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イケメン騎士団長さん

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翌朝、『おはようございます』と挨拶に来てくれたグレイグさんから公爵さまである旦那さまからの伝言を教えてもらった。

「ヒジリさま。昨日お話しされていたお仕事の件ですが、旦那さまがご所有の小さな家がございましてそこでお店をやってみないかと仰っておられました」

「えっ? 僕がお店を、ですか?」

「はい。その家が騎士団の詰所の隣にございまして、そこならヒジリさまが安心しておできになるのではないかと。
もしヒジリさまがよろしければそこにお住まいいただいても構わないとのことでございます」

「えっ? でも、そんな……いいんですか?」

「もちろんでございます。旦那さまのご厚意ですからぜひヒジリさまにお受けいただきたく存じます」

こんな凄い話受けていいのかと思うけど、ここでずっとお世話になるよりはちゃんと働いて恩返しする方がいいか。

「それじゃあ、ぜひよろしくお願いいたします」

そういうと、グレイグさんはにっこりと笑って、『うんうん』と頷いた。

「それでは後ほど騎士団の方がヒジリさまをお迎えにあがりますので、それまでしばらくこちらの部屋でお待ちください」

そういうとグレイグさんは部屋を出ていった。
待っている間に朝食と身支度をすませ、僕はお迎えに来てくれるという騎士団の方をドキドキしながら待っていた。

それからしばらく経って部屋の扉が叩かれ、グレイグさんとものすごい格好良い衣装に身を包んだ長身の男性が入ってきた。

この人が騎士団の人……ふぇー、なんかすっごくカッコイイぞ。

「ヒジリさま。こちらの方が……」

「いい。私が言う」

その彼はグレイグさんを遮って僕に挨拶をしてくれた。

「私の名は ランハート。ランジュルス王国騎士団団長をしている」

「王国騎士団、の団長さん?」

って、この人とんでもなく偉い人なんじゃ??
僕なんかがこんなすごい人から直々に挨拶なんかされていいの?

「ああ。だが、君は騎士ではないのだから私のことを団長と呼ぶ必要はない。ランハートでいい」

「ランハート、さん……?」

高貴な人っぽいのに名前で呼んじゃって本当にいいのかな?

「『さん』もいらないのだが、まぁいい。こちらの主人から聞いた、店をやると言うのは君か?」

「あ、はい。僕、ヒジリ・ミサカと申します。仕事をお世話して欲しいとグレイグさんにお話ししたら、こちらの旦那さまにお店をやってみないかとお話をいただいたので、僭越ではございますがお受けしたいと思いまして……」

「――っ!」

なんだかすごく驚いた顔をされてしまった。
僕、何か変なこと言っちゃったかな?

「ランハートさま」

「あ、ああ」

彼はグレイグさんの声にハッとした表情を見せた。

「君の素晴らしい挨拶に驚いただけだ。その……22歳だと言うのは本当なのか?」

ああ、そうか。なるほど。僕が大人に見えなかったからびっくりしたんだな。

「はい。僕は童顔なので子どもっぽく見られがちですけど、正真正銘間違いなく22歳です」

自信持って堂々とそう言うと、彼・ランハートさんは『わかった』と言って、

「じゃあ、早速その家に案内しよう」

と言ってくれたけれど……

「と、その前に……」

え? 何か問題でもあるのかな?
ドキドキしながら話の続きを待っていると、

「君の服をなんとかしないといけないな」

と僕の服をじっくりと見ながら言っていた。

服って……そう思って自分を見てみると、ここで着せてもらっていたパジャマ姿だったことに気づき恥ずかしくなった。
僕、こんな寝巻きで面接? 受けちゃってたよ……。

「とりあえずは服屋だな」

「店に行くまでの間はどうぞこちらをお召しください」

グレイグさんがいつの間にか持ってきてくれていた服を手渡された。
ものすごい高価そうだけどこんなの僕がきていいんだろうか?

「こちらは旦那さまが成人前にお召しになっていたものですが、ヒジリさまにお似合いかと思いまして」

お似合い? ああ、多分サイズ的にってことだよね?
まさしく貴族って感じの服で僕みたいな庶民には絶対に似合いそうにないけど、パジャマでは外に出られないし大人しく借りることにしよう。

「ありがとうございます。それではお借りします」

その場から離れ、寝室で着替えることにした。
寝室にあった姿見で着替えた自分の姿を見て驚いてしまった。

うーわっ、これ……どこからどう見てもお貴族さまって感じだな。
うん。これを着るだけで僕でもお坊ちゃんみたいに見える。
まぁ顔はどう見ても庶民丸出しだけど……。
これ、似合ってるのかなぁ……心配になってきた。

「あ、あの……着替えました」

寝室から出ると、グレイグさんとランハートさんが小声で話しているのが見えた。
ああ、邪魔しちゃったかなと思っていると、僕の声に気づいた2人がこっちを向いた。

「あ、あの……どうですか?」

恐る恐る尋ねながら2人の方を見ると、ポカーンと口を開けて僕を見つめている。

その反応に自分がものすごく恥ずかしい格好を見せているような気がして、カァーッと顔が熱くなるのを感じた。
慌てて寝室の中に戻ろうとすると、ランハートさんが駆け寄ってきて僕を抱きしめた。

「ひゃ――っ!」

「悪い、似合いすぎて声が出なかった」

「えっ?」

「よく似合っているよ」

「え、あっ……ありがとうございます」

「今日は1日そのままでもいいが、着替えはあったほうがいいだろう。せっかくだから店に寄ってから向かうとしよう」

僕は公爵さまのお下がりでも全然大丈夫なんだけどな。
買ってもらうのも申し訳ないし、第一着られる服があるなら着ないと勿体無い。

そう思ったけれど、よく考えてみたら公爵さまの服なんてとんでもない高価なものだよね。
そんなのをお下がりできて汚したり破ったりしたら洒落にならない。

この世界にプチプラの服があるかはわからないけど、そういうのを着た方が僕としても安心かも……。

突然のスキンシップと急ににこやかな笑顔になったランハートさんに戸惑いながらも、僕はランハートさんと洋服屋さんに行くことになった。
『私もお供いたします』とグレイグさんがついてきてくれることになって少しほっとした。
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