異世界でイケメン騎士団長さんに優しく見守られながらケーキ屋さんやってます

波木真帆

文字の大きさ
上 下
10 / 80

可愛くて素敵なお家

しおりを挟む
「ここが公爵家の主人がヒジリにと言っていた家だよ」

ランハートさんとグレイグさんに案内され、ようやく公爵家の旦那さまが僕に貸してくれるという家にたどり着いた。
そこは本当に騎士団の詰所のすぐ隣にあり、小さい家だと聞いていたけれどぼく1人でこなすには十分の広さだ。

「中に入ってみてもいいですか?」

「ああ、もちろんだ」

ランハートさんがそういうと、グレイグさんが魔法使いの家で使っていそうな金色の鍵をカチャカチャと回し扉を開けてくれた。

キィっと扉が開きパチっと電灯をつけると、広いリビングのような広間が現れた。

「わぁー、広い!」

「ヒジリさま、いかがでございますか?」

「すごく素敵です!! 本当に僕、こんな素敵なお家借りてもいいんですか?」

「もちろんでございます。旦那さまの方からぜひヒジリさまにお使いいただくようにと仰っておられましたので」

「ありがとうございます!!」

僕は喜びを噛み締めながら、どんなお店にしようかと期待に夢を膨らませていた。

「部屋の中を探検してきてもいいですか?」

「どうぞご自由になさってください」

グレイグさんからお許しが出て、僕は部屋を見て回った。

入り口すぐの広間には広いキッチンがつながっている。
ここを厨房として使えそうだな。
広間にはケーキを並べるショーケースと少し喫茶コーナーもあるといいよね。
本当にそんなに手を加えないでも使えるかも。

この広間やキッチンの奥にはプライベートスペースもあって、お店とは完全に離れているみたいだし良さそう。

わあっ、お風呂もトイレも広くて綺麗!!

あっ、階段がある!

上にあがって見ちゃってもいいかな?

僕、こういう家に住むの夢だったんだよね。
それがまさか現実のものになるなんて……嬉しすぎてはしゃいじゃうな。

「ヒジリ? どこにいる?」

下からランハートさんの声が聞こえて、
『あ、二階の階段の前にいます』と声を上げると、すぐに上がってきてくれた。

「二階は寝室だ。こっちにおいで」

手を引かれ、連れて行かれた部屋は落ち着いた雰囲気の綺麗な部屋だった。
奥に扉もあり、どうやらそこが寝室みたいだ。

すごい、部屋の中に別に寝室があるなんて。

「ヒジリさま、こちらの家をお使いいただけるようでしたら、明日必要なものを運び入れておきます」

「はい。ぜひよろしくお願いします! こんなすごい家をお借りするなんて勿体無い気もしますけど、綺麗に使わせていただきますね」

「はい。旦那さまにはヒジリさまがお使いくださるとご報告しておきますね」

にっこり笑うグレイグさんに、

「あの、僕が直接公爵さまにお礼を言うことって難しいですか?」

と尋ねると、『えっ? 直接、でございますか?』と明らかに動揺した声で返されてしまった。
やっぱり僕みたいな一般人が公爵さまと直接話すなんて難しいのかな……。

この辺のマナーはわからないしな。

「やっぱり無理ですよね。公爵さまって僕なんか想像もつかないくらい凄そうな人だし」

そう言うとグレイグさんとランハートさんは顔を見合わせて困ったような表情をしていた。

「い、いえ、そんなことはございませんが、その……ちょっとお忙しい方なのですぐには難しく、ヒジリさまがお礼を申し上げたいとお伝えしておきますね」

「はい。よろしくお願いします」

それ以上踏み込むのはやめよう、そう思った。
だって僕が無理やりお願いすることでグレイグさんに迷惑をかけてしまうのは申し訳ないもん。

それから僕はグレイグさんとランハートさんと一緒に公爵家へと帰った。

「ヒジリさま。私はお風呂の支度をして参りますので、ランハートさまとしばらくここでお過ごしください」

「はい。ありがとうございます」

僕がお礼を言うとグレイグさんは頭を下げ部屋を出ていった。

リビングのソファーでランハートさんと2人、何を話したらいいかなと思っていると、

「ヒジリ、慣れない生活で大変だろうが何かあればすぐに駆けつけるから困ったことがあればなんでも相談してくれ」

と頼もしい言葉をかけてくれた。

「はい。何から何まで本当にお世話になってしまって……ありがとうございます」

「そんなこと気にしなくていい。私がヒジリのためにしたいんだ。それがどうしてなのかわかってくれるだろう?」

「えっ……?」

ランハートさんの顔が近づいてくる。
えっ? 何? どういうこと?

「わっ!!」

驚いて思わずランハートさんを突き飛ばしてしまった。

「あっご、ごめんなさい」

「いや、いいんだ。私が性急すぎただけだ。ヒジリ、今日は大人しく帰るよ。また明日な」

ランハートさんは僕の前髪をあげると、流れるような動きでおでこに唇を当てた。
チュッと軽い音が聞こえて『えっ?』と思った時には、唇は離れていた。

「おやすみ、ヒジリ」

「……お、おやすみ、なさい……」

何が起こったのかわからないまま、僕はしばらくの間立ち上がることもできなかった。
しおりを挟む
感想 74

あなたにおすすめの小説

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

迷子の僕の異世界生活

クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。 通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。 その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。 冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。 神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。 2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…

こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』  ある日、教室中に響いた声だ。  ……この言い方には語弊があった。  正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。  テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。  問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。 *当作品はカクヨム様でも掲載しております。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結】健康な身体に成り代わったので異世界を満喫します。

白(しろ)
BL
神様曰く、これはお節介らしい。 僕の身体は運が悪くとても脆く出来ていた。心臓の部分が。だからそろそろダメかもな、なんて思っていたある日の夢で僕は健康な身体を手に入れていた。 けれどそれは僕の身体じゃなくて、まるで天使のように綺麗な顔をした人の身体だった。 どうせ夢だ、すぐに覚めると思っていたのに夢は覚めない。それどころか感じる全てがリアルで、もしかしてこれは現実なのかもしれないと有り得ない考えに及んだとき、頭に鈴の音が響いた。 「お節介を焼くことにした。なに心配することはない。ただ、成り代わるだけさ。お前が欲しくて堪らなかった身体に」 神様らしき人の差配で、僕は僕じゃない人物として生きることになった。 これは健康な身体を手に入れた僕が、好きなように生きていくお話。 本編は三人称です。 R−18に該当するページには※を付けます。 毎日20時更新 登場人物 ラファエル・ローデン 金髪青眼の美青年。無邪気であどけなくもあるが無鉄砲で好奇心旺盛。 ある日人が変わったように活発になったことで親しい人たちを戸惑わせた。今では受け入れられている。 首筋で脈を取るのがクセ。 アルフレッド 茶髪に赤目の迫力ある男前苦労人。ラファエルの友人であり相棒。 剣の腕が立ち騎士団への入団を強く望まれていたが縛り付けられるのを嫌う性格な為断った。 神様 ガラが悪い大男。  

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

処理中です...