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ヒジリへの想い 〜ランハートside

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ヒジリはいつも私を戸惑わせる。

人前にも関わらず自分のカトラリーで食べさせることも、
嬉しいことがあると抱きついてくれることも、
躊躇いもなく額に口付けをしてくれることも、

いつも笑顔で嬉しそうにしてくれるのだ。
しかも、私だけに……。

だが、まだヒジリには私に対して愛欲というものが見当たらない。
そう、ヒジリにとっては私に対するどの行為も単なる戯れにすぎないのだろう。
もしかしたらヒジリのいた世界ではこの行為のどれもが特別な意味などなかったのかもしれない。

しかし、我々のいるこの世界・ランジュルス王国では特別な意味しか持たないのだ。
ヒジリが嬉しそうに食べさせてくれるたびに、幸せそうに抱きついてくれるたびに、そして笑顔で額に口付けをしてくれるたびに私はヒジリを抱き上げて、そのまま全てを奪ってしまいたい衝動に駆られる。

あの時見たヒジリの吸い付くような綺麗な肌に舌を這わせて、白肌に赤い所有の証を刻み込んで、そして、ヒジリの最奥に私の欲を弾けさせたい……。

ここのところヒジリに会うたびに私がそんな妄想をしているなど、隣で無邪気な笑顔を見せているヒジリは一ミリも気づいていないだろうな。
ヒジリへの思いがどんどん膨らんで我慢も限界に近づいているが、ヒジリから離れるのはもっと辛い。

だから、どんなにヒジリに戸惑わされても私はヒジリから離れることなどはしない。
そう、ヒジリの瞳が私を見つめてくれる限り……私はいつでも傍に居よう。


ヒジリを住まわせたあの家の改修工事が始まり、徐々にヒジリの店が完成に近づいていく中、先に準備を整えた厨房でヒジリが店に出すケーキとやらを1人で作っているとグレイグから報告があり、私は仕事を早々に終わらせヒジリのいる厨房へと向かった。

そっと厨房を覗き見ると、私が選んでやったエプロンを身につけている。
ああ、やはりヒジリによく似合うな。
それにしても頭に巻いているのはなんだ?
ああ、もしかしたらコック帽の代わりか?

いつもは髪に隠されている額が露わになって実に可愛らしい。
そこに口付けられるのが今は私だけだという事実も私の興奮を高めてくれる。
ヒジリに口付けをするものされるのも私だけだと説明したグレイグには感謝しかないな。

額にほんのりと汗をかきながら必死に腕を動かしているヒジリを微笑ましく思いながらも、なんとなくうまくいっていない様子が気になって、あたかも今来たかのように声をかけると、ヒジリの綺麗な瞳が私をとらえた。
その美しい瞳に魅入られドキリとしてしまう。

ヒジリは目の前の仕事の手を止め、私に笑顔で話しかけてくれる。
こうやっていつでも私を優先してくれるところが私をつけ上がらせることにヒジリは気づいていないのだろう。

ヒジリが悪戦苦闘していたボウルの中身が気になって『何をしているのだ?』と声をかけると、このトロトロとした物体が白っぽくもったりと形づくまで泡立てないといけないのだという。

意味はわからないがとにかくかき混ぜればいいのだろう?

ヒジリの細腕が痛みを感じるのは忍びない。
そんなことなら私が代わってやろう。

ヒジリからボウルを受け取り、かき混ぜるとボウルの中の物体はあっという間に形を変え、ヒジリの言ったような白くもったりと形づいた。

おおっ、なんだ、これは。
すごいな……。

そう思いつつも何食わぬ顔でヒジリにボウルを返すと、ヒジリは何度も目を瞬かせ私とボウルとを見つめていた。

何か手順が違ったのかと焦ったが、

「ランハートさんってすごいなって……力、強いんですね。さすが騎士団長さん! 格好いいです!! いやぁーっ、もう凄すぎですっ!!!」

と手放しで褒めてくれて、あまりの喜びようにこちらが照れてしまうほどだ。

「こっちもお願いしてもいいですか?」

と可愛らしく何度も上目遣いに頼まれて、その度に私の中がどんどん昂っていくのを感じつつ、必死にそれを押し殺しながら手伝いを続けた。

厨房の中に漂う甘ったるい匂いが全く気にならないほど、私はヒジリのことだけをひたすらに思い続けていた。
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