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「あの、ランハートさん。こっちの生クリームを泡立てるのも手伝ってもらえますか?」
「ああ、任せておいてくれ」
ボウルに冷やしておいた生クリームと砂糖を加え、ランハートさんに手渡すと1分もかからないうちにツノが立つほどのモコモコの生クリームが出来上がった。
「おおっ、これはすごいな」
「ふふっ。そうですね」
ランハートさん、なんか嬉しそう。
生クリーム泡立てて喜んでるって可愛い。
それにしてもすごいな、ここまでの威力とは……。
ランハートさんがいてくれたらハンドミキサーいらずだなぁ。
でも、この生クリームは上の飾り付けには向いてるけどスポンジのデコレーション用には硬すぎる。
ピンとツノが立ちすぎてスポンジに塗れないもん。
僕は今度はデコレーション用の生クリームの泡立てをお願いした。
できれば七分立てくらいがベストなんだけど……。
『さっきより少し弱めでお願いします』と頼むと、今度は三十秒くらいで手を止め、
『ヒジリ、どうだ?』と見せてくれた。
ちょうどいい少しトロッとした生クリームに
「わぁーっ、最高です!!」
と声をかけると、ランハートさんは嬉しそうに笑った。
焼き上がったスポンジケーキを冷ましている間に、中に挟む用と飾り付け用のフルーツを用意しておいた。
ランハートさんのおかげでフワッフワに焼き上がったスポンジケーキを3分割にして、間にフルーツと生クリームを挟んだ。
ランハートさんは僕の作業の様子をそれはそれは興味深そうに見ていて、スポンジを綺麗に生クリームで覆った時には
『ほう』と感嘆の声をあげていた。
完成を心待ちにしている様子のランハートさんの前で仕上げに取り掛かる。
クッキーの搾り口をつけた布袋に最初に泡立ててもらった硬めの生クリームを入れ、飾り付けクリームを絞り出していくと、もう声も出せないほどびっくりした様子で僕の手元を見つめていた。
最後にフルーツを乗せて完成だ!
味はまだ食べてないからわからないけれど、一応見た目は今まで作ってきたものより美味しそうにできたと思う。
それもこれもランハートさんが手伝ってくれたおかげだ。
「ヒジリ、これで完成か?」
「はい。どうですか? 見た目とか、この世界の方々に気に入っていただけそうですか?」
「ああ。もちろんだよ!! こんなに綺麗な菓子は見たことがないからな。これはきっと大流行りになるぞ!!!」
「ほんとですかっ! 嬉しいです!
それで、あの……これなんですけど、騎士団の皆さんに召し上がっていただいて感想を聞かせていただきたいんですけど、ランハートさん……お願いしてもいいですか?」
隣に立つランハートさんを見上げながらそうお願いすると、
「――っ! あ、ああ。そうだな。わかった」
少し顔を赤らめながら了承してくれた。
オーブンを使ったから厨房の温度が上がってたし、そのせいだろうな。
ランハートさんはすぐにグレイグさんを呼んで、隣にある騎士団の詰所にケーキを運んでくれた。
3台あったケーキを1人1台ずつ運ぶつもりでいたんだけど、『ヒジリに持たせるわけないだろう』と大きなお皿に乗せたワンホールケーキを軽々と2台持って運んでくれて、僕はランハートさんとグレイグさんに挟まれるように騎士団の中へと入った。
「お前たち、素晴らしい差し入れだぞ!」
詰所の中にある食堂のような場所には騎士さんたちが十数人集まっていて、どうやら休憩時間だったらしく談笑していたけれど突然聞こえた騎士団長さんの声にすごく驚いた様子でバッと壁に沿うように直立し始めた。
「だ、団長……今日はお休みでは?」
「フィン、差し入れを持ってきたと言っただろう。聞こえていなかったか?」
「さ、差し入れですか?」
「ああ。彼が作ってくれた『ケーキ』というものだ」
「『ケーキ』??」
ランハートさんはフィンさんという人にナイフを持ってくるように声をかけ、食堂のテーブルに持っていたケーキを置いた。
急いでナイフを持ってきてくれたフィンさんと目が合って、思わずニコッと笑顔を見せるとフィンさんは突然驚くほど顔を真っ赤にして『あ、あっ……』とその場に立ち止まった。
「あ、あの……団長……こ、このお方は?」
絞り出すような声でランハートさんに尋ねると、ランハートさんは意味深な笑顔を浮かべて
「この詰所の隣に住むことになったヒジリだ。意味はわかってるな?」
とフィンさんと壁際に立っている騎士さんたちに視線を向けながら、そう説明すると、皆驚いた表情で僕を見ていた。
「あの、ランハートさん……僕、」
皆さんの視線が気になってランハートさんを見上げると、ランハートさんは
『気にしないでいい』そう言ってにこやかに笑った。
ランハートさんがそういうならと僕はそのままそれには触れなかった。
「ヒジリが作ったケーキを味わって感想を聞かせて欲しいと言っている。
隣でこのケーキの店を出す予定だから、お前たち感想を聞かせてやってくれ」
ランハートさんの言葉に壁際にいた騎士さんたちはゆっくりとテーブルに近づき、興味深そうに僕のケーキを見ていた。
グレイグさんが食べやすい大きさにカットすると、我先にと群がるように食べ始めた。
それを見ているランハートさんに、まだ騎士さんたちが手をつけていないお皿のケーキをフォークで掬って
「ランハートさん、『あ~ん』して」
と食べさせようとすると、ざわざわしながらケーキを食べていた騎士さんたちがしんと静まり返り、一斉に視線がこっちに向いたのがわかった。
そういえば同じフォーク使うのははしたないんだとかグレイグさんが言ってたっけ。
でもランハートさんだけだったらいいんだよね?
