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可愛くて素敵なお家

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「ここが公爵家の主人がヒジリにと言っていた家だよ」

ランハートさんとグレイグさんに案内され、ようやく公爵家の旦那さまが僕に貸してくれるという家にたどり着いた。
そこは本当に騎士団の詰所のすぐ隣にあり、小さい家だと聞いていたけれどぼく1人でこなすには十分の広さだ。

「中に入ってみてもいいですか?」

「ああ、もちろんだ」

ランハートさんがそういうと、グレイグさんが魔法使いの家で使っていそうな金色の鍵をカチャカチャと回し扉を開けてくれた。

キィっと扉が開きパチっと電灯をつけると、広いリビングのような広間が現れた。

「わぁー、広い!」

「ヒジリさま、いかがでございますか?」

「すごく素敵です!! 本当に僕、こんな素敵なお家借りてもいいんですか?」

「もちろんでございます。旦那さまの方からぜひヒジリさまにお使いいただくようにと仰っておられましたので」

「ありがとうございます!!」

僕は喜びを噛み締めながら、どんなお店にしようかと期待に夢を膨らませていた。

「部屋の中を探検してきてもいいですか?」

「どうぞご自由になさってください」

グレイグさんからお許しが出て、僕は部屋を見て回った。

入り口すぐの広間には広いキッチンがつながっている。
ここを厨房として使えそうだな。
広間にはケーキを並べるショーケースと少し喫茶コーナーもあるといいよね。
本当にそんなに手を加えないでも使えるかも。

この広間やキッチンの奥にはプライベートスペースもあって、お店とは完全に離れているみたいだし良さそう。

わあっ、お風呂もトイレも広くて綺麗!!

あっ、階段がある!

上にあがって見ちゃってもいいかな?

僕、こういう家に住むの夢だったんだよね。
それがまさか現実のものになるなんて……嬉しすぎてはしゃいじゃうな。

「ヒジリ? どこにいる?」

下からランハートさんの声が聞こえて、
『あ、二階の階段の前にいます』と声を上げると、すぐに上がってきてくれた。

「二階は寝室だ。こっちにおいで」

手を引かれ、連れて行かれた部屋は落ち着いた雰囲気の綺麗な部屋だった。
奥に扉もあり、どうやらそこが寝室みたいだ。

すごい、部屋の中に別に寝室があるなんて。

「ヒジリさま、こちらの家をお使いいただけるようでしたら、明日必要なものを運び入れておきます」

「はい。ぜひよろしくお願いします! こんなすごい家をお借りするなんて勿体無い気もしますけど、綺麗に使わせていただきますね」

「はい。旦那さまにはヒジリさまがお使いくださるとご報告しておきますね」

にっこり笑うグレイグさんに、

「あの、僕が直接公爵さまにお礼を言うことって難しいですか?」

と尋ねると、『えっ? 直接、でございますか?』と明らかに動揺した声で返されてしまった。
やっぱり僕みたいな一般人が公爵さまと直接話すなんて難しいのかな……。

この辺のマナーはわからないしな。

「やっぱり無理ですよね。公爵さまって僕なんか想像もつかないくらい凄そうな人だし」

そう言うとグレイグさんとランハートさんは顔を見合わせて困ったような表情をしていた。

「い、いえ、そんなことはございませんが、その……ちょっとお忙しい方なのですぐには難しく、ヒジリさまがお礼を申し上げたいとお伝えしておきますね」

「はい。よろしくお願いします」

それ以上踏み込むのはやめよう、そう思った。
だって僕が無理やりお願いすることでグレイグさんに迷惑をかけてしまうのは申し訳ないもん。

それから僕はグレイグさんとランハートさんと一緒に公爵家へと帰った。

「ヒジリさま。私はお風呂の支度をして参りますので、ランハートさまとしばらくここでお過ごしください」

「はい。ありがとうございます」

僕がお礼を言うとグレイグさんは頭を下げ部屋を出ていった。

リビングのソファーでランハートさんと2人、何を話したらいいかなと思っていると、

「ヒジリ、慣れない生活で大変だろうが何かあればすぐに駆けつけるから困ったことがあればなんでも相談してくれ」

と頼もしい言葉をかけてくれた。

「はい。何から何まで本当にお世話になってしまって……ありがとうございます」

「そんなこと気にしなくていい。私がヒジリのためにしたいんだ。それがどうしてなのかわかってくれるだろう?」

「えっ……?」

ランハートさんの顔が近づいてくる。
えっ? 何? どういうこと?

「わっ!!」

驚いて思わずランハートさんを突き飛ばしてしまった。

「あっご、ごめんなさい」

「いや、いいんだ。私が性急すぎただけだ。ヒジリ、今日は大人しく帰るよ。また明日な」

ランハートさんは僕の前髪をあげると、流れるような動きでおでこに唇を当てた。
チュッと軽い音が聞こえて『えっ?』と思った時には、唇は離れていた。

「おやすみ、ヒジリ」

「……お、おやすみ、なさい……」

何が起こったのかわからないまま、僕はしばらくの間立ち上がることもできなかった。
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