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美味しい焼き菓子たち
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公爵家のお屋敷から歩いてでも行ける距離にあるそのお店は結構大きな店でかなり繁盛しているようだ。
うん。やっぱりどこの世界でも甘いお菓子は人気なんだな。
なんてったって甘いものは日々の癒しだもんね。
「うーん、いい匂い」
外まで漂ってくる焼き菓子の香ばしい匂いにうっとりしてしまう。
ランハートさんに案内されてお店の中に入ると、お客さんは見事に女性ばかり。
そこにやってきたランハートさんの姿にお客さんの女性たちはもちろん店員さんたちまでキャーキャーと高い声をあげて喜んでいる。
だって騎士団の団長さんだもんな。
国の平和を守っている人たちだし、顔は物凄く格好良いし、そりゃあキャーキャー言われるよね。
その収拾がつかない様子に慌てて奥から飛び出てきた店主さんが僕たちを奥の席へと案内してくれた。
「私の不手際で申し訳ございません」
「いや、我々がなんの連絡もなくきたのだからこちらが悪い。彼にここの菓子を食べさせたくてきたのだ。
いくつかおすすめの菓子を持ってきてくれないか?」
「なんと嬉しいお言葉でしょう。畏まりました。すぐにお持ちいたします」
観葉植物に囲まれたこの広い席はお店の中からも少し見えにくく、窓の外には大きな木が植えられているから外からの視線も遮られていてすごく居心地がいい。
お店の中もすごくメルヘンチックだし、いいなこの雰囲気。
僕もこんな可愛い店にしたいな。
「お待たせいたしました」
トレイにたくさん載せられて運ばれてきたのは、たくさんの焼き菓子。
そして、豪華なティーカップには美味しそうな紅茶が淹れられていてすっきりとした香りが香ばしい焼き菓子にはすごく合いそうだ。
「さぁ、ヒジリ。好きなものを食べるといい」
「はい。いただきまーす」
目の前にあるたくさんのお皿から一つずついただいて味わってみる。
サクサクとした歯触りのクッキーやビスケット。
濃厚でしっとりとしたブラウニーケーキ。
ドライフルーツが入ったパウンドケーキ。
紅茶の茶葉が入ったスコーン。
ほんのりレモンのような風味があるマドレーヌ。
濃厚なバターと塩味の効いた厚焼きのクッキーガレット。
これらを合わせて全部焼き菓子と呼んでいるらしい。
なるほど、甘いものは焼き菓子しかないってことなのかな。
けれど、そのどれもが美味しくてびっくりしてしまった。
でも、これだけの材料が揃っているならタルトやもしかしたら生クリームで飾り付けをしたスポンジケーキも作れるかもしれない。
うーん、甘いもの=焼き菓子という構図が出来上がっているところに参入するのは無謀かもしれないけど、
でも甘いものを食べる文化があるのならチャレンジしてみてもいいのかもしれないな。
悩みながらクッキーを頬張っていると、
「ヒジリ? どうした? 口に合わないか?」
と心配そうなランハートさんの声が聞こえた。
「えっ? いえ、すっごく美味しくて驚いただけです」
「そうか、ならいいが……」
「ランハートさんも食べて感想聞かせてください」
そう、この世界の人たちがこれを食べてどういう感想を持つのか知るのって大事だもんね。
後でここに来ている人たちの感想も聞いて回りたいくらいだけど、それはさすがに図々しいかな。
僕の目の前にある濃厚なブラウニーの感想が知りたくて、それを一つ取り、フォークで一口サイズに切ってランハートさんに『あーん』と差し出した。
その瞬間、何やら店内が騒めいた気がしたけど、僕が目を向けると急にしんと静まり返った。
んっ? なんだったんだろ?
