異世界でイケメン騎士団長さんに優しく見守られながらケーキ屋さんやってます

波木真帆

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レニーさんの洋服屋

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「さぁ、行こう」

「わぁっ!」

ヒョイっと抱きかかえられ驚いて声を上げると、

「君は怪我をしているようだし、君のサイズに合う靴もないんだ。だから私が抱き抱えるのは当然だろう?」

そう自然に言われれば断る理由もない。
22歳にもなって抱っこされるのは恥ずかしかったけれど、そのままお願いすることにした。


「わぁっ、可愛い」

連れられて行ったのは煉瓦造りのこじんまりしたお店。
まるで童話の世界がそのまま現れたようなそんな可愛い外観に胸が躍る。
先にグレイグさんが話をしておくと言って中に入っていった。

「ふふっ。ヒジリの方が可愛いぞ」

「えっ?」

急にそんなことを言われたらドキドキしてしまうじゃないか。

「あ、いや。中に入ろうか」

ランハートさんは慌てたように扉を開け中に入った。

ギイっと少し古い木の音が響くそんな扉の向こうには可愛い洋服があちらこちらにかけられていた。

「わぁっ、お洋服屋さんだ。やっぱりこっちにもあるんだなぁ」

ぐるっと見回すと洋服たちがあちらこちらに並んでいる。
でも、なんとなくサイズが小さそうだ。

もしかしてここって……。

「ランハートさん、もしかしてここ……子ども向けですか?」

「んっ? ああ、そうだ。大人サイズはヒジリには大きそうだからな。
だが、ここに並んでるのは幼い子向けだ。ヒジリに合うサイズはここにはないよ」

「なんだ、そっか。よかった」

可愛らしい服たちだけど、流石に僕には可愛すぎる。
ここの辺のを買うことになったらどうしようかと思った。

「ら、ランハートさま。いらっしゃいませ。
先ほど執事さまよりお伺い致しましたがお連れさまの服をご所望とか?」

「ああ、そうだ。レニー、急ぎでこの子の服を用意して欲しいんだ」

「か、かしこまりました。あの、このお方のサイズを測らせていただいても宜しゅうございますか?」

「ああ、そうだな。ヒジリ、下ろすぞ」

そういえば、僕ずっと抱きかかえられたままだったんだ。
ストっと優しく下ろされて、ランハートさんの腕の温もりが感じられなくなるとなんとなく寂しい感じがするのはなんでなんだろう。
ずっと恥ずかしいから下ろしてほしいと思ってたはずなのに……。