せっかくだからランハートさんにも食べてもらいたいし。
騎士さんたちの前は嫌かな? とも思ったけれど、ランハートさんは満面の笑みで口を開けてくれた。
僕の差し出したフォークが彼の口の中に入っていく。
「ああ。美味しいな。こんなに美味しい菓子は初めて食べた」
「ほんと? ふふっ。よかった」
「じゃあ、ヒジリにも食べさせよう。ほら」
差し出されたフォークをパクッと口に入れると、柔らかくてふわふわのスポンジと生クリームの程よい甘さとフルーツの酸っぱさがちょうどよくてすごく美味しかった。
「うん、美味しい」
見つめ合う僕たちの周りで、なぜか急にガタガタと音が聞こえる。
何事かと見ると、さっきまでケーキを食べてくれていた騎士さんたちがみんなしゃがみ込んでいる。
「あ、あの……大丈夫――」
「ヒジリ、気にしないでいい」
「でも――」
「いいんだ。ヒジリ、感想は後で聞いておくからそろそろ店に戻ろう」
ランハートさんの突然の行動が気になったけれど、グレイグさんが
『後でお皿をお持ちいたしますね』と言ってくれたので、『はい』とだけ返して、僕はランハートさんに手を引かれ店へと戻った。
「ああ、任せておいてくれ」
ボウルに冷やしておいた生クリームと砂糖を加え、ランハートさんに手渡すと1分もかからないうちにツノが立つほどのモコモコの生クリームが出来上がった。
「おおっ、これはすごいな」
「ふふっ。そうですね」
ランハートさん、なんか嬉しそう。
生クリーム泡立てて喜んでるって可愛い。
それにしてもすごいな、ここまでの威力とは……。
ランハートさんがいてくれたらハンドミキサーいらずだなぁ。
でも、この生クリームは上の飾り付けには向いてるけどスポンジのデコレーション用には硬すぎる。
ピンとツノが立ちすぎてスポンジに塗れないもん。
僕は今度はデコレーション用の生クリームの泡立てをお願いした。
できれば七分立てくらいがベストなんだけど……。
『さっきより少し弱めでお願いします』と頼むと、今度は三十秒くらいで手を止め、
『ヒジリ、どうだ?』と見せてくれた。
ちょうどいい少しトロッとした生クリームに
「わぁーっ、最高です!!」
と声をかけると、ランハートさんは嬉しそうに笑った。
焼き上がったスポンジケーキを冷ましている間に、中に挟む用と飾り付け用のフルーツを用意しておいた。
ランハートさんのおかげでフワッフワに焼き上がったスポンジケーキを3分割にして、間にフルーツと生クリームを挟んだ。
ランハートさんは僕の作業の様子をそれはそれは興味深そうに見ていて、スポンジを綺麗に生クリームで覆った時には
『ほう』と感嘆の声をあげていた。
完成を心待ちにしている様子のランハートさんの前で仕上げに取り掛かる。
クッキーの搾り口をつけた布袋に最初に泡立ててもらった硬めの生クリームを入れ、飾り付けクリームを絞り出していくと、もう声も出せないほどびっくりした様子で僕の手元を見つめていた。
最後にフルーツを乗せて完成だ!
味はまだ食べてないからわからないけれど、一応見た目は今まで作ってきたものより美味しそうにできたと思う。
それもこれもランハートさんが手伝ってくれたおかげだ。
「ヒジリ、これで完成か?」
「はい。どうですか? 見た目とか、この世界の方々に気に入っていただけそうですか?」
「ああ。もちろんだよ!! こんなに綺麗な菓子は見たことがないからな。これはきっと大流行りになるぞ!!!」
「ほんとですかっ! 嬉しいです!