まぁいいか。
ランハートさんは一瞬戸惑った様子を見せたけれど、ほんの少し顔を赤らめながら僕の差し出したブラウニーをパクッと食べてくれた。
「美味しい?」
「――っ! あ、ああ。すごく美味しいな。今度は私がヒジリに食べさせよう」
一応僕はもう味見したんだけどなと思いつつ、せっかく食べさせてくれるからと『あーん』と口を開けると、なかなか入ってこない。
あれっ?
口開け続けるのが少し辛くて
「んんっ、早くぅ……」
と声を上げると、『あ、ああ。悪い』と言いながら、優しく食べさせてくれた。
「どうだ?」
「はい。とっても美味しいです」
「ヒジリのやる店でもこういうものを出すつもりなのだろう?」
「えっと、これももちろん種類としてはあるんですけど、僕が作るつもりのものは他にもあって……」
どうしよう、ランハートさんになんて説明したらいいのかな?
ふわふわのスポンジなんて言っても多分わからないだろうしな。
「ヒジリ、それはこの国にあるもので作れそうなのか?」
「は、はい。材料さえ揃っていれば作れると思います。それと型も必要ですね」
「ならば、店主に厨房を見せてもらうか?」
「いいんですか? みたいです!!」
食いつくようにそういうと、ランハートさんは笑いながら店主さんに頼んでくれた。
「こちらがうちの厨房でございます」
連れて行かれた厨房は僕が学生の頃にアルバイトしていたケーキ屋さんの厨房によく似ていて、大型のオーブンもちゃんとあった。
「これでお菓子焼いてるんだ」
使い方を教えてもらったら僕にもできそうだ。
調理器具も……うん、大丈夫。向こうのに結構似ている。
「あの、どんな材料があるか見せていただくことはできますか?」
「はい。こちらでございます」
冷蔵庫と食品庫には卵やバターや牛乳、小麦粉、ベーキングパウダーに砂糖、チョコレートなんかもあった。
これならバッチリだ。
「すごいっ!! これならなんでも作れそう!!」
「そうか。ならば、よかった」
ランハートさんが店主さんに設備についていろいろ聞いてくれて、すぐに手配してくれることになった。
ああ、この世界で僕の幼い頃からの夢が叶うなんて……。
僕はラッキーだな。
うん。やっぱりどこの世界でも甘いお菓子は人気なんだな。
なんてったって甘いものは日々の癒しだもんね。
「うーん、いい匂い」
外まで漂ってくる焼き菓子の香ばしい匂いにうっとりしてしまう。
ランハートさんに案内されてお店の中に入ると、お客さんは見事に女性ばかり。
そこにやってきたランハートさんの姿にお客さんの女性たちはもちろん店員さんたちまでキャーキャーと高い声をあげて喜んでいる。
だって騎士団の団長さんだもんな。
国の平和を守っている人たちだし、顔は物凄く格好良いし、そりゃあキャーキャー言われるよね。
その収拾がつかない様子に慌てて奥から飛び出てきた店主さんが僕たちを奥の席へと案内してくれた。
「私の不手際で申し訳ございません」
「いや、我々がなんの連絡もなくきたのだからこちらが悪い。彼にここの菓子を食べさせたくてきたのだ。
いくつかおすすめの菓子を持ってきてくれないか?」
「なんと嬉しいお言葉でしょう。畏まりました。すぐにお持ちいたします」
観葉植物に囲まれたこの広い席はお店の中からも少し見えにくく、窓の外には大きな木が植えられているから外からの視線も遮られていてすごく居心地がいい。
お店の中もすごくメルヘンチックだし、いいなこの雰囲気。
僕もこんな可愛い店にしたいな。
「お待たせいたしました」
トレイにたくさん載せられて運ばれてきたのは、たくさんの焼き菓子。
そして、豪華なティーカップには美味しそうな紅茶が淹れられていてすっきりとした香りが香ばしい焼き菓子にはすごく合いそうだ。
「さぁ、ヒジリ。好きなものを食べるといい」
「はい。いただきまーす」
目の前にあるたくさんのお皿から一つずついただいて味わってみる。
サクサクとした歯触りのクッキーやビスケット。
