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なんだろう……この気持ち
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「僕、何か悪いことをしちゃいましたか?」
詰所から急に連れ出されるように出てきたのが気になって尋ねてみたけれど、ランハートさんは
「そんなことはない! ヒジリは何もしていないよ。気にしなくていい」
と答えるばかりで何も教えてくれない。
「でも……あっ、もしかしたらケーキ……口に合わなかったとか?
それだったら僕、ちゃんと教えてもらったほうが……」
「ヒジリ、大丈夫だ。驚くほど美味しかったよ。あの柔らかなスポンジとやらは初めて食べたが、蕩けるような食感で果物の食感との差が実も面白く美味しかった。私は甘いものはそんなに得意ではないが、ヒジリのケーキならいくらでも食べられそうだ」
「ほ、ほんと……ですか? なら、うれしいっ」
心配で泣きそうになっていた僕はランハートさんの優しい言葉にすっかり嬉しくなって、ランハートさんに抱きついた。
「――っ! ひ、ヒジリっ」
「あっ、ごめんなさい。つい嬉しくなって……。でも、僕ずっと心配だったんです。僕のケーキがこっちで受け入れてもらえるかどうか……」
「そうか。私が先に感想を言っておくべきだったな。ヒジリに余計な心配をさせてしまって申し訳ない」
ランハートさんは抱きついた僕に驚いていたけれど、特に引き離すこともしないどころか優しく抱き締めてくれながら申し訳ないと謝ってくれて、子供をあやすように頭を優しく撫でてくれた。
ランハートさんって本当にすごく優しいんだな。
ああ、大きな身体に抱きついているとなんだか安心する。
このままずっと抱き締めていてほしいな……。
って僕、何考えてるんだろう。
ランハートさんに抱き締めていてほしいだなんて……。
ランハートさんは男で、僕も男なのに……。
ここに来てずっと優しく守ってくれるランハートさんになんだかすごくドキドキする。
なんだろう、この気持ち……。
こんなこと思ってるなんて知られたら嫌われるかも。
ランハートさんは公爵さまに頼まれて僕に優しくしてくれているだけなのに……。
僕は抱きついていた手を離し慌ててランハートさんから離れた。
だって、申し訳ない気持ちでいっぱいだったから。
「ごめんなさい、急に抱きついたりして……。ケーキを褒めてもらえて嬉しかったのでつい……」
理由をつけて謝ると、ランハートさんはいつもと変わらないにこやかな笑顔を見せてくれた。
「いや、気にしないでいい。ヒジリに抱きついてもらえるなんて光栄でしかないよ」
「えっ? それってどういう――?」
「こちらにいらっしゃったのですか?」
聞き返そうとした言葉がグレイグさんの声に消されてしまった。
きっと聞いてはいけないという気がして、僕は聞き返すのをやめた。
グレイグさんは空っぽのお皿を3枚、テーブルに置きながら
「ヒジリさまのケーキは騎士たちにも大変好評でございましたよ。特にふわふわのパンのようなものが気に入った様子で……ふふっ。最後は皆さんで取り合うようにして召し上がっていらっしゃいましたよ」
と教えてくれた。
「取り合うって……ふふっ。嬉しいです。
そのふわふわのパンみたいなものは『スポンジ』と言って、ランハートさんがお手伝いしてくださったんです。
というよりほとんどランハートさんに作っていただいたようなものです。僕じゃ、あんなにふわふわには作れなかったので……」
「えっ? ランハートさまが、あれを?」
「はい。実はあれ作るのすごく力がいるんですよ。だけど、ランハートさんあっという間に仕上げてくださって。
もう僕、ランハートさんなしじゃ何もできないです」
『『ぐっ――!』』
ハンドミキサー要らずのあの力を見たら僕なんてほんと無力だな……そんなことを思いながらグレイグさんに話したんだけど、なぜかランハートさんもグレイグさんも顔を真っ赤にして僕を見ている。
なんで? 僕、なんか変なこと言ったっけ?