なんだか僕、変だ。

ランハートさんが僕をレニーさんの前に連れて行ってくれた。

「――っ! な、なんてお美しいっ!」

「レニー、彼は足を怪我しているから丁寧にな。頼むぞ」

ランハートさんが念を押すように低い声でそう声をかけると、レニーさんはピシッと直立して『はいっ!!』と返事にしては少し大きな声を上げた。

きっと、団長さんに声かけられて緊張しているんだろうな。

それからランハートさんとグレイグさんに見守られながら、レニーさんは首にかけていたメジャーで手早く僕のサイズを計測し、店の奥から洋服をたくさん持ってきた。

「こちらにある服であれば、袖と裾を少し詰めればすぐにお召しいただけます」

「そうか。ヒジリ、どんな服がいい?」

そう聞かれても僕がきていたような服と違いすぎてどれを選べばいいのかわからない。

「あの、よかったらランハートさんが選んでもらえませんか? 僕、どれを選べばいいのかわからなくて……」

「いいのか? 私が選んでも……」

「はい。お願いします」

笑顔でそういうと、『そうか』と嬉しそうな顔で服を選び始めた。

そっか、ランハートさん。
服選ぶの好きなのかな。もしかしてショッピングが趣味とか?
ふふっ。それ、可愛いかも。

と思っていたのも束の間、気づけばランハートさんの選んだ服は、持ってこられた服のほとんどを占めていた。

「ら、ランハートさんっ! そんなたくさん多すぎですっ!」

「何を言ってるんだ。ヒジリは一枚も服を持っていないのだから、これでも少ないくらいだぞ。なぁ、レニー」

「そ、そうでございます。その時々に合わせた服が必要になりますので」

服の専門家みたいな人にそう言われれば反論のしようもない。

『わかりました』そう頷いたら、言質をとったとばかりにランハートさんの選んだ服は2倍にも3倍にも膨れ上がった。

大量の服を全てお直しすることはすぐには難しい。
というわけですぐに着用する数着をランハートさんが選び、袖と裾を詰めてもらい僕はそれを試着することになった。

「う、わぁ……」

胸元にフリルが施された襟付きのシャツに黒の細身のズボンを履いた自分の姿はまるで七五三の子どものように見えた。
さっきの服よりもっとお坊ちゃんなんだけど……。
僕もう22なのに……大丈夫なのかな、こんな可愛い服着て……。

奥の試着室で1人悶えていると、
『ヒジリ、どうした?』
とカーテンの向こうから心配そうなランハートさんの声が聞こえた。

顔だけこっそり出して、
『あの……これって……僕が着ていいもの、なんですかね?』
恥ずかしさに胸を震わせながら尋ねてみた。

「気に入らなかったか? ならば、別のものを選んでもいいぞ」

「いや、気に入らないというわけじゃ、ないんですけど……その」

「一度、出てきて見せてくれないか?」

えーっ、見せちゃう?
どうしよう……コスプレみたいで恥ずかしいんだけど……。
でも見たら似合わないって気づいてくれるかもね。

よしっ。

僕は心を奮い立たせてゆっくりと重く分厚いカーテンを開け、外に出た。

「あ、あの……どうですか?」

恐る恐る尋ねながらランハートさんの方を見ると、ポカーンと口を開けて僕を見つめている。

後ろにいるグレイグさんも店主のレニーさんも同じ反応だ。

その反応に自分がものすごく恥ずかしい格好を見せているような気がして、カァーッと顔が熱くなるのを感じた。
慌ててカーテンの中に戻ろうとすると、ランハートさんが駆け寄ってきてまたもや僕を抱きしめた。

「ひゃ――っ!」

「悪い、似合いすぎて声が出なかった」

「えっ? に、似合って、ますか?」

「ああ。似合いすぎて誰にも見せたくないくらいだ。さっきまで着ていた服もいいがこっちの方がもっと可愛すぎて困ってる」

ランハートさんの大きな身体にすっぽりと覆われてグレイグさんたちの反応はわからないけれど、

『ヒジリさま、ものすごくお似合いでございます』
『本当に。ここまでお似合いの方もいらっしゃいませんね』

と優しい言葉をかけてくれているのは聞こえた。

お世辞だとはわかってるけど、その優しい言葉がかけられて僕の恥ずかしいという気持ちは少し減っていった気がした。
あの血まみれのスーツは処分されちゃったんだろうし、ここで暮らす人たちが選んでくれた服なんだから恥ずかしくてもこれが一般的なんだろう。

あっちにいる友達に見られたりしたら恥ずかしすぎるけど、誰も昔の僕を知らないんだからいいか。

そう吹っ切ることにした。

「ランハートさんがそう言ってくれるなら、僕これ着ます」

笑ってそういうと、ランハートさんはまた『ぐぅっ』と息を詰まらせていた。
大丈夫かな? やっぱりお世辞とか言わないよね?

その後、この服の他に部屋着や下着、靴なども買ってもらって店を後にした。

「いっぱい買ってもらっちゃってすみません。働き出したらお金お支払いするので……」

「ヒジリはそんなこと気にしなくていい」

そう言われても気になっちゃうけど……でも今はお世話になるしかないか。
なんといっても僕、一文なしだし。
ここは有り難く受け取っておこう。

「ありがとうございます」

「それより足は痛くないか?」

靴を買ってもらったのに抱き抱えようとするランハートさんに『大丈夫です』と言い張って久しぶりに自分の足で歩いている。
それが当然なんだけど、ずっと近くでランハートさんの顔を見ていたからこうやって並んで歩くとランハートさんの身長がいかに高いかがわかる。

「平気です。もうあんまり痛みもないので」

心配げなランハートさんにそういうと彼はホッとするどころか、『痛くなったらすぐにいうんだぞ』と念を押されてしまった。
こっちの人はそんなに痛みに弱いんだろうか。不思議だ。
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