濃厚でしっとりとしたブラウニーケーキ。
ドライフルーツが入ったパウンドケーキ。
紅茶の茶葉が入ったスコーン。
ほんのりレモンのような風味があるマドレーヌ。
濃厚なバターと塩味の効いた厚焼きのクッキーガレット。
これらを合わせて全部焼き菓子と呼んでいるらしい。
なるほど、甘いものは焼き菓子しかないってことなのかな。
けれど、そのどれもが美味しくてびっくりしてしまった。
でも、これだけの材料が揃っているならタルトやもしかしたら生クリームで飾り付けをしたスポンジケーキも作れるかもしれない。
うーん、甘いもの=焼き菓子という構図が出来上がっているところに参入するのは無謀かもしれないけど、
でも甘いものを食べる文化があるのならチャレンジしてみてもいいのかもしれないな。
悩みながらクッキーを頬張っていると、
「ヒジリ? どうした? 口に合わないか?」
と心配そうなランハートさんの声が聞こえた。
「えっ? いえ、すっごく美味しくて驚いただけです」
「そうか、ならいいが……」
「ランハートさんも食べて感想聞かせてください」
そう、この世界の人たちがこれを食べてどういう感想を持つのか知るのって大事だもんね。
後でここに来ている人たちの感想も聞いて回りたいくらいだけど、それはさすがに図々しいかな。
僕の目の前にある濃厚なブラウニーの感想が知りたくて、それを一つ取り、フォークで一口サイズに切ってランハートさんに『あーん』と差し出した。
その瞬間、何やら店内が騒めいた気がしたけど、僕が目を向けると急にしんと静まり返った。
んっ? なんだったんだろ?
まぁいいか。
ランハートさんは一瞬戸惑った様子を見せたけれど、ほんの少し顔を赤らめながら僕の差し出したブラウニーをパクッと食べてくれた。
「美味しい?」
「――っ! あ、ああ。すごく美味しいな。今度は私がヒジリに食べさせよう」
一応僕はもう味見したんだけどなと思いつつ、せっかく食べさせてくれるからと『あーん』と口を開けると、なかなか入ってこない。
あれっ?
口開け続けるのが少し辛くて
「んんっ、早くぅ……」
と声を上げると、『あ、ああ。悪い』と言いながら、優しく食べさせてくれた。
「どうだ?」
「はい。とっても美味しいです」
「ヒジリのやる店でもこういうものを出すつもりなのだろう?」
「えっと、これももちろん種類としてはあるんですけど、僕が作るつもりのものは他にもあって……」
どうしよう、ランハートさんになんて説明したらいいのかな?
ふわふわのスポンジなんて言っても多分わからないだろうしな。
「ヒジリ、それはこの国にあるもので作れそうなのか?」
「は、はい。材料さえ揃っていれば作れると思います。それと型も必要ですね」
「ならば、店主に厨房を見せてもらうか?」
「いいんですか? みたいです!!」
食いつくようにそういうと、ランハートさんは笑いながら店主さんに頼んでくれた。
「こちらがうちの厨房でございます」
連れて行かれた厨房は僕が学生の頃にアルバイトしていたケーキ屋さんの厨房によく似ていて、大型のオーブンもちゃんとあった。
「これでお菓子焼いてるんだ」
使い方を教えてもらったら僕にもできそうだ。
調理器具も……うん、大丈夫。向こうのに結構似ている。
「あの、どんな材料があるか見せていただくことはできますか?」
「はい。こちらでございます」
冷蔵庫と食品庫には卵やバターや牛乳、小麦粉、ベーキングパウダーに砂糖、チョコレートなんかもあった。
これならバッチリだ。
「すごいっ!! これならなんでも作れそう!!」
「そうか。ならば、よかった」
ランハートさんが店主さんに設備についていろいろ聞いてくれて、すぐに手配してくれることになった。
ああ、この世界で僕の幼い頃からの夢が叶うなんて……。
僕はラッキーだな。
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