それで、あの……これなんですけど、騎士団の皆さんに召し上がっていただいて感想を聞かせていただきたいんですけど、ランハートさん……お願いしてもいいですか?」
隣に立つランハートさんを見上げながらそうお願いすると、
「――っ! あ、ああ。そうだな。わかった」
少し顔を赤らめながら了承してくれた。
オーブンを使ったから厨房の温度が上がってたし、そのせいだろうな。
ランハートさんはすぐにグレイグさんを呼んで、隣にある騎士団の詰所にケーキを運んでくれた。
3台あったケーキを1人1台ずつ運ぶつもりでいたんだけど、『ヒジリに持たせるわけないだろう』と大きなお皿に乗せたワンホールケーキを軽々と2台持って運んでくれて、僕はランハートさんとグレイグさんに挟まれるように騎士団の中へと入った。
「お前たち、素晴らしい差し入れだぞ!」
詰所の中にある食堂のような場所には騎士さんたちが十数人集まっていて、どうやら休憩時間だったらしく談笑していたけれど突然聞こえた騎士団長さんの声にすごく驚いた様子でバッと壁に沿うように直立し始めた。
「だ、団長……今日はお休みでは?」
「フィン、差し入れを持ってきたと言っただろう。聞こえていなかったか?」
「さ、差し入れですか?」
「ああ。彼が作ってくれた『ケーキ』というものだ」
「『ケーキ』??」
ランハートさんはフィンさんという人にナイフを持ってくるように声をかけ、食堂のテーブルに持っていたケーキを置いた。
急いでナイフを持ってきてくれたフィンさんと目が合って、思わずニコッと笑顔を見せるとフィンさんは突然驚くほど顔を真っ赤にして『あ、あっ……』とその場に立ち止まった。
「あ、あの……団長……こ、このお方は?」
絞り出すような声でランハートさんに尋ねると、ランハートさんは意味深な笑顔を浮かべて
「この詰所の隣に住むことになったヒジリだ。意味はわかってるな?」
とフィンさんと壁際に立っている騎士さんたちに視線を向けながら、そう説明すると、皆驚いた表情で僕を見ていた。
「あの、ランハートさん……僕、」
皆さんの視線が気になってランハートさんを見上げると、ランハートさんは
『気にしないでいい』そう言ってにこやかに笑った。
ランハートさんがそういうならと僕はそのままそれには触れなかった。
「ヒジリが作ったケーキを味わって感想を聞かせて欲しいと言っている。
隣でこのケーキの店を出す予定だから、お前たち感想を聞かせてやってくれ」
ランハートさんの言葉に壁際にいた騎士さんたちはゆっくりとテーブルに近づき、興味深そうに僕のケーキを見ていた。
グレイグさんが食べやすい大きさにカットすると、我先にと群がるように食べ始めた。
それを見ているランハートさんに、まだ騎士さんたちが手をつけていないお皿のケーキをフォークで掬って
「ランハートさん、『あ~ん』して」
と食べさせようとすると、ざわざわしながらケーキを食べていた騎士さんたちがしんと静まり返り、一斉に視線がこっちに向いたのがわかった。
そういえば同じフォーク使うのははしたないんだとかグレイグさんが言ってたっけ。
でもランハートさんだけだったらいいんだよね?
せっかくだからランハートさんにも食べてもらいたいし。
騎士さんたちの前は嫌かな? とも思ったけれど、ランハートさんは満面の笑みで口を開けてくれた。
僕の差し出したフォークが彼の口の中に入っていく。
「ああ。美味しいな。こんなに美味しい菓子は初めて食べた」
「ほんと? ふふっ。よかった」
「じゃあ、ヒジリにも食べさせよう。ほら」
差し出されたフォークをパクッと口に入れると、柔らかくてふわふわのスポンジと生クリームの程よい甘さとフルーツの酸っぱさがちょうどよくてすごく美味しかった。
「うん、美味しい」
見つめ合う僕たちの周りで、なぜか急にガタガタと音が聞こえる。
何事かと見ると、さっきまでケーキを食べてくれていた騎士さんたちがみんなしゃがみ込んでいる。
「あ、あの……大丈夫――」
「ヒジリ、気にしないでいい」
「でも――」
「いいんだ。ヒジリ、感想は後で聞いておくからそろそろ店に戻ろう」
ランハートさんの突然の行動が気になったけれど、グレイグさんが
『後でお皿をお持ちいたしますね』と言ってくれたので、『はい』とだけ返して、僕はランハートさんに手を引かれ店へと戻った。
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