だ。ヒジリはしてはいけないことなど何もしていないよ。
あいつらはヒジリの美味しいケーキを食べて驚いていただけだ」
と笑顔で言ってくれた。
そう、なのかな……?
そうだったら大丈夫かも。
ランハートさんの言葉に一気に心が晴れやかになるのを感じながら、
『よかったです』と微笑むと、ランハートさんは
「あのケーキ、本当に美味しかったぞ。大丈夫、みんな受け入れてくれるはずだ」
と教えてくれた。
ランハートさんが美味しいと言ってくれるなら、きっと他の人にも食べてもらえるよね。
ランハートさんのおかげで自信がついた僕は、オープンに向けて他のケーキもいっぱい練習を繰り返しその度に騎士さんやお屋敷の人たちに試食をしてもらった。
甘いケーキを嫌がるかなと思ったけれど、みんな美味しいと言ってくれて嬉しかった。
そうそう、ケーキを作るときに必要なあのハンドミキサーは
『私がいつでも手伝うぞ』とランハートさんは言ってくれたけれど、やっぱりお仕事で来られない時もあるし、こういうものが欲しいとランハートさんにお願いして、職人さんに作ってもらうことができた。
向こうで使っていたような手持ちタイプではなく、まるで業務用みたいな大きな機械がウインウインと回っているその下にボウルを突っ込んで泡立ててもらうタイプだけど、ボウルを手で押さえておけば勝手に泡立ててくれるのでハンドミキサーより使い勝手いいなぁと正直思っている。
この機械のおかげでケーキ作りが格段に楽になった。
本当にランハートさんのおかげだ。
✳︎ ✳︎ ✳︎
そんなこんなで明日はようやくオープンの日。
お店の名前はいつか自分の店を持つときにつけたいと思っていた名前をつけた。
中学生の時にマシュマロにハマってそれを使ったスイーツを作りたいって思って考えていた名前。
<スイーツショップ コンフィズール>
糖菓職人を意味するこの言葉が気に入っていた。
今日出す予定のスイーツのラインナップには入ってはいないけど、いつかマシュマロを使ったお菓子を作ってみたいな。
オープンが近づいていると思うとなんだか興奮してうまく眠れず、僕は夜中に起き出して2階の自分の部屋についているバルコニーに出て冷たい風に当たりながらこの2ヶ月間のことを思い出していた。
「はぁーっ、自分の店をオープンできるなんて信じられないな」
ここが異世界だって知った時はどうなることかと思ったけれど、いい人に拾ってもらえてこれまでトントン拍子に進んで怖いくらい。
気になることといえば、あれだけお世話になっているシェーベリー公爵さまにはまだ会えていないことだけ。
いつかお礼代わりに僕の作ったお菓子でも食べてもらえればいいんだけどな。
公爵さまってどんな人なんだろう……。
見ず知らずの僕のためにこんなにしてくれる人だから、きっと優しい人なんだろうな。
ああ、早く会ってみたい。
「シェーベリー公爵さま、いつかお会いできますように……」
僕はキラキラと輝く星を見ながらそう願っていた。
オープン当日、僕はまだ日が昇るずっと前に起き出してオーブンに火を入れた。
ランハートさんがレニーさんにお願いして作ってくれた僕の希望通りのケーキ屋さんの制服に身を包み、小ネズミのようにバタバタと動き回って、オープン予定の30分前にショーケースの中に全てのケーキを入れ終わった。
この世界で人気の焼き菓子はあと数回に分けて焼き立てを提供するつもりだ。
今日作ったケーキはイチゴとブルーベリーによく似た少し酸味のある果物を飾った生クリームのショートケーキ、濃厚でしっとりとしたチョレートケーキ、そしてふわふわとしたチーズケーキ、カスタードクリームと生クリームを入れたシュークリーム、そしてバターをたっぷり使ったクッキーとパウンドケーキの全6種類を用意した。
ケーキは最初から美味しく焼けたけれど、シュークリームとスフレチーズケーキは温度設定がうまくいかなかったせいか膨らみが悪くて、結構試行錯誤を繰り返した。
この2ヶ月の間に死ぬほど試作品を作ったけれど、うまく膨らむようになったのは最近なんだよね。
どれくらいの人が買ってくれるのかわからないから初日の今日はとりあえず、ケーキはどれもホールで3台ずつ。
シュークリームは50個。この世界の人が好んで食べるクッキーとパウンドケーキは多めに用意した。
美味しいって食べてもらえたら嬉しいな。
よし、準備もできたしあとは開店を待つだけ。
もうすぐ開店というとき、カタンと扉が開く音がした。
「ヒジリ、遅くなってすまな――っ! ああっ、ヒジリ! その服よく似合っているな」
ランハートさんは店に入ってくるや否や、すぐに僕のところに駆け寄ってきた。
満面の笑みで僕を見つめてくれるランハートさんの反応が嬉しくて、
「ふふっ。ランハートさんのおかげです。僕が着てみたかった格好そのままで嬉しいです」
というと、
「ああ、可愛すぎてみんなに見せるのが勿体無いくらいだな。ヒジリはあまり接客しない方がいい。全てグレイグに任せておけ」
と真剣な表情で言っていた。
「もう、ランハートさんったら。冗談も上手なんですね」
「いや、冗談ではないんだが……」
「えっ?」
「いや、いいんだ。もうすぐグレイグも手伝いに来るから、慣れないことはまかせるといい」
「??? は、はい。そうします」
ランハートさんの言っていることがいまいちよくわからなかったけれど、とにかく初日の今日、ランハートさんとグレイグさんがいてくれるのは心強いな。
元々オープンからしばらくはテイクアウトのみに決めていた。
一人では対応しきれないし、まずは僕のお菓子を知ってもらうことが大事だからね。
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