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運命の人 〜グレイグside

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そのお方は突然私とジョーイの目の前で倒れられた。

シェーベリー公爵家の裏にある畑。
私と執事見習いのジョーイはいつもの日課になっている旦那さま用のハーブを摘みにきていた。
ハーブの選別は私たちの仕事。
仕事というよりは私たちの選んだものしか旦那さまには飲ませられないという使命もあった。

この屋敷の旦那さまは公爵という身分もありながら、ランジュルス王国騎士団団長という重責を担っておられる。
だからこそ、旦那さまのお身体に合ったハーブティーを毎日飲んでいただいているのだ。

午後をすぎ日が少し傾いた頃がハーブを取るのに適した時間。
ジョーイはまだまだ選別に長けているとは言えないが、これを教えるのも私の大事な仕事なのだ。

ジョーイに教えながらハーブを摘んでいると突然枝の折れる音がした。

その音に気づき、目を向けるとそこには美しい男性が1人驚いた様子で立ち尽くしていた。
彼は一体?

公爵家のこの場所に侵入できるものなどいないはずなのに……。
まさか……。

私はその麗しい人に優しく声をかけながら近づいていたのに、あろうことかジョーイが彼に大声をあげ近づいていった。
ジョーイは旦那さまへの忠誠心で見慣れぬ彼を不審者だと勘違いをしたのだろうが、彼が不審者などとは到底考えられない。
彼はジョーイの大声に身を震わせ謝罪の言葉を口にしながら突然その場に倒れた。

ジョーイを制し、倒れた彼に近寄ると身体中血まみれになった服を着ている。
これはとんでもない大怪我をしていると思い、慌ててジョーイと共に部屋へと運び入れた。

美しいこのお方に旦那さまの承諾をなしに勝手に触れるなど申し訳ないとは思ったけれど、万が一の事態になってはいけない。

まずはこの血まみれの服をなんとかしなければと人払いをして寝室に寝かせ服を脱がせようとしたところで、ちょうど旦那さまがお帰りになった。

ジョーイに騎士団にいらっしゃる旦那さまにご報告するように命じておいたからだろう。
旦那さまは大急ぎのご様子で客間の寝室へと入ってこられた。
そして、寝室のベッドで眠るそのお方を見て『おおっ』と感嘆の声を上げた。

「グレイグ、この子は私が着替えさせる。お前は外にいろ」

やはりというかなんというか、旦那さまは私を部屋から追い出した。
私は部屋を出るとすぐにお湯を沸かし、たらいを持って再度あの部屋へと向かった。

「お湯をお持ちいたしました」

そう声をかけると旦那さまは寝室の扉を開けた。

よほど私には見せたくないのだろう。
あのお方の身体には私の目に触れないよう布団がかけられていた。

旦那さまにお湯と身体を拭うためのタオルを渡し、着替えが終わるのを待った。

旦那さまが着替えを手伝うことは今までにない。
しかも相手は眠っている人間。
きっと大変に違いない。
本来ならば手伝うべきだろうが、きっとあの様子では私には絶対に手伝わせることはないだろう。

旦那さまのあの反応。
おそらく彼、いや、あのお方はこの公爵家に代々語り継がれている運命の人だろう。

運命の人――それは突然現れる。

ひと目見てすぐに確信するのだそうだ。
この公爵家の当主には必ず一生を添い遂げるお方との出逢いがあるのだ。
先代も先先代も素晴らしい奥方さまと出逢われ添い遂げられた。

旦那さまは今年30歳。
15歳で成人を迎える我が国で30歳といえばもうほとんどのものが結婚しているのが常識とされている。
しかし、運命の人が現れるとされているこの公爵家にとってはそれは常識ではない。
幾つになろうとも運命の人以外との結婚はあり得ないのだ。
なぜなら、運命の人以外との結婚はこの公爵家の没落を意味しているのだから。

であるから、旦那さまが30歳を迎えられても無理な政略結婚など強いる者は誰もいない。
旦那さまでさえ、いつかは運命の人と出逢えると信じていらっしゃるので婚期が遅れてもなんの心配もされてはいなかった。

旦那さまの運命のお方が男性であったのは驚きではあったが、それもまた神の思し召しなのだろう。
後継に関してはまた神より神託があるに違いない。

カチャリと寝室の扉が開き、旦那さまが出てこられた。

「お怪我の具合はいかがでございましたか?」

私はそれだけが心配だった。
いくら旦那さまの運命のお方が現れたとしても瀕死の状態であれば元も子もない。

「大丈夫だ。彼の身体には足の踵に少し擦り傷があるくらいで他には何も傷はなかった」

「そうでございますか。安堵いたしました」

であれば、あの血はなんだったのだろうと思ったが、旦那さまに尋ねてもそれはきっとわからないことだろう。
あのお方が目覚めてからお話を聞くことにしよう。

「それでだ、やはりあの者は私の運命の人に間違いない。彼を見つけた経緯を詳細に教えてくれ」

旦那さまに全てをお話しすると、ジョーイの愚行については一瞬お怒りの表情を浮かべていたものの、部屋まで一緒に運んでくれたことをお伝えすると今回だけは許してやろうと怒りを鎮めてくださった。
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