詰所から急に連れ出されるように出てきたのが気になって尋ねてみたけれど、ランハートさんは
「そんなことはない! ヒジリは何もしていないよ。気にしなくていい」
と答えるばかりで何も教えてくれない。
「でも……あっ、もしかしたらケーキ……口に合わなかったとか?
それだったら僕、ちゃんと教えてもらったほうが……」
「ヒジリ、大丈夫だ。驚くほど美味しかったよ。あの柔らかなスポンジとやらは初めて食べたが、蕩けるような食感で果物の食感との差が実も面白く美味しかった。私は甘いものはそんなに得意ではないが、ヒジリのケーキならいくらでも食べられそうだ」
「ほ、ほんと……ですか? なら、うれしいっ」
心配で泣きそうになっていた僕はランハートさんの優しい言葉にすっかり嬉しくなって、ランハートさんに抱きついた。
「――っ! ひ、ヒジリっ」
「あっ、ごめんなさい。つい嬉しくなって……。でも、僕ずっと心配だったんです。僕のケーキがこっちで受け入れてもらえるかどうか……」
「そうか。私が先に感想を言っておくべきだったな。ヒジリに余計な心配をさせてしまって申し訳ない」
ランハートさんは抱きついた僕に驚いていたけれど、特に引き離すこともしないどころか優しく抱き締めてくれながら申し訳ないと謝ってくれて、子供をあやすように頭を優しく撫でてくれた。
ランハートさんって本当にすごく優しいんだな。
ああ、大きな身体に抱きついているとなんだか安心する。
このままずっと抱き締めていてほしいな……。
って僕、何考えてるんだろう。
ランハートさんに抱き締めていてほしいだなんて……。
ランハートさんは男で、僕も男なのに……。
ここに来てずっと優しく守ってくれるランハートさんになんだかすごくドキドキする。
なんだろう、この気持ち……。
こんなこと思ってるなんて知られたら嫌われるかも。
ランハートさんは公爵さまに頼まれて僕に優しくしてくれているだけなのに……。
僕は抱きついていた手を離し慌ててランハートさんから離れた。
だって、申し訳ない気持ちでいっぱいだったから。
「ごめんなさい、急に抱きついたりして……。ケーキを褒めてもらえて嬉しかったのでつい……」
理由をつけて謝ると、ランハートさんはいつもと変わらないにこやかな笑顔を見せてくれた。
「いや、気にしないでいい。ヒジリに抱きついてもらえるなんて光栄でしかないよ」
「えっ? それってどういう――?」
「こちらにいらっしゃったのですか?」
聞き返そうとした言葉がグレイグさんの声に消されてしまった。
きっと聞いてはいけないという気がして、僕は聞き返すのをやめた。
グレイグさんは空っぽのお皿を3枚、テーブルに置きながら
「ヒジリさまのケーキは騎士たちにも大変好評でございましたよ。特にふわふわのパンのようなものが気に入った様子で……ふふっ。最後は皆さんで取り合うようにして召し上がっていらっしゃいましたよ」
と教えてくれた。
「取り合うって……ふふっ。嬉しいです。
そのふわふわのパンみたいなものは『スポンジ』と言って、ランハートさんがお手伝いしてくださったんです。
というよりほとんどランハートさんに作っていただいたようなものです。僕じゃ、あんなにふわふわには作れなかったので……」
「えっ? ランハートさまが、あれを?」
「はい。実はあれ作るのすごく力がいるんですよ。だけど、ランハートさんあっという間に仕上げてくださって。
もう僕、ランハートさんなしじゃ何もできないです」
『『ぐっ――!』』
ハンドミキサー要らずのあの力を見たら僕なんてほんと無力だな……そんなことを思いながらグレイグさんに話したんだけど、なぜかランハートさんもグレイグさんも顔を真っ赤にして僕を見ている。
なんで? 僕、なんか変なこと言ったっけ?
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