異世界でイケメン騎士団長さんに優しく見守られながらケーキ屋さんやってます

波木真帆

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ランハートさんの力

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一週間後、お願いしていたケーキ型が全て出来上がって無事に店に運び込まれた。
作ってもらったケーキ型はどれも僕が想像していた以上の仕上がりで驚いてしまった。
ここの世界の鍛冶屋さんってすごいな、僕のあんな絵でここまで忠実に作ってくれるなんて!

これだけのものを作ってもらったんだ。
これで美味しいケーキを作ってお返ししないとね!

厨房の方はこの一週間の間にほぼ全ての準備が整えられ、あとは機械の試運転をするだけ。
材料も道具も全て用意でき、今日は朝からウキウキしていた。
今日は久しぶりにケーキが作れる!
ふふっ。楽しみだ。

そうそう、僕はこの一週間の間にあの公爵家からこの家に完全に移り住んだ。
と言っても、食事の時間には僕の身体を心配したグレイグさんから食事が届けられ、その上掃除も洗濯も僕が気付かない間にしてもらって結局公爵家にお邪魔させてもらっている時と変わらないお世話をされている。

しかも、隣の詰所から警護のためにとランハートさんがちょくちょく顔を見に来てくれるし、食事も僕が寂しくならないようにと一緒に食事をしてくれて、公爵家にいた時よりランハートさんと過ごす時間が多くて寂しくなる暇がない。

隣が騎士団の詰所だから安心安全なのに、ランハートさんは念の為だと言って手の空いている騎士さんたちを配備して一日中店を警備させていて、あまりの高待遇に申し訳なく思ってしまう。

僕がここに移り住んだことで迷惑しかかけてない気がするんだけど……とグレイグさんに話してみたけど、

「ヒジリさまがご心配なさることはございません。旦那さまが騎士団の皆さまにご依頼されたことですから。それに騎士団の皆さまにとっても民を見守るのも大事なお仕事なのですよ」

そう言われたら『わかりました』ということしかできなかった。

いつも迷惑かけている皆さんには僕ができることでお返しするしかないか。

よし、やるぞ!! 気合を入れ、僕はたくさんの材料とケーキの道具を前にエプロンを身につけ、髪が落ちないようにと大判のハンカチを頭に巻いた。

今までに何十回も作ってきたからもうほとんどのケーキのレシピも配合も頭の中に入っている。

手始めに僕は常温に置いておいたバターと卵を手に取った。

あっ……しまったっ!!!

ケーキ作りには欠かせないアレ・・の存在を忘れていた……。

そう、マフィンやクッキーを作る時には無くてもいいけど、ケーキを作る時には必要なアイテム!
ハンドミキサー!!!

これがあるのとないのでは全然違うんだ。

ホイッパーはあるけど、これを使うと時間もだけど何より疲れるんだよね……腕が。
ケーキって食べるのは美味しいんだけど、作るのは結構重労働だもん。
パティシエに男性が多いのってすごくよくわかる。
僕も一応男だけど、あんまり筋肉もないしな。

ふぅ。
とりあえずハンドミキサーについてはランハートさんに相談してみよう。

今日はホイッパーで頑張るしかない。

今から作るのはスポンジケーキ。

まずは卵に砂糖を混ぜていく。
湯煎にかけながらホイッパーでひたすらに泡立てていくんだけど、ハンドミキサーなら数分で終わる作業なのにホイッパーだと全然終わりが見えない。

卵が白っぽくもったりと形が残るまで泡立てないといけないけど、力が足りないのか全く形にならない。
腕ばっかりが疲れて重くなっていく。

うぅーーーっ、腕が痛いーーーっ。

ホイッパーで作る練習もしておけばよかった。
何かコツでも掴めたかもしれないのに。

そう思っても今となっては後の祭り。
今はただ目の前のものを作り上げるしかない。

ふぅふぅ言いながら、必死に泡立て続けていると、

「ヒジリ、ここにいたのか?」

と声が聞こえた。

汗を流しながら泡立てていた手を止め、
『ランハートさん、お疲れさまです。今日も来てくださったんですか?』
と笑顔を見せると、ランハートさんは僕の手元を見て興味深そうに近づいてきた。

「これは何をしているんだ?」

「これが白っぽくもったりと形が残るまで泡立てないといけないんですけど、なかなかうまくいかなくて……」

「白っぽくもったり……これは、混ぜればいいのか?」

「はい。そうなんですけど、もう腕が疲れちゃって……結構重労働なんですよね、ケーキ作るのって」

腕をトントンと労わりながら混ぜ続けていると

「ならば、私が手伝おう」

とランハートさんはすぐに僕からボウルを取り、ホイッパーで泡立て始めた。

『えっ――?』
僕は目の前で起こる光景を信じられない思いで見つめていた。

『ウソっ――これ何っ?」
だって、卵がみるみるうちに白っぽくもったりと形づいていくんだ。
まるで超高速のハンドミキサーを使っているようだ。

「ヒジリ、これくらいでいいか?」

茫然としながら差し出されたボウルを手に取り、僕は信じられない気持ちでそのボウルとランハートさんを交互に見つめた。

「ヒジリ、どうした? 何が間違っていたか?」

「い、いいえ。ランハートさんってすごいなって……」

「えっ?」

「僕、泡立てるだけで腕が疲れちゃったのに……こんなに早く……。
力、強いんですね。さすが騎士団長さん! 格好いいです!! いやぁーっ、もう凄すぎですっ!!!」

もうハンドミキサーなんていらないんじゃないかって思うくらいの早技に感動して僕は興奮しまくっていた。

「い、いや、ヒジリにそこまで褒められると照れてしまうな……」

「――っ!」

うわっ、かわいい。
ランハートさんの照れる姿にときめいてしまう。

「この力がヒジリの役に立てたのなら本望だよ」

「ふふっ。本当に助かりました」

それから後も混ぜるときはランハートさんがすぐに代わってくれてあっという間に生地が3台分も出来上がった。
本当に凄すぎる。

ハンドミキサー以上に綺麗に泡立てられた生地を見てこれはきっとふわふわの生地が出来上がるだろうなとウキウキしながら、温めたオーブンで焼き始めた。

甘~い香りが厨房内を漂って、その匂いだけで幸せな気分になる。
ランハートさんは興味深そうにオーブンの中を覗き込んでいた。
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