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今度は僕からしてみようかな
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「……リさま、ヒジリさま」
「あっ、ごめんなさい」
僕を呼ぶグレイグさんの声も全然耳に入っていなかった。
「いいえ、どうぞお気になさらず。ランハートさまはお帰りになられたのですか?」
「えっ? あ、はい。ついさっき……あの、お帰りになりました」
「そうでございますか……。では、ヒジリさま。お風呂の準備が整いましてございます。さぁ、お風呂にどうぞ」
「あ、ありがとうございます」
案内されたお風呂でゆっくりと湯船に浸かりながら、さっきのことを思い出していた。
さっきキスされた場所がジンジンと熱く感じる。
なんでランハートさん、キスなんか……。
指でその場所を撫でると、あの時の唇の感触を思い出してドキドキしてしまう。
でもすぐに『おやすみ』って言ってたから、もしかしたらここの世界での挨拶なのかも……。
そんなに気にすることじゃないのかもしれない。
でも、僕……キスなんてしたことないんだよな。
これでもファーストキスっていうのかな?
ゔーーっ、明日どんな顔して会えばいいんだよ。
ああーーーっ!
ひたすら湯船で悩んでいたらのぼせそうになって慌てて外に出た。
用意されていた着替えに袖を通し、リビングへ向かうとグレイグさんにグラスに入った水を手渡されグイッと飲み干した。
「ふぅーーー。ご馳走さまでした」
「ヒジリさま。今日はお疲れになられたでしょう。何もお考えにならずにどうぞゆっくりお過ごし下さい」
「はい。ありがとうございます。グレイグさん、おやすみなさい」
僕は充てがわれた二階の寝室へ向かい、ポスッとベッドに横たわるとふかふかの心地良い感触にそのまま眠りについた。
『ヒジリ……』
誰? そんな熱っぽい目で僕を見つめるのは……。
『ヒジリ……ほら、こっちを向いて』
そんな甘い声で囁かないで……。
『ヒジリ……愛してるよ』
僕も……
ぱちっと目を覚ますと、そこは見慣れない部屋だった。
えっと……ここは、どこだっけ?
自分のベッドとは思えないほどふかふかのマットから起き上がり、辺りを見回してやっと思い出した。
そうだ。僕、異世界にやってきたんだっけ。
こんな豪華な部屋……ここだけで僕が住んでたアパートより広い。
ベッドも広いし、1人で寝るのが勿体無いくらい。
それにしてもまだ額が熱い感じがする。
さっきの変な夢のせいかもしれない。
どうしよう……今日ランハートさんに会った時、変に緊張しちゃいそう。
グダグダとベッドの中でひとしきりもがいてから、悩んでいても仕方がない! と起きることにした。
階段を下りてリビングに向かうと、もうピシッとした服装のグレイグさんがいた。
「あ、おはようございます」
「おはようございます、ヒジリさま。よくお眠りになりましたか?」
「はい。おかげさまでゆっくりできました。ごめんなさい、僕こんな格好で」
「いいえ。お気になさらずに。さぁ、お食事の用意をいたしますので、どうぞ先にお顔をお洗いください」
にこやかに微笑むグレイグさんに案内され、顔を洗ってダイニングルームへと向かった。
焼きたてのパンとスープ、オムレツにサラダといった定番の洋朝食が並んでいた。
「わぁっ、美味しそう!」
「ふふっ。どうぞお召しあがりください」
広いテーブルに僕の分だけが並べられ、グレイグさんは僕の隣に立ってコーヒーを淹れてくれている。
そっか、グレイグさんは一緒に食べないのか。
なんか広いテーブルなのに寂しいな。
「ヒジリさま、どうかなさいましたか?」
「あの……もし、よかったらグレイグさんも一緒にテーブルについて食事ができたらなって……」
「えっ?」
やっぱりダメだったかな? だって、ものすごくびっくりしてるもん。
でも1人でご飯食べるより誰かと一緒に食べる方が楽しいよ。
「……だめ、ですか?」
もう一度お願いしてみると、『ぐぅっ』と苦しそうな声をあげ、一瞬目を逸らされたけれど、すぐににこやかな笑顔に変わって、
「ヒジリさまがそうおっしゃってくださるのでしたら、この爺喜んでお供させていただきます」
「うわぁ~!! ほんと? 嬉しいっ!!」
「ふふっ。爺も嬉しゅうございますよ。私は今日はもう食事を頂きましたのでコーヒーだけヒジリさまとご一緒させていただきますね」
「はい。嬉しいです」
そういうと、『冷めないうちにお食事をどうぞ』と勧められ、そのまま隣でおしゃべりをしてくれながら朝食を食べた。
食べながらも昨夜のあのことをどうしても思い出してしまってドキドキしてしまう。
あれに何か意味があるのかそれだけでもわかればこのドキドキも治まるかも。
「あ、あの……グレイグさん。ちょっと質問なんですけど……」
「はい。なんなりとお聞きください」
「あの……その、えっと……」
なんて聞いたらいいのか戸惑っていたら、
「何かお困りごとでございますか?」
と優しく尋ねられた。
その優しい眼差しに僕は思い切って聞いてみることにした。
「あの……ひ、額へのキスって……何か意味があるんですか?」
「ヒジリさま、『きす』とはなんでしょう?」
『えっ……』
そっか、キスじゃ通じないんだ……。
えっ、なんていう? 昔の言葉なら接吻とか? いや、それはもっと通じないかも……。
「えっと、あ、あの……唇をつける、というか……」
「えっ? どなたかに額に口付けをされたということでございますか?」
「ああ、はい。口付け! そうです! 昨日ランハートさんがここから帰られる時におやすみと言って額に口付けを……。
だから何か意味があるのかなって思って……」
僕の返答にグレイグさんはかなり驚いた表情をしていた。
そんなに驚くこと?
やっぱりただのおやすみの挨拶じゃないってことなのかな?
「あの……グレイグさん?」
「あっ、失礼いたしました。額への口付けは……えー、その、これから深く親しくなりたいといいますか……相手のことを深く知っていきたいという気持ちの現れだと言われております」
「相手を深く知りたい……? 仲良くなりたい時の挨拶ってことですか?
うーん、じゃあ……例えばグレイグさんとか、これから知り合う人には僕からしたほうがよかったりとかします?」
日本じゃあまりやらないけど、海外じゃ挨拶でハグとか頬にキスとかあるもんね。
もしかしたらこの世界はそういった文化があるとか??
「いいえ! それはなりませぬ」
「――っ!」
グレイグさんの大きな声に思わず身体がビクリと震えた。
「ああ、大変失礼致しました。あの、ヒジリさまの場合は口付けをするのもされるのも、その、今は、ランハートさまのみが宜しいかと存じます」
「えっ? ランハートさんだけ?? どうしてですか?」
「はい。深くお知り合いになるのは双方1人だけなのですよ。ほら、お付き合いも広く浅くよりは狭く深くゆっくりじっくりお互いをお知りになる方がその人の為人を把握できますでしょう?」
うーん、言われてみればそうか。
僕はこの世界のことに関しては何もわからないし、いろんな人に声をかけるより信頼のおけるただ1人を作っておく方がいいかもしれない。
ランハートさんはここの公爵さまにすごく信頼されてるみたいだし、なんてったって騎士団長なんだから僕を悪いようにはしないだろうしな。
ランハートさんにはこれから僕のことをよく知ってもらって、僕もランハートさんのことを教えてもらえるように頑張ろうかな。
「なるほど。わかりました。じゃあ僕も今度ランハートさんに会ったらおでこに口付けしてみますね」
「――っ、そ、そういうわけでは……」
「んっ? どうかしましたか?」
「いえ、なんでもございません」
グレイグさんはなんとなく複雑そうな表情をしている気がしたけれど、話はそのまま終わってしまった。
とりあえず今度は僕から頑張ってみようっと。
「あっ、ごめんなさい」
僕を呼ぶグレイグさんの声も全然耳に入っていなかった。
「いいえ、どうぞお気になさらず。ランハートさまはお帰りになられたのですか?」
「えっ? あ、はい。ついさっき……あの、お帰りになりました」
「そうでございますか……。では、ヒジリさま。お風呂の準備が整いましてございます。さぁ、お風呂にどうぞ」
「あ、ありがとうございます」
案内されたお風呂でゆっくりと湯船に浸かりながら、さっきのことを思い出していた。
さっきキスされた場所がジンジンと熱く感じる。
なんでランハートさん、キスなんか……。
指でその場所を撫でると、あの時の唇の感触を思い出してドキドキしてしまう。
でもすぐに『おやすみ』って言ってたから、もしかしたらここの世界での挨拶なのかも……。
そんなに気にすることじゃないのかもしれない。
でも、僕……キスなんてしたことないんだよな。
これでもファーストキスっていうのかな?
ゔーーっ、明日どんな顔して会えばいいんだよ。
ああーーーっ!
ひたすら湯船で悩んでいたらのぼせそうになって慌てて外に出た。
用意されていた着替えに袖を通し、リビングへ向かうとグレイグさんにグラスに入った水を手渡されグイッと飲み干した。
「ふぅーーー。ご馳走さまでした」
「ヒジリさま。今日はお疲れになられたでしょう。何もお考えにならずにどうぞゆっくりお過ごし下さい」
「はい。ありがとうございます。グレイグさん、おやすみなさい」
僕は充てがわれた二階の寝室へ向かい、ポスッとベッドに横たわるとふかふかの心地良い感触にそのまま眠りについた。
『ヒジリ……』
誰? そんな熱っぽい目で僕を見つめるのは……。
『ヒジリ……ほら、こっちを向いて』
そんな甘い声で囁かないで……。
『ヒジリ……愛してるよ』
僕も……
ぱちっと目を覚ますと、そこは見慣れない部屋だった。
えっと……ここは、どこだっけ?
自分のベッドとは思えないほどふかふかのマットから起き上がり、辺りを見回してやっと思い出した。
そうだ。僕、異世界にやってきたんだっけ。
こんな豪華な部屋……ここだけで僕が住んでたアパートより広い。
ベッドも広いし、1人で寝るのが勿体無いくらい。
それにしてもまだ額が熱い感じがする。
さっきの変な夢のせいかもしれない。
どうしよう……今日ランハートさんに会った時、変に緊張しちゃいそう。
グダグダとベッドの中でひとしきりもがいてから、悩んでいても仕方がない! と起きることにした。
階段を下りてリビングに向かうと、もうピシッとした服装のグレイグさんがいた。
「あ、おはようございます」
「おはようございます、ヒジリさま。よくお眠りになりましたか?」
「はい。おかげさまでゆっくりできました。ごめんなさい、僕こんな格好で」
「いいえ。お気になさらずに。さぁ、お食事の用意をいたしますので、どうぞ先にお顔をお洗いください」
にこやかに微笑むグレイグさんに案内され、顔を洗ってダイニングルームへと向かった。
焼きたてのパンとスープ、オムレツにサラダといった定番の洋朝食が並んでいた。
「わぁっ、美味しそう!」
「ふふっ。どうぞお召しあがりください」
広いテーブルに僕の分だけが並べられ、グレイグさんは僕の隣に立ってコーヒーを淹れてくれている。
そっか、グレイグさんは一緒に食べないのか。
なんか広いテーブルなのに寂しいな。
「ヒジリさま、どうかなさいましたか?」
「あの……もし、よかったらグレイグさんも一緒にテーブルについて食事ができたらなって……」
「えっ?」
やっぱりダメだったかな? だって、ものすごくびっくりしてるもん。
でも1人でご飯食べるより誰かと一緒に食べる方が楽しいよ。
「……だめ、ですか?」
もう一度お願いしてみると、『ぐぅっ』と苦しそうな声をあげ、一瞬目を逸らされたけれど、すぐににこやかな笑顔に変わって、
「ヒジリさまがそうおっしゃってくださるのでしたら、この爺喜んでお供させていただきます」
「うわぁ~!! ほんと? 嬉しいっ!!」
「ふふっ。爺も嬉しゅうございますよ。私は今日はもう食事を頂きましたのでコーヒーだけヒジリさまとご一緒させていただきますね」
「はい。嬉しいです」
そういうと、『冷めないうちにお食事をどうぞ』と勧められ、そのまま隣でおしゃべりをしてくれながら朝食を食べた。
食べながらも昨夜のあのことをどうしても思い出してしまってドキドキしてしまう。
あれに何か意味があるのかそれだけでもわかればこのドキドキも治まるかも。
「あ、あの……グレイグさん。ちょっと質問なんですけど……」
「はい。なんなりとお聞きください」
「あの……その、えっと……」
なんて聞いたらいいのか戸惑っていたら、
「何かお困りごとでございますか?」
と優しく尋ねられた。
その優しい眼差しに僕は思い切って聞いてみることにした。
「あの……ひ、額へのキスって……何か意味があるんですか?」
「ヒジリさま、『きす』とはなんでしょう?」
『えっ……』
そっか、キスじゃ通じないんだ……。
えっ、なんていう? 昔の言葉なら接吻とか? いや、それはもっと通じないかも……。
「えっと、あ、あの……唇をつける、というか……」
「えっ? どなたかに額に口付けをされたということでございますか?」
「ああ、はい。口付け! そうです! 昨日ランハートさんがここから帰られる時におやすみと言って額に口付けを……。
だから何か意味があるのかなって思って……」
僕の返答にグレイグさんはかなり驚いた表情をしていた。
そんなに驚くこと?
やっぱりただのおやすみの挨拶じゃないってことなのかな?
「あの……グレイグさん?」
「あっ、失礼いたしました。額への口付けは……えー、その、これから深く親しくなりたいといいますか……相手のことを深く知っていきたいという気持ちの現れだと言われております」
「相手を深く知りたい……? 仲良くなりたい時の挨拶ってことですか?
うーん、じゃあ……例えばグレイグさんとか、これから知り合う人には僕からしたほうがよかったりとかします?」
日本じゃあまりやらないけど、海外じゃ挨拶でハグとか頬にキスとかあるもんね。
もしかしたらこの世界はそういった文化があるとか??
「いいえ! それはなりませぬ」
「――っ!」
グレイグさんの大きな声に思わず身体がビクリと震えた。
「ああ、大変失礼致しました。あの、ヒジリさまの場合は口付けをするのもされるのも、その、今は、ランハートさまのみが宜しいかと存じます」
「えっ? ランハートさんだけ?? どうしてですか?」
「はい。深くお知り合いになるのは双方1人だけなのですよ。ほら、お付き合いも広く浅くよりは狭く深くゆっくりじっくりお互いをお知りになる方がその人の為人を把握できますでしょう?」
うーん、言われてみればそうか。
僕はこの世界のことに関しては何もわからないし、いろんな人に声をかけるより信頼のおけるただ1人を作っておく方がいいかもしれない。
ランハートさんはここの公爵さまにすごく信頼されてるみたいだし、なんてったって騎士団長なんだから僕を悪いようにはしないだろうしな。
ランハートさんにはこれから僕のことをよく知ってもらって、僕もランハートさんのことを教えてもらえるように頑張ろうかな。
「なるほど。わかりました。じゃあ僕も今度ランハートさんに会ったらおでこに口付けしてみますね」
「――っ、そ、そういうわけでは……」
「んっ? どうかしましたか?」
「いえ、なんでもございません」
グレイグさんはなんとなく複雑そうな表情をしている気がしたけれど、話はそのまま終わってしまった